「モバイルQRコード決済&インバウンド地方創生フォーラム」が5月13日に開催したセミナーから、イベント後半に行われたパネルディスカッションの模様を報告する。
前編も参照「アリペイの国内加盟店は30万店を突破し、アジア10億人の送客も、QRコード決済×インバウンド×地方創生がテーマのセミナーが開催」
決済手数料への苦言に、「限りなくゼロに近い手数料を検討したい」
後半は、地方創生やQRコード決済に関わる各分野のトップによりディスカッションが行われた(写真1)。主な発言を紹介する。
パネリストの1人を務めた飛騨・高山観光コンベンション協会 会長の堀 泰則氏は、岐阜県の高山市・飛騨市・白川村の地域で飛騨信用組合が提供している地域通貨「さるぼぼコイン」と、訪日客向けに導入しているアリペイの利用状況について報告した。年間55万人のインバウンドが訪れるという同地域では、アジアからの訪日客が6割を占めており、アリペイもよく使われているそうだ。「春節には決済額が5倍になった。クーポンも反応がよく、取得して使ってもらえている」という(写真2)。
石川県・金沢市の近江町市場では、今年3月末からPayPayを一斉導入。地域の商店街ということで、野菜や鮮魚売り場のような売り場でも静的MPMのQRコードが華々しく貼付され、お客からの評判もよいという(写真3)。現地の利用風景を動画で紹介したPayPay 代表取締役 社長執行役員CEOの中山 一郎氏は、「『売り場でいちいちお釣り銭(現金)を取りに行くのが面倒だった。これは金額をお客さんに入力してもらったのを見せてもらうだけで良いのでとっても楽』と喜んでもらっている」と生々しい現場の声を紹介した。業態別では、最近、スーパーマーケットへの対応が進んでいるとのことで、「イオンさん、オーケーさん、ロピアさんといった食品スーパーの一部でも導入が進んでいて、顧客単価アップにつながっている。(PayPayと同じQRコードを)アリペイでも読めるものも導入されており、そうしたお店では中国人の来客が増加している」という。
京都でタクシー会社を経営する高速タクシー 代表取締役社長の松田 有司氏は「関西は現金の町と言われるが、特にタクシーは『現金でないとアカン!』という雰囲気があった。しかし、東京でタクシーを見て、若いドライバーの多さや、防犯上の意義からもキャッシュレス化が進んでいる実態に触れ、一度タクシーの古いイメージをぶっ壊してみようと思った。昨年7月からさまざまなキャッシュレスに対応し、今年2月にはPayPayも入れた(写真4)。紙をお客さんが読み取るので、導入当初はクレームを心配する声があったが、実際に3カ月やってみて、毎日30件以上の利用があるが、金額を入れ間違えたのはわずかに1件。それもお客さんの自己申告があって問題なく修正できた」と報告。従来のクレジットカードより安価な手数料体系を含めて、QRコード決済には満足していると話した。
ホテル業を営む、西村屋(本館・ホテル招月庭)代表取締役社長・全旅連青年部 第23代部長の西村 総一郎氏は、キャッシュレス決済の普及を妨げている根本的な課題として、決済手数料の問題を挙げた。「日本のカード手数料は諸外国と比べて高く、しかも業種によって決まっている。ゴルフ場は安いのに、飲食業は高いといった具合だ」。他方で、今年10月から始まる予定の消費税還元事業が消費者向けに5%還元をうたっているが、西村氏の持論は「残念。もう一步突っ込まなければ。現在の3%台の決済手数料では(キャッシュレスは)広がらない。銀行口座から直接引き落とす、与信の要らない決済もあるので、いくらくらいにまで下がるのかを議論したい」と決済事業者に詰め寄った。
折しも銀行口座直結の「J–Coin Pay」を提供開始したみずほフィナンシャルグループ執行役専務デジタルイノベーション担当役員の石井 哲氏は、このリクエストに対し、「1年で100万人程度の会員と、これからの加盟店開拓を通じて今年の夏頃までに4〜5万店に導入していきたい」とサービスの概要を説明した上で、決済手数料については「提携銀行とも話し合うことではあるが、1〜2%の間で回せるようにできないかと考えている」と答えた。「銀行としてはここで稼ぐのではなく、現金の取扱コストを、例えばATMを減らすなどにより小さくしていきたい」とのこと。
同じく水を向けられたPayPayの中山社長は、「PayPayをユーザースキャン(紙のQRコード)方式で導入する場合、2020年9月末までは決済手数料を無料としているが、それ以降どうするかはまだ発表していない。ただ、われわれは(決済サービスとしては)後発なので、現在の決済手数料への要望を踏まえた『景色』に最初から向き合っている。『決済事業者』であれば手数料を取らなければやっていけないが、われわれはそうではなくて、『暮らしを楽にする事業』をやっていると思っている。限りなくゼロに近い手数料で提供するためにどうしたらよいかを考えていきたい」と回答した。
「市町村を仲間にすれば、QRコード決済の普及スピードが早まる」
QRコード決済によるキャッシュレス化では、「インバウンド対応」も重要なテーマだ。直近のデータによれば、インバウンドによる2018年の滞在中の消費総額は4.5兆円、その実に8割に迫る3.55兆円をアジア諸国が占める(写真5、6)。そしてアジア諸国ではおしなべてQRコード決済の人気が高いといわれる(写真7)。となれば、買い物機会のロス防止や消費額のアップを目的に、インバウンドが利用している現地のQRコード決済に日本の商店が対応する意義は大きい。
今年1月4日現在で全国の419市、134町、22村の計575団体が参加する「2020オリパラ首長連合(2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合)」。その会長を務める新潟県・三条市長の國定 勇人氏は、今後のインバウンドに向けたキャッシュレス対応についてコメントした。「QRコード決済をこれから衰退させていくことはなく、深めていくことになる。その時にぜひ、市町村を仲間として取り込んでいただきたい。それによって普及のスピードが早まると思う。QRコード決済の基盤が日本全国であっという間に整えられるように取り組んでいきたい」
京都府 副知事の山下 晃正氏は「インフラが整えば、日本人の人口に匹敵するような、年間1億人を超える訪日客が訪れてもおかしくないはず」とインバウンドの伸びしろについて言及。「そもそも『観光客』という区分けがナンセンス。『交流人口』と『定住人口』としてとらえれば、サービスする内容は変わらない。住んでいる人々の利便性向上を含めて、地域のプラットフォームをどう作っていくかが重要だ」と提言した。
ゲストオブザーバーとして登壇した香山 誠氏(アントフィナンシャルジャパン代表執行役員CEO/写真8)は、お店の対応を考えると、アリペイのような訪日客向け決済だけでなく、日本のQRコード決済の導入に意味があるという。「お店の人にQRコード決済を使い慣れてもらう必要がある。それをしないで、いきなり中国人観光客がQRコードを提示しても扱えないだろう。起こってもいないトラブルを心配する人もいる。そこでわれわれはPayPayさんやauさんと組んで、まずは日本の、通常そのお店を利用するお客さんにQRコード決済を使ってもらえるようにしたいと考えている」とさらなる導入に意欲を示した。
まさにフォーラムが名称に掲げるQRコード決済のメリットや課題、そしてインバウンド対応による地方創生というテーマを考えるのにふさわしい、バランスの取れたパネルディスカッションだったように感じた。
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アリペイの国内加盟店は30万店を突破し、アジア10億人の送客も。QRコード決済×インバウンド×地方創生がテーマのセミナーが開催
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