メルカリが「メルカード」でクレジットカード事業に参入。なぜ、いまこのタイミングで物理カードなのか?

メルカリは11月8日、東京都内で「メルカリ Fintech事業戦略発表会 2022」を開催し、物理的なクレジットカードである「mercard(メルカード)」を発表した。これまでスマートフォン内でのサービス完結が前面に出ていた印象もあるメルカリ/メルペイが、今このタイミングで物理カードに乗り出す理由とは何か。記者発表会の会場で手がかりを探った。

JCBナンバーレスで登場、ICチップは6端子

 メルカリ(mercari)のアルファベット表記をわずか1文字だけ変えて登場した「mercard(メルカード)」(写真1)。2019年2月の登場以来、Apple Pay/iDとコード決済に対応する「スマホ決済」として提供されてきたメルペイの支払いインターフェースとして、新たにプラスチックカードが追加になった格好だ。

写真1 (左・表面)ICチップの端子板とメルカリロゴしかないシンプルデザイン(右・裏面)JCBのナンバーレスカードのため、裏面のデザインも極めてシンプル。下部にカード製造メーカーである「IDEMIA(アイデミア)」の文字が確認できる

 年会費が永年無料で提供されるメルカードはジェーシービー(JCB)のブランドを搭載し、国内外約3,900万箇所のJCB加盟店で利用できる。磁気、接触ICに加えて、JCBのタッチ決済にも対応した(写真2)。カードの表裏両面のいずれにもカード番号などを記載しない「ナンバーレスカード」で、紐付けられたメルカリアプリを通じてカード番号などの情報を確認できるほか、利用状況の確認や支払方法の変更などもアプリから自分で管理できる。
 そもそもメルカリのサービスロゴは赤色と青色を基調にしているが、メルカードではあえて「多種多様のお客様が訪れるメルカリの象徴になるべき」(メルペイ・執行役員 CPO 成澤 真由美氏)との思想から、眺める角度によって色や輝きが変わって見えるホログラム色彩をサービスロゴに施した(写真3)。カード素材についても再生プラスチック素材を使用することで、CO2削減に貢献する。

写真2 非接触ICでのタッチ決済にも対応。メルカードのアクティベーションは、カードのICチップ情報をスマホアプリから読み取ることによって行う

写真3 ホログラムのサービスロゴは角度によって色や輝きが変わる(説明者はメルペイ・執行役員 CPOの成澤 真由美氏)

 さらに、日本のクレジットカードとしてはまだ珍しい6端子(6PIN)のICチップを採用しているが、「券面デザインにあたってはできるだけ文字情報や彩色を削ぎ落とし、シンプルであることを追求した。そのため、パーツに関してもできるだけシンプルにということで、カードメーカーから提示された中でも一番小さなタイプを選択した」(成澤氏)という。
 メルカードは11月8日から提供が開始されているが、メルカリアプリの利用者に対して、段階的に申し込みを受け付けていく。メルカードの利用条件として利用者が20歳以上であることが必要だが、銀行口座の登録か、メルペイアプリを通じて本人確認(eKYC)をすでに済ませていれば、書類の提出などもなく最短1分で申込が完了し、最短で4日後にカードが手元に届くという。
 なお、メルカードはApple Payには非対応で、iPhoneの「Wallet」アプリへの登録はできない仕様となっている。ただし、従来から提供してきたメルカリアプリそのものがApple Payの「iD」(Mastercardのタッチ決済には非対応)として登録できるので、「Apple Payを利用されたいお客様には、そちらを使用していただきたい」(成澤氏)とのこと。iDであってもメルペイ残高で支払うほか、メルペイスマート払いを設定すれば、クレジットカードであるメルカードと同様(後述)に後払いで使うことができる。

与信枠をスマホ後払いと共用、キャッシングは「付帯」しないが・・・

 メルカードでは、ポイント還元率にも工夫が施されている。通常のクレジットカードショッピングでのポイント還元率は1%だが、メルカリでの購入時にメルカードを使用した場合には、メルカリの利用実績などが加味されて、1〜4%の幅で還元率が変動する仕組みとした。
 還元率に影響する行動として、メルカリでの購入だけでなく、メルカリへの出品などでも変化するようになっており、「消費だけでなく、お客さまのサステナブルな行動がお得につながる仕組みの提供を目指した」(メルカリ・執行役員 CEO MarketplaceのJeff LeBeau氏/写真4
 他に、毎月8日は還元率が+8%上乗せになる(上限300ポイント)ほか、ヤマダ電機、Apple、ダイソーなどとも連携を進めており、特定のパートナー企業での商品売買や行動に関して特典を提供する仕組みも用意している。

写真4 メルカリの利用度合いによってポイント還元率が変動する(説明者はメルカリ・執行役員 CEO MarketplaceのJeff LeBeau氏)

 ところでメルカードの申込ができるのは20歳以上との条件があるが、その上で一般的なクレジットカードと同様にカードの審査を通過している必要がある。メルペイでは2021年4月に施行された改正割賦販売法での新たな制度である「認定包括信用購入あっせん業者」の認定を2021年8月に受けていることから、従来の審査や与信の方法(年齢や職業、年収などの属性情報に頼ることが多い)にとらわれることなく、AIなど新技術を用いた与信が実施できる(写真5)

