春休み特別企画 〜 いよいよ一般モニター実験が始まったOsaka Metroの顔認証改札を体験しにいく。

数ある生体認証の方式の中にあって、指紋や手のひら静脈などと違い、意識して自分の身体の一部をかざしたりする必要がないのが「顔認証」の特徴だ。施設への入出場管理をはじめ、スマホでの本人認証用途などさまざまな分野で導入が進んでいる。さらには顔認証の結果を用いて、そのまま決済サービスと連動させてしまおうという意欲的な取り組みもある。鉄道の改札ゲートもその一つだが、いよいよ2025大阪・関西万博の開催を来年度(2025年度)に控えた関西エリアで、この3月から一般モニター実験を開始したOsaka Metroの顔認証改札を体験してきたので、その模様をレポートする。

24年度末の本格導入が待ちきれない人に(?)、3月1日から体験モニター開始

 大阪市高速電気軌道(以下、「Osaka Metro」という)では、ICカード乗車券や紙の乗車券などに代えて、顔認証で改札を通過できる「ウォークスルー型顔認証改札機」を2024年度末までに全駅で導入することを目指している。2025年4月から大阪・夢洲を会場に約半年間に渡って開催される、2025大阪・関西万博に向けたキャッシュレス・チケットレス改札の取り組みの一環と位置付けている。
 顔認証改札機の実用化に向けた実証実験は、Osaka Metro社員を対象に2019年度から開始。2022年度には車いすを使用する利用客を対象とした実証実験も実施した。そして、2024年度末からの本格導入をにらんで、いよいよ昨年、2023年11月からは御堂筋線を皮切りに順次、各駅への改札機の設置が進んでいる。
 この状況を踏まえ、今年の2月からは一般の利用客でも顔認証改札が体験できるモニター参加の募集が始まった。当初3カ月程度の募集期間が想定されていたようだが、500名程度の募集枠はあっという間に定員に達し、早々に応募が締め切られることになった(写真1)。まだまだ未知の、顔認証で改札を通過する体験をぜひ自分でも試してみたい、というOsaka Metro利用客の関心の高さを示したといえる。

写真1 Osaka Metroの駅構内に貼り出されていた実証実験の告知ポスター。すでに募集は終了していることも併記されている。このほかOsaka Metroの路線内では、ポスター掲出やちらしの配布に加えて、電車内のアナウンスでも実証実験を開催中であるとの告知が行われていた

 かくいう筆者もその一人である。生活圏、勤務地ともにあいにく関東エリアの者だが、大阪を訪れた際には顔認証改札を体験してみたい気持ちは、誰にも負けていない。ライバルが増えるのを避け、早々にひっそりと応募を済ませ、見事、モニター枠を勝ち取ったのであった。
 体験モニターに応募するにはまず、大阪メトログループが提供する「e METRO会員」になる必要がある。さっそくスマホから「e METROアプリ」をダウンロードし、必要な事項を入力して会員登録を行った(画面1、2)

画面1 顔認証改札機のモニター応募は、e METRO会員への登録が前提となる

画面2 氏名や生年月日などの入力が完了するといよいよ顔認証用画像の登録へ

 情報の登録が終わると、顔認証改札のサービスと個人情報の取り扱いに関する規約が表示されるので、よく読んで同意する。顔認証用のカメラは常に稼働しているが録画はしていないことや、取得した顔画像や特徴点データは認証後に即時削除されるなど、重要なことが明記されていた。これらに同意した上で、顔画像の登録へと進む。その場でカメラを起動して撮影するか、顔写真をアップロードすることで顔画像の登録は完了する。
 これで応募の手順は完了(画面3)となるが、実際にモニターとして参加できるかどうかは、次の折り返しメールを待つ必要がある。筆者の場合は2月1日に応募を完了し、「モニター登録完了」のお知らせメールが届いたのが2月20日だったので、約3週間弱待ったことになる。同様にモニターへ応募した筆者の友人の話では、撮影された顔画像の状態により、再度の顔画像提出が求められることもあったようだ。

