様変わりする次世代の改札風景をひと足お先に体験、顔認証による究極のゲートレスも〜鉄道技術展2023レポート

11月8日から10日の3日間、幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催された「鉄道技術展2023」(主催・産経新聞社)。鉄道・交通システムを中心に、インフラ、施設、電力、輸送、運行管理、車両、インテリア、旅客サービス関連など、ふだんあまりお目にかかれない鉄道分野の技術の「裏側」が覗けるような展示内容で、2010年から開催されている。今年の来場者数は3万5,000人で、昨年との比較では70%増の大入りだった(写真1、2)。近年では切符や交通系ICカードに加えて、さまざまな認証方法を受け入れる動きが鮮明になりつつある自動改札機だが、デモとはいえそれらを実機で体験できると聞いて、喜び勇んで会場へ向かう筆者であった。

写真1 会場の幕張メッセは広大。この撮影範囲では会場の半分もカバーできていない

写真2 大型の重機が会場の屋内外に並ぶほか、用途が専門的過ぎて一見何に使うのかわからない器具も大量に展示されていた

未来の改札は「浮かんで見える」〜日本信号

 日本信号のブースでは2種類の新型改札機が展示されていた。1種類目は現在開発中の「マルチ認証改札機」で、交通系ICカードに加えて、顔認証、コンタクトレスEMVクレジットカード(タッチ決済)、QRの計4種類の認証方法に1台で対応する(写真3)。顔認証用のカメラもゲート上部に自然な形で取り付けられており、パッと見では見分けがつかないほど従来の改札機の外観を損なっていないのが特長だ(写真4)

写真3 QRリーダー部分が斜めに配置されているのは、スマホをかざした際にQRとタッチ決済の干渉を避けるためでもある

写真4 「ここにカメラがありますよ」と言われなければまったく気が付かなさそうな溶け込みぶり

 筆者もその場で実際に顔を登録して、顔認証によるゲート通過を体験させてもらったが、特に意識することなく手ぶらでスムーズに改札を通り抜けることができた。また、QRの読み取り部分は若干傾きを付けることで、スマホなどでQRを表示する際の画面反転や、左手でかざす利用者を考慮したという。
 もう1種類は遊びゴコロの盛り込まれた「未来型改札機」(写真5)。思い切って切符などの磁気券への対応をやめることで、搬送部を大胆に省略した。代わりにアクリル照明が施され、認証結果を照明のカラー点灯で示すようにしたほか、通路の圧迫感を払拭した。認証方法は、日本ではまだ事例のないBluetoothに対応。スマホが発するBluetooth信号を改札機が自動検知するため、利用者はスマホをポケットに入れたままで、媒体をかざす必要もなく、ハンズフリーでの入出場が可能。技術的には、Bluetoothによるユーザーの位置検知とエリア判定を用いており、同社が鉄道分野で培ったミリ波レーダーの角度推定技術も応用しているという。
 この改札機には、通過中の当事者にしか見えない立体映像の投影機能も搭載。認証の結果としての「通行可」「通行不可」の状態を空中映像で表示していた。この不思議な感覚、写真でもおわかりいただけるだろうか(写真6)

写真5 本来、搬送部がある部分を省略し、代わってクリアな発光パネルが改札機を彩る

写真6 認証がOKだと全体がブルーに染まり、進行OKを示す立体映像が進行方向に表れる(写真左)。NGの場合はレッドに(写真右)

写真7 日本信号が屋外に展示していた「多機能鉄道重機」の見た目は、ほとんど人型ロボット。VRゴーグルのようなヘッドマウントディスプレイを装着した作業員が器用にロボットの身体や腕を操作して(下の写真)、高所でのケーブル切断作業などをデモンストレーションした

