日本でもすっかりおなじみの光景となった「QRコードを利用したスマホ決済」。しかし、昨年11月に埼玉県所沢市にオープンした大型複合商業施設「ところざわサクラタウン」で今月からサービス提供が始まった「サクラタウンコイン」は、他のスマホ決済サービスとは一風異なる特徴があるという。百聞は一見にしかず、ということで、スマホ片手にさっそく現地に乗り込んで体験してきたのでレポートする。
アプリや登録作業が不要、Googleアカウントだけでいきなり使える
この11月1日から、KADOKAWAが運営する大型複合商業施設の「ところざわサクラタウン」(埼玉県所沢市東所沢/写真1〜2)で実施されている電子コイン決済の名称は「サクラタウンコイン」。チャージや決済時の使い方などは、QRコードを利用したMPM(加盟店提示方式)のスマホ決済とほぼ同じになっている。
実証実験は11月1日から来年、2022年4月10日までの約6カ月弱。実験終了後の4月11日から同4月30日までは個人間での電子コインの授受のみが可能になる。サクラタウンコインの発行(入金、チャージ)と使える場所は、開始時点ではところざわサクラタウン2階にあるKADOKAWAの直営ショップ、「ダ・ヴィンチストア」のみで、今後順次、施設内の他店舗や周辺施設に広げていく予定だという(写真3〜4)。
サクラタウンコインを初めて利用する際には、Googleアカウント(gmailアドレス)での登録が必要。逆に言えば、GoogleアカウントのID・パスワードでブラウザからログインするだけで、住所、氏名などの個人情報を入力することなく、その場ですぐに使えるようになるところが特長だ(画面①②)。専用のスマホアプリは提供されていない。
サクラタウンコインの購入(入金、チャージ)は、ダ・ヴィンチストアのレジで利用者自身の「受け取り用QRコード」を提示した上で、現金の授受により行う。最低購入単位は1,000円で、入金の上限は5万円。決済に利用できるコインの金額上限も5万円となっている。さくらコインの発行主体は埼玉りそな銀行が担っており、加盟店との間の売上金精算も同行が担当する。
デジタル決済なのに「お釣り」が戻ってくる
店頭に貼り出された説明書きを眺めていても始まらないので、筆者も実際に使ってみた。QRコードを読んで起動させたブラウザ画面から、表示された手順に沿ってGoogleアカウントを入力するだけでサービス利用の準備が整う。アプリをダウンロードしてIDやパスワードを考えたり、個人情報を入力したりしなければならない一般的なスマホ決済アプリと比べると圧倒的に始めやすい印象だ。この状態でブラウザを一度落としたりしても、再度ページにアクセスすればアカウントへのログイン状態が保持されているので、安心感がある。
ただ、お店のレジ前に立って掲示されたQRコードを読み取ってブラウザを起動するのはいささか心許なかったので、筆者はあらかじめこのサービスのTOPページをスマホのホーム画面へブックマークしておくことにした。これでレジ待ちの順番がいつ来ても、戸惑うことなくサクラタウンコインを操作できる。
最初にやることはコインのチャージだ。店員に入金したい旨を告げると、画面メニュー左上の「三」の中にある「受け取り用QRコード」(画面③)の表示を求められるので、言われるままに表示してその画面を提示する。すると店員がお店のタブレットを使ってこのQRコードを読み取る。次に、入金したい金額分の現金を受け渡し、店員のタブレット操作完了を待つ。と、ほぼ瞬時に1,000円分のサクラコインが画面に登場した(画面④)。
今度は支払い。商品を提示してサクラコインで支払いたい旨を店員に告げ、今度は画面下の「支払い」アイコンを選んで、支払い用の操作画面に進む。
お支払い画面には、「支払先」と「支払金額」、その下に現在自分が保有しているサクラコインが並ぶ(画面⑤)。このうち「支払金額」欄をタップして決済金額を自分で入力するところは一般的なスマホ決済と変わらない。違っているのはこの後で、「どのコインを使って支払うか」を明示的にタップして申告する必要のある点だ。