画面3 応募完了した後は、メールが届くのをじっと待つ

 しかし、待った甲斐あってそのメールには、登録が完了したことの連絡に加えて、筆者のモニター番号が「58番」に設定されたことが記されていた(画面4)。メールによると、筆者が改札を通過する際にもこの番号が表示されるらしい。なるほど。
 これにてモニター登録は無事完了、あとはモニター利用の始まる3月1日を待つばかりとなった。

画面4 登録完了メールが届くまでの期間に、申込内容の不備や顔画像のチェックが行われたと思われる

顔認証改札を通る前に、必ず切符を買う

 前記の通り、Osaka Metroではすでに顔認証改札機の全駅への設置に向けて準備を進めている。3月中旬、大阪に降り立った筆者は、新幹線を出ていきなり新大阪の駅で見かけたのをはじめとして、実に多くの駅でこの顔認証改札機と邂逅することになった。他の改札機とは異なり、何しろ改札を囲む4本のポールが発しているライトが眩いことも手伝って、大いに存在感を放っているので、見逃すことはないだろう(写真2)

写真2 設置されたライトの明るさもあり、けっこう目立つ顔認証改札機。顔認証システムの構築をパナソニック コネクト、顔認証改札機の製造は高見沢サイバネティックスが担当している(写真は一部、加工しています)

 といっても、大半の顔認証改札機には「(Osaka Metroの)社員専用」か、「調整中」「休止中」の札がかかっており、モニター客は利用できない(写真3)。モニター客が3月1日から6月30日までの4カ月の期間に利用(顔認証で通過)できるのは、Osaka Metro・御堂筋線の「梅田(北改札)」「本町(南改札)」「なんば(北東改札)」の3箇所のみ。その駅だからといって、どの改札口にもまんべんなく顔認証改札機が設置されているわけではないので、これから体験しにいく方は要注意だ。

写真3 一般モニターは、写真のように「体験モニター用」と書かれた顔認証改札機だけが利用可能。顔認証改札機自体は3月中旬時点でけっこう多くの駅で見かけたので、体験時には注意されたい(写真は一部、加工しています)

 ということは、上の3つの駅から顔認証で入場したとして、果たして出場する駅や改札口が顔認証に対応していない場合にはどうするのだろうか? との疑問が次に浮かんでくる。そこで今回の一般モニター実験では、出場や入場する駅に顔認証改札機が設置されていない場合、あるいは顔認証改札機自体は設置されているものの通常の改札機から入出場する場合に備えて、顔認証改札機をモニター通過する際にはあらかじめ利用する区間分の切符を購入して携行する運用としている。
 イラストでの説明がわかりやすいが、顔認証改札機の利用有無に応じて、入出場の3つのパターンのそれぞれのケースで切符を併用する(画面5)。そのため、入場も出場も顔認証改札機を利用した場合には、手元に切符が残ってしまうので、出場後に改札の駅係員へ切符を提出する。

画面5 顔認証改札機の利用は3パターンに大別される(出典:Osaka Metroのホームページより)

 ここで鋭い人はピンと来たかもしれないが、今回のモニター実験では純粋に顔認証の成否によって改札の通過判定を行うが、定期券や乗車券、SF(ストアードフェア)などとの紐付けは行われていない。したがって、乗車資格の判定や運賃の引き去りなどの挙動については、今回の実験では対象外といえる。
 そんなわけで、切符を買うのは超お久しぶりの筆者だが、券売機で利用区間分の切符を購入したら準備万端(写真4)。いよいよ顔認証改札を華麗に通り抜ける時がやってきた。

写真4 はやる気持ちをぐっと抑えて、券売機で利用区間分の切符を購入する

顔認証の成否は14戦1敗、その理由は?

