【体験型レポート】「iPhone6/6sでもiOS11にすればApple Payの店舗決済に対応できる」は誤り

今年9月、米・Apple社がiPhone 8とiPhone Xを発表した後に行われたiPhoneのiOS11アップデート。この更新により、この時点で販売中の最新機種であったiPhone 7でもいくつかのNFC機能が開放されたことは、業界関係者には周知の事実だろう。しかし、それらをよく見ていくと中には誤解も含まれているようで、少し注意が必要だ。

■日本のiPhone 7も「M」「J」「A」コンタクトレス対応に
iPhoneのiOS11アップデート(日本では9月20日から)。この更新により、今年9月初旬に米・Apple社が発表したiPhone 8、iPhone Xはもちろん、その時点で販売中の最新機種であったiPhone 7でもいくつかのNFC機能が開放(例えばNFCタグの読み取りに対応した、など)されることになった。
とりわけ電子決済サービスとしての注目機能としては、iPhone 7を利用した実店舗でのApple Pay支払いについて、登録カードがMastercardかJCBブランドであれば、FeliCaベースの「iD」「QUICPay」に加えて、海外で普及しているISO/IEC 14443ベースの決済サービス「Mastercardコンタクトレス(旧名称・PayPass)」「J/Speedy」にも対応できるようになったことがある()。
なお、この対応はプレスリリースではJCBとトヨタファイナンスが発表したのみで、他の日本のApple Pay参加会社の対応は各社により異なるため、注意が必要。ちなみに、いても立ってもいられなかった当社関係者が検証したところ、AmexブランドのApple Pay対応カードでは「American Expressコンタクトレス」が動作することも確認済みである。

ジェーシービー(JCB)の発表
JCB、Apple PayでJ/Speedy機能の提供を開始(2017年9月22日)
トヨタファイナンスの発表
Apple PayでJ/Speedy、およびMastercardコンタクトレスを提供開始(2017年9月22日)

この報を受けて、筆者もさっそくMastercardなau WalletプリペイドカードをApple Payに登録し、iOS11を導入したiPhone 7を携えて、国内ではまだ数の少ないISO/IEC 14443ベースの決済であるMastercardコンタクトレスに対応している商業施設、イクスピアリ(舞浜)へ試しに行ったが、見事に支払いを成功できた。

この画面だけでは一見、何の変哲もないただのQUICPay+と変わらないように見えるが・・・

MasterCardコンタクトレスの加盟店では割り振られたデバイスアカウント番号のうち、MasterCardのほうのカード番号末尾(この例では「4983」)が使われる

その証拠画面(筆者が撮影)

■iPhone6/6sでもiOSをアップデートすれば・・・?
ただ、このサービス変更、カード業界の一部では確かに大きな話題を呼んだが、客観的に見れば、日本のiPhone7を持って海外旅行に行く人には便利な機能アップではあるものの、大半のiPhoneユーザーにとってはあまり影響の感じられない改良といえる。しかも前述したように、日本国内のApple Pay対応カード発行会社の対応可否や、発表の仕方もまちまちであったことから、一般消費者に向けて報道されるべきニュースとは言えない状況で、かえって日本のApple Pay対応環境について誤解や混乱を招きかねない。現時点では大々的に喧伝すべき事柄ではない、と筆者は考えていた。
(なお、日本の状況とは反対に、海外で販売されているiPhone 8(iOS11入り)からはFeliCaベースのSuicaが使えるようになるという重要な変化があったが、このことは本稿の主題ではないため触れない)

そんな矢先、海外から興味深い報道が飛び込んできた。それが本年10月20日付でNFC関連の専門Webメディア「NFC World」の報じた「Apple Pay now available on older iPhones in Japan」(https://www.nfcworld.com/2017/10/20/355166/apple-pay-available-on-older-iphones-in-japan/)である。
編集注:現時点では誤報と思われるため、あえて記事へのリンクを外している

記事を要約すると、「iOSのアップデートにより、日本では『Web決済』『アプリ内決済』のみにしか対応していなかったiPhone6/6sのモデルでも、『実店舗』でのISO/IEC 14443ベースの決済に利用できるようになった」というものだ。確かにiPhone6/6sのモデルは元々、海外ではISO/IEC 14443ベースの決済に対応できており、日本では対応するお店がほとんど存在しないために、あえて利用できないように設定されていると考えられてきた。ハードウェアとしての機能は備わっているのだから、理論上は可能になってもおかしくないという見方だ。