バリエーション豊富なタッチ決済&QR対応改札機〜高見沢サイバネティクス

 QR乗車券と、国際ブランドの非接触決済(タッチ決済)に対応する自動改札機は高見沢サイバネティクスのブースでも参考出展されていた(写真8)。同社もいわゆるゲートメーカーの1社だが、「タッチ決済」を説明する表現が各社で微妙に異なっているのは面白いと感じた(※筆者個人の感想です)。
 同社の展示では、改札ゲートの長さ(距離)や、開閉扉の枚数などの違いで豊富なバリエーションを用意していたのが特徴的で、ウォークスルーの要/不要や、2枚扉/4枚扉に対応するタイプをラインアップ。有人通路や閑散駅向けにはゲートのないスタンドタイプも用意していた(写真9)

写真8 全体に光沢仕上げなこともあり、写真ではちょっと見えづらくてスミマセン

写真9 扉の数、ゲートの長さの違いでバリエーションを用意

 また、思い切って従来の磁気券やIC券(交通系ICカード)に対応しないことで、機器・開発コストの削減を図ったという。これらの後方互換性を排除したことで、斜めにカットされたようなデザイン性の高い改札機に仕上がっていた印象だ(写真10)

写真10 QRを印字した「切符」でのゲート通過を体験できた

エスコンフィールドも採用したモバイル型のIC車載器〜JR西日本テクシア

 会場内でひと際大きな出展コーナーを出していたのがJR西日本グループ。その中で、ICOCAをはじめとする交通系ICカードに関連するソリューションを紹介していたのが、西日本旅客鉄道(JR西日本)の連結子会社でIT関連事業を手掛けるJR西日本テクシアだ。
 そのブースで大きく紹介されていたのは、簡易な改札機の提案。駅に設置される一般的なフルセットの自動改札機に対して、主に地域鉄道やバスなど小規模での導入を想定した簡易改札機は、駅ではなく、鉄道やバスなどの車両内に設置される(写真11)。複数のGPS情報と車両の走行距離(タイヤの回転数)から現在位置を特定し、駅ごとの設定に切り替わるため、乗務員の操作が少なくて済むようになっている。
 センターとの間の通信には4GのLTEを用いるが、運行時はローカルで処理し、通信はバッチで処理するため、通信障害などの影響を受けないこともメリットになっている。もちろん全国相互利用に対応しているので、ICOCAに限らず交通系ICカード全般が利用可能。実際にICOCAエリア以外でも、四日市あすなろう鉄道(三重県四日市市)、中国ジェイアールバスなどでの導入実績がある。

写真11 鉄道用IC車載器を紹介するパネル

 ところが地域のコミュニティバスやオンデマンドバスは、これでも過剰な設備と映るそうで、より簡便でコストメリットの大きい仕組みが求められていたという。そこで同社が新たに開発したのが持ち運びも可能なモバイル型の「簡易型IC車載器」(写真12)。どこかで見かけたことのある風貌だが、物販やサービス用のモバイル決済端末を改札機に転用することで、より一層のコストダウンを実現した。センター側の設備もASP方式で利用できるため、自前で構築する必要がない。ブース説明員によれば、「車両内に設置するIC車載器の導入コストは(一般的な改札機との比較では)約半分になる。モバイル端末はそのさらに半分以下になるイメージ」というからコスト削減効果は絶大だ。

写真12 ひと回り大きなスマホ画面のようで、乗務員も操作しやすそう。「均一料金」など運賃選択も容易

 実はこの仕組み、プロ野球は北海道日本ハムファイターズの本拠地である「エスコンフィールドHOKKAIDO(ほっかいどう)」と近隣の駅を結ぶシャトルバスが今年の7月から導入しており、それまで対応していなかった交通系ICカードでの支払いが可能になったことでも話題を集めた。JR西日本テクシアの営業展開エリアは、その社名からもわかるように基本的には関西エリアが中心だが、本案件はシャトルバスを運行する北海道バスが大阪バスのグループ会社であったことが縁で、導入に至ったという。

写真13 JR西日本テクシアのブースでは、交通系ICカードに対応する抽選イベント端末「ICoLOTO(イコロト)」や、「ICOCA地域ポイント」のサービスなども紹介されていた