 満を持して改札を通過してみる。といっても、ただ通るだけである。ゲートを進んでいくと前方奥側の左右ポールにそれぞれカメラが埋め込まれているのが見える。また、右ポールには小型のタブレット画面が搭載されており、顔認証の状態が表示されている。
 待受時には「Welcome」(写真5)とだけ表示されていた画面は、筆者がゲート内に足を踏み込むと、グリーンの矢印ロゴと特定の「番号」に切り替わった(写真6)。この番号は、筆者がモニター登録時に知らされていた番号と一致する。つまり、この時点ですでに私が訪れたことをカメラが識別していると思われる。
 その後、さらに歩みを進めていくと、画面がグリーンのチェックマークと「OK」の表示に変わり(写真7)、認識音が鳴る。このサインを横目に見ながら、安心して改札を通り抜けることができる。

写真5 待受時はタブレット画面に「Welcome」とだけ表示されている(写真は一部、加工しています)

写真6 改札に入った時点でグリーンの矢印に表示が変わる。よく見るとこの時点で筆者の「番号」も表示されていることがわかる(写真は一部、加工しています)

写真7 ちょうど改札を通過し終えるタイミングで、認証完了のチェックマークに表示が切り替わり、認識音が鳴る(写真は一部、加工しています)

 解説はスローモーションで記載したが、実際にはこれらの処理が数秒で完了する。そのスムーズさや実際の動作速度を動画で確認いただきたい(動画1、2)

動画1 顔認証改札での入場シーン(Osaka Metro・御堂筋線なんば駅)(左)筆者の手持ちカメラによるアングル、(右)筆者を引きで撮影したカメラのアングル(※特別な許可を得て撮影しています)

動画2 顔認証改札での出場シーン(Osaka Metro・御堂筋線なんば駅)(左)筆者の手持ちカメラによるアングル、(右)筆者を引きで撮影したカメラのアングル(※特別な許可を得て撮影しています)

 感想として、顔認証での改札通過は控え目に言って大変スムーズだった。登録した顔画像とは違って、改札通過時に筆者はマスクを着用していたが、変に認証で引っかかる感じもなく、まったく違和感なく歩行のスピードで通り抜けができた。
 今回の大阪滞在中、筆者は延べ14回、顔認証での入場と出場を体験したが、そのうちエラーに遭遇したのは1回だけ。顔認証改札にもだいぶ慣れ、思わず手元のスマホ画面を注視しながらゲートを通過しようとしてしまった時だった(写真8)。撮影に立ち会っていただいたOsaka Metroの広報さんに伺うと、「ゲート通過時にカメラのほうを見ていないと失敗することがあるようです」とのことだったので、まさにそのパターンが筆者の失敗原因だろうと推測できる(ディスプレイにも「カメラの方を向いてください」と表示されていた)。
 つまり、顔認証改札にあっても、「歩きスマホ」の行動は慎んだほうがよい、ということになりそうだ。

写真8 顔認証に失敗した場合の画面表示

両手に荷物を抱えた観光客ならば、利便性がより実感できそう

 関東在住の筆者の場合、関西へ足を運ぶ機会は半年に一度ほどの頻度でしかないが、今回の来阪では訪日外国人のあまりの多さに驚愕した。道頓堀の周辺なんてもはや外国かと見間違うような風景が広がっているし(写真9)、そりゃ、鉄道の駅はいわんや、混雑のるつぼである。
 そんな大都市にあって、両手に荷物を抱えた観光客やビジネス客はもちろんのこと、お住まいの方にとっても移動中にICカードやスマホを取り出すのはけっこう大変なものだが、顔認証改札であれば「何も取り出さず」に改札を入出場できる。文字で書くと普通に見えるが、この便利さの本質は実際に体験してみないと伝わりにくい。

写真9 金曜日の夜だったこともあり、道頓堀沿いはもう大変な騒ぎ(写真は一部、加工しています)

 実際に体験してみた生の感想として、自分が特別扱いされている「おもてなし」を感じられたし、VIPゲートを利用している感覚(ゲート一帯がキラキラと眩い光を放っているところもVIP演出っぽい)も得られた。
 2024年度末の一般サービス開始が今から楽しみになってくる。そんな顔認証改札の体験が出来て、大変満足して帰京の途につく筆者であった。

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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