やっぱり決済端末が好き、でありんす(後編) 〜 ストレスなしのコード決済読み取りから、公共交通のタッチ決済導入支援サービスまで

熱心にブースで各社の説明に耳を傾けていると、思いがけずその会社のトップが通りがかり、社長自らいま一番力を入れている事業を直接説明してくれる幸運に出会えることがある。こんな出会いもまた、リアルで開催される展示会の醍醐味かもしれない。『リテールテックJAPAN 2025』レポートの後編をお送りする。

TMNの新機種「UT-X20」は、コード決済の読み取り速度も自慢

 トランザクション・メディア・ネットワークス(TMN)が今年の新機種として最前列で展示していたのが2026年1月から発売予定の「UT-X11」(写真1)。現行モデルの「UT-X10」がPCI PTSの認定期限切れに伴い発売終了となるため、その後継モデルの位置付けとなる。X10と同様、X11も単体ではコード決済の読み取りには対応しない。POS連動での導入形態が多いこのシリーズでは、POSレジ側のハンディスキャナでバーコードの読み取りなどを処理することが多く、決済端末自体にはさほどバーコードやQRコードの読み取り機能が求められないため。

写真1 UT-X11は、前モデルのX10と比べてやや角が取れた印象

 一方、昨年のリテールテックJAPANでも紹介されていた新機種「UT-X20」は、国際決済カードの3面待ち(磁気・接触IC・非接触IC)のほか、非接触IC電子マネー、コード決済とフル対応する(写真2)。ブースの担当者がX20の特筆すべき優秀な点として推していたのは、コード決済を処理する際のQRコードの読み取り性能。決済端末に内蔵されたカメラに、端末の上側からスマホのQRコード表示画面を読ませる方式の場合、位置が合わなかったりピントが合わなかったりしてなかなか読み取ってくれない経験をしたことのある読者も多いのではないか。その点、X20は端末側のカメラを意識せずにかざしてもストレスなく読み取る。その微妙なニュアンスは、下の動画で確認いただきたい。

写真2 画面下に配置したピンパッドが特徴のUT-X20

動画 UT-X20でのコード決済読み取りデモンストレーション

 決済端末ではこのほかに、すでに受注を開始したというモバイル端末の新機種「UT-P11」も展示していた。
 さて、TMNのブースで新しい決済端末を隅々まで物色していたところ、なんと同社の大高 敦社長が通りがかり、最近の注力事業について熱心にご説明してくださるという幸運に恵まれた。
 ご紹介いただいたのは、2024年度に新潟市で実施したというバスのDX化に関する実証実験(「令和6年度新潟市デジタルイノベーション創出推進補助金」の補助事業)。バスの乗降時に、乗降客へのAIを用いた顔認証をはじめ、IoTやGPSなどによりデータを取得することで、バスの運行状況の可視化を試みた。顔認証の運用では、認証失敗の件数こそさほど多くなかったというが、本人が意識して顔認証を行う「積極認証」のパターンと、本人が意識していないところで認証を行う「非積極認証」とが分かれて混在するため、撮影角度や照明条件などの変化が生じ、照合処理の難しさを感じることがあったという(写真3)

写真3 2024年度に実施したバスのDX化に関する実証実験では、乗客の顔認証も検証

 また、大高社長は、同社が流通小売業向けに提供しているハウス型のクレジットカードや電子マネーの発行支援事業が、(国際決済カードや汎用電子マネーの取引に対して)単なる決済手数料削減だけを目的としたものでなく、流通小売業が「金融」の機能を持つための重要な施策になると説明してくれた。
 例えば、自社のハウス決済を利用してくれているお客に対して、流通小売から保険や資産運用を提案する。あるいは仕入れメーカーに対しては、決済情報を含む精度の高い自社の購買データを提供することで、マーケティングや販促に活用してもらうなどの循環が考えられるという(写真4)
 まさに同社が社名に掲げる、「トランザクション(取引)」の情報を「メディア(媒体)」としてとらえ、「ネットワーク(つなぐ)」しようとする、その本流を行く発想がこの「パーソナル金融マーケティングプラットフォーム(PFM)」構想を支えている。

写真4 「パーソナル金融マーケティングプラットフォーム(PFM)」構想

「PCI P2PE」を熟知するルミーズが、公共交通の「タッチ決済」支援に参入

 続くときは続くもので、次に回ったルミーズのブースでも、まさかの「社長直々に展示をご紹介」シリーズが筆者を直撃した。
 ルミーズでは昨年から、公共交通機関の乗降時に国際決済ブランドのICカードやスマホを用いてタッチ決済が利用できる仕組みとして、自社開発の「aegise2.0 Transit Gateway」を提供開始している。これを採用して、昨年10月からは長野県は松本地域内の路線バス「ぐるっとまつもとバス」の全路線がタッチ決済に対応した。筆者がリクエストした「この交通ソリューションにお詳しい人」に応えて、颯爽とご説明くださったのが佐藤 有道社長だった。
「公共交通機関で国際決済ブランドのタッチ決済を利用する場合、クレジットカードの電文をネットワークにそのまま乗せられないので、アクワイアラのサポートが必要。当社が(アクワイアラとして)協業するクレディセゾンでも、ホスト側の改修が必要だった」(佐藤氏)
 公共交通機関にタッチ決済の仕組みを導入しようとすると、これまで交通事業者側の選択肢として三井住友カードが提供する「stera transit」しか存在しなかったが、今回のルミーズの参入により、選択の幅が広がったという(写真5、6)

