やっぱり決済端末が好き-1.0(中編) 〜 新技術によって変貌する端末ビジネス、ハードウェアボタン搭載の新機種も

3月15日に閉幕した『リテールテックJAPAN 2024』。会場レポートの中編ではトランザクション・メディア・ネットワークス、オムロン ソーシアル ソリューションズ、PAX Japanの展示内容から紹介する。今年も筆者の決済端末愛がほとばしってしまった結果、記事ボリュームが増加してしまったため、三部作にてお送りする。続きは後編へどうぞ。

ハードウェアPINパッドを決済RWが覆い隠す筐体の妙〜TMN

 トランザクション・メディア・ネットワークス(以下、「TMN」という)の新しい決済端末、「UT-X20」は昨年7月に受注が開始され、その後同年の10月にFeliCa検定に合格、FeliCa系電子マネーにも対応可能となった経緯のあるモデルである(写真1)。そのような時系列もあり、リテールテックJAPANで実機が展示されるのは今回(2024年3月)が初めてのことと思われる。

写真1 モノクロで表示された画面が電子ペーパーのようにも見えるが、液晶の画面。文字が異常に見やすい!

 3面(磁気・接触IC・非接触IC)待ちのクレジットをはじめ、電子マネー、コード決済のインターフェースにあまねく対応するほか、共通ポイントや地域マネー、ハウスプリペイドなどへの追加対応も可能。UT-X20をPOSとの連動なしに使用する場合には、同時に発売された「UT-C20」と組み合わせて利用できるが、単体でもPOS直結型として利用できる。その際のPOSとの接続方法は、外回り(有線LAN)と内回りのどちらにも対応。PCI-P2PEに対応しておりセキュリティ対策も万全だ。
 しかし、そんなうたい文句とは裏腹に、UT-X20の姿を目の当たりにして筆者が最初に驚いたのは、暗証番号を入力するPINパッド部に決済のインターフェースとなる端末部が覆い被さることで、目隠しの機能も果たすと思われる筐体設計の妙である。しかも、今回のレポートからも読み取っていただけると思うが、最近の決済端末がPINパッド部に関して軒並みタッチディスプレイ表示のソフトウェア方式に移行する中にあって、存在感のあるハードウェアボタンが鎮座するという(いい意味で)独特のたたずまい。決済端末の外観についてはすでにバリエーションが出尽くしたようにも感じていた筆者だが、目の覚める思いがした1台だ。
 ところで筆者は、開発企業であるTMNのイメージとして、各種決済処理に対応するクラウドセンターの運営事業者から、そこにつながる決済端末のプロバイダーとして歩んできた印象を持っていた。しかし、同社ブースでお話を伺うと、TMNが目指すところは「決済から生まれる各種のデジタルデータを活用し、流通業をはじめ社会に新しい価値を提供していくこと」だという。
 その一例が、キャッシュレス専用のセルフレジに設置されたユニークな「表情センサー」のデモだ。セルフレジの前面に設置されたカメラにより今まさに商品購入の手続きを進めているお客の表情をとらえ、顔認識によりそのお客がいま抱える感情を分析。困っているならブルー、イライラしているならパープルなど、レジ上についたLEDの色を変化させる(写真2、3)。レジの背後でお客の手続きを見守る店員がこの色の変化を察知することによって、いち早くお客のサポートに回るのを支援するという。

写真2 表情に応じてディスプレイ上部のLED灯の色がグリーン→ブルー→パープルと変化している

写真3 レジ前に立つだけで顔の撮影が行われるため、利用目的の説明と併せてサービスの告知を行っている

 データの利活用を事業の主軸とすべく、新しい取り組みが始まっていることを予感させてくれるTMNの展示内容だった。

昨年に続き、オムロンからモバイル型の「JET-S端末」が新登場

 昨年のリテールテックJAPANでは(勝手ながら)筆者が“バスタブ端末”と命名してしまった「eZ CATS-100C」を参考出展していたオムロン ソーシアル ソリューションズ。この据置型の「100C」に対して、今回新たにラインアップに加わるのがモバイル型の「eZ CATS-100M」(写真4〜6)だ。100Cと同様に、日本カードネットワーク(CARDNET)と接続して使用される「JET-S端末」として、今年6月頃から導入が開始される予定とのこと。

写真4 シンプルな決済選択画面。「CARDNET」のロゴが表示されている

写真5 コード決済用のカメラは端末の背面部に装備されている

 据置型とモバイル型、どちらの機種も、クレジット、電子マネー、コード決済、ポイントなど多様な決済手段に対応するほか、多通貨決済(DCC)にも対応が可能。「100M」はNTTドコモの4G(LTE接続)網で使用できるので、テーブル決済や移動飯場、訪問販売など場所を選ばずに使用できるのが特長になっている。

写真6 日本リテイルシステムのブースでは、同社が得意とする調剤薬局やクリニック向けのPOSレジへの連動がうたわれていた

SPoC技術でセルフ操作型の決済端末を実現〜PAX Japan

 香港に本社を置く決済端末メーカー、PAX Japanは今年で6回目のブース出展。初出展以来、最大規模となる展示スペースで、モバイル端末(写真7)、mPOS、ピンパッド、据置端末(カウンタートップ)、汎用デバイス決済、無人機・セルフのフルラインアップを紹介した。

