今年もこの季節がやって来た。毎年、この時期に東京ビッグサイトで開催される『リテールテックJAPAN』。2025年は3月4日から7日の4日間に渡って催され、延べ7万6千人が来場した(日本経済新聞社調べ)。会場には、いよいよ来月から始まる大阪・関西万博の関連展示をはじめ、決済端末や決済ソリューションの最新事例が並んだ。誰もが知る「あのmPOS端末」の後継機種の姿にも、興奮を隠し切れない筆者であった。
NECは「ミャクペ!」とVMクレカに対応する顔認証決済をアピール
日本電気(NEC)のブースでは、近年、同社が推している生体認証技術の1つである「顔認証」を決済に応用した展示を中心に見学した。
いよいよ今年4月13日から10月13日までの約半年間に渡って大阪・夢洲で開催される2025年日本国際博覧会(以下、「大阪・関西万博」という)では、NECが提供する顔認証決済が利用できるということで、その実機によるデモンストレーションが紹介されていた。その際の端末には、決済業界ではおなじみ、三井住友カードなどが展開している「stera terminal(ステラターミナル)」が採用された。写真のように、ステラ端末とPOSレジとが連動して顔認証決済サービスを提供するため、万博会場内の対応店舗にはこのセット一式が設置されることになるそうだ(写真1、2)。

写真1 顔認証決済の専用に特化されたstera terminal。カメラが利用者の顔をとらえてから数秒ほどで認証と決済が完了するタイミングだった(下が決済完了画面)

写真2 顔認証決済を実行している際のPOSレジ側(店員操作側)の画面表示
顔情報の登録は事前に万博のウェブサイトから行う。大阪・関西万博ではそもそも、期間中何度でも入場可能な「通期パス」と、夏季期間に限定して何度でも入場可能な「夏パス」のチケット購入者に対して、顔認証による入場管理が提供される。今回の決済利用は、上記チケット購入者はもちろん、それ以外の券種のチケット購入者であっても、万博の独自電子マネーである「ミャクペ!」に会員登録して顔情報の登録を行っておけば(写真3)、顔認証だけで対象店舗での決済を完了できる。なお、顔認証に紐付ける決済手段としては、ミャクペ!の電子マネー以外に、Visa・Mastercardのクレジットカードが登録可能。決済の際に別途、暗証番号の入力や特別なアクションも不要なので、手元にカードやスマホを取り出さなくても手ぶらで買い物を済ませられるのが嬉しい。

写真3 「EXPO2025デジタルウォレット」アプリ内の「ミャクペ!」メニュー画面に「顔決済管理」の設定がある
顔認証決済に関連する他の展示として、昨年9月からディスカウントスーパーのトライアルと共同で、福岡県・宮若エリアの7店舗で導入している事例を紹介していた。こちらの事例で特筆すべきは、認証に使用する顔情報などの個人情報をトライアル1社だけでなく、地域の複数業種の事業者と連携して利用できる仕組みとなっていること。利用者は一度、顔情報を登録するだけで、本人の希望する他のお店での顔認証決済の利用可否を選択できる仕組みが提供されている(写真4)。
具体的には、顔情報を登録する際に使用するスマホアプリに機能が搭載されている(写真5)。トライアルでは独自電子マネーである「SU-PAY(スーペイ)」を提供しているが、このエリアではスマホのバーコード認証に代えて、顔認証による決済が可能になっており、その利用範囲をエリアでつないでいく構想がある。その際に、利用者の「あのお店では顔認証で支払いたいが、あのお店ではそうしたくない」という気持ちの機微を汲み取り、スマホアプリから簡単に許諾可否を設定できるようにすることで、利用の心理的ハードルを下げながら事業展開の多様化につなげていきたいというのがNECの考えだ。

