【レポート】2017年4月以降出荷されるグローバルモデルのNFC搭載スマートフォンはNFC-Fを実装する見通しに ~第11回NFCフォーラムジャパンミーティング

 

 

NFC Forum(NFCフォーラム)の日本支部、NFC Forum JTFは2016年7月14日、第11回目となるジャパンミーティングを東京都内で開催した。NFCフォーラムの会員企業、一般の参加企業から100名を超える出席があり、本年5月にNFCフォーラムへ加入したJR東日本をはじめ、NFCやモバイル決済をめぐる最新動向に関して情報提供が行われた。

 

■JR東日本のNFCフォーラム加入は「画期的なこと」

イベントの冒頭、JR東日本(東日本旅客鉄道)が本年5月にNFCフォーラムへ新規加入したことを報告したNFCフォーラムの田川晃一チェアマンは、「フォーラムに、サービスを運用している事業者が加入するのは画期的なこと」との評価を述べ、ウェルカムメッセージと同社のモバイルSuica10周年を祝福するメッセージを掲出した(写真①)

写真①

写真① NFCフォーラムチェアマンの田川晃一氏

また、「日本ではあまり目立たないが、NFCの市場は継続して成長中」として、業界アナリストの数字を引用、NFCが『2020年までに240億ドルの収益を獲得すること』、『2015~20年の期間に40.4%のCAGRを記録する』などのマーケット見通しを紹介した。

とりわけ今回のイベントで田川チェアマンが強調したテーマが、「公共交通に向けてRFアナログ規格の統一を実現」することだ。「モバイルは1台の端末を世界中持って歩くので、(それを公共交通に利用しようとすると)関連するさまざまな規格同士の整合性がとれていないと問題が生じる。しかし、関係業界や組織が活動してくださったおかげで、ついにそれらの間の調和(ハーモナイゼーション)が実現できた」という。

田川氏いわく、今回の「公共交通のためのRFアナログのハーモナイゼーション」と「GSMAおよびGCFによるNFCフォーラム規格の参照」が実現したことにより、NFCサービスはいよいよ「ローミングの時代へ」入るそうだ。つまり、1台のNFCデバイスで各国の鉄道が利用可能になる世界が実現することになる。

 

■「1分間に30人しか通過できない欧州」と、どうやって仕様を揃えるか

続いて基調講演に登壇した東日本旅客鉄道 IT・Suica事業本部 担当部長(技術戦略)の山田 肇 氏(写真②)は、「公共交通におけるNFC規格のハーモナイゼーションについて」の演題で、特に同社が提供する「モバイルSuica」サービスの視点から、このたびのNFC規格における公共分野でのハーモナイゼーションがもたらす具体的な変化について解説した。

写真② JR東日本IT・Suica事業本部 担当部長(技術戦略)の山田 肇 氏

同氏が長い期間携わってきたモバイルSuicaは、国際規格であるISO/IEC 18092に準拠することから、「NFCに対応している」といえる。しかし、「モバイルSuicaはNFC対応スマートフォンに対応していますか?」の問いについては、現実としてNFC対応スマートフォンがNFC-A/NFC-B方式にしか対応していなかった数年ほど前までは答えに窮していたという。しかし、現在では端末がNFC-F方式にも対応したため、満を持して「対応している」と回答できるようになったエピソードをにこやかに披露した。

また、モバイルSuicaを取り巻く「相互接続性(インターオペラビリティ)」の課題として、リーダライタ(RW)と媒体(Suicaカードなど)の間での互換性の確認が、Suicaサービスイン時は2種類(RW)×2種類(媒体)であったものが、現在までに数十種類(RW)×数百種類(媒体)に膨れ上がったため、現在は3つの検定試験を用意して検証を行っているという(写真③)
山田氏はここで「標準化」のキーワードを引き合いに出し、「日本は標準化が苦手というイメージがあるが、苦手というよりは『相互接続性』を優先し、(欧米が得意とする)『適合性(コンフォーマンス)』については積極的にやってこなかったのだと思う」との見解を述べた(写真④)

写真③

写真③ 互換性の確認

写真④

写真④ 日本における試験

さて、講演の本題である「公共交通におけるNFC規格のハーモナイゼーション」に関し、この動きはまずは決済の分野で完了し、続いて公共交通の分野へと移っていった背景を山田氏は説明した。具体的には、NFCフォーラム、GSM協会、CEN(欧州標準化委員会)などの標準化団体のほかにJR東日本も参加した「公共交通ワークショップ(PT Workshop)」(写真⑤、写真⑥)という国際会議の場を通じて、世界ではまだ数少ないモバイルNFCの公共交通への導入事例として「モバイルSuica」の経験を情報提供していったという。

