5月16日(特別招待日)と17日(一般公開日)の2日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムで富士通主催のイベント「富士通フォーラム2019」が開催された。会場内の展示デモコーナーから、レジレス、省人化、VR、生体認証、情報銀行などと関連したサービス提案をレポートする。
自分のスマホを使ってセルフチェックアウト、退店時はQRコード提示で
富士通がユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスと共同で提案していたのが、お客のスマートフォン(スマホ)を使ったセルフ会計の仕組み。お客はあらかじめ専用アプリを自身のスマホにインストールしておく必要がある。お客が入店して店内で商品を選びながら買い物カートに入れていく際に、自身のスマホからアプリを起動して、商品のバーコードをスキャンする。これによってアプリ内の「商品カート」にも同じ商品が登録されていくことになる(写真1)。買い物カートにはスマホホルダーが用意されており、自身のスマホをセットした状態で買い物がしやすいように工夫されていた。
購入したい商品がすべて決まったら、アプリ画面で商品と合計金額を確認し、問題がなければ決済ボタンをタップ。決済は、あらかじめ登録しておいたクレジットカードに対して課金される形で行われる(写真2)。いわゆるEコマース(ネット決済)の手続きをリアル店舗の中で行う形態だ。
退店時には、決済完了後にアプリ画面に表示されるQRコード(写真3)をリーダーに読み取らせることで、決済が完了していることを店舗側に伝える仕組みを想定している。
この方式ではシステムにお客のスマホを利用するため、同様の設備を流通店舗側が用意する場合に比べて大幅なコストダウンが可能になるという。今後、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス傘下のスーパーマーケット、カスミで実証実験を行っていく予定だ。
VR空間のコンテンツでお客のショッピング意欲を上げる
「VRを活用した近未来のネットショッピング」の展示では、いかにも展示会映えする出展光景に出会った(写真5)。ゴーグルとグリップを装着してVR(バーチャルリアリティ)空間に入り、そのままeコマースで買い物までしてもらおうという提案だ。
単にネットショッピングするだけなら、わざわざVRまでしなくても、スマホやパソコンで簡単に済ませられそうなもの。ここではVR空間での体験をマーケティングに活用しようとするのが特徴で、写真を撮影してシェアしたり、商品をコンテンツとして登場させて購買意欲の向上につなげるのが狙いだ(写真6)。
GAROU社のVRコンテンツ基盤と、富士通のeコマースソリューションを組み合わせて構築した。
韓国の空港や年金受け取り時の生存確認にも〜8,200万人が使う手のひら静脈認証
富士通の生体認証といえば、手のひら静脈認証(製品名:PalmSecure)が特に有名だが、その導入場所は世界中で順調に増え続け、実に60カ国の8,200万人が使用している(写真7)。内訳は、北米2,500万人、南米1,700万人、日本と中国を含むアジア2,000万人、ヨーロッパ(中近東、アフリカ、インドを含む)2,000万人で、ATM、患者認証、受験者確認、個人情報アクセスなどへの採用が進んでいる。
最近の大規模事例としては韓国の空港での搭乗者認証がある(写真8)。手のひら静脈情報を事前登録しておけば、従来は必須だった国民IDカードの提示をすることなくチケット確認ゲートを通過できる。韓国国内空港の航空運送の運営・支援サービスを行う韓国空港公社が昨年末、2018年12月から国内線の全14空港で運用を開始した。2018年12月時点で約15万人が登録を済ませて利用を始めており、混雑が大幅に緩和されたという。
南米のブラジルでは年金の受け取りに活用されている。それまで年金受給者が年金を受け取るためには、生存証明書の提出と、本人が年金事務所へ出向く必要があったが、ブラデスコ銀行(Banco Bradesco)が国内に約5万台を設置している生体認証ATMを手のひら静脈認証を行った上で利用すれば、生存証明にかかる事務が省略され、年金が支払われる仕組みだ。「『手のひらをかざした』ということが、生体認証を行った当人が『生きている』という生存確認になることを応用している」(ブース説明員)。2007年1月から稼働している同システムには2015年6月現在で約1,600万人が登録しているという。
日本の馬券購入にも使われている。日本中央競馬会では2018年9月から開始したキャッシュレス投票サービス「JRA-UMACA(ウマカ)」に手のひら静脈認証を採用しており(写真9〜11)、利用者は馬券購入時と予想的中時の入金受け取りの際に、専用ICカードの提示と手のひら認証を行う必要がある(馬券購入時はICカードと暗証番号での代用も可能)。
スマホアプリで「情報銀行」の先行体験も
「情報銀行」に関する展示では、事業者が情報銀行のシステム構築を行う際に不可欠なプラットフォームのデモが行われていた。情報銀行は、個人が自ら自分の個人情報の開示範囲をコントロールし、情報提供を希望する企業や団体から対価を得て個人情報を提供するサービス。この一連のサービスフローの中で、情報銀行となる事業者は、開設した個人のアカウントの下で個人情報を一元管理する「中継ハブ」のような役割を担う。富士通ではそれに必要なバックエンド側のシステムはもちろん、個人が利用するスマホアプリ側のサービスについて、運用イメージをつかみやすいサンプルアプリケーションを披露していた。
例えばアプリのトップ画面では、個人情報はジャンルとして「健康」「趣味」「生活記録」「マネー」の4カテゴリに分類され(写真12)、連携できるアプリも表示されている。画面を進めると、個人情報の提供を希望する企業紹介のページ(写真13、14)や、提供希望のオファーなどの詳細が表示され(写真15)、これらを見ながら個人が個人情報を提供するための許諾を与えていくイメージとなるようだ。また、個人の情報を提供して獲得したポイントは、QRコードを通じて支払いに充てられるような想定がされていた(写真16)。
「情報銀行」という言葉の持つ固いイメージからか、難しそうな印象を与えることも多そうなこの事業だが、具体的なスマホアプリのデモを体験すると、日頃使っているポイントアプリや決済アプリと近しいようにも見えてきて、親しみやすかった。まさしく、リアルで開催する展示会を通じたデモンストレーションの醍醐味といえそうだ。