ステーブルコインと暗号資産って別物なの? 『暗号資産・デジタル証券法』を読む

「暗号資産(昔の名前は『仮想通貨』)てぇのは、その時々で価値や値打ちが変わる、いわば投資商品であって、これを決済手段と位置付けることはそもそもナンセンス。キャッシュレスや電子決済を担うビジネスの文脈から、これらを論じるのは不適切だ」
 
 なんて鼻息も荒く見出しをクリックした読者も多いのではないか。かくいう筆者もそう考えていた。いや、実は現在進行形でそう考えている。
 それでも? だからこそ? なのかわからないが、「2020年に入ってビットコインの値段が再び上昇(高騰)傾向に転じ、相場が戻りつつある」なんてニュースを新聞や雑誌で目にすると胸のドキドキが収まらないことがある。「本当?」なんて、ついうっかり値動きをググってしまったりした経験はないだろうか?
 そんな気持ちと直接には関係しないが、ざっくりとでいいから暗号資産の制度上の位置付けやトピックだけは情報として押さえておきたい。そんなニーズに応えてくれそうなのが、この9月に発刊された『暗号資産・デジタル証券法』(商事法務、2020年9月15日刊、税込4,840円)だ。
 本書は、紹介帯に大々的にうたわれているように「暗号資産・デジタル証券の法的位置づけから適用される法規制までを詳細かつわかりやすく解説」した専門書。今年(2020年)5月1日に施行された改正資金決済法・改正金融商品取引法や関連する政府令などを踏まえた最新版となっている。
 アンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合 健氏と三宅 章仁氏、そして片岡総合法律事務所の高松 志直氏と田中 貴一氏の弁護士4名を編著者に掲げる同書は、「暗号資産」「ICO」「ステーブルコイン」「セキュリティトークン」などの章立てで構成され、全352ページのボリュームにまとめられた。

決済に関連しそうなサービスとの関係性も整理

 法律の解説や法的解釈などがふんだんに盛り込まれた本書の使い方は、当該事業を業として営む事業者の担当者が、実務上の必要に応じて本書をめくって調べるといった形態が一般的だろう。しかし、これを最初のページから読み物として読み進めていっても、新しい知識が習得できたり、大変参考になったりすること受け合いだ。
 例えば、最近よく耳にする「トークン」という言葉。本書の主題にもなっている「暗号資産」自体もトークンの一種と目されるが、その法的な位置付けは個別のトークンの機能などによって異なるという。本書によれば、トークンは法的分類によると、「暗号資産」や「前払式支払手段」「為替取引」などの5種類に整理することができ、そのそれぞれに関連する法規制が存在する。
 また、同じブロックチェーン技術を応用した「トークン」の一種でありながら、法定通貨などと価値が連動するように設計された「ステーブルコイン」についても、1章を割いて解説している。これについても法的分類が可能であり、具体的には3種類に類別されるという。さぞかし難解かと身構えそうなテーマだが、具体例を交えながら平易な文章で書かれていてわかりやすい(※個人の感想です)。
 マネー・ローンダリングや「AML/CFTガイドライン」(犯収法の特定事業者のうち金融庁管轄の事業者に求められる、リスクベースアプローチでの対策・管理態勢整備への要求事項集)を論じた章では、「非対面取引の場合の本人特定事項の確認方法」の図表が掲載されているほか、「eKYC」、「リスクベースアプローチ」などにも触れている。
 
 「法律の専門書だから・・・」と、敬遠して素通りしてしまうにはあまりにもったいない一冊である。

<目 次>
第1章  概要
第2章  暗号資産
第3章  暗号資産交換業
第4章   ICO
第5章  ステーブルコイン
第6章  暗号資産デリバティブ
第7章  セキュリティトークン
第8章  不公正取引の禁止
第9章  マネー・ローンダリングと暗号資産
事項索引

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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