自動認識システム大賞にQRコードを活用したホームドア、次点に手ぶらキャッシュレス決済も

一般社団法人 日本自動認識システム協会(以下、「JAISA」という)は9月16日、東京港区の品川プリンスホテルにて(オンライン開催も併設)第22回目となる「自動認識システム大賞」の表彰式を開催した。大賞をホームドアの開閉制御に車両扉へ貼付したQRコードを活用する事例が受賞したほか、次点の優秀賞には手ぶらキャッシュレス決済の実証実験(PoC)などが入った。

大賞は 無線通信をQRコードで置き換える、目からウロコな発想

 2次元シンボル、生体認証、RFID、画像認識など優れた自動認識技術に対して贈られる「自動認識システム大賞」。その受賞者が一堂に会した表彰式では、JAISAの池田 隆之会長(写真1)や、審査委員長を務めた小沢 慎治氏(慶應義塾大学名誉教授/写真2)らから、それぞれに賞状と賞金が手渡しで贈られた後に、各社受賞作品についてプレゼンテーションが行われた。

写真1 日本自動認識システム協会(JAISA) 代表理事会長の池田 隆之氏

写真2 第22回自動認識システム大賞の審査委員長を務めた小沢 慎治氏(慶應義塾大学名誉教授)

 「QRコードを活用したホームドア用車両状態検出システム」で栄えある大賞を受賞したのは、開発したデンソーウェーブ(写真3)と導入先となった東京都交通局。私たちがふだん何気なく目にするホームドアは、車両の扉の開閉操作と連動して開いたり閉まっているように見える。しかし、実際に運行されている車両には、同じ鉄道会社の中でも異なる編成や車種が混在しており、ホームドアはこれらに応じた開閉制御が必要なことから、車両と駅の間で無線通信を行っている。そして、このための車両改修費が1編成あたり数千万円と高額になることが、ホームドアの設置場所拡大にとって障壁になっているそうだ。
 そこでデンソーウェーブでは、方向・速度・距離に対応した位置検出や、コード自体の劣化を検出できる「tQRコード(タフレスQRコード)」を新開発し、これを車両扉に貼付、ホーム天井に固定した読み取り装置で検出することで無線装置と同等の動作を可能にした(写真4、5)

写真3 デンソーウェーブ AUTO-ID事業部 技術2部 技術2室 主任の太田 裕氏

写真4 システムの概要図

写真5 車両扉の開閉をQRコードで検出する

 車両改修費用を削減することでホームドアの普及を後押しし、人身事故減少への貢献が期待されることなどが高く評価され、大賞の受賞に至った。導入する鉄道事業者は、東京都交通局(都営地下鉄浅草線)のほか、神戸市営地下鉄、京浜急行電鉄で導入実績があるという。

実験期間中の誤認識は一度もなく、手ぶら決済は実用段階に

 優秀賞にはキャッシュレスに関連する作品も入った。日立製作所(写真6)とユーシーカードが受賞したのは、「複数加盟店での指静脈認証による手ぶらで安全なキャッシュレス決済POC」。指静脈認証にクレジットカード情報を紐付けることで、特別な持ち物を必要とせず、ただ指を読み取り装置にかざすだけでクレジット決済が完了できる仕組みだ。
 昨年12月から今年3月まで2回にフェーズ分けして実施された実証実験では、アクワイアラをユーシーカード、決済代行システムをGMOペイメントゲートウェイ、指静脈認証装置をはじめとした生体認証決済連携を日立製作所が担当した。店舗のシステムに極力影響が出ないように、設備としてはタブレット端末と読み取り装置のみで導入可能としたほか、システムをクラウドで運用する形態としたことも特長(写真7)。導入場所はユーシーカードの社員食堂のほか、丸の内やお台場などのドラッグストア、居酒屋、蕎麦屋などに導入した。
 モニターにはユーシーカードと日立製作所の社員、約650名が参加。期間中の取引件数は約1,600件、売上金額は約120万円だった。アンケートの結果、利用者の80%が今後も利用したいと回答したという。生体認証システムの実用化にあたっては、誤って他人を受け入れてしまうことが課題となるが、約1,600件の取引中で一度も誤認識がなかったことから、両社では今年度(2020年度)下期中の実用化について自信を深めている。
 なお、今回用いられた指静脈による生体認証では、日立製作所が「公開型生体認証基盤(PBI)」と呼ぶ技術を採用。PKI(公開鍵認証基盤)技術を組み合わせ、生体情報を「秘密鍵」として取り扱うことで、単純な生体認証以上の安全性とプライバシー保護を実現できるという(写真8)

写真6 日立製作所 サービスプラットフォーム事業本部 セキュリティ事業統括本部 セキュリティソリューション本部 認証ソリューション部 主管の村上 秀一氏

写真7 実証実験時のシステム概要

写真8 「公開型生体認証基盤(PBI)」

 このほか、同じ優秀賞にデンソーエスアイの「RFID活用の樹脂製通箱高速仕分けシステム」が選ばれたほか、ペストビジョンソリューションズと環境機器の「AI/MLを活用し、害虫・ネズミと戦うIoTソリューション」、アイオイ・システムの「プロジェクションピッキングシステム」がそれぞれ賞を受賞した。そのほかの入選作品などは写真10の通り。
 次回の自動認識システム大賞は来年、2021年2月から募集が開始される予定だ。

写真9 受賞者が揃っての記念撮影

写真10 第22回「自動認識システム大賞」の受賞作品(出典:日本自動認識システム協会のホームページより)

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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