写真⑤

写真⑤ 公共交通のハーモナイゼーション

写真⑥

写真⑥ ハーモナイゼーションの動き

ここで紹介したモバイルSuicaの経験とは、①首都圏でのモバイルSuica利用、②新幹線でのモバイルSuica利用、③かざすとSuicaカードなどの残高照会もできるJR東日本アプリーーの3つである。(①②はNFCのカードエミュレーションモードを使用、③はNFCのリーダライタモードを使用)
今年1月28日にサービス開始10周年を迎えたモバイルSuica、その会員数は本年5月30日時点で376万会員に上る。10年間の経験として、例えば、スマートフォンのバッテリーが切れた場合に動作する「程度」であったり、同社の用意する「モバイルFeliCa通信性能検定」などがあり、「このような日本のモバイルSuicaユーザーであればすでに当たり前の事実も、これからモバイルNFCサービスを始めようとしている組織には、貴重な情報として受け止められているようだ」(山田氏)という。

また、モバイルSuicaの(改札リーダライタとの間の)通信距離は85mm以上、その処理時間は200ms以内が絶対条件、よく知られた「1分間に60人が自動改札を通過できる」という世界的にも類を見ない絶対条件に関しても言及。これに対し、通信距離もアンテナの大きさも異なる欧州の性能要件は、その半分、つまり1分間に30人しか通過できないというのだ(写真⑦)

このとき、「日本と欧州では要求性能が違いすぎる。欧州(だけ)で仕様統一するので、日本は独自規格でいけば?」という雰囲気にいったんはなりかけたものの、議論の結果、日本の導入事例(モバイルSuica)を要求仕様の「土俵」に当てはめてもらう動きに転換できたという(写真⑧)。「土俵を揃えれば、それほど大きな違いはない」というのが同社の見方だ。
なお、処理速度の違いについては、処理を行うICチップの性能によるところが大きいが、議論のテーマにはなっていないとのことだ。

写真⑦

写真⑦ 改札機の要求性能(欧州と日本)

写真⑧

写真⑧ 85mmは非現実的?

■「今回のNFC規格ハーモナイゼーションはあくまでNFCの通信仕様のみ」

このような関係者の努力の結果、NFC Forum規格は、「決済」「公共交通」の両方で使用でき、世界の各地域で同一の規格を利用可能なものとなった。さらには、携帯電話事業者の業界団体であるGSM協会や、スマートフォンなどさまざま電子デバイスの認定を行うGCF(Global Certification Forum)がNFC Forum規格を参照することを決定。世界中の公共交通インフラと互換性を持った非接触インターフェースを実装したスマートフォンや携帯電話が2017年4月頃からマーケットに投入されることを目指していくという(写真⑨)

写真⑨

写真⑨ 公共交通ワークショップの成果

気になるのはこうしたNFC規格の「進化」を受けて、モバイルSuicaは今後どのようなサービスに変化していくのか、だ。山田氏は、「まずはモバイルSuica端末で海外の公共機関を利用できるようになる」と説明した。さらに将来目標として、「訪日外国人などが持ち込むグローバルモデルのモバイルNFC端末で、モバイルSuicaサービスを利用できるようにしたい」と表明した(写真⑩)

いずれも刺激的な内容だが、これには注意が必要だ。直後に山田氏が「念のために」と、しっかりと補足説明を加えたのは、「(今回のNFC規格ハーモナイゼーションは)あくまでNFCの通信仕様についてであり、データ処理やアプリ仕様をカバーしているわけではないので、それだけでただちに使えるわけではない」というもの。さらには、モバイルSuicaの実現にはICチップ間の通信処理速度も必要なため、そうした課題は依然として残るという(写真⑪)

写真⑩

写真⑩ めざす方向

写真⑪

写真⑪ 「念のために」

一般的に考えて、訪日外国人が日本に来て持参したスマートフォンを使ってモバイルSuicaを利用する場合、そのアプリ提供元となるのはJR東日本だろう。反対に、日本人が海外へ赴き日本で使用しているスマートフォンを使って現地の公共交通に乗車したい場合、そのアプリ提供元となるのは現地の交通事業者であるだろう。その時のサービス提供者がどのように先述の課題をとらえ、解消した上でサービス提供するかどうかは、JR東日本1社の検討範疇を超えた話である。

JR東日本では「今回のNFC通信仕様の統一は将来への大きな一歩」とした上で、引き続き「体系化された規格」とするための標準化への貢献を果たしつつ、より便利なモバイルSuicaサービスの提供を目指していく方針だ。

 

■後半にはメンバー限定のセッションも開催

山田氏の中身の濃い基調講演の後は、「GSMA/GCFによるNFC Forum規格の採用について」の解説をNFCフォーラムの田林 洋 氏が、またライトニングトークのコーナーでは「中国上海で見たモバイル決済当たり前の社会」のタイトルで電子決済研究所 代表取締役社長の多田羅 政和氏の講演と続き、併せて活発な質疑応答風景が見られた。

また、イベントの後半は、参加者をNFCフォーラム会員に限定したメンバーセッションとして、他規格とのハーモナイゼーション後のRFアナログ規格バージョン2.0の変更点に関する解説と、本年6月に米国ダラスで開催されたNFCフォーラム総会のサマリーの報告が行われた。

 

当日、都内は断続的な雷雨に。参加した皆さん、お疲れさまでした。

[2016-07-14]

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。