5G時代にSIMカードの役割はこう変わる〜タレス(旧ジェムアルト)が世界初の5G SIMを解説

タレス(Thales;2019年4月2日付けでジェムアルトと合併)は、第5世代(5G)移動通信サービスに対応する契約者識別管理用のICカード「5G SIM」の機能や特徴に関する説明会を4月9日に東京都内の事業所で開催した。折しも翌日の4月10日には、総務省が5Gで使用する周波数の割り当てをNTTドコモ、KDDI( au)、ソフトバンク、楽天モバイルの4社に認めたタイミング。5Gは今年後半から一部でプレサービスが始まり、2020年春頃には各社が本格商用サービスを開始する予定だ。

5Gは、いきなり“フルスペック”では登場しない

 今年2月、当時のジェムアルトが世界で初めてとなる「5G SIM」を発表した。今年上半期中の提供開始を予定する。
 そもそも5Gの特長は、「高速」であり「高信頼性・低遅延」、そしてIoT機器など向けの「大量マシーンタイプ通信」に対応した通信規格であることが挙げられる(写真1)。これらの特長の一部は、すでに一世代前のLTEや、”アーリードロップ”と呼ばれるLTEの改訂版などに盛り込まれてきたが、5Gはこれらが1つの規格の下に統合されたものになる(写真2)。逆に言えば、4Gと5Gの境目がくっきりとあるわけではなく、今後5Gのサービスが始まってから2021〜22年くらいまではLTEと5Gが混在しながら”フルスペック”の5G化を目指していくロードマップとなっている。

写真1 LTEから5Gへの遷移①(出典:タレス)

写真2 LTEから5Gへの遷移②(出典:タレス)

 そのため、5G SIMの投入時期も同様に段階を踏んで進んでいくことになる。写真3にあるように、2020年頃までの”アーリードロップ”の段階まではLTE対応のSIMが利用され、5G SIMが導入されるのは2021〜2022年の「フェーズ1」以降と見込まれている。さらに、2022〜2023年をめどに実現する“フルスペック”の「フェーズ2」では、大量IoT通信に特化した「5G IoT」SIMの登場も見込まれる(写真3)
 このように5Gでは、通信も、SIM(カード)も、段階的に機能が上がっていく。

写真3 5Gの各フェーズにおけるSIMカードの役割(出典:タレス)

SIMカード内の秘匿鍵が後から書き換え可能に

 タレスが今年2月に発表した「5G SIM」は、前記した5Gの「フェーズ1」より対応する(写真4)。提供する新しい機能として、信頼できるセキュリティレベルの維持(秘匿鍵更新)、GDPRなどの規制に準拠したサブスクライバー(契約者)のプライバシー保護(IMSI暗号化)、ユーザー体験の改善(5G認証)、ローミング売り上げの最大化(ステアリングローミング)、ネットワーク関係のソリューションのための拡張(Toolkit拡張)、がある。

写真4 5G SIMで提供される新機能

「4Gまでは、SIMカードの出荷前に工場で書き込んだ『秘匿鍵』(認証用のデジタルデータ)を、出荷後に書き換えることは想定していなかった。しかし、5Gではセキュリティリスクに考慮して、SIMカードを再発行することなく、秘匿鍵の更新ができるようになる」(タレス モバイルサービス&IoT事業本部 フィールドマーケティング マネージャーの米沢 正雄氏/写真5

写真5 タレス モバイルサービス&IoT事業本部 フィールドマーケティング マネージャーの米沢 正雄氏

 契約者のプライバシー保護では、モバイル通信事業者が契約者を識別する際に使用する識別情報の「IMSI(International Mobile Subscriber Identity)」が問題になった。IMSIは電話番号などに紐付いて発番されるものだが、「従来、認証の際にはIMSIが平文で送られていたが、GDPRではこれが個人情報に当たるとの見解が出てきた。日本の個人情報保護法でも『特定の個人を識別することができるもの』と解釈されるため、5G SIMでは暗号化する仕組みを導入した」(米沢氏)という。
 5G SIMの形状は、従来型でなじみのある「リムーバブルSIM」のほか、IoT機器などへの搭載ニーズに最適化した「M2M SIM」、デバイスにICチップを内蔵する「eSIM」とすべての提供フォーマットに対応するという。
「先進国ではリムーバブルSIMからM2MやeSIMへとトレンドが移行しつつあるが、(SIMの出荷数が多い)後進国ではまだまだ通常のSIMが使われている。結果、グローバルではまだ従来のリムーバブルSIMの数が多いのが現状だ」(タレス モバイルサービス&IoT事業本部 本部長の蔦田 剛士氏/写真6

写真6 タレス モバイルサービス&IoT事業本部 本部長 蔦田 剛士氏

 タレスでは5G SIMの提供形態について、半導体大手の米クアルコムと協業し、LTEモジュールやSPU(セキュアプロセシングユニット)にeSIMを統合する開発も進めている(写真7)。
 なお、「5G SIM」の定義については国際的な標準化団体であるSIMアライアンス(5G SIMワーキンググループ)が策定しており、MNO(モバイル通信事業者)に対しては技術的なガイドラインを提供している。1)暫定的な5G SIM、2)推奨の5G SIM、3)省電力SIM、の3種類のSIMプロファイルが用意されてるという。


写真7 クアルコムのSPUなどへeSIMを統合する発表も(出典:タレス)

写真8 合併統合後の事業ポートフォリオ(タレス/ジェムアルト)

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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