写真4 顔情報を、複数業種の事業をまたいで連携する

写真5 トライアルの実証実験で、実際にNECが提供しているスマホアプリ

写真6 顔情報をそのままサーバに保存するのではなく、公開議暗号方式(PKI)のデジタル署名技術を用いていったん生体情報を「鍵」と「錠前」に分離。片方だけでは顔情報を復元できない仕組みとすることで、顔情報の保存にまつわる事業者の不安を払拭する新技術も初めて紹介した。個々のお店では情報管理が難しい、ショッピングモールなどでの運用を想定しているという
「ミウラ」のM010後継機は全面ディスプレイ&コード決済にも対応
長く決済業界にいる人で、ミウラシステムズの名前を知らない者はいないだろう。日本では2010年代後半から始まった、スマホやタブレットに無線でつないで使用するコンパクトな決済端末の導入。「mPOS(モバイルPOS)」と呼ばれるこのカテゴリで、リクルートや楽天をはじめ、こぞって採用したのが英国製のミウラシステムズの端末だ。いわゆる「あっちもこっちもミウラ」現象である。
ところで、「三浦さんなの?」 とその名前を目にするたびにいつも頭の隅によぎっていた読者もいるかもしれない。今回、勇気を出して社名の起源を尋ねてみたところ、「創業者がスペイン人のMiuraさんだったんです。ランボルギーニ・ミウラと同じ感じの『ミウラ』ですよ」と笑顔(重要!)&英語で回答してくれた。聞いてみてよかった。今日一番ほっこりした情報でした。
さて、ミウラのmPOSといえば泣く子も黙る「M010(エムテン)」(写真7)。日本で150万台以上売れたベストセラーモデルである。ほら、あちらでもこちらでも目にしたことありますね。そのM010が、決済端末のセキュリティ基準である「PCI PTS」の期限切れにより、2026年4月で出荷終了になる。もちろん、いま市中に出回っているM010は上記期限を過ぎてもそのまま使い続けることはできるが、新たに入手することはできなくなる。

写真7 M010の姿は誰もが目にしたことがあるのではないか。来年には出荷終了になる
そこで、満を持して登場するのが後継機となる「MIURA FLEX(フレックス)」である(写真8、9)。Android12ベースの端末となり、ご覧の通り、筐体のコンパクトさは変わらぬまま全面液晶ディスプレイを搭載する形態となった。そして、磁気、接触IC、非接触IC(FeliCa対応を含む)はもちろん、前面に搭載されたカメラによりコード決済にも対応するという。M010ではコード決済に対応せず、親機となるスマホやタブレットからQRコードを読み取るなど操作が分離してしまっていたが、FLEXでこの課題が解消され、「決済手段はすべて決済端末側で読み取る」環境が整うことになる。

写真8 全面ディスプレイのMIURA FLEX(右は背面から見たところ)

写真9 暗証番号を入力するピンパッドも、従来のハードウェアキー型から画面表示型へ変更になる
そうなると気になるのは端末のお値段だが、担当者によると「(多少は値が上がるものの)M010とさほどは変わらない」とのことなので、期待してお待ちいただきたい。FLEXは今年の夏から秋にかけて出荷が始まる見通しとのことなので、今年中にはお店で実機を目にする機会が出てくるかもしれない。
冒頭にいささか茶化してしまったが、日本でこれだけミウラシステムズの端末が受け入れられている理由の1つとして、「英国製であること」の影響があるようだ。決済端末は(筆者のような愛好家を除けば)どこまでいっても「業務用端末」なので、導入選定に当たってはその価格が大きな要素を占めることは想像に難くない。しかしその一方で、用途を考えれば、安全性や機能面での「信頼性」が強く求められることも、決済端末ならではの特筆すべき市場環境といえる。
ここで、価格と信頼性のバランスが勘案された結果、ミウラシステムズの英国製であるという特長が、導入企業からの支持につながっている側面は大いにありそうだ。

写真10 決済端末好きにはちょっとたまらない、ミウラのmPOSクッキー(非売品)
シャープのAQUOSな決済端末は出荷開始、「CAFIS」はスマホ・タブレット対応も強化
シャープのブースでは、昨年のリテールテックJAPANで初披露した、AQUOS技術を注ぎ込んで開発されたという決済端末の実機を紹介していた(写真11)。同端末はNTTデータが「CAFIS Arch」の端末ラインアップの1機種として昨年11月からパイロット導入を開始。今年に入って徐々に出荷が始まっているという(写真12)。

写真11 シャープブースで紹介されていた決済端末のお客向け画面部分。数字の配列はランダムと固定から選択して設定できる。シャープが得意とする「ペールビュー」液晶が、画面の覗き込みを防ぐ