写真5 乗車時、降車時のタッチ(「手タレ」としてご登場いただいたのはルミーズの佐藤社長)

写真6 交通事業者から提供される情報を基に、利用履歴照会機能も提供可能

 「(stera transitとの違いとして)うちはトランジットの仕組みの提供しかしない。運賃計算のような機能は、それこそ(交通事業者などの)『プロ』にお任せし、それ以外の面倒な処理部分を当社で吸収するスタンスで臨んでいる」(佐藤氏)
 「PCI P2PEを内回りで提供していることも当社の強み」と、難しそうだが、導入先となる交通事業者にとって極めて重要になるキーワードをさらりと言ってのける佐藤社長、圧巻のご説明であった。御礼を申し上げます。
 その「PCI P2PE」。決済セキュリティのまさしく要になるともいえ、その「鍵」の管理や運用については導入企業に厳格さが求められる。「(PCI P2PEの鍵を)新規に取るのは非常に大変なので、当社で代行するサービスを提供している。すでに鍵を保有する会社さんでも、当社が代行する鍵であっても、どちらもあわせて一括管理できる」(ルミーズのブース説明員)。これがAmazonのAWSを通じて提供する鍵の管理サービスとなる(写真7)

「PCI P2PE」は、決済端末から決済処理を担うセンターまでのカード会員情報の通信を暗号化することで、漏洩リスクを極小化する仕組み

写真7 AWS上で運用されている暗号鍵管理の支援システム

 また、決済端末の関連事業でも興味深いサービスを紹介していた。同社が本社を構える長野県小諸市の「イージャイズテクニカルセンターコモロ」がその拠点となる(写真8)。ここでは他社の決済端末の出荷対応(キッティング)の代行に対応しており、実に月間5万台の決済端末がこのセンターから全国に出荷されていくそうだ。何しろ、モノがセキュリティの極致ともいえる決済端末なので、鍵の搭載から在庫管理、出荷・配送管理まで、徹底した安全管理が約束されたフルフィルメントセンターへの需要は年々、高まりつつあるという。

写真8 決済端末のキッティングサービスは月間5万台の実績

接触ICカードのスロットも内蔵する、Castlesの決済専用タブレット

 リテールテックJAPANの常連、台湾の決済端末メーカーであるCastles Technologyでは、最新のモデルラインアップとして、8コアCPUを搭載したモバイル型決済端末の「S1F4 PRO」(2025年第4四半期発売予定/写真9)や、コンパクトな筐体が特長のモバイル型決済端末の「S1MINI2」(2026年第1四半期発売予定/写真10)などを展示していた。

写真9 S1F4 PRO

写真10 S1MINI2

 ただ、最近のAndroidベースの決済端末は、デザイン面を含めて差別化要因が今ひとつ伝わりづらく、あまり面白くないので(大変失礼!)、ここでは2025年第4四半期リリース予定の「eMobo」タブレット(写真11)に注目してみた。
 「eMobo」はAndroid13の決済対応タブレットだが、磁気ストライプのスワイプと、非接触IC読み取りだけでなく、タブレットの側面に接触ICカードが挿し込めるようになっていた(写真12)。タブレット形態で接触ICカードの読み取り機能まで内蔵するモデルは珍しい。

写真11 eMobo(タブレット)

写真12 (上の写真)eMoboの非接触ICを読み取る部分(タブレットの背面)。(下の写真)eMoboタブレットの側面には接触ICカード用のスロットが設けられている(ピントが甘くてすみません)

主力製品の出揃ったPAXブースで、日本未発売のモデルを発見

 PAX Japanでは、同社のフラッグシップモデルであるモバイル決済端末「A920MAX」(写真13)をはじめ、お客側とお店側とで2画面を搭載するスマートPOSの「A8700」(写真14)、自動販売機など屋外での決済に対応したセルフ無人機「IM28」(こちらは撮影NGだった)などを紹介していた。

写真13 モバイル決済端末の主力モデルであるA920MAX

写真14 スマートPOSのA8700

 ここでも電子決済マガジンとしては、すでに商流に乗った端末はさておき、日本未発売のモデルに着目した。「A33」は筐体の工夫が際立つピンパッド端末(写真15)。接触ICカードをディスプレイ下のスロットに上から差し込む操作方法を想定しており、そのカードスロットに隠れるような形で暗証番号の入力部(ピンパッド)が搭載されている。画面タッチで入力するピンパッドが隆盛を迎える中で、存在感を示すかのようなハードウェアキーボードが嬉しい。

写真15 ピンパッド端末のA33は日本未発売のモデル

 また、インドの決済ブランドである「RuPay」のロゴが眩しい「CS70X」も日本未発売の端末だ。参考出展の扱いだったが、大きなディスプレイ部分と、非接触ICカードをタッチする部分からなるシンプルな構成(写真16)。ディスプレイには動的QRを生成して表示できるという。型番の下には「サウンドボックス」の愛称が付けられていたが、この「CS」シリーズでは4言語に対応した音声案内が特長なのだそうだ。
 国が変われば、決済端末の形も変わる。こんなに身近な機材から、ちょっとした異国感を味わえるのも、決済端末を追いかけ続ければこその楽しみといえる。

写真16 CSシリーズのCS70Xではディスプレイに動的QRを生成して表示可能

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【記事バックナンバー】やっぱり決済端末が好き in 『リテールテックJAPAN』
(別にウインドウが開きます)

https://epayments.jp/welovepaymentterminals

 

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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