eBayの日本法人が京都市などと組み、日本の製造業・小売業による海外ネット通販を強化する取り組みを始めた。インバウンド(訪日観光客)の増加に沸く有数の観光地である京都だが、その陰では伝統的工芸産業がまさに瀕死の状況にある。果たして「越境EC」はその活路となることができるだろうか? [2016-08-08]
■「日本の伝統的工芸品をeBayで売りたい」 海外ネット通販を支援
米国eBay Inc.の日本法人であるイーベイ・ジャパンは、8月5日から日本の地域における伝統工芸品など、製造業・小売業の海外展開を支援するプロジェクトを新たに開始した(写真①)。
イーベイ・ジャパン・ビジネス開発部 部長の岡田 朋子によると、「日本の伝統的工芸産業は(需要の低迷などもあって)生産額が最盛期の15%ほどまでに減少してきているが、海外観光客からの評価は高い」という(写真②)。eBayのお膝元であるアメリカを中心に、日本の伝統的工芸製品には高い評価と、高い検索数が寄せられていることから、インバウンド(訪日観光客)の増加に沸く日本の現状に鑑みて、eBayはこれを「越境EC」(海外客が海外にいながらにして日本の商品をネット購入する形態のEコマース)の顧客に転換しようと考えた。その第1弾として選定したのが京都だ。
人口147万人の京都市だが、その観光市場規模は観光客数(5,564万人)、観光消費額(7,626億円)など右肩上がりの成長が著しく、いずれの数字も過去最高を記録している(写真③)。
しかし、会見に同席した門川 大作・京都市長の口からは、華々しい観光業の好調をよそに、京都の伝統産業製品を取り巻くショッキングな状況が生々しく語られた。「京都市では(伝統工芸品として)74の製品を指定しているが、『絶滅危惧種』が増えている。例えば西陣織は、世界最高の織物との評価を頂いているが、その売上高は最盛期の7%まで落ち込んだ。そして、高い技を持った職人さんは、本職では生計が立たず、タクシーの運転手を兼業されたりなさっている。そういう厳しい現実がある」
■eBayサイトに京都の特設ページを設置 京都文化の発信も
このような悲観的な状況を改善しようと、米国、欧州、(日本をのぞく)アジアなどで利用者の多いeBayへの出品を通じて、京都の良い製品を世界中に拡販していこうとするのが今回のプロジェクトの主眼だ。
単に、商品をeBayに出品する手助けをするだけでなく、eBayサイト内に京都の特設ページを設置し、商品検索をしやすくしたり、その制作工程や、例えば「着物の着付け」などについて訴求するコンテンツも配信する(写真④⑤)。
観光地として多くの外国人が集う京都伝統工芸店の店舗も活用する。店頭にeBayのステッカーを貼付してもらい、訪日観光客が帰国後にeBayへアクセスしてもらえるような動線を演出する(写真⑥)。
「京都には『老舗商法』というのがある。これは、良いものをコスト度外視で作る。しかし、宣伝はしない。しかしながら、今の時代、積極的にアピールしなければ売れない。そこで、世界最大のオンラインマーケットプレイスであるeBayの力をお借りして、『京都もの』を宣伝していきたいと考えている」(門川 大作・京都市長)
■フォネックス、eBay、PayPalの協業を、行政機関もバックアップ
まずは京都の企業22社がeBayに出品済み。当初出品するのは、着ものや茶器、お茶、瀬戸物、ガラスの器類などが中心になるという。
出品事業者の開拓と、商品データ作成、翻訳といったeBayへの出品サポートについては、フォネックス・コミュニケーションズが担当する。出品事業者はフォネックス社、およびイーベイ社とPayPal社にそれぞれ販売手数料を支払う(写真⑦)。
PayPal社は主に宣伝活動面から本プロジェクトを支援し、まずはアジアのPayPalユーザーを中心にメールベースで集客する。次に、お客の購入履歴をベースにメールで集客することを計画している。さらには各国のPayPalサイト上に設置されている海外店舗紹介ページに京都のコンテンツを掲載していくことも検討中だという。
将来は、京都のプロジェクトを皮切りに、全国の中小企業の「越境EC」支援へ広げていきたい意向だ。独立行政法人 中小企業基盤整備機構 理事の渡部 寿彦氏は「行政組織だけではなかなか活動しきれない中で、日本のクールな製品を発表する良い機会を頂いた。手作業で作られている地方の隠れた一品を世界に紹介し、日本を元気にしてきたい」とeBayへの期待を寄せた。
米国eBay Inc.は1995年の設立、現在までにモバイルアプリを含めて190カ国で展開している。アクティブユーザー(買い手)は1.6億人で、年間取引高は約10兆円(1ドル=120円で換算)に上る。
日本法人のイーベイ・ジャパンは2000年代初頭に日本の国内EC市場へ参入したが、事業不振から2002年にいったん撤退、再参入した2009年以降は日本企業の海外eBayサイトを通じたネット通販、いわゆる「越境EC(クロスボーダートレーディング:CBT)」に経営資源を集中している。同社では「今回のプロジェクトをきっかけに、今後は国内、海外ともに露出が増えて、販売促進のできるコラボレーションを広げていきたい」(イーベイ・ジャパンの岡田氏)と話している。
[2016-08-08]