年の瀬に2024年の電子決済業界を振り返ってみると、「タッチ決済乗車(券)」の話題が多かったとの印象を持つ読者が多いかもしれない。ご多分に漏れず、電子決済マガジンの記者もまた、あちこちで公共交通機関の新しい乗車方法にトライする機会が増えた。そろそろそんな行動パターンに、名前を付けてあげてもよいのではなかろうか。うん、そうしよう。
2024年、最も脚光を浴びたのは「タッチ決済乗車(券)」の広がり
2024年もまた、話題に事欠かなかった電子決済業界。かなりざっくりとキーワードにまとめて振り返るとするならば、「賃金のデジタル払い始まる」「タッチ決済乗車/QR乗車(券)の導入拡大」「Tポイントが新Vポイントに生まれ変わってサービス開始」「カード決済の不正利用被害額が過去最悪」などが思い浮かぶだろうか。もちろん業界人にとっては間違いなくご自身の関わられていたプロジェクトこそが、2024年で一番印象に残るトピックであることだろう。
電子決済マガジンではこの数年、「タッチ決済乗車(券)」に関連したニュースを追いかける機会が増大しているのだが、2024年はおそらくこのテーマで過去最高のニュース量だったのではないかと肌で感じている。
中でも、「stera transit(ステラ・トランジット)」と銘打って公共交通機関向けタッチ決済ソリューションを展開する三井住友カードと、国際決済ブランドのVisa、そして交通決済・認証センターの「Q-move」を展開するQUADRACという協業3社からの押し出しが強力に展開された印象で、新規導入路線の発表がほぼ毎月のように続いた。
今年はタッチ決済乗車をすでに導入済み路線での利用状況などについても、記者発表会や関連イベントでの各社取り組み発表などを通じて情報公開が進んだが、実は、当然便利に使ってくれているであろう訪日外国人観光客(インバウンド)以上に、日本人のほうがタッチ決済乗車を多く使っていたというのも、意外な結果だった。
【stera transitシンポジウム2024レポート〜前編】タッチ決済乗車券の次なる展開、属性や購買行動を取り込む「MaaSアプリ」を来春投入へ(2024/09/03)
【stera transitシンポジウム2024〜後編】日本全国で公共交通機関の「キャッシュレス多様化」が鮮明に(2024/09/05)
【ニューストピックス~5月10日】東急タッチ乗車 後払いも開始/ほか
【ニューストピックス~10月9日】関西4社 タッチ乗車月内開始/ほか
意外!? にも日本人が多く使っていた「タッチ決済乗車」サービス、半年後の大阪・関西万博にらむエリア拡大でインバウンド利用は進むか(2024/10/29)
一方で、今年の夏以降には三井住友カードなど前出の協業3社以外の会社からも、タッチ決済乗車の導入を支援するソリューションが発表されたことも印象的だった。導入路線のさらなる広がりには欠かせない動向ではないだろうか。
そして、タッチ決済乗車(券)の展開では、国際決済ブランドで唯一、対応が出来ていなかったMastercardが今年10月、stera transitに順次対応していくことを発表したことも大きい。これを受けて12月2日には、福岡市地下鉄のすべての駅と、JR九州の84駅で、Mastercardのタッチ決済乗車が利用できるようになったことが発表された。今後もstera transitの導入済み路線では、徐々にMastercardブランドも利用できるようになっていく見通しだ。
運賃収受の鑑賞に着目して乗降する人たち、その名は「Pay鉄」に決定!
