ランニングに特化したシューズブランドのOnがAdyenの「レジなし決済」を採用

国際ブランドに対応したカード決済のアクワイアリング事業などを手掛けるAdyen(アディエン)は3月14日、店舗内(対面)とオンラインショップ(非対面)の決済を統合した「Adyenユニファイドコマース」を、スイス発のシューズブランド「On(オン)」の東京拠点に対して提供していることを明らかにした。店員からもわかりやすいと評判のその使い勝手について、実際にお店で見学させてもらった。

世界2店舗目の「On」旗艦店、15台の端末を導入

 店舗内決済にAdyenの仕組みを導入したのは、東京・原宿のキャットストリートに店を構える「On Tokyo(オン・トーキョー)」。「On(オン)」はスイスで誕生したスポーツブランドで、ランニングやアウトドアに特化したシューズやアパレルを展開する。2022年4月にオープンしたOn Tokyoは、ニューヨークに続き世界で2店舗目となるOnの旗艦店(写真1〜2)。直営店舗としてもアジア初のショップである。その開店当初から、店舗内(対面)とオンラインショップ(非対面)の決済を一元的に管理できる「Adyenユニファイドコマース」を採用し、営業してきた。

写真1 壁一面に並んだシューズが圧巻の店内。シューズだけでなくアパレルも取り扱う

写真2 店内のシューズラックは引き出しが可能になっており、同じモデルのサイズ違いが収納されている

 特に対面店舗では、シューズのフィッティングをはじめOn Tokyoのスタッフがお客に寄り添う形で希望に合った商品を提供していくこともあり、支払いの場面でもわざわざお客にレジまで移動してもらって処理を行う行程を効率化したかったという。そこで、Adyenとの協業により実現したのが「レジなし決済」のシステムだ。
 固定されたレジに代わって、On Tokyoのスタッフは全員がPOS機能を持った専用のスマートフォンと、極めてコンパクトな決済端末を携行する(写真3)。On Tokyoの1店舗で各15台ずつを導入した。
 購入商品が決まったら、スタッフはその場でスマートフォンに搭載された赤外線リーダーを使って商品のバーコードを読み取り、POS情報を登録。そこから無線で接続された決済端末へ価格情報などを引き継ぎ、決済の手順に進む(写真4、5)

写真3 写真右がOnのPOSレジアプリがインストールされたスマートフォン。左がスマホと無線でつながる決済端末

写真4 購入手順のデモンストレーションでモデルを務めたAdyenのウォーレン・ハヤシ氏。Onの最新シューズを手にして、少し嬉しそう

写真5 (左上)最初にスマホのPOS機能で商品を登録→(右上)お客の希望を聞いて支払方法を選択する。ちなみに店頭では利用できないPayPal(最下段)がメニュー内に表示されているのは、オンライン店舗と共通の仕組みを利用していることの表れでもある→(左中)金額情報を登録する→(右中)決済端末に情報を転送→(左下)お客に決済端末に向けてカードを提示してもらう。タッチ決済、接触IC、磁気に対応→(右下)グリーンのチェックマークが出て決済完了。接客しながらその場で支払い手続きが終えられる

 お客はその場で提示された決済端末に対して、クレジットカードを使ってキャッシュレスでの支払いを完了できる。端末は、国際ブランドカードのタッチ決済(非接触IC)、差し込み(接触IC)、スワイプ(磁気ストライプ)に対応するが、現金での支払いについてもスタッフが対応する。また、レシートや領収書は登録したメールアドレスへのメール送付を基本としつつ、希望するお客には印刷した紙のタイプを提供する。
 同店では昨年4月のオープン時からこの仕組みを採用して接客に当たってきたが、売上の6〜7割をカード決済が占める状況だという。同店の平均単価が1.5〜2万円ほどというから、クレジットカードを利用したい金額帯との親和性も高かったといえそうだ。

「決済がフロアレイアウトの変更に影響しないことだけでもメリット」

 On Tokyoでストアリーダーを務める松尾 僚介氏(写真6)は「Onでは元々、世界中でAdyenの同じシステムを導入して運用してきており、世界2店舗目となる東京でも導入するに至った」と経緯を説明する。実はOnは、創業当初はBtoB事業でスタートした経緯があり、次に消費者向けのEコマースに参入。リテール(小売店舗)への展開は比較的最近のことなのだという。

写真6 On Tokyo・ストアリーダーの松尾 僚介氏

「リテールビジネスをこの数年で展開し始めた経緯もあり、これから拡大させていく。サービスを向上させていこうとする場面では(実店舗における)決済の位置付けについても考える必要があるが、この仕組みがリニア(直線的)でなく、最初からオーガニック(自然)なタイミングで会計できることに大きな意義を感じている。店舗のインテリアデザインやフロアレイアウトなどを変更しても、(会計の手続きに)影響が出ないことだけでもメリットがある」(松尾氏)
 決済端末の操作方法についても直感的に理解できるため、店舗スタッフの研修もスムーズ。「10分後には使える」(松尾氏)ほどに導入ハードルは低いと感じたという。
 先述の通り、Adyenの決済システムは対面店舗だけでなく、On Tokyoのオンラインショップでも導入されている。そのオンラインショップの運営にも工夫があり、「ドロップシップシステムを採用しており、(オンラインで購入した)商品を国内倉庫から直送する仕組みも用意している」(松尾氏)
 このように、実店舗とオンライン店舗との間で在庫情報を一元管理するニーズを持ったOnのような事業者と、Adyenの「ユニファイドコマース」の相性は良さそうだ。

『デジタルおもてなし』を実現するためのユニファイドコマース

 Adyenが日本市場に向けて「ユニファイドコマース」の本格展開開始をうたったのは昨年(2022年)の12月のこと。単一のプラットフォームに基づく実店舗POS決済のメリットを強調しながら営業を進めてきた。
 Adyen・アジア太平洋地域社長のウォーレン・ハヤシ氏(写真7)は、「ユニファイドコマース」をお店に提供する意義について次のように説明する。「リテールとオンラインを統合したオムニ展開に意義があり、今回のシステムでもそれらをユニファイ(統一)したことが特長。お客様にとって、店舗スタッフとのコミュニケーションを楽しんでもらいながら、買い物につなげていくトータルの体験が重要であり、それこそが『プレミアムサービス』だと考えている」

写真7 Adyen・アジア太平洋地域社長のウォーレン・ハヤシ氏

 また、日本カントリーマネージャーのジョナサン・エプスタイン氏(写真8)は、「われわれは『デジタルおもてなし』と呼んでいるが、(お客にとっては必ずしも必要ではない手間が省かれて)わからないうちに処理が終わっていることが望ましい。そう考えると、決済は『邪魔』かもしれない。わざわざ別のところにあるレジまで連れて行くのではなく、ずっとお客様と一緒にいながら決済ができる。これこそがおもてなしではないか」と日本文化との相性の良さを語る。

写真8 Adyen・日本担当カントリーマネージャーのジョナサン・エプスタイン氏

 On Tokyoでの導入を皮切りに、今後の日本市場の手応えについても「対面のお客様の体験を改善したい、オンラインとオフラインを統合したい、といったニーズは、ラグジュアリーにも日常にもたくさんある」(エプスタイン氏)と話し、期待している市場だと話した。
 実は、公式発表こそされていないが、On Tokyoのあるエリア近辺でもいくつかAdyenの決済ソリューションを導入している店舗はあるのだという。決済完了の際に「画面にグリーンチェックが入る」ことが目印だというので、春の陽気に誘われつつ、採用ショップを探して原宿から渋谷あたりを散策してみるのもいいかもしれない。

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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