「タッチ決済乗車」を「クレカ乗車」に呼び名変更、上限制の定期相当サービスやVポイント乗車も〜「stera transitシンポジウム2026」から〜

三井住友カードは3月9日、東京・港区の品川プリンスホテルにて「stera transit シンポジウム 2026」を開催した。今月25日からは首都圏の鉄道路線、820駅での相互利用サービスが始まるなど「世界最大規模」でのタッチ決済乗車の導入が進んでいる。同社は利用者へのさらなる浸透を狙って、その呼称をよりなじみやすい「クレカ乗車」に変更するのとあわせて、念願の定期相当サービスをはじめとした新施策を続々と投入することで、導入先と利用件数の大幅拡大を目指す。

首都圏鉄道の相互利用は「世界最大のプロジェクトになる」

 「stera transitシンポジウム」を三井住友カードが開催するのは、前回の2024年8月以来、約1年半ぶり。今回も、招待された多数の交通事業者や関連メーカーなどが来場した。
 シンポジウムの冒頭に登壇した三井住友カード・代表取締役 社長執行役員CEOの大西 幸彦氏(写真1)は、「当社でいえばすでにカード取引の7割までがタッチ決済になっており、時代が『クレジットカード決済=タッチ決済』になってきた。これまでは『タッチ決済乗車』と呼んでいたが、お客様にさらにより身近に感じていただくために今後は『クレカ乗車』(画面1、写真2)と呼んでもらいたい」との方針転換を表明した。

写真1 三井住友カード 代表取締役 社長執行役員 CEOの大西 幸彦氏

画面1 「クレカ乗車」のキャッチコピーを全面に打ち出す(出典:「stera transitシンポジウム2026」発表資料より)

写真2 すでに一部の公共交通機関では「クレカ乗車」のキーワードを全面に出した広告展開が始まっている(写真はOsaka Metroの駅構内に掲出されたポスター広告。2026年2月に筆者撮影)

 同社が2020年7月に提供を開始した「stera transit(ステラ・トランジット)」は、国際ブランドのタッチ決済に対応する公共交通向けソリューション。開始から5年強で、展開地域は45都道府県、導入を公表している事業の数は232まで伸長した。対応する駅数は約2,200駅、バスの台数は約7,000両に上る(2025年末見込み)。
 導入先の広がりにより利用件数も大きく伸びており、直近2年間の比較では約11倍(2026年2月の月間利用件数は598万件)まで増加した(画面2)。これを2028年度までの目標として、導入先を全国47都道府県の300事業に広げ、月間1億件の利用を目指すという。

画面2 (出典:「stera transitシンポジウム2026」発表資料より)

 日本全国でさまざまなバス・鉄道事業者などがstera transitの導入に取り組んでいるが、大西社長が特に強調したのは、今月3月25日から始まる首都圏鉄道路線での相互利用サービスに関して。「首都圏全体では820駅で利用が可能。世界的に見ても、ロンドンやニューヨークよりも大きく、世界最大のプロジェクトになる」と紹介した(画面3)
 ちなみにクレカ乗車を一番長く乗り継いで利用できるケースとしては、「箱根の強羅駅から栃木県の鬼怒川温泉駅まで、1都4県をクレカ乗車で利用いただけるようになる」(大西社長)そうだ。

画面3 (出典:「stera transitシンポジウム2026」発表資料より)

「ODデータは無償で交通事業者様に提供する」

 続いて登壇し、サービスの詳細を説明した三井住友カード・Transit本部長 兼 Transit事業企画部長の石塚 雅敏氏(写真3)は、開口一番、交通事業者が気になる「決済データの取り扱い」に関して言及した(画面4)

写真3 三井住友カード Transit本部長兼Transit事業企画部長の石塚 雅敏氏

画面4 (出典:「stera transitシンポジウム2026」発表資料より)

「stera transitの利用において、まず1つ目にODデータ(出発地点と目的地点を示すデータ)は交通事業者様に毎日無償で取得いただける仕組みであること、2つ目に(クレカ乗車の)利用者側は割引額を含めた利用履歴をQ-Moveサイトからリアルタイムに確認できること、そして3つ目にODデータを可視化するCustella Transitを導入事業者様へ提供させていただくこととしている」(石塚氏)
 Custella Transit(カステラ・トランジット)はデータ活用のためのダッシュボードで、stera transitの導入事業者には無償で提供される。三井住友カードでは2025年度時点で65社に提供し、2026年9月までに200社へ提供していく予定である(画面5)

画面5 (出典:「stera transitシンポジウム2026」発表資料より)

「上限制」の定期相当サービスを来年春から提供

 そして、stera transitを通じて今後提供する新サービスとして5点を紹介した(画面6)。いずれも既存のクレジットカードなどのID情報を利用したクラウド型サービス(いわゆる「ABT乗車券」)であることのメリットが顕著に表れた内容で、有人窓口での物理的なカード発行や登録手続きが不要な「オンライン完結」の運用は、施策の実施時にかかる交通事業者のコスト低減にもつながるものとなっている。

画面6 (出典:「stera transitシンポジウム2026」発表資料より)

