9月20日〜21日の2日間にわたって東京・江東区の東京ビッグサイトで開催された「インバウンド・観光ビジネス総合展2018(主催:ツーリズムEXPOジャパン、日本経済新聞社)」。インバウンドを考える上でも欠かせないテーマが「キャッシュレス」。展示会場で見つけた電子決済サービス関連の提案を紹介する。
■mPOS端末でAlipay/WeChat、そしてコンタクトレスに対応
インバウンド対策としてのお店のキャッシュレス化を全面に打ち出したブース展開で特に目立っていたのが、長野県に本社を構えるルミーズ社(写真1)。同社は、いわゆる「越境EC」を含むEC決済サービスの提供に加えて、実店舗向けにはmPOS端末によりクレジットカード決済やQRコード決済に対応するサービス、「pCAT(ピーキャット)」を提供している(写真2)。
pCATが対応するQRコード決済はこれまでAlipayに対応していたが、ツーリズムEXPOジャパンの会期直前に当たる9月20日に、新たにWeChat Payへの対応を発表した(提供開始は11月から)。iPhone、iPadなどiOS 8.0以降のAppleデバイスに同社が無償提供するアプリをダウンロードすれば、「QRコード取引」ボタンをタップするだけでAlipay/WeChat Payのコード読み取りモードになり、決済手続きが完了する。
1万9,800円(税別)のmPOS端末を購入し、BluetoothでAppleデバイスと接続すれば、Visa、Mastercard、JCB、AMEX、Diners Club、Discover、そして銀聯と合計7つのカードブランド(ICカード対応)に対応できる(JCB、AMEX、Diners Club、Discoverはジェーシービーとの直接契約になる)。インバウンド向けオプションとして、外貨建て決済(DCC)も利用できる。すでに飲食店をはじめ、販売業、クリニック、体験型イベントなどで導入実績があるが、継続課金にも対応していることからスポーツジムなどでも利用されているという。
さらに9月20日にはmPOS端末の新機種投入をリリース、こちらは国際規格であるISO/IEC 14443に準拠したEMVコンタクトレス(非接触IC)決済ーーVisaのタッチ決済とMastercardコンタクトレスに対応する(写真3)。特に欧米方面からの外国人旅行者が持参する決済カードにはコンタクトレスが多く標準搭載されていることから、店舗のインバウンド対策に効果的と思われるが、mPOS端末での対応はまだ珍しい。こちらも9月から申込受付を開始し、11月からサービス提供を開始する。
なおpCATでは、Appleデバイス向けとは別にWindows PCと接続して利用できる製品もラインアップしているが、外貨建て決済(DCC)、QRコード決済、EMVコンタクトレス決済には現状未対応で、今後の対応を予定しているそうだ。
■QRコード決済の共同スイッチングから、免税販売手続きの電子化まで
凸版印刷のブースでは、Alipay/WeChat Payといった中国人観光客向けのQRコード決済導入から派生した、興味深い展示を見つけた。それが「スイッチングゲートウェイ・接続先決済サービス」である(写真4)。
ブースの説明員によると、現在POSシステムを導入している店舗がAlipayのようなQRコード決済に対応しようとする場合、決済システムへの接続に際して数千万円の支出を伴うシステム改修が必要になるという。のみならず、2つ目、3つ目、とQRコード決済の接続先(サービス)を増やしていこうとすれば、同様の支出がサービス1件の接続ごとにかかってくるそうだ。
こうした課題に対し、同社の提供するスイッチングゲートウェイを利用すれば、「最初の1件目を接続するのと近いコストだけで、導入後に順次、接続先を追加していける」。この強みを生かし、大手流通業をはじめとしてすでに導入実績が積み上がってきているという。
展示会の当日時点では、Alipay、WeChat Pay、PayPay、楽天Pay、d払い、LINE Pay、origami Pay、pringの8つのQRコード決済サービスとの接続が可能になっており、今後も順次、接続先は増えていく予定とのこと。
ちなみにこの仕組み、元々は同社が提供してきた「サーバ管理型プリペイドASPサービス」のインフラを拡張する形で構築された。そのため、導入した企業が店舗独自のプリペイド・ギフトカードを発行するケースや、共通ポイントに対応する場合などにもスムーズな対応が可能だ。
JTBの展示ブースでは、関連会社のJ&J Tax Free(JTBとJCBの合弁会社)から「J-Tax Freeシステム(訪日外国人旅行者対応免税手続きソリューション)」の説明を受けた。従来、紙のレシートや書類を用いて行われてきた訪日外国人旅行者の免税店での免税販売手続きを、スワイプ型のパスポートリーダーによる利用者情報の自動取得と、購買情報のクラウドセンターへのアップロードによって完全電子化するサービスだ(写真5)。
実は、こうした免税販売手続きの電子化ソリューション自体は珍しくはないが、平成30年度の税制改正によって2020年4月1日以降は電子化が義務化された、という話を教えてもらった(2021年9月30日までは経過措置)。つまり、今後はこれまでのような、紙の購入記録表を作成してパスポートに貼り付ける方式では免税書類は税関で受理されなくなる。
「免税帳票を手書きで作成している」「免税帳票にレシートを貼付している」「スタンドアロンの免税システムを利用」。これらに該当する事業者は、免税販売から撤退を余儀なくされる。免税販売手続きの電子化対応は、いまや免税店を経営する事業者にとっては避けて通れない、必須のシステムへとその位置付けが変わったわけだ。
JTBブースでは他にも電子決済に対応するサービスとして、JTB契約宿泊施設向けのクレジット共同利用端末「C-REX」を紹介。C-REX端末はクレジットカードはもちろん、QUICPayなど6種類の電子マネー、自国通貨建てクレジット決済(DCC)を対応メニューに用意する。また、同社が「NFC PAY(非接触決済)」と呼ぶEMVコンタクトレス決済にも対応しており、Visa、Mastercard、JCB、Amexの各コンタクトレス決済が利用できる。C-REXとは別メニューだが、iPhone/iPadで使える「Alipay決済サービス」も提供するなど、さすがにインバウンド向け決済の支援では国内旅行代理店最大手の面目躍如たる充実ぶりだった。
■1杯500円のどんぶり選手権はキャッシュレス的にも好企画
インバウンド・観光ビジネス総合展は、日本観光振興協会、日本旅行業協会、日本政府観光局(JNTO)の主催する「ツーリズムEXPOジャパン2018」に併設して開催されており、同じ会場内には日本全国各地から訪日旅行および国内旅行の振興を願う自治体のブースが所狭しと各々の土地の魅力をPRしていた(写真6〜10)。
そんな東京ビッグサイトの広い会場を歩き疲れた筆者の目の前に飛び込んできたのは「全国ご当地どんぶり選手権」の文字。日本全国各地ご自慢のご当地丼を1杯、ハーフサイズ500円(税込み)で提供し、好きな丼を投票してもらって日本一を決めようという企画だ(写真11、12)。
丼で小休憩は良いアイディアとして、この500円をどう支払うか。少額だからこそ、ここはぜひともキャッシュレスで行きたい場面。すると、大変嬉しいことに、非常に広い範囲のクレジットカードと電子マネーでの支払いに対応していた(写真13、14)。
ブース見学の最後に、理想的なキャッシュレス対応を目の当たりにし、お腹も気持ちも満足して会場を後にする筆者であった。