国内有