【一問一答】国際決済ブランドのVisaにとってステーブルコインは敵か味方か? アジア太平洋地域の部門責任者に聞く

2026年に入ってますます国内外の注目度が高まっている「ステーブルコイン」。既存の決済業界からすると、ブロックチェーン技術によってそれ自体でデジタル取引を完結できてしまう仕組み上の特性から、既存の決済技術が不要になることも考えられ、ともすれば脅威とも見なされることがある。それでは長い間、世界中のカード決済を支えてきた国際ブランドのVisaは、ステーブルコインをどう見ているのか。来日したVisa・アジア太平洋地域 デジタル通貨責任者のニシント・サンガヴィ氏(写真)が、2月26日に東京都内で開かれたビザ・ワールドワイド・ジャパンによる記者説明会の場で記者やジャーナリストからの質問に答えた。

写真 Visa アジア太平洋地域 デジタル通貨責任者のニシント・サンガヴィ氏

「ステーブルコインは破壊的でなく補完的、Visaのネットワークに取り込むことで金融機関の力になれる」

−−Visaとして特定のステーブルコインに注力する考えはあるか? 地域的にはどう対応していくか?
サンガヴィ:われわれはネットワークであり、どのステーブルコインかには限られない。Visaが最初に取り組んだのは米・Circle社のUSDCであったが、その後にも(対応するステーブルコインの種類を)広げている(画面1、2)。トークンやステーブルコインの需要があり次第、増やしていく。クライアントとしてはデジタルネイティブの先やフィンテックがあり、最終的には銀行になる。
 われわれ(サンガヴィ氏のチーム)はアジア太平洋地域を見ており、最初に拡大したのはシンガポール、香港、オーストラリアで、今後の展開地域としては日本、韓国、台湾、ベトナム、フィリピンも考えられる。

画面1(上)はアジア太平洋地域におけるステーブルコインカードの事例、画面2(下)はアジア太平洋地域におけるステーブルコイン決済の事例。Visaではステーブルコインとして、「USDC」や「EURC(ユーロコイン)」、PayPalの「PYUSD」にも対応している(出典:2026年2月26日付けビザ・ワールドワイド・ジャパン記者説明会資料より)

−−ステーブルコインの用途として、B2B向けとB2C向けのバランスをどう考えるか?
サンガヴィ:ステーブルコインの用途は2通りある。1つ目は決済であり、イシュアやアクワイアラが使用するものだ。2つ目は資金移動の中に組み込んでいくもので、こちらはB2B決済から始めて、B2C決済にも広がっていくものと考えている。

−−日本ですでにVisaのステーブルコインに関わるソリューションは動いているのか?
サンガヴィ:具体的な展開はこれからだが、多くのパートナーに協力しており、日本でもサービス提供したいと考えている。日本の法規制は注意深く考えられているので、エコシステムを拡大するためのよいベースになると思っている。

−「Visaダイレクト」(Visaの送金サービス)で、ステーブルコインはどのように使われているのか?
サンガヴィ:Visaはグローバルでネットワークを持っているので、それを活用して資金の移動が提供できる。これは金融機関のみに提供しており、銀行やフィンテックなどを介して、最終のお客様のためにクロスボーダーでの送金サービスをご提供いただくものだ。

−−送金にステーブルコインを使用するメリットは?
サンガヴィ:多くのベネフィット(恩恵)があるが、一番大きいのはスピードと低コストだと思う。他にも、年中無休で使えること、ブロックチェーン上で使えること、法規制に対応すること、トレーサビリティに対応することなどがある。クロスボーダーで資金移動を行う際には、ステーブルコインを用いることで「価値」と「メッセージ」を一体で送れるメリットがあり(画面3)、運転資金を下げるメリットにもつながる。

画面3 「現金は価値とメッセージが一緒に動くが、デジタルマネーでこれが離れた。そして、ステーブルコインで元々の考えに戻ったことになる。メッセージと一緒に動く点で、現金とほぼ一緒だ」(サンガヴィ氏)(出典:2026年2月26日付けビザ・ワールドワイド・ジャパン記者説明会資料より)

−−Visaのネットワークを通過しないステーブルコインの取引が増えることは事業リスクにつながらないか?
サンガヴィ:ステーブルコインは破壊的なものでなく補完的な仕組みであり、決済のエコシステム全体に資するものと考えている。そのため、Visaのネットワークに取り込むことで金融機関の力になれると思う(画面4)

画面4 「Visaは5〜6年に渡ってこの領域で活発に活動してきた。銀行がインフラを確立できるような協力もしている。Visaのプラットフォームを使って構築する」とサンガヴィ氏(出典:2026年2月26日付けビザ・ワールドワイド・ジャパン記者説明会資料より)

−−単にステーブルコインやCBDCを「接続」する機能提供にとどまらず、ブロックチェーン以外の複数の手段を統合する決済インフラを目指す方向性はあるか?
サンガヴィ:ステーブルコインは決済方法の1つであると考えている。カードや、クレジットラインに紐付いて提供されるものなど、さまざまなファンド(資金)が存在しており、その中には法定通貨も含まれている。(メガバンクや銀行の検討に関しても)すでにパートナーとして作業している先が多くある。

−−リアルタイムペイメントが特長であるステーブルコインを、Visaダイレクトに統合してしまうと、機能面でダウングレードにならないか?
サンガヴィ:クロスボーダーは複雑なエコシステムなので、(Visaダイレクトに統合することは)かえってアップグレードにつながると思う。従来、送金できなかった時にもほぼリアルタイムで資金を送れるようになるし、チャンネルを提供するメリットもある。ユースケースもたくさん出てくるだろう。単にステーブルコインをサポートするわけではなく、われわれが長年培ってきたクロスボーダーでのネットワークを活用するということで、法定通貨やステーブルコインを含めて資金移動のためのサービスが提供できるので、それはアップグレードである。

−−50年後には現金が滅びていて、その代わりを「ステーブルコイン」が担っていると想像するか?
サンガヴィ:50年後に私はもういないかもしれないが(笑)。現金は何百年とあるものだし、銀行も長年存在して残っていくものだろう。そうしたエコシステムの中においてステーブルコインは「補完的」な存在と考えている。その意味で、その頃(50年後)には「ステーブルコインで支払います」とは言わない状況になっているかもしれない。お金はメールで送信するだけになっていて、そのとき裏側で動いているのは現金かもしれないし法定通貨かもしれないし、ステーブルコインかもしれない。その時点で一番早い、最善のものが使われるだろう。例えば、インターネットもわれわれは裏側のテクノロジーをよく考えずにEメールを送っている。それと同じような世界になっていくのではないか。

 

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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