 このうち特に注目されるのは「定期券サービス」で、コロナ禍で普及したテレワーク勤務形態などにより新たに生まれた「実際に割引率が適用になるほど乗車するかどうか不安」という利用者の声に応えるものとして企画された。その答えは「上限制」で、「金額式」と「区間式」の2種類に対応して上限額を設定できるようにするサービスを2027年春頃から開始する予定だ(画面7)
「従来の定期券では、ICに権利情報を書き込んだり、窓口で新たに媒体を発行したりする必要があった。stera transitではご利用中のカードやスマホがそのまま使える。一定額を超えない場合には使った分だけのお支払いにとどまり、どれだけ使っても上限額を超えず、支払額は増えない。テレワークに対応した新しい選択肢になる」(石塚氏)

画面7 (出典:「stera transitシンポジウム2026」発表資料より)

 資格確認が必要な「敬老パス」や「通学定期券」にも画像アップロード機能などを活用することでオンライン発行を実現し、窓口の負担軽減にもつなげていく方針だ。加えて、いわゆる従来型の定期券である「事前購入型」のサービスについても検討を続けていくという。
 また、現在クレカ乗車を利用した際のポイント還元は、カード発行会社が付与する「決済ポイント」に限られているが、交通乗車あたりに応じて交通事業者が付与する「乗車ポイント」にも対応する。こちらは今年の夏以降にサービスを開始する予定で、stera transitを利用する交通事業者が利用者に対して「Vポイント」を付与できるようになる(画面8)。固定のポイント制度としての導入のほか、キャンペーンとして一時的に利用することも可能になる。
「(乗車Vポイントサービスは)すでに関西、九州での導入が決まっているほか、首都圏ではゆりかもめ様、江ノ島電鉄様など複数社にご検討いただいている」(大西社長)

画面8 (出典:「stera transitシンポジウム2026」発表資料より)

 
 シンポジウムの後半には、全国の交通事業者や行政の担当者が登壇して、「クレカ乗車」の導入状況や今後の取り組みなどを情報共有した(写真4〜7、画面9〜12)

写真4 京浜急行電鉄 鉄道本部 鉄道統括部長の四宮(しのみや) 浩氏

画面9 「当社が羽田空港に乗り入れたのは1993年だったが、1994年に自社路線でしか使えない『ルトランカード』を出してしまい、お客様から苦情を多数頂いた。そこで急遽あわててシステムを廃棄し、パスネットに参加したという苦い経験を持っている。その際に、いかにグローバルスタンダードに乗るかが重要と学んだ。国際標準であるstera transitの導入は、これから東京メトロ様が品川駅に、東急様が京急蒲田駅に接続されてくる際に、羽田を拠点とする当社にとって大きな意義があると考えている」(四宮氏)

写真5 ニモカ 代表取締役社長の田端 敦氏

画面10 西日本鉄道の100%子会社で、にしてつグループのニモカは、交通系ICカードの「nimoca」をバス・路面電車システムで共通利用できるサービスを構築し、九州島内を中心に28社局の約5,000台に提供している。「クレカ乗車が増えても、交通系ICは減っていない。お客様が最適な支払いを選べることは重要だ。(nimocaとクレカ乗車は)用途により棲み分けを図るが、お客様から見て分断して見えるサービスでなく、事業者が一体的なサービスとして提供できるようにしたい。回数券と定期券の中間にも一定のニーズがあると考えている」(田端氏)

写真6 九州産交バス 共同経営推進室 共通定期券プロジェクト担当の森山 諭氏

画面11 「共同経営推進室」には熊本市内のバス事業者5社に、熊本県、熊本市が参画する。2024年11月に全国交通系ICの受け入れを停止し、2025年2月からは「くまもんのICカード」と「クレカ乗車」にのみ対応している。「使い慣れた交通系ICを止めるのは非常に難しい判断だった。全国からネガティブなご意見も頂いたが、路線バスを走り続けさせるためには致し方なく、逃げずに取り組んできた。クレカ乗車は、単なるコスト削減の手段ではなく、持続可能にするためのプラットフォーム(新しいお客様を連れてくる入口になる)と考えている」(森山氏)

写真7 国土交通省 総合政策局 モビリティサービス推進課 課長の星 明彦氏

画面12 星氏は富山市での地域公共交通計画策定支援ツール「LINKS Mobilys」を活用した実証データとして、市内在住の65歳以上の人が公共交通機関を格安に利用できる「おでかけ定期券」の所有者の医療費が、非所有者に対して年間10〜20万円ほど低いことに着目し、公共交通による外出支援が地域の医療費削減や経済再生に寄与するとの見解を示した

写真8 写真左から、三井住友カード Transit本部長兼Transit事業企画部長の石塚 雅敏氏、京浜急行電鉄 鉄道本部 鉄道統括部長の四宮 浩氏、ニモカ 代表取締役社長の田端 敦氏、三井住友カード 代表取締役 社長執行役員 CEOの大西 幸彦氏、国土交通省 総合政策局 モビリティサービス推進課 課長の星 明彦氏、九州産交バス 共同経営推進室 共通定期券プロジェクト担当の森山 諭氏

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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