アリペイの国内加盟店が30万店を突破、アジア10億人の送客も。QRコード決済×インバウンド×地方創生がテーマのセミナーが開催【前編】

日本政府が推進するキャッシュレス化の要として大きな注目を集めているQRコード決済。中国人をはじめ、日本を訪れるアジアからの訪日客対応というだけでなく、日本人による、日本人のためのサービスも急増している。なぜいまQRコード決済の導入が求められているのか、普及を阻む課題はどこにあるのか。5月13日に東京都内で催されたセミナーイベントから、日本でも対応店舗が急増しているQRコード決済「アリペイ」の現状と戦略を報告する。(日本の対応をめぐって行われたパネルディスカッションの内容については後編で紹介する)

QRコード決済の優良事例を自治体で共有したい

 「モバイルQRコード決済&インバウンド地方創生フォーラム」は5月13日、一般企業や金融機関、地方自治体などを対象としたセミナーをパレスホテル東京で開催した。フォーラムは同日に設立され、座長には元総務大臣の増田 寛也氏が就任した。
 セミナーは増田 寛也氏(ビデオメッセージ/写真1)、2020オリパラ首長連合の会長で新潟県三条市長の國定 勇人氏(写真2)、地方創生担当 内閣府特命担当大臣の片山 さつき氏(ビデオメッセージ/写真3)による挨拶で幕を開け、続いて「アリペイ」を提供するアント フィナンシャル サービスグループ 取締役会長兼CEOのエリック・ジン氏による講演、地方創生やQRコード決済に関わる各分野のトップを迎えたパネル討論、観光庁長官の田端 浩氏による講演と続いた。
 本稿ではアント フィナンシャルのエリック・ジン氏の講演と、2時間に渡って行われたパネル討論の内容から抜粋して紹介する。

写真1 元総務大臣の増田 寛也氏は「キャッシュレスは日本の事業者の生産性向上につながるだけでなく、アジアの人々に日本を訪れてもらう際に有効な取り組み。自治体の優良な事例を紹介し合う場にしたい」とフォーラムの狙いを話した

写真2 4年前に立ち上げた2020オリパラ首長連合の会長を務める國定 勇人氏は「日本人が中国に行くと、現地のQRコード決済が使えないので不便を被る。外国からのインバウンドもそうで、(日本のお店でキャッシュレスが使えないと)まさにその逆の不便を被ることになっている」と問題提起

写真3 地方創生担当 内閣府特命担当大臣の片山さつき氏は「今年1月に中国、この5月にはインドのデリーを訪れて実際に現地のQRコード決済を体験してきたが、(キャッシュレス推進の)重要な一手になり得るものだ。現在、法案準備中の『スーパーシティ構想』でもキャッシュレスは重要な施策と位置付けている」と期待をこめた

中国の7億人に加え、アジア9カ国・地域のユーザーも日本へ送客

 アント フィナンシャル サービスグループ 取締役会長兼CEOのエリック・ジン(Eric Jing/写真4)氏は、20分ほどの特別講演の中で、パソコン利用主体のオンライン決済サービスだったアリペイがオフラインのモバイルQRコード決済に進出したのが2011年だったことを振り返り、そこからわずか数年のうちに中国のキャッシュレス化を実現、都市圏だけなく辺境地までをカバーするまでに成長したと胸を張った。たった1枚のQRコードを店頭に貼り出すことで、中小店舗の商売をデジタル化し、決済だけでなくお店のプロモーションや、お客とお店のコミュニケーション強化に関するサービスも提供している。またアリペイは、バスの乗車や、病院の予約、診断、支払いといった公共のサービスにも導入が進んでおり、現在では442の自治体が採用して100種類以上の生活・行政サービスが市民に利用されているという(写真5)

写真4 アント フィナンシャル サービスグループ 取締役会長兼CEOのエリック・ジン氏

写真5 中国でアリペイは、店舗での支払いだけでなくバスや鉄道への乗車、病院などでも利用されている

 そして2015年10月から提供開始したアリペイの日本市場での展開については、加盟店が2019年年初の時点で30万店を突破したことを初めて明らかにした(写真6)。競合サービスと比べた際のアリペイのユニークな点は、「決済だけなく、店舗誘導やリピーター獲得につながる機能を提供していること」(ジン氏)。アリペイを利用した中国人訪日客に対し、スマホアプリの位置情報に基づく店舗のお薦めや、決済完了時に関連商品を紹介、さらには帰国後にアリババのショッピングサイトである「Tmall」へ誘導するなどの機能を持つ(写真7)

写真6 2015年10月の導入開始から3年半で、日本国内のアリペイ加盟店は30万店に

写真7 アリペイアプリを通じた各種の施策により中国人訪日客の消費を促進する

 ジン氏は、4年前から取り組みを始めたというアリペイのグローバル戦略についても話した。中国国内のアリペイユーザーは7億人以上いるが(写真8)、これに加えてアジアの近隣諸国でもアリペイ、もしくは同社と提携関係にあるQRコード決済事業者がサービスを提供しており、香港、韓国、インド、タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア、パキスタン、バングラデシュの9カ国の利用者を合わせると10億人に上るという。これら他のサービス名の付いたQRコード決済でも日本のアリペイ加盟店で利用できることから、「毎年2億人を日本に誘致できる」(写真9)とジン氏。同時に、PayPayやKDDI(au PAY)といった「日本のローカルパートナーとも急ピッチで対応を進めていく」と意欲を見せた。

写真8 アリペイの中国人ユーザーは7億人以上、導入店舗数は5,000万店以上(アントフィナンシャルジャパン代表執行役員CEOの香山 誠氏の講演資料より)

写真9 インドの「paytm」、フィリピンの「GCash」などもアリペイと提携している


写真10 アリペイを含む中国のモバイル決済額は、2017年に3,450兆円に(アントフィナンシャルジャパン代表執行役員CEOの香山 誠氏の講演資料より)

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「3%台の決済手数料ではキャッシュレスは広がらない」 アリペイ、PayPay、J–Coin Payも参加したパネル討論の結論

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。