「支払う」ボタンを押して支払いが完了すると(画面⑥、⑦)、お釣り銭として端数の額面分のサクラコインが登場する(画面⑧)。先ほどの初回支払いでは、「1,000円」のコイン1種類しか保有していないので、支払時にコイン選択の余地はなかったが、2回目以降の決済になると「支払金額を充当するのにどのコインを当てがうか」が悩ましくなってくる。キャラクターに関心がなく面倒な方には「コインを自動選択」のボタンも用意されているが、例えば筆者の場合でいえばギロロ伍長(画面⑨)を手元に置いておきたくなったので、自ずと次回以降の支払いの際にはそのコインを避けて支払おうという行動パターンとなる(画面⑩)。非常に多くのキャラクターが用意されているそうなので、利用者のコレクター心をくすぐりそうだ。
ちなみに、ギロロ伍長を含む「ケロロ軍曹」以外のキャラクターコインとしては、コバトン(埼玉県マスコット)、さいたまっち(埼玉県マスコット)、トコろん(所沢市イメージマスコット)、りそにゃ(りそなグループのコミュニケーションキャラクター)が採用されているほか、今後も順次拡大予定だそうなので、「レアキャラ」「お宝キャラ」探しのような楽しみ方も出てくるかもしれない。
ブロックチェーンを活用した電子コインはNFTの特性も
ひと通り遊んでみたところで、サクラタウンコインの運営スキームと役割分担を確認しておこう。先述の通り、電子通貨であるサクラタウンコインの発行者は埼玉りそな銀行となっており、加盟店との売上精算も同行が担当する。
システム面では富士通がスキーム全体の提供者を担い、さらに富士通子会社でDX事業を専門に手がけるRidgelinez(リッジラインズ)社がシステムとキャッシュレス機能を提供。コレクション性があり広告掲載可能なブロックチェーン技術を活用している(同社により特許出願中)。
また、ところざわサクラタウンの運営会社であるKADOKAWAは、場所(加盟店)の提供のほか、コインに登場するキャラクターの1つである「ケロロ軍曹」の版権元として利用許諾を行っている。
一見、単なるプリペイド方式のスマホ決済にも見えるサクラタウンコインだが、以下の点で他サービスとは明確に異なる特徴がある。
- サクラタウンコインの発行・流通の仕組みとしてブロックチェーンを採用
- チャージや支払いは額面の付いたコインを用いて支払い、支払金額によって「お釣り」相当のコインが授受される
- キャラクターイラストの付いたコインは、金銭的価値だけでなく「NFT(非代替性トークン/Non-fungible Token)」の特性も持つ
- 利用者間でのコインの授受が可能(現時点ではサービス未提供。来年4月11日〜30日まで提供予定)
- ユーザーはブラウザ上で利用する「アプリレス」のサービス
デジタルな決済に、あえてアナログな「硬貨(コイン)」の発想を持ち込み、支払いの際にひと手間かけさせるところは実に面白い発想だが、単にそれだけでは「手間が増えて面倒くさい」としか受け止められないだろう。そこで同じブロックチェーン技術のNFTを掛け合わせることで、デジタルアイテムとしての価値や所有欲をそそる仕組みに仕立てたところは、世界中を見回してみてもなかなか類を見ない意欲的な取り組みに思える。
ほかにも、利用者をスマホ決済に引き込もうと誘導する場面で一番厳しいハードルともいえる「最初のユーザー登録」を、アプリレス、既存の他社アカウント連携によって下げようとする試みなど、注目すべき観点が多く含まれている。
コロナ禍もだいぶ落ち着いてきたきょうび。今度の週末はところざわサクラタウンへお出掛けして、まだまだ珍しいブロックチェーンベースの電子コインの使い勝手をご自身で試してみてはいかがだろうか。
<参考URL>
「ところざわサクラタウン」における電子通貨決済の実証実験開始について|ニュースリリース|埼玉りそな銀行
「ところざわサクラタウン」における電子通貨決済の実証実験開始について : 富士通