写真7 最新機種であるモバイル決済端末「A920MAX」。壁紙はリテールテックJAPAN仕様に

 筆者の目を引いたところでは、日本のリンク・プロセシングとの協業で現在開発中というセルフ操作特化型の決済端末「Anywhere D135」の試作機が参考出展されていた。汎用的なタブレット端末に、PAXが用意する接触IC・非接触IC・磁気対応のカードリーダーを接続することで、厳しいセキュリティ要件を満たした決済端末として提供することが可能になる(写真8)

写真8 現在開発中のため、タブレットに接続するPAXのカードリーダーとして2機種が展示されていた

 この仕組みは、国際的なカードセキュリティ基準のPCIが定める「SPoC(Software-Based PIN Entry on COTS)」に、PAXの用意するカードリーダーが準拠している点がポイントになる。写真のようにカードリーダー側にはPIN(暗証番号)の入力部がないので、接続するタブレット端末の画面を通じてPINを入力する必要がある。この連携動作において、カードリーダーは「SCRP(Secure Card Reader for PIN)」と呼ばれる。
 この協業では、PIN入力を管理するアプリケーション「セーフガード」をPAXが提供し、安全性をリアルタイムに監視する「ウォッチャーセンター」の役割をリンク・プロセシングが担当するという(写真9)

写真9 展示の見た目はシンプルだが、技術的には「SPoC」という厳しい国際カードセキュリティ基準を満たすことで端末の安全性を担保している

世界で一千万台以上が接続済みのMAXSTORE、決済端末内の「鍵交換」も遠隔化

 PAXのブースでは、同社が提供する決済端末の管理システム「MAXSTORE(マックスストア)」についても紹介されていた。展示会の期間中には、このMAXSTOREの運営に2018年の立ち上げ当時から携わっているというSaaSエキスパートのコナー・ディヴェイン氏(PAX EU所属、写真10)がフランスから来日し、PAXブース内の特設ステージに登壇。MAXSTOREのメリットや稼働実績などについてプレゼンテーションした。

写真10 MAXSTOREエキスパートのコナー・ディヴェイン氏(PAX EU)

 MAXSTOREのコア技術はクラウド型のMDM(モバイルデバイス管理)であり、アプリストアを組み合わせた形で提供されている。アマゾンのAWSベースで稼働しており、ソフトウェア、プラットフォーム、モジュールを含めて、国際カードセキュリティ基準であるPCI DSSの認証を取得している。
 現在世界90カ国で提供されているMAXSTOREには1,150万台の決済端末が接続されているという(写真11)。PAXの現在の主力製品に採用されている、決済端末専用のAndroid(PAXでは「PayDroid」)デバイスだけなく、MPoCのような技術と組み合わせて使用される標準仕様のAndroidデバイス、さらには伝統的なLinuxベースの決済端末と、すべての決済端末がMAXSTOREに接続可能となっている。

写真11 アプリ開発者の登録数は3,000弱、対応するアプリはすでに1万を超える

 最近でこそ、端末管理システムを提供する決済端末メーカーは珍しくないが、ディヴェイン氏は「多くの数の端末を同時に管理できることがMAXSTOREの特長であり、従来の端末管理システムとの大きな違いだ」と、競合他社に対する優位性を強調する。「例えば1社のシングルカスタマーで750台もの端末を管理する顧客がいる。この要求に対してMAXSTOREでは『グループ機能』を提供し、効率的に扱えるようにした」(ディヴェイン氏)
 管理画面を通じて決済端末の状態や挙動をリアルタイムにモニタリングできることはもちろん(写真12)、端末の設置場所(位置情報)が事前に設定した範囲を超えて移動した場合にメールを発信することなどもできる。Wi-Fiパスワードやセキュリティキーのインストール、追加アプリの配信、パラメーターの変更、ファームウェアの更新、さらにはEMVのパラメーターやフロアリミットの設定変更なども遠隔で行うことができるという。
 また最新の機能として、遠隔で決済端末内のPKI鍵を更新する仕組み(Rhino RKI)も提供する。「鍵の交換は、従来では認証された安全な部屋まで担当者が足を運びローカルで行っていた作業。これが遠隔で、迅速に、安全にダウンロードできるようになる。極めて効率的な仕組みであり、時間と費用が抑えられる」(ディヴェイン氏)
 他にも、すべての端末の挙動をダッシュボードから確認できるデータ管理・分析ソリューションの「ゴーインサイト」や、端末の画面操作を遠隔で動かしてアシストできる「エアビューワー」、サードパーティ企業がWeb APIを通じてMAXSTORE内のデータとの同期が可能になる「エアランチャー」など、新しい機能が続々と追加中だ。

写真12 決済端末のあらゆる挙動をリアルタイムに把握し、管理が可能

 

【記事バックナンバー】やっぱり決済端末が好き in 『リテールテックJAPAN』
https://epayments.jp/welovepaymentterminals

 

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。