【レポート】「SuicaをNFC Forumの仕様にハーモナイズさせていきたい」NFC Forum東京総会にJR東日本らが登壇





NFC Forumは2月8日から12日まで開催した東京総会に合わせ、2月9日の午後にヒルトン東京お台場にて「”Tap into NFC” Seminar and Product Showcase」と題したセミナーイベントと製品展示会を開催した。キーノートスピーチには、東日本旅客鉄道 IT・Suica事業本部 担当部長(技術戦略)の山田 肇氏が登壇し、Suica事業のこれまでの方針と今後の目指す方向性について語ったのをはじめ、NFCと関連する多数の講演、NFC関連製品の展示、ネットワーキングパーティが行われた。


●2020年までにNFCデバイスの出荷数は約20億台に、IoT分野への進出も目指す

冒頭、NFC Forumチェアマンを務める田川晃一氏(写真)よりNFC市場の現状について説明があった。ある調査会社の発表したデータによると、NFCマーケットのCAGR(年平均成長率)は2013~2019年の43.7%から2014~2019年には50.6%になるとの予測がある。NFCを搭載したデバイスの台数では2020年に約20億台となる規模だ。これにより、2020年にはNFC関連で新たに事業を立ち上げようとした場合、新規に自らNFCデバイスをばらまく必要がなくなり、すでに市場にあるNFCデバイスを前提としたアプローチが可能となる。また、NFCがスマートフォンなどのモバイル端末に搭載されれば、1台でリーダライタとカードの機能を併せ持つことができることも重要だ。すでに世界中に設置済みの加盟店端末、数千万台に、消費者の持つ20億台のモバイルデバイスが加わることで、「NFCのパラダイムシフトが起きる」と田川氏は話す。

また、NFC Forumでは現在、NFCがIoTに与える影響に関心を持っているという。NFCは、カードエミュレーションやP2P、リーダライタ、ハンドオーバーといった機能の裏に、実は「電力を送る」という隠れた機能を本質的に持っている。IoTで利用される無電源のセンサーデバイスなどに対しても、NFCを通じて電力を供給することで、通信を可能とすることができる。供給する電力の容量をさらに高めることができれば、NFC端末をかざすことによるバッテリーの充電や、相手側の端末に「起電力」を与えることも可能となる。

このほどNFC ForumはNFCの普及を背景として、団体としてのミッションステートメントを、現在の「NFCの規格を作成し互換性を検証すること」から、「人間の日常生活にNFCという分かりやすいインターフェースを通じて新たな利便性を提供していくこと」に変更したことも発表された。

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写真 NFC Forumチェアマンの田川 晃一氏

●ビューカードユーザーの7割がSuicaのオートチャージを設定、モバイルSuicaの取扱高は鉄道運輸収入の7.4%に

キーノートスピーチに登壇した、東日本旅客鉄道(JR東日本) IT・Suica事業本部 担当部長(技術戦略)の山田 肇氏は、Suica事業のこれまでの方針と今後の目指す方向性を述べた。

2001年にサービスを開始した電子マネーSuicaは、これまで4つの方針でサービスを展開してきた。1つ目は、Suicaの利用者を増やす方針。SuicaのIC乗車券の仕様を公開し、12年かけて10の鉄道事業者が発行するICカードと相互利用を可能にし、利便性を高めた。現在では、自動改札機でのIC乗車券の利用率が90%となり、残りの10%は新幹線の長距離切符や回数券といった磁気券である。今後は、この磁気券をいかにIC乗車券に移行していくかを課題としている。

2つ目は電子マネーの加盟店を増やし、電子マネーの利用を促進する方針。当初は駅内のコインロッカーやキオスクなどの「駅ナカ」から、ショップ、飲食店、飲料自販機やタクシーなどの「街ナカ」へと展開してきたSuicaは、今ではゲーム機にSuicaをかざして決済できる「家ナカ」などにも展開している。利用率でみると、街ナカでの利用が駅ナカでの利用の2倍となっている。特に利用されているのはコンビニエンスストアである。コンビニの決済端末では、シンクライアントの加盟店端末を導入し、低価格でのSuica対応加盟店端末の提供を実現した。現在では日本国内のSuica対応加盟店端末の20%がシンクライアントとなっているそうだ。

3つ目は東日本旅客鉄道の子会社、ビューカード社の発行するクレジットカードであるビューカードにSuicaを載せ、他の事業者と連携してSuicaやビューカードの利用を促進する方針だ。ビューカードを使えばSuicaにオートチャージできる利便性を提供し、ビューカードを積極的に持ち歩いてもらう施策である。Suica対応のビューカードは現在約460万枚発行されており、取扱高は約1,500億円。うち、オートチャージを設定しているカードは約316万枚(約69%)というから驚きだ。

