公共交通への「Visaのタッチ決済」導入が劇的に進んだ2022年、JRグループ初の実証実験は12月から他国際ブランドにも対応

ビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)は12月19日、公共交通機関における「Visaのタッチ決済」の導入状況に関する最新データを公表した。着々と導入プロジェクトが増加する一方で、「上限運賃」の適用や、他国際ブランドへの対応など、サービスの質の面でも変化が出ている状況が浮き彫りになった。

「上限運賃」とセットで導入する交通事業者も

 「Visaのタッチ決済」を導入する日本国内のバス・地下鉄・鉄道事業者の状況は、2022年12月現在で21都道府県の実に33プロジェクトが稼働(一部、発表のみの先を含む)。直近2年間の変化では、都道府県数で+17、プロジェクト数では+29と、二桁ペースで急速に増加していることがわかる(画面1)

画面1 2年前の「4府県・4プロジェクト」が「21都道府県・33プロジェクト」に進展

 最近の導入先としては、北海道ボールパークのシャトルバス、関東では西武バスと京急バス、そして東急電鉄がある。東急電鉄では2023年夏に田園都市線を中心に先行導入し、2024年春には全線展開を計画している。
 中部では富士急行バスの導入が2022年10月に始まったほか、関西では神戸の神姫バス(シティーループ・ポートループのバス運賃)、九州では熊本市交通局(熊本市電)などが「Visaのタッチ決済」導入を開始した。
 導入先の拡大だけでなく、提供するサービスの内容面でも変化が見られる。先述の神姫バスでは「上限運賃適用サービス」を導入。請求額に上限を設定し、当日利用であれば700円(2022年10月1日現在)以上請求しない仕組みとしている。こうした運用は「『キャッピング運賃』と呼ばれ、ロンドンなど海外でもよく利用されている。Visaのタッチ決済はこれと親和性が高いこともメリットなので、今後も普及が進んでいく」(ビザ・ワールドワイド・ジャパン・デジタルソリューションズ ディレクターの今田 和成氏)と期待されている。
 実際に海外では「ニューヨークのメトロでは『キャッピング運賃』を利用して乗車したお客に対して、運賃の50%割引を提供する施策も提供している」(ビザ・ワールドワイド・ジャパン・ソリューション企画部 ディレクターの大野 有生氏)ほどに踏み込んだサービス展開が行われているが、海外と日本とでは公共交通機関の運賃への考え方などに違いも見られるため、これをきっかけになだれを打って料金制が変わるということはなさそうだ。
 「日本国内ではまだあまり定期券と上限運賃制の比較がまだ十分に進んではおらず、(定期券の置き換えというよりは)『1日乗車券』の代替と考えるほうが意識としては強そう。もう少しコロナが収まって、当たり前に公共交通の利用が見込まれるようになれば検討が進んでいくのではないか」(今田氏)

『10カード』未導入地域での使われ方に注目

 鉄道事業者に「Visaのタッチ決済」導入を拡大していくために、日本で避けて通れないのがJRグループの存在だ。当然Visaでも「重要なプレーヤー」ととらえており、2022年7月からJRグループで初めて「Visaのタッチ決済」の実証実験を開始したJR九州(九州旅客鉄道)の動向に注目しているという。
 さらにこの12月からはVisaブランド以外に「JCB」「American Express」のタッチ決済にも対応ブランドを拡大し、実証実験を継続している。「他ブランドを含めて実証実験に取り組んでいただいているので、そこで有効性が確認できれば、ぜひ他のJR各社にも働きかけを行っていきたい」(今田氏)

【参考URL】Visa・JCB・American Expressタッチ決済 実証実験中 |JR九州

 また、既存の交通系カードとの関係では、11月からスタートした鹿児島市交通局の実証実験が注目される(画面2)。同実験では鹿児島市電で「Visaのタッチ決済」に対応したが、それまでの同市電の乗車料金の支払方法は、現金とプリペイド方式のICカード乗車券「ラピカ(Rapica)」のみだった。ラピカは残額を積み増し(チャージ)する際に10%分のプレミアムが付くICカードだが、「交通系ICカード全国相互利用サービス」には対応していない独自のICカード乗車券である。

画面2 鹿児島市電では2023年4月以降、他ブランドへ対応を拡大する計画

「いわゆる『10(テン)カード』が導入されていない地域でタッチ決済を導入した場合に、観光客や地元の方にどれくらい使われるのかに注目している」(今田氏)
 2023年4月以降は、JCB、Mastercard、銀聯、American Express、Diners、Discoverの国際カードブランドに対応することも発表されており、一般名詞としての「タッチ決済」の認知度や利用意向が現地でどこまで高まるのかを占う場所として関係者の熱視線が注がれそうだ。

 

画面3 日本の公共交通機関でのタッチ決済利用における海外発行カードの利用比率は、インバウンドの回復基調もあり、今年11月に約5.1%まで伸長した

画面4 日本国内における「Visaのタッチ決済」の導入状況は、公共交通以外の一般加盟店でも大きく増加している。「コンビニでは、Visaカード利用の2件に1件がタッチ決済になってきている」(今田氏)

 

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

Comments are closed.