大阪メトロ採用の顔認証改札をいち早く体験〜パナソニック コネクト

 大阪メトロ(大阪市高速電気軌道)が2024年度中の全駅導入を目指している「顔認証改札」の実機を出展していたのはパナソニック コネクト。顔認証用のカメラは改札機上部に設置されたアーチ状の什器内に内蔵されており、利用者は立ち止まることなくウォークスルー(通り抜け)で通過できる(写真14)

写真14 アーチ式の天井部があることで、ゲート感がマシマシ

 ここでも実際に顔を登録して体験させてもらった。顔の登録時にはマスクを外して顔写真を撮影する必要があるが(写真15)、改札の利用時にはマスクをしていても認証されるとのこと。ここではあえて「顔認証されている」ということを極力意識しないようにして、何もない通路を通過する勢いで臨んだが、まったく意識することなく、ストレスもなく顔認証で通過することができた(写真16)。これが「実用」に足るレベルということなのだろう。

写真15 顔情報の登録(撮影)時には個人情報取得と利用に関する許諾確認が必ず行われる

写真16 顔認証成功を知らせるディスプレイ

 デザインとしても特徴的なのだが、この改札機ではゲートの上に張り出したアーチ形状となっている理由が気になったので質問してみた。これは顔認証の精度を上げるために、補助照明を設置するために必要とのこと。ブース説明員によれば、屋内であっても太陽光や西陽の当たる角度によっては顔認証に影響する場合があり、それを抑えるために補助照明を用意しているのだそうだ。

顔認証と連動したアバターアイコンで改札通過をアシスト〜NEC

 自動改札機といえば昔から「ゲート」が付きものだが、日本電気(NEC)のブースでは変わった展示を見かけた。その名もなんと「ゲートレス顔認証改札」。ゲートをなくしてしまった改札(?)が参考出展されていた(写真17)
 最初にマスクを外して顔画像の登録をするところまでは、他の顔認証改札と変わるところがない。しかし、NECの提案では床面に敷かれた一本の光るLEDラインだけが設置されており(写真18)、前面の壁には顔認証のためのカメラと、その認証状況を示すディスプレイが掲出されているだけ。ディスプレイにはリアルタイムでこちら側に並んでいる人たちのアイコン(アバター)が表示され、人の動きを追従して揺れ動いている。

写真17 「皆さん、ここに集まって一体何を眺めているのですか?」と思って近付いてみれば、何と「このあたり」が改札機とのこと

写真18 顔認証の成否結果に応じて、自分の足元だけ色が変化して知らせる。足元が赤色だと、人間は前に進みにくいらしい

 この環境で、事前にチケットを購入するなどして乗車資格を持っている人はアイコンが緑色に変化し、通過する資格があることが明示される。また床面のLEDも自分が通過しようとする「幅」の範囲だけ、LEDの色が通過可能を示す緑色に変化する。対照的に、乗車資格のない人のアイコンやLEDラインは赤色のままだ。
 もちろん、これだけの設備では抑止力がほとんど効かないので、赤いアイコンの人がLEDラインを突破してしまえば誰かが全力で追いかけて止めるしかない。ただ、「改札」の概念を変えるコンセプトモデルとしては、ユニークな提案に感じられた。例えばこの仕組みを利用した付加価値機能として、外国人観光客の場合にはアイコン内にこの先の進行方向を示す矢印を表示するなどして、正しい乗車ホームへ誘導するなどの機能を盛り込む(写真19)。また、介助が必要な方向けにもやはりアイコンを変化させ、特定の設備への誘導案内を示すなど、顔認証と属性情報の活用イメージが紹介されていた。

写真19 上にあるディスプレイで、青色のアイコンが示す「この先を右に曲がってください」の矢印は外国人向けの乗車場所案内を想定したもの

 技術的にはもちろん通常の改札ゲートを組み合わせることも可能だし、小規模の駅向けにはポール型の顔認証ゲートも提案されていた(写真20)。顔認証技術そのものの「目新しさ」が落ち着きを見せてきた中で、他社との差別化を含めて、NECとしてはまだ提供されていない新たな付加価値を提案していきたい、との思いのにじんだ展示であったように感じられた。

