かつては「FeliCaポート」、転じて「NFCポート」の名称で親しまれた非接触ICカード対応のリーダライタ(読み書き装置)。ソニーが販売するこの商品は、2001年に初めて世にお目見えして以来、特にパソコンに外付けするタイプをして「PaSoRi(パソリ)」のネーミングで親しまれてきた。初代の登場から実に20年。ついにmacOSにも対応した新・「黒パソリ」の偏愛的レビューをお送りする。
外観やサイズはどう変わった? LED搭載で動作時がわかりやすく
2021年11月10日に発売となった「RC-S300」。外箱はグリーン基調の比較的ポップな装いで、最近流行りのオシャレなボックス調ではなく、民生機器らしい印象のパッケージとなった。箱上部に設けられた吊り下げ口も、家電量販店などでの吊し販売を想定したものだろう(写真1、写真2)。ソニーストア(オンラインショップ)での販売価格は税込み3,960 円。
筐体の外観については、初見でスリムになった印象がある。「黒パソリ」の先輩機種である「RC-S380」(2012年発売)と比較して、細かな変化を見ていこう(下の比較表)。外形寸法は幅が5.95cm、奥行きが9.5cmの長方形。高さは1.05cmと非常に薄い。ただ、サイズに関してはRC-S380と比べれば微細な変化で、幅と高さが0.5mmずつ縮小し、奥行きは5mmの減少。USBケーブルは30cm短くなり、重量は3gの減量と、常人には差に気が付かないレベルかもしれない(写真3〜5)。
RC-S300 (2021年発売) | RC-S380(2012年発売) | |
最大外形寸法 |
約59.5×10.5×95 mm | 約60×11×100 mm |
質量 | 約33 g (ケーブル、ホルダーを除く) |
約36 g (ケーブルを除く) |
ケーブル長 | 約70 cm | 約1 m |
表 「RC-S300」と「RC-S380」の製品仕様(出典:ソニーの製品紹介Webページより)
しかし、新ハードウェアに特徴的なのは、LEDの搭載である。LED色はグリーンで、パソリにICカードをかざせる際に点灯(写真6)。ICカードとの通信中にはピカピカと点滅するため、カード読み取り中の「ちゃんと通信できているのか?」というユーザーの不安は軽減されそうだ。
またカードをパソリ上に固定できる「ホルダー」も、従来の針金形状のものからプラスチック製のものに変更された。これを装着するとパソリの筐体が少しだけ浮き上がるため、こと接地面が金属製の机などの場合でも通信障害などの影響を受けにくくなるという。また、パソリをパソコンから取り外して収納する際などにはケーブルをまとめるクリップとしても利用できるように工夫がされている(写真7)。
オープン時代を予感させた黒パソリの歴史
非接触ICカードの「FeliCa(フェリカ)」に対応するリーダライタとして、「RC-S310(現在は生産終了)」が登場したのは2001年のこと。当初はFeliCa専用の製品だったが、その後2009年に登場した「RC-S330」からは非接触ICカードの国際標準規格である「ISO/IEC 14443(TypeA/B)」に準拠したカードなどの読み書きにも対応し、初期には住民基本台帳カード、現在はマイナンバーカードに格納される公的個人認証(JPKI)の電子証明書を用いた「e-Tax」などに使えるようになった。この際に、リーダライタ本体のカラーリングがマットなブラックに刷新されたことから、ユーザーの間では通称「黒パソリ」と呼ばれて親しまれてきた(画面1)。
ICカードではあっさりと他タイプに門戸を開いたパソリだったが、この間、一貫して頑なに(?)対応してこなかったのが動作環境としての「macOS」だった。それが今回発売となった「RC-S300」で、ついにサポートされることとなった。もちろん、Intel Macだけでなく、AppleシリコンなM1 Macにも対応した(画面2、画面3)。
長く待ち続けたMacユーザーにとってはもちろん朗報だが、この20年の間にパソコンのシェアを優に超えて情報端末のポジションを確立したスマートフォン(スマホ)では、すでにiPhone、Androidの両方で上記のICカードが読み取れる環境(NFCリーダライタ機能の標準搭載)が整っている。そうした時代の変化もあって、macOS対応のパソリ登場のニュースは消費者からはいささか冷静に受け止められているフシが見受けられる。
そんな遅れてきたルーキーとも言えるRC-S300だが、対応するアプリケーションの面ではどのような特長を備えているのだろうか。