写真12 「CAFIS Arch」のラインアップに加わったシャープの決済端末。店員側とお客側の2台から構成される
専用端末でなく、汎用のスマートフォンを決済端末として利用可能にするのが「CAFIS Tap to Pay」のソリューション。Android13以降の端末で利用でき(iPhoneは非対応)、国際決済ブランドのタッチ決済をはじめ、非接触IC電子マネーやコード決済による支払いを受け入れることができる(写真13)。

写真13 既存のAndroidスマートフォンを決済端末として利用できる「CAFIS Tap to Pay」
この技術を応用し、システム企画開発のシステムギアと共同開発した「タブレット精算機」(CPT-100)を展示した。非接触ICをタッチする部分(読み取り部分)が一般的には端末の裏面に内蔵されていることに着目し、あえてタブレットの「前面読み取り」に対応させた(写真14)。気軽に導入できるように、月額利用料金制のサブスクリプション型での提供を予定している。
説明担当者はこんな期待も話してくれた。「精算伝票にQRコードが印字されるお店であれば、こんなに簡易な汎用デバイスを会計口に置いておくだけで、レジが要らなくなるかもしれない」

写真14 タブレット精算機のCPT-100は、ディスプレイ画面に非接触ICをかざして読み取る
お客や従業員の店内での移動情報をリアルタイムに測位するソニーの新技術
ソニーのブースでは、FeliCaなども担当するセキュアテクノロジー&ソリューション事業部が、屋内行動分析プラットフォームの「NaviCX(ナビックス)」のデモを紹介していた。この技術をスマホに搭載すると、広いお店の店内にいても、自分が今どの棚の付近にいるのかがグラフィカルに確認でき、目的の場所を案内するなどのロケーションサービスが受けられるようになる(写真15)。

写真15 NaviCXを使って、店内でのお客の移動情報をリアルタイムに表示するデモ
また、今いる場所から店内スタッフをボタン操作で呼び出したり、お店の側でも来店客の買い回り動線が把握できるため、商品展示の改良や店舗施策の参考情報などとしても活用できるという。実際、今年1月末から家電専門店のノジマが、また今年2月にはホームセンターのカインズが、それぞれ自社のスマホアプリにこの機能を採用して提供開始したところなので、興味のある読者はアプリをダウンロードして試してみることもできる。
NaviCXは、スマートフォンの各種センサーとAIを活用したソニー独自の屋内測位技術だが、中でも「PDR(Pedestrian Dead Reckoning = 歩行者自律航法)技術」が核になっているという。PDR技術では、スマートフォンのジャイロセンサーと加速度センサーを利用して人の歩行を検知し、基準となる位置からの移動方向や移動距離を推定する。新しい技術ではあるものの、iPhoneや大半のAndroid端末で利用可能という好環境が、順調な採用先拡大につながっているようだ。
なお、NaviCXの導入に当たっては、ソニーがSDKを提供し、実際のアプリ開発については導入する流通小売業が担当する流れになる。
三井住友カード「stera」の新端末はプリンタを搭載しない2機種
クレジットカード会社としては唯一、リテールテックJAPAN2025に出展していた三井住友カード。そのブースでは今年も、同社が注力している決済プラットフォームのサービスブランドである「stera(ステラ)」を全面に押し出していた。
今年、初めて(モックアップではなく)実機が紹介されたstera端末が、「unit」と「mobile」の2機種である。据え置き型のコンパクトな筐体でPOSと連動して利用する「unit」(写真16)は昨年9月から、また4Gのモバイル通信にも対応するモバイル型の「mobile」は今年2月から出荷が始まり、導入が進んでいるという。どちらの端末もプリンターを内蔵しないこともあり、mobileでの決済完了後にはディスプレイ画面に電子レシートのURLを示すQRコードが表示されるようになっていた(写真17)。

写真16 stera端末の新モデルunit(据え置き型)

写真17 stera端末の新モデルmobile(モバイル型)。決済後に画面表示されるQRコードをスマホで読み取ると電子レシートが表示できる
ちなみに、本記事の冒頭で紹介した大阪・関西万博の顔認証決済サービスは、同社のstera terminalを採用していることもあり、NECのブースであらかじめ顔情報を登録した上で、三井住友カードのブースを訪れると、万博の独自電子マネー「ミャクペ!」が300円分貰えるラリー企画が用意されていた。
(後編に続く)
【記事バックナンバー】やっぱり決済端末が好き in 『リテールテックJAPAN』
(別にウインドウが開きます)
https://epayments.jp/welovepaymentterminals