4つ目はモバイルでSuicaを利用できるようにし、常に残高を確認できる利便性を提供する方針。モバイルSuicaの会員数は368万人以上、取扱高は1,200億円以上である。JR東日本の鉄道運輸収入は約1兆7,000億円のため、そのうち約7.4%をモバイルSuicaが占めている計算になる。

 

●SuicaのシステムをNFC Forumの仕様にハーモナイズし「訪日外国人にもモバイルSuicaを使って欲しい」

これらを踏まえ、山田氏はSuicaの今後の展開として3つを挙げた。1つ目は2020年に向けた課題。訪日外国人が2,000万人に迫る昨今、Suica購入時や帰国時のデポジットの払い戻しで長蛇の列ができてしまうことは容易に想像できる課題である。これには、訪日外国人用のSuicaでデポジットを不要とすることや、訪日前にSuicaを母国で受け取るなど、訪日外国人向けの特別なSuicaの提供を検討している。また、同じく長蛇の列の原因となるチャージ(入金)などの煩雑なプロセスをなくすため、駅単位ではなくエリアでSuicaの利用範囲を設定するカードの発行を検討している。なお、日本よりもクレジットカード利用率の高い他国からすると、Suicaのチャージにビューカード以外のクレジットカードが利用できないことも大きな課題である。これに関しては、クレジットカード会社との手数料が大きな問題ではあるが、「順次、交渉を進めていきたい」と、解決に向けて意気込みを見せた。

2つ目は、ビッグデータの解析。JR東日本では、浮世絵や富士山をデザインした訪日外国人向け「Suica&N’EXカード」をラインアップしており、この利用データから訪日外国人の行動パターンに合わせた道案内や情報を発信していくことを検討している。

3つ目はNFC Forum仕様にハーモナイズしていく展開だ。将来は、訪日外国人の持ち込んだスマートフォンに日本で利用できるモバイルSuicaアプリケーションを提供することや、逆に日本人が他国でモバイルSuicaと同じような体験ができる環境の整備を目指している。このためには、NFCチップの仕様が共通化され、携帯電話がグローバルモデルとなっている必要があるとJR東日本は考えている。

他方で、JR東日本の自動改札機などのインフラについてもNFC Forumの仕様に合致している必要がある。そこで昨年の4月には、通信事業者やJR東日本、電子マネー事業者、ソニー、フェリカネットワークスからなる「モバイルフェリカ技術連絡会」と呼ばれる組織が立ち上がり、仕様の統一に向け活動しているという。少々時間はかかるものの、今後は機器の老朽取り替えに伴いNFC Forumの仕様にハーモナイズしていき、先に挙げた目指す姿へ向かいたいと考えているとのことだ。

 

当日のセミナーでは他に、電通 ビジネス・クリエーション・センター 事業開発室 室長の平川 健司氏から「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けたNFCの機会と課題」について、次いでNXPセミコンダクターズ 第二営業・マーケティング本部セキュリティ&ペイメント統括部長の山本 尚氏から「NFC Everywhere(NFCについての解説)」、インテル ビジネス・デベロップメント・グループ IoT シニア・スペシャリストの下堀 昌広氏から「インテルのIoTスタンダード戦略について」、NFC Forumのコンプライアンス委員会から「NFC規格認証プログラムについて」、と興味深い講演が続いた。

 

●Product Showcaseでは6社が自社製品を展示

講演後には、会場を移してProduct Showcase(製品展示会)が催され、関連6社がNFCソリューションを展示した。NFC搭載スマートフォンを活用したものや、NFCを用いた決済や充電、デジタルサイネージとNFCを生かしたソリューションなどを展示した。また、立食形式で出展企業と交流を図る人脈形成(ネットワーキング)の場を提供した。

 

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ソニー:SuicaなどのFeliCaポケット領域にユーザーの母国語情報を書き込んでおき、カードをかざすとデジタルサイネージの表記言語が切り替わるソリューションを展示

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ローム:NFC搭載スマートフォン向けに、非接触充電が可能なソリューションを展示

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韓国・DUALI Inc. :Bluetoothに対応したNFC対応リーダライタ

 

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インフィニオンテクノロジーズ:ブースト型NFCセキュアエレメントを搭載したウェアラブル端末(かざして決済している写真)

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NXPセミコンダクターズ:NFC搭載スマートフォンにホテルキーの情報を書き込むソリューション(写真の端末にNFCスマホを乗せて書き込む)

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大日本印刷:NFC搭載スマートフォンにドア鍵のデジタル情報を書き込んでおき、スマートフォンをドアキーとして利用できるサービス

 

[2016-02-18]

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ePayments News

日々、電子決済サービス関連各社のプレスリリース発表を泳ぎ回り、秀逸なニュースを集めて紹介する電子決済研究所のスタッフ。ほぼ人力のボット。

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