写真20 小規模の駅ではポール型の顔認証ゲートがよく似合いそう

とにかく反応が早いQRコードリーダーを初披露〜デンソーウェーブ/JR東日本メカトロニクス

 先に紹介した改札機メーカーの展示にもあったように、今後の交通乗車券やチケッティングの認証方法としてQRコードを使用する気運が高まっており、実証実験や一部駅から商用導入を始めている交通事業者もある。磁気式の切符や乗車券と違って改札機との間で物理的な接触がないため、読み取り機側の摩耗がなくメンテナンス性に優れることや、IC式の乗車券に比べて媒体のコストが格段に抑えられるなどのメリットがある。
 その一方で、光学的に読み取る仕組みのために、QRを提示して読み取るまでの認証スピードには課題があった。お店で買い物をした後、スマホに表示したQRをレジで読み取ってもらう際に位置合わせなどで少し苦労した経験をお持ちの読者も多いのではないだろうか。
 そんな課題の解消に真正面から取り組み、改善されたQRリーダーがこちらの「QB40-XR-J」(写真21)。デンソーウェーブとJR東日本メカトロニクスの共同開発により実現した(写真22)。静止画ではわかりにくいのだが、とにかくQRをリーダ部に近寄せていくだけで即座に認識する。デモでは認識時に「ピッ」というビープ音を発生させていたが、かざしたQRの角度を変えるだけでも「ピッ、ピッ、ピッ」とキビキビ反応していた。モデルさんがポーズを変えながらカメラマンがカシャカシャと写真を撮影している場面を思い浮かべてほしい。ちょうどあんなスピード感でQRコードを読み取っていく様は圧巻だった。
 しかも、スマートフォンの液晶画面に表示されたモバイルQRコードだけでなく、紙に印刷されたQRコードもまったく同様に認識する。通常のQRコードのほか、複製防止機能を持ったQRコードや、特殊なリーダでしか読み取れない「非公開データ」を埋め込める「SQRC」の読み取りにも対応が可能だ。
 ブースで頂いてきたパンフレットには「駅務機器向けQRリーダ」と書かれていたが、通常以上の高速処理が求められる改札ゲートなどの用途には最適なQRリーダーと言えそうだ。

写真21 JR東日本メカトロニクスのブースに展示されていた「QB40-XR-J」

写真22 同じQRリーダーはデンソーウェーブのブースでも紹介されていた

写真23 ホームドアの開閉制御に用いられているQRコードがこちらの「tQR」。車両の扉に貼付されたこの大きなQRコードを、駅ホームに吊り下げられたカメラで読み取ることで作動する。都営浅草線、小田急電鉄、京浜急行電鉄で採用されているが、すべての車両に貼付されているわけではないそうなので、このどデカいQRコードを探してみる楽しみもありそうだ

「運賃収受箱」のタッチ決済対応もじわり〜レシップ

 「タッチ決済」を導入する交通系の発表ではよく名前を見かけるレシップも、鉄道技術展にブースを出展していた。1948年創業の同社は、もともとバス・鉄道市場向けに照明や電源装置、バス用運賃箱、行先表示器を含む運行管理システムなどを手掛けてきたが(写真24)、1995年以降、非接触ICカードシステムも提供してきた。

写真24 「行先表示器」って、あるのが当たり前過ぎてどこが作っているかは知らない人も多そう

 キラキラしたLED式の照明や表示器に混じってブースで展示されていたのはキャッシュレス運賃収受器の「LV-700」だ(写真25)。こちらは1台でクレジットカード タッチ決済、ハウスICカード決済、QRコード認証・決済の3つに対応。長良川鉄道(岐阜県)や富山地方鉄道(富山県)、西東京バス(東京都)などで実際に導入されているほか、海外でも導入実績があるという。

写真25 タッチ決済などに対応するキャッシュレス運賃収受器「LV-700」

写真26 ひっそりと置かれていて筆者の目を引いたのが、非売品だという「バス運賃箱」と「整理券発行機」のミニチュア。なにこのカワイらしさ! ぜひ今度カプセルトイにしてください

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。