Macでも交通系ICの残高・履歴確認が可能に
RC-S300の発売にあわせて新たに提供開始となったアプリケーションが「交通系ICカードビューワー(SFCard Viewer Web版)」(画面4)で、ブラウザ上で動作するため個別アプリケーションをインストールする必要がない。こちらはWindowsでも動作するが、どちらかといえばダウンロード版の同一アプリケーションが存在しないmacOS(M1 Mac/Intel Macの両方)向け提供を主眼として開発されたように見える。
この「交通系ICカードビューワー(SFCard Viewer Web版)」、macOS版で動作するブラウザ環境は「Google Chrome Ver.93」となっており、「Safari」などでは動作しないことに注意したい。
交通系ICカード内(「Kitaca」「Suica」「TOICA」「ICOCA」「SUGOCA」「SAPICA」「icsca」「PASMO」「manaca」「PiTaPa」「PASPY」「nimoca」「はやかけん」)に保存されている情報を読み取り、残高表示や経路、その区間の金額などを閲覧、ファイル保存(CSVファイル、テキスト形式)ができる(最大20件まで)。
RC-S300で利用可能なこれ以外のアプリケーションとしては、「e-Tax」がWindowsとmacOSに両対応(詳細は後述)するが、インストール版の交通系ICカードビューワー「SFCard Viewer 2」と、「Edy Viewer」、「WAONネットステーション」はいずれもWindowsのみで利用可能となっている。
こうなると、OSサポートを首を長くして待ち望んだMacユーザーとしては、交通系IC以外の電子マネーの残高確認などに対応するアプリケーションが早く登場してくれることに期待したくなる。
RC-S300の対応アプリケーション(アプリ)
https://www.sony.co.jp/Products/felica/consumer/app/
Macで「フルフル」なe-Taxをやりたい人は要注意
さて、外箱のパッケージ表記でも強調されているように、RC-S300は「e-Tax」、「eLTax」の電子申告にも対応している。
ひとくちに「e-Taxソフト」と言うが、実はいくつか種類があり、①パソコンにダウンロード&インストールして使用する「e-Taxソフト」、のほかに、②パソコンのWebブラウザで使用する「e-Taxソフト(WEB版)」、③スマホやタブレットのWebブラウザから使用で「e-Taxソフト(SP版)」の3種類がある。
このうちパソコンで使う場合には、①の「e-Taxソフト」と、②の「e-Taxソフト(WEB版)」が利用可能な環境となるが、対応する申告・申請・届出に差があり、①の「e-Taxソフト」をすべての手続きに対応するフルセット版とすると、②の(WEB版)や③の(SP版)は源泉所得税や法定調書など一部の手続きにのみ対応するサブセット版といえる。
つまり、e-Taxで出来るすべての手続きを利用したい場合には①の「e-Taxソフト」を使う必要があるのだが、あいにくこのダウンロード版のe-TaxソフトはWindows版しか提供されていないので(2021年11月9日現在)、せっかくのRC-S300によるmacOS対応の恩恵には与ることができない点に注意したい。
利用可能手続一覧 | 【e-Tax】国税電子申告・納税システム(イータックス)
https://www.e-tax.nta.go.jp/tetsuzuki/tetsuzuki6.htm
また、「e-Taxソフト(WEB版)」のmacOS向け動作環境も、OS・ブラウザともに現行の最新版(2021年11月9日時点)には対応しておらず、OSでは「mac OS 11(Big Sur)」まで、ブラウザは「Safari 14.0」となっているので、うっかりOSごとSafariをバージョンアップしてしまわないように気を付ける必要がある。
こうした状況を見るにつけ、「Macでe-Taxをやりたいから『RC-S300』を買う!」という行動パターンは現時点では誤りなので、くれぐれも勇み足で失敗しないように。むしろ、「パソコンはMacしか所有していないが、交通系ICカードの履歴を都度保存してそのデータを経費精算などに役立てたい!」という方に最適な一品である。
もちろん、Windowsユーザーの方は何の制約もなく、フルに機能を体感できるので、9年ぶりの進化と変化をぜひその目とその手で確かめてみてほしい。