銀行預金を介して発行するデジタル通貨「DCJPY(仮称)」の実証実験が年内スタート

今朝(2021年11月24日付け)の日本経済新聞朝刊一面に踊った「デジタル通貨の企業取引、22年にも メガバンクなど70社」の文字を目にして、「いよいよ日本でも始まるのか」と思った読者も多いかもしれない。この報道を後追いするかのように、この記事の主語ともなっていた「デジタル通貨フォーラム」の事務局を担当するディーカレットが同日午後に記者向け説明会を開催した。

70社を超えた参加企業、「1 DCJPY=1円」に固定

 前身の「デジタル通貨勉強会」が発足した昨年(2020年)の6月時点では10数社に過ぎなかった参加企業は、2021年11月24日時点で74社まで拡大した(画面1)。今年4月には前金融庁長官の遠藤 俊英氏(写真1)がシニアアドバイザー(ディーカレット特別顧問)に就任するなど体制を強化。また、フォーラムが実用化を目指している二層構造のデジタル通貨の名称として、まだ「仮称」ではあるものの、「DCJPY(ディーシージェイピーワイ)」のネーミングを検討していることが明らかになった。
 この日、フォーラムがWebサイトを通じて発表したのは、「デジタル通貨ホワイトペーパー」と「プログレスレポート」の2つの資料と、年内に開始を予定する実証実験(PoC)の詳細について。

DCJPY(仮称)ホワイトペーパー【PDF】

デジタル通貨フォーラム プログレスレポート【PDF】

画面1 「デジタル通貨フォーラム」の参加企業・団体など

写真1 デジタル通貨フォーラムのシニアアドバイザーを務める遠藤 俊英氏(前金融庁長官)。「日本を代表する70社あまりが時代に先駆けて、デジタル通貨を自社のビジネスにどのように結びつけるのかを検討する、希有な集まりといえる。二層型デジタル通貨の『共通領域』は銀行預金を起点としており、CBDC(中央銀行デジタル通貨)が実現した暁にもフィットすると思うし、グローバルで見てもパイオニア的な取り組みだ」とエールを送った

 DCJPYの二層構造は、「共通領域」と「付加領域」から構成される。1つのデジタル通貨に対して、これら2つの機能を持った2つのブロックチェーンが紐付けられており、両者が随時連携することにより、価値機能に加えて、特定の用途情報を併せ持った「デジタル通貨」を実現する仕組み。
 このうち共通領域にはデジタル通貨の価値の情報が含まれることから、民間銀行が価値の発行体となり、デジタル通貨の発行や決済に際しての基礎となる。現段階では日本円と完全連動する「円建て」での発行が想定されており、「1 DCJPY=1円」となる見込みだ。
 具体的な利用イメージとして、利用者(法人と個人の両方を想定)はまず銀行でデジタル通貨DCJPYのアカウントを開設することで、同じ銀行の預金を介してDCJPYを発行したり、再び預金に戻したり(これをDCJPYでは「償却」という)できるようになる。
「われわれのDCJPYは、広義でいえば(メタ社の『ディエム』のような)ステーブルコインに含めて考えることも不可能ではないが、銀行の預金をデジタルマネー化することを想定しており、まったく同じではない。むしろ、ステーブルコインの良いところを取り込もうとしたとお考えいただきたい」(デジタル通貨フォーラム座長、フューチャー取締役の山岡 浩巳氏/写真2

写真2 デジタル通貨フォーラム座長、フューチャー取締役の山岡 浩巳氏

 また、DCJPYの価値は「法律の整理上は預金と同等に位置付けられる」(ディーカレット・社長補佐(デジタル通貨担当)の相原 寛史氏/写真3)ため、当面の利用者は日本国内に居住する法人と個人に限定し、また利用場所も日本国内に限定して提供していくという。
 なお、共通領域のデータの正しさを示す合意形成アルゴリズムとしては、パーミッション型の「PBFT(Practical Byzantine Fault Tolerance:ビザンチン障害耐性)」を実装する。

写真3 ディーカレット・社長補佐(デジタル通貨担当)の相原 寛史氏

「電力取引」のユースケースで実験がスタート

 発行銀行が複数になったとしても、1つの仕組みであることが前提となる「共通領域」に対して、特定の用途ごとにそれぞれ別々の仕組みが複数用意されるのが「付加領域」だ(画面2)。フォーラムでは10の分科会(画面3)を設置して、「電力取引」、「電子マネー」、「地域通貨」、「NFT」などの用途に適した「付加領域」のプログラム開発を進めてきた。

画面2 デジタル通貨プラットフォームの機能分担と構造

画面3 10のテーマで分科会が形成されている

 基本的には、付加領域側から共通領域側にあるデジタル通貨の価値を動かせる仕組みとなっており、「付加領域は、銀行への『指図(さしず)』を共通領域に伝達し、価値が移転する」(相原氏)ようになっている。その上でデジタル通貨の相互運用性を崩さないためにも、「(デジタル通貨の検討では)付加領域ごとに資金がバラバラになってしまう例もあったが、今回は、ある付加領域のコインを他の付加領域に持っていっても使えるプラットフォームとなることを目指している」(相原氏)
 ちなみに、付加領域と共通領域の管理にはそれぞれ別のブロックチェーンが用いられるが、それらを相互に連携させることで、2つの領域は準リアルタイムで連動するという。

 説明会の後半では、分科会における活動の進捗報告として、「電力取引分科会」の活動状況が報告された。デジタル通貨フォーラムではこれらの分科会を通じて2021年中にもDCJPY(仮称)の実証実験(PoC)を始める計画を掲げてきたが、関西電力、エナリス、ディーカレットなど11社が参加する「電力取引分科会」では、「電力取引」を念頭に、①受け取った電力コインを小売店舗で決済に使うケース、②取引した電力情報をグリーンファイナンスに活用するケース、の2グループに分けてPoCの実施を検討してきた(画面4)

画面4 「電力取引分科会」が実験する2つのユースケース

 これを受けて同日には、新電力の支援サービス事業を手がけるエナリスが実証事業の開始をアナウンスした。同社は先述の②について、自社で開発したP2P電力取引プラットフォームを基盤にして検証を行っていく。
 デジタル通貨フォーラム事務局代表の時田 一広 氏(ディーカレット代表取締役社長/写真4)は、「これまでの1年(のフォーラムの活動)は、これから始まるPoCのためだった。各分科会が随時、PoCを稼動させていく。そして効果の検証を行った後に、商用化に移っていきたい」と意欲を見せた。

写真4 デジタル通貨フォーラム事務局代表、ディーカレット代表取締役社長の時田 一広 氏

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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