【レポート】ICカード世界最大手メーカーのジェムアルトが「IoT」事業への本格進出をアピール

 

 

ICカード世界最大手メーカーのジェムアルト(Gemalto)は9月6日、報道関係者に向けてIoT機器のリスク対策、およびIoTの収益化ビジネスについて、記者説明会を開催した。IoTに特化した内容で、リスク対策には自社製品である「HSM」を用いたなりすまし対策を、また収益化ビジネスについてはソフトウェアのライセンスビジネスを積極的にアピールした。

■「HSM」でIoT製品の正当性を保証する

ジェムアルトのアイデンティティ&データプロテクション事業部 ビジネスデベロップメント ディレクターの木村 優一氏(写真①)は、「HSM(Hardware Security Module)」を用いたIoT機器のなりすまし対策を紹介した。

IoTではあらゆるモノがインターネットとつながるため、当然IoT機器間での通信も増えることとなる。その際に問題となるのがインターネットを介してのサイバー攻撃である。木村氏はコネクテッドカーを例に出し、運転中に突然ブレーキを踏む攻撃や、カーステレオなどクラウドにつながる車内の電子機器類にマルウェアを仕込むなどの攻撃事例をいくつか挙げた(写真②)

これに対して、ジェムアルトが提供する「HSM」は、IoT機器自身や、IoT機器の製造者(自動車メーカーであればトヨタや日産など)の正当性を保証し、インターネットを介して通信するIoT機器が偽りのない相手であることを保証する。これにより、IoT機器へのなりすましによる攻撃を防ぐ。

HSMはデータの暗号化やデジタル署名の生成に使用する秘密鍵を安全に保管・演算するハードウェア。外部から悪意を持った攻撃を受けると内部に保存されている秘密鍵を消す設定(耐タンパ)のほか、秘密鍵を外部に出すことなくHSM内部で電子署名(演算)が可能という特徴を持つ。その秘密鍵をもとに生成されたデジタル署名が「HSM」の公開鍵によって開くことができれば、そのモノが本当にそのモノであるという証明(正当性)になる。例として挙げたコネックテッドカーの場合、HSMを製造工場に設置しておく一方で、HSM内の署名鍵で署名された証明書を自動車の工場出荷時に「イモビライザ」などのモジュールなどに搭載しておく(写真③)。ジェムアルトはIoT機器のリスク対策には自社の「HSM」が発行するデジタル署名の活用を提唱、IoT機器間の通信に用いることを推奨している。

p1070146

写真①ジェムアルト アイデンティティ&データプロテクション事業部 ビジネスデベロップメント ディレクターの木村 優一氏

p1070158

写真②サイバー攻撃によるコネクテッドカーの横転

p1070166

写真③HSMにおけるマスターの秘密鍵の保管とデバイスIDの発行

■IoT製品のライセンスビジネスをサブスクリプションで提供

ソフトウェアマネタイゼーション事業部 シニアプリセールスコンサルタントの前田 利幸氏(写真④)は、ソフトウェアのライセンスによる IoTの収益化ソリューションを紹介した。前田氏は「ソフトウェアのライセンスが存在しない世界ではイノベーションの阻害や産業の衰退、正規商品の価値が低下する」とソフトウェアの重要性を説き、「ソフトウェアのライセンスは無形資産を現金化させる人類の発明品である」と力を込める。

ジェムアルトは「ソフトウェア収益化ソリューション」の主な要素として3つを掲げる。1つ目はソフトウェアの知的財産を守るセキュリティのプロテクション、2つ目はソフトウェアのビジネスモデルを構築して収益を上げるライセンシングと利用状況の追跡、3つ目はライセンシングの運用コストを削減するエンタイトルメント管理である(写真⑤、⑥)。「IoT製品の普及に伴い、製品の差異化要因はデバイスそのモノではなく、組み込まれるソフトウェアにある」と前田氏は語る。

ジェムアルトはネットワーク機器、通信機器、医療機器、モバイルなどの「デバイス」を製造する事業者に注力してソフトウェア収益化ビジネスを展開している。具体的には、デバイスのソフトウェアを機能別に分けてそれぞれをライセンス管理(エンタイトルメント管理)する。エンドユーザーが欲しい機能を販売時に有効化することにより、さまざまな顧客に適応した価格と機能とが提供可能になる。

これまでデバイスメーカーは、新たに開発した製品については1台1台を製造し、販売してきた。しかしライセンス管理により、製品自体は同じだが中身(ソフトウェア)が異なる製品を販売できるようになる。これにより、販売で完結していた製品が、サブスクリプション型の料金体系で販売可能になり、製品を売り切るものから継続的に売上を見込むことのできる製品へとビジネスモデルを転換できる。また、同一の製品を量産(写真⑦)できるようになることから製造コストを削減できるほか、オンライン上でソフトウェアのアップデートやライセンスの適用が可能となるため、ライセンス更新によるハードウェアの交換や、サービス担当者が現場まで出向くといった手間も不要になるという。

 

p1070174

写真④ ジェムアルト ソフトウェアマネタイゼーション事業部 シニアプリセールスコンサルタントの前田 利幸氏

p1070196

写真⑤ ソフトウェア収益化ソリューションの3つの要素「セキュリティ&プロテクション」、「ライセンシング&利用状況追跡」、「エンタイトルメント管理」

p1070207

写真⑥ IoTの収益化ではライセンシングとエンタイトルメント管理が必須

p1070218

写真⑦ ライセンス管理により、サブスクリプション型のサービスが提供可能になる

 

[2016-10-05]

About Author

ePayments News

日々、電子決済サービス関連各社のプレスリリース発表を泳ぎ回り、秀逸なニュースを集めて紹介する電子決済研究所のスタッフ。ほぼ人力のボット。

Comments are closed.