■やってみなければわからないが・・残念すぎる検証結果
本当ならばこれは画期的なことだ! 筆者や、筆者の友人たちも協力してくれて、iPhone6/6sを引っ張り出し、あらためてApple Payを登録してみる作業が各所で始まった。もちろん最初にやるべきはiOSのアップデート。この時点での最新バージョン番号は「iOS 11.0.3」だった。この時間の長く感じられること。
珈琲でも飲みながらはやる気持ちをぐっとこらえて、無事に更新が終わったらいよいよApple Pay対応カードの登録作業へ。この記事の冒頭で解説したように、今回対応したといわれる決済は「Mastercardコンタクトレス」「J/Speedy」「American Expressコンタクトレス」の3つ。つまり、手持ちカードの中から、日本ではApple Payに対応していないVisaカード以外のカード−−MastercardかJCBかAmexのカード−−のどれかを選んで登録する必要があった。
プラスチックカードを読み取ってサービス登録し、カード会社による利用者認証に成功すると、現れたのがこの画面だ。

iPhone 6sに登録したのはMastercardなセゾンカード

「おお!」
万事、成功したように感じたのもつかの間。非情にのしかかってくるのが「このカードは店舗では利用できません」の文字。しかも明瞭な日本語で書かれているため、「読めません」との言い訳は決して通用しない。店舗では利用できない、つまり、このApple Payはネット経由でのWebかアプリ内決済にしか使えないことを画面がはっきりと告げている。

「いや、でも実際にお店でかざしてみなければわからないじゃないか」
あきらめきれない気持ちはわかるが、これは無理な注文である。Apple Payを実店舗で使ったことのある人ならピンとくるはず。Apple Payを実店舗で利用する際には「Touch ID(タッチID)」に指を載せて指紋認証する必要があり、認証が完了するとTouch IDを要求する表示が「リーダーにかざしてください」の文字とロゴマークに切り替わるのだ。
これに対して上記iPhone6/6sの画面は明らかに違う。無理にお店でかざそうとしても、そもそも「リーダーにかざしてください」モードになっていない。この時点で、試すまでもなく「日本のiPhone6/6sが『実店舗』でのISO/IEC 14443ベースの決済に対応した」ことが誤りであることが確定したことになる。

そもそもApple社はiPhone 6/6s/SEが店舗の支払いに使えるなんて言ってない(出典:Apple PayのWebページ)

なお、鋭い読者ならお気付きだろう。上記画面では、FeliCaに対応しないはずのiPhone 6/6sにも関わらず、画面上にQUICPayのロゴが表示されているではないかと。
指摘はその通りで、確かにiPhone 6/6sではQUICPayやiDは使えない。だからこの状態は正常ではなく、「何だか事情はわからないがやはりお店で使えるのでは?」との理由なき期待を筆者らにもたらしてくれたことも事実である。そして、実は、この画面表示についてはiOS11以前から変わってはいない。
Webとアプリ内決済にのみ使えるという条件付きApple Payなのだが、「オマケ」で日本のリアル店舗でのアクセプタンスであるQUICPayやiDマークが付いてきてしまったらしい。このあたりは誤解を招かない意味でも改善されるべきだが、すでに相当の期間この状況が許されていることを考えるとおそらく何らかの制約があって難しいのだろうと予想される。
この点も、今回の報道を見て初めてiPhone 6/6sにApple Payをインストールしてみたユーザーに、変化への期待と誤解を与える遠因となっていたことも指摘しておきたい。

■結論:日本のiPhone 6/6sと日本発行カードでコンタクトレスは使えません。
一連の検証を終えた筆者は、今となっては誤報と思われる記事が掲載された「NFC World」にこの一件について報告を入れ、事実の確認と、記事の訂正を申し入れた。しかし、残念ながら報告から2週間以上が経過した現在まで回答は頂けていない。
そこで、誤まった情報の拡散を防ぐために、「NFC World」掲載記事のさらに記事引用元として記載されていたブログサイトへ同様に検証結果を連絡したところ、ほぼリアルタイムに数度のメッセージやり取りを経た後に、訂正報を出してくれた。こちらのブログはApple Payをはじめ、日本の非接触IC決済サービス事情について英語で情報発信している貴重な存在だと思う。それだけに、ブログ主さんの真摯な対応に感謝を申し上げたい。

Ata Distance:
iOS 11 Activates Apple Pay for Older Japanese iPhones – Updated with Correction

なお、当記事は2017年11月2日現在の情報であり、「iOS 11.0.3」による検証結果をもとにしたものである。今後、Apple社の対応により誤報の内容が現実になる可能性はゼロではないため、内容の取扱には注意いただきたい。

 

 

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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