写真5 メルカリの利用実績に基づく「AI与信」がメルカードの特徴

 このAI与信を活用し、カードの入会審査をはじめ、メルカリの利用実績などに基づいて利用者の利用限度額を決定する。すでにメルペイでは、スマホだけで利用できるカードレスな後払いサービスとして「メルペイスマート払い」を提供してきているが、メルカードでも審査や与信枠自体はこのスマート払いと共用する。そのため、メルカードの利用限度額は最大で50万円だが、これはメルカードとスマート払いとを合計した上限額となる。
 メルカードとスマート払いのどちらも、翌月払いの場合の手数料は無料で、定額払いの場合に限って年率15.0%の手数料を徴収する。また、メルカリアプリの操作により、支払いのタイミングを変更したり、メルカリ売上金を充当して清算するなどが可能になっている。
 ちなみに、メルカードで提供されるのは「クレジットカードショッピング」のみで、カードでお金の融資を受ける「クレジットカードキャッシング」には対応していない。この点については、やはりメルカリアプリで利用できる少額融資サービスの「メルペイスマートマネー」が用意されているため、メルカードへの付帯は不要と判断したようだ。

「過去5年のキャッシュレス伸長では、その8割がクレジットカード」

 これまでメルカリが「メルペイ」で進出を目指してきた領域は、スマートフォンを主とした、スマートフォンだけで完結するカードレスの金融・決済サービスのように見えていた経緯がある。言い換えれば、従来のプラスチックカードを提供しないことこそが同社最大の特徴だったようにも思えるが、メルカリ・執行役員 CEO Fintechの山本 真人氏(写真6)は「本質はメルカリをベースにした与信の仕組みにあり、与信(枠)は統一。実はわれわれが最初に提供したのもコード決済ではなくiDだった。そこから支払方法のチャネルを増やしてきて、今回は板のカードを用意したとの位置付けになる」として、これを否定した。「(JCB加盟店で使えるようになった後も)コード決済加盟店についても引き続き増やしていく。当社はバリエーションを増やすだけで、どちらを使うか、使い分けをどうするかはお客さまに決めていただきたい」(山本氏)

写真6 メルカリ・執行役員 CEO Fintechの山本 真人氏。メルペイの代表取締役CEOも務める

 しかし、それでも、なぜ今なのか? との疑問は解けない。山本氏の別のコメントの中に、クレジットカード発行を決断させた本質があるように感じられた。
「メルペイを開始して5年が経ち、その間に約10%ほど日本のキャッシュレス比率が向上したが、その伸びの8割が物理的なクレジットカードによるものだと認識している。より高額での決済や、クレジットカード(だけ)が使われる別の場所を考えれば、物理カード(を提供するほう)がよいと考えた」(山本氏)

メルカリ購入時の自社クレ誘導で、コスト削減も

 一方で、メルカードの商品性として、ポイント還元策などの点でも「メルカリ内での利用に手厚い」作りとなっている点が挙げられるが、ここにはメルカリでの商品購入の際に自社クレジットカードであるメルカードの利用を促したい狙いも込められている。クレジットカード払いをはじめ、コンビニ払い、ATM払い、キャリア決済などさまざまな支払方法に対応しているメルカリだが、カード加盟店としての立場で見れば、自社クレジットカードに利用を移行させることで、加盟店手数料の縮小を狙いたいところだろう。メルカリ・メルカリグループ日本事業責任者の青柳 直樹氏(写真7)も、「具体的な比率は非開示だが、メルカリの購入時にクレジットカードを使って支払う人は少なくない」実態を踏まえれば、メルカリ内でのメルカード利用が増えれば増えるほどコスト削減効果が期待できるはずだ。

写真7 メルカリ・メルカリグループ日本事業責任者の青柳 直樹氏。メルペイの初代代表取締役を務めた同氏からは、久しぶりに「オープンネス」のポーズ披露も

 累計利用者数は約4,800万人にも達し、月間では約2,075万人が利用するマーケットプレイスに成長したメルカリ。そのうち、メルカードの最初の潜在ユーザーとしてすでに本人確認を完了させた約1,216万人が控えていることになるが(写真8)、メルカードの魅力が利用者に伝播していくことで、その枠を超えてどこまでメルカード保有者の数を増やしていけるかが問われることになりそうだ。

写真8 メルカリの本人確認済みユーザー数は2022年9月末時点で1,200万人を超える

写真9 来春にはメルカリアプリから暗号資産(ビットコインより開始)の購入も可能になる予定

写真10 メルカードはメルカリアプリとセットで利用する。パナソニック製の決済端末は展示撮影用

写真11 写真左から、メルカリ・執行役員 CEO MarketplaceのJeff LeBeau氏、メルペイ・執行役員 CPOの成澤 真由美氏、メルカリ・メルカリグループ日本事業責任者の青柳 直樹氏、メルカリ・執行役員 CEO Fintechの山本 真人氏

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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