CEATEC 2023に見る交通系ICカードの新展開 ~ 鉄道事業者初の「ウォレット」投入や、マイナカード紐付けも

10月17日から20日までの4日間に渡って、今年も幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催された「CEATEC 2023(シーテック 2023)」。昨年から122社増の684社・団体が出展、8万9,047人の来場者が訪れ、コロナ禍の影響は完全に払拭されたといってよい盛況ぶりだった。さて、われわれは「電子決済マガジン」なので、例によって決済やキャッシュレスに関連しそうなネタを探し求めて、このCEATECの広大な会場を歩き回ったのだが、今年は意外なことに、鉄道事業者による鉄道以外の領域へのサービス拡大に関連した取り組みに多く出会うことになった。

JR西日本がコード決済、デジ給対応の「Wallet」を発表

 千葉県にある幕張メッセで開催されたCEATECにブースを出展したのが西日本旅客鉄道(JR西日本/写真1)。2024年度中にも日本国内の鉄道事業者として初めて「Wallet」事業に参入することを直近で発表し、注目を集めた。
 同社では「WESTER(ウェスター)」のブランド名で、鉄道の経路検索から運行情報の確認、鉄道の予約、それにグループ共通ポイントのアプリを統合したスマホアプリを提供してきたが、新しい「Wallet」(名称未定)はこのアプリがベースとなる(写真2)

写真1 ひときわ目を引いていたJR西日本グループのブース

写真2 「NEW WALLET」を掲げたパネルでは、キャッシュレス化が進展した一方で、「デジタルな財布を複数管理しなければならない不便」の解消をうたう

 具体的には、プリペイド(前払式支払手段)と資金移動に対応する口座残高(バリュー)をスマホを通じて管理・利用できるようにし、スマホ画面に表示するバーコードやQRコードを用いて店頭などでの支払いにも使えるようにする。いわゆる「コード決済」や「スマホ決済」と呼ばれる分野でのサービス提供を目指す。
 コード決済に対応する店舗は新たに開拓する計画だが、すでにさまざまな「PAYアプリ」が巷に溢れかえる中にあって、合理的な選択肢として、ジェーシービー(JCB)が提供する「Smart Code」のような統一コードへの相乗りも検討するという。
 JR西日本ではこれまで、決済手段として交通系ICカードのICOCA、クレジットカードのJ-WESTカードを提供してきたが、これらでカバーし切れていなかった機能として、前払式支払手段と資金移動のWalletをラインアップすることでサービスの拡充を図る。例えばICOCAのチャージには、現在はクレジットカードのみが対応しているが、Walletを仲介する方法で銀行口座からのチャージにも対応させる計画。事業者側の視点で言えば、チャージの際にかかる手数料を削減する狙いがある。
 支払いを受け取った加盟店側の売上精算も、バリューのまま行えることが特長で、これによって即日の入金が可能。企業が受け取ったバリューを用いて、そのまま企業間決済に充てることも出来るようになるという。
 また、今年度中にスタートする予定の「給与のデジタル払い」制度にも対応する予定で、「(給与のデジタル払いには)例えばアルバイトさんなどへの支払いのニーズもあるだろうし、そこからICOCAにチャージしてもらっても当社にメリットがある。であるならば、(入金時にバリュー上乗せなどの)色を付けてあげられるかもしれない」(JR西日本のブース説明員)。
 新しいWalletサービスは2024年度中のリリースを予定するが、前記したすべての機能が一斉に提供開始となるわけではなく、段階的に利用できるようになっていく見通しだ。

写真3 「WESTER」アプリ内では今後、「リアルタイム提案型旅行コンシェルジェ」の機能を提供するため、現在サービスを開発中。旅行中に急な予定変更やキャンセルが必要な事態が生じても、スマホアプリが予定の組み直しを提案してくれる

マイナカード登録で運賃が自動割引になる「グンマース」

 2021年に日本政府の提唱により立ち上がった「デジタル田園都市国家構想」。「地方に都市の利便性を、都市に地方の豊かさを」をスローガンに、民間企業も参加して自治体のデジタル化を支援しようというこの国家プロジェクト(国プロ)を紹介するパビリオンもCEATEC会場に登場していた(写真4)

