今年2月末にスペインで開催された「Mobile World Congress 2013」にて、カード決済の国際ブランドであるMasterCardから突如発表された『MasterPass(マスターパス)』。その名前にインパクトを受けるも、発表記事に目を通してもわかったようなわからないような。。これは直接聞いてみるしかないなどと考えていた矢先の3月初旬、東京ビッグサイトで開催された「NFCカンファレンス」ご登壇のため、MasterCardのアジア太平洋・中東・アフリカ地域における新決済市場部門を統括するフィリップ・イェンさんと、同じくモバイルeコマース部門を統括するラジ・ダモハランさんの来日が決定! 運良く両氏に直撃することができました。(2013年3月8日インタビュー)
■リアル決済ではNFCだけでなく、新たにQRコードにも対応
――バルセロナで新たに発表された『MasterPass』とは何ですか? これまでの『PayPass』とは違うサービスなのでしょうか?
Philip:従来、POSでの決済にはプラスチックカードが利用されてきました。技術的には、磁気ストライプからICチップ、さらには非接触ICチップが利用されてきました。われわれは『MasterPassウォレット』と呼んでいますが、これを使うと(非接触ICチップによる)NFCをはじめ、QRコードを用いた決済などにも対応できるようになります。
また、PCや携帯電話によるオンライン決済(Eコマース)でも、毎回16ケタのカード番号を入力する手間なく、簡単に購入手続きを済ませることができます。
私が口で説明するよりもこの映像をご覧いただくと、MasterPassのことをよくわかっていただけるかもしれません(笑)。
――MasterCardさんは昨年5月に「PayPass Wallet Services」を発表されましたね。基本的には、こちらを名称変更したものと理解していますが、なぜ、このタイミングで名前を変更されたのですか?
Raj:単にサービス名称を変更しただけではありません。導入予定のマーケットも以前の発表時より大幅に増えていますし、提携先の加盟店、パートナー企業も増加しました。また、利用できるプロトコル(QRコードなど)や付加価値サービスにもバリエーションが加わっています。
――MasterPassを使うと、利用者にはどのようなメリットがあるのでしょう?
Philip:消費者から見ると、支払いのための財布が一つになるというメリットがあります。(MasterPassに)ひとたびカード情報を設定すれば、どこへ行こうとも新たな設定は不要です。われわれはデジタル・ウォレットのことを、“支払情報をまとめるもの”と定義しています。それは、リアル決済、Eコマースの両方をまとめるものです。
――MasterPassウォレットは、誰がどのように提供していくのでしょうか?
Philip:MasterPassウォレットはカードイシュアーの名前の下で提供される形態が多くを占めると思われますが、加盟店やパートナー企業でも、MasterCardがAPIを提供することにより、MasterPassウォレットに準拠した形で独自のウォレットサービスを展開できます。
■オンライン決済機能では他ブランドのカードでも登録可能
――PayPass Wallet Servicesは、オンライン決済についてはMasterCard以外のブランドのカードでも登録できるようになっていました。その点はMasterPassも同じですか?
Raj:はい。モバイルNFCを用いた商取引では、携帯電話の上にカード情報が載っている必要があります。そのため、実店舗での決済には携帯電話そのものが必要になります。しかしながら、現在はNFCに対応していない携帯電話も市場に存在しますので、その場合にはクラウドからカード情報を取得することになりま す。これらはいずれもデジタル・ウォレットを通じて取引が行われます。
ちなみに、昨年ヨーロッパで発表したING銀行とMasterCardの共同トライアルでは、携帯電話上のカード情報(EMVベース)をEコマースで使用することを実証しました。
――今後はリアル店舗での決済についても、(Visa payWaveなど)他ブランドの非接触決済に対応していくのでしょうか?
Philip:(携帯電話端末と加盟店のリーダが)そのブランドの非接触サービスに対応していなければ、利用できません。MasterCardの場合にはPayPassがそれに当たります。
■「PayPassのアクセプタンスマークを変更していく予定はありません」
――オンライン決済では、対応店舗の支払画面でMasterPassのロゴマークが表れるイメージですね(下の写真)。ではリアルのお店のほうはいかがでしょうか? 見慣れたPayPassのステッカー(アクセプタンスマーク)も、今後はすべてMasterPassに変更されていくのでしょうか?
Raj:変更する予定はありません。
Philip:PayPassに対しては多くの国でそれなりの投資を行ってきていますから。
――MasterPassはいつ頃から利用できるようになるのでしょうか?
Philip:まずはPC向けのオンライン決済が最初に立ち上がる予定です。すでに多くの銀行や加盟店、技術パートナーがMasterPassの導入準備を進めており、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアの4カ国からスタートしていきます。
一方、POS決済のほうは、例えばシンガポールなどでも多くの店舗が対応していますが、まだMasterPassに正式対応していないPayPassウォレットが主流です。しかし、これらのすべてが今後MasterPass対応のウォレットへ切り替わっていきます。これにより、決済に加えてクーポンやロイヤルティ・プログラムなどの付加機能も利用できるようになっていきます。
(インタビューを終えて)
う〜ん、「MasterPass」。フィリップさんには紙に書いてもらいながら懇切丁寧にご解説いただきましたが、けっこう理解するのが難しいです。それは、カードにしろモバイルNFCにしろ、MasterCardといえば「PayPass」のイメージがあまりにも強過ぎるからなのかもしれませんが、リアル決済との関係がはっきりと見えてこないことも一因かもしれません。
一方でオンライン決済で使う「MasterPass」は、加盟店のショッピングカート上でこれまでの「国際ブランド」のポジションから意図的に抜け出して、カード情報をまとめる「アカウント」として機能する姿がはっきりと想像できるので、わかりやすい。言わば、PayPalキラー、Google Walletキラーとしての立ち位置なのでしょうね。
やはり「PayPass」ブランドとの棲み分けをどう図っていくのかが、今後の展開の鍵を握りそうです。
取材当日は「NFCカンファレンス」のパネルディスカッションをはさんで、インタビュー漬けでいらしたお二方。フィリップさん、ラジさん、お疲れのところどうもありがとうございました。
(文責:多田羅/ePayments.jp)