ところで、記者のように、運賃収受の際にICカードやスマホなどの媒体を取っ替え引っ替えしながら鉄道やバスなどの公共交通機関に乗り降りしていると、もはや目的は移動ではなく、新しい/珍しい乗車券媒体の入手や、運賃収受におけるメカの所作の鑑賞こそが目的になっていることを強く実感する。
そこで、同好の士も少なくないと思われるこのような活動を何と呼べば、人にわかりやすく伝えられるのかの解を求めて、電子決済マガジンのX(旧Twitter)のアンケート機能を使って今年11月に読者のご意見を募ってみた。とはいえ選択肢はわずか4択。
その結果、投票母数の評価はさておき、「キャッシュレス鉄」や「フェア(Fare)鉄」といった強豪をダントツで破り、「Pay鉄(読み:ペイテツ)」と呼ぶことが決定した。
今後は周りの人たちに「それ、何やってるの? 何が面白いの?」と聞かれた際には、「これ、Pay鉄だからさ。」と涼しい顔で答えてほしい。
関西私鉄はQR乗車券を共通化、顔認証改札の事例も登場
電子決済マガジン記者の「Pay鉄」活動は、タッチ決済乗車(券)にとどまらない。スマホ画面に表示したQRコード乗車券も、タッチ決済への対応とセットで導入に踏み切る路線が多く、大規模展開の意味では、6月から始まったスルッとKANSAIの共通QRコード乗車券「スルッとQRtto」に注目が集まった。現在はスルッとKANSAI加盟の7社で利用できるが、関西私鉄の共通規格として提供が始まったことの意義は大きい。まさに鉄道が、地域に広がる社会インフラであることをあらためて実感させてくれる施策ともいえるだろう。
【ニューストピックス~5月30日】関西スマホQR乗車券、来月に/ほか
【写真で見る】関西私鉄共通のQRコード乗車券「スルッとQRtto」が6月17日にサービスイン、スルッとKANSAI加盟の7社や提携施設がデジタルチケットに対応(2024/06/26)
タッチ決済以外のサービスに関しても、運賃収受への飽くなき注目は止まらず。もはやカードもスマホも切符も要らない顔認証にいち早く導入チャレンジした路線を求めて彷徨った1年だった。Osaka Metroでは今年3月から6月までの3カ月間に渡って、「ウォークスルー型顔認証改札機」の一般モニター実験を実施した。結果も踏まえて、2025年4月から大阪・夢洲を会場に約半年間に渡って開催される「2025大阪・関西万博」に向けて、一般サービスの開始が予定されている。
また、千葉県・佐倉市のユーカリが丘を走る山万ユーカリが丘線でも、今年6月から「顔認証」と「QR乗車券」に対応する改札機の運用が始まった。こちらは数回に渡る実験期間をすでに終了し、日本で初めて顔認証改札を本格導入したことになる。
こうした「手ぶらでOK」というサービスコンセプトは、改札機以外の流通分野にも広がりを見せている。東武グループの食品スーパーマーケットである東武ストアの一部店舗では、9月から指の静脈情報を登録しておくことで、決済やポイント獲得などを手ぶらで利用できるサービスを開始した。
こちらのサービス名「SAKULaLa(サクララ)」を仕掛ける東武鉄道と日立製作所では来年以降、指静脈認証での導入先拡大を進める一方で、2025年度には指静脈認証に加えて顔認証にも対応する予定。将来的には鉄道改札への導入も検討していくそうなので、来年も顔認証の利用場面は広がりを見せそうだ。
春休み特別企画 〜 いよいよ一般モニター実験が始まったOsaka Metroの顔認証改札を体験しにいく。(2024/04/04)
夏休み特別企画 〜 日本初の実運用に入った顔認証&QR乗車券対応改札をユーカリが丘に体験しにいく。(2024/08/02)
【記者が体験】SAKULaLaの手ぶら決済を東武ストアで初体験、クレカを持たずにクレカ決済が可能に(2024/11/15)
タッチしない改札が実現すると、どうなる!?「Pay鉄」活動
その後も鉄道運賃収受の進化を巡る話題はとまらず、年も押し迫った12月10日には、JR東日本(東日本旅客鉄道)から交通系ICカード「Suica」の機能を今後10年で段階的に強化する計画が発表になった。2026年秋にモバイルSuicaアプリを通じたコード決済機能の提供を始めるのを皮切りに、今後10年以内にはチケットやSF(ストアードフェア)残高をクラウドで一元管理する仕組みを構築するという。
この発表文中には「改札はタッチするという当たり前を超える」との衝撃的な文言が踊っており、タッチせずに改札を通過できる「ウォークスルー改札」や、改札機がない駅での「位置情報等を活用した改札」の実現を将来的に目指していくそうだ。
何も持たず、何もかざさずに、ただそこを通り抜けるだけで適切な運賃収受が完了する世界観は、記者の「Pay鉄」活動にも大きな影響を与えそうだ。というか、そうなったら一体、記者は何を体験し、何をシャッターチャンスとして撮影したらよいのか。単に通り抜けている人ともはや見分けがつかないのではないか。そんな時代の到来に、今から戦々恐々としている。
【ニューストピックス~12月10日】スイカ、十年内にセンター型へ/ほか
ということで、2025年。大阪・関西万博がいよいよ4月に開幕する2025年も、しばらく記者の「Pay鉄」活動は止みそうにない。そのためにも、来年こそは適度に運動して、健康管理にも気を配らねば、との思いを新たにする記者であった。
皆さまも、健やかに、どうぞよいお年をお迎えください。