写真4 「デジタル田園都市国家構想」の展示パビリオン

 その中で紹介されていた群馬県の「GunMaaS(グンマース)/写真5」も、決済と大きく関連しそうなプロジェクトの1つだ。CEATECでは群馬県と東日本旅客鉄道(JR東日本)の連名ブースが用意されていた。GunMaaSは今年の3月15日からサービスを開始した、スマホを利用した「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」。経路検索から、鉄道、路線バス、オンデマンド運行バス、タクシー、シェアサイクルの利用チケットを一気通貫で利用できる便利なサービスになっている。

写真5 「GunMaaS」(群馬版MaaS)

 GunMaaSは、もともと前橋市が取り組んでいた「MaeMaaS(マエマース)」を全県に拡大したアップデート版に当たり、第1弾として前橋エリアでサービスが始まったところ。目玉は、地元の前橋市民が利用すると、市民限定の割引料金が適用されること。その「前橋市民であること」の確認のために、マイナンバーカードを活用している。割引料金の適用を受けるためには、あらかじめGunMaaSのスマートフォン向けWebページを通じて、Suicaなどの交通系ICカードとマイナンバーカードを紐付け登録しておく必要がある。この手続きが済んでいれば、以降は交通系ICカードを専用端末にかざすだけで自動で割引料金が適用されるので、いつもマイナンバーカードを持ち歩く必要がない(写真6、7)

写真6 (写真左上から右方向へ)定価の金額で決済画面に進んだ後、利用者がマイナンバーカードと紐付け登録済みの交通系ICカードをかざすと、一度サーバ側に情報を読みに行った段階で、専用端末に表示されていた引き去り金額が割引適用のものに変化する(写真の例では210円の運賃が100円に変化する)。そのまま交通系ICカードをかざしていれば決済が完了

 このGunMaaS、前橋市で3月にサービスを開始した後、順次県内全域への展開やサービスの拡充を図っていく方針とのこと。ブース説明員によると、「すでに複数の自治体で、導入に向けた準備が進んでいる」そうで、前橋市に続く第2弾、第3弾がお目見えする日はそう遠くなさそうだ。

写真7 交通系ICカードとマイナンバーカードの紐付け登録には、JR東日本メカトロニクスのクラウドID認証システム「ID-PORT」を使用。紐付け完了後は、交通系ICカードを専用端末にかざすだけで居住地や生年月の判定が可能になるという

『半導体産業』人生ゲームに行列

 JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)半導体部会が企画した「半導体産業人生ゲーム」は、タカラトミーの協力を得て作られた本気度満載の等身大リアル・ボードゲーム(写真8)。昨年に続く2回目の実施に、体験希望者が列を作っていた。実際にルーレットを回して、架空のお金を受け取ったりしながらゴールを目指す。「半導体」がホットなキーワードとして脚光を浴びる今、しっかりと産業のトレンド情報も身に付けられる好企画といえる。

写真8 半導体産業人生ゲーム(上の4枚)

地域農業のデジタル化支援サービスや、クレジットカード会社の出展も

写真9 こちらも「デジタル田園都市国家構想」に採用されたTOPPANデジタル提供の「ジモノミッケ」。スマホアプリを利用して、農産物の生産者と、宿泊施設や介護施設、飲食店など地域の顧客を専用のアプリ上でつなぎ、生産情報と需要情報をマッチングするプラットフォームとなっている。IoTセンサーによる温度・トレーサビリティ管理や、デジタル地域通貨などとの連携も可能。昨年夏に会津若松市で実証実験を開始して以降、全国各地からの引き合いが多く寄せられているという

写真10 JR東日本のブース入口で披露されていた列車運行表示の画面。「JEMAPS(ジェイイーマップス)」と命名されたシステムでは、災害、気象、交通、施設などの情報をリアルタイムで取得でき、現在は自社内での運行管理支援に限って使用しているとのこと。ライブで鉄道路線を示すカラーバーが動く様子は圧巻!

写真11 クレジットカード会社では唯一、アメリカン・エキスプレスがCEATECに出展していた。法人専用のコーポレートカードや、管理責任者向けのオンラインツール「@Work」などを紹介。高額決済となる半導体や電子部品の購買にも、フレキシブルな与信枠を提供するAMEXのコーポレートカードなら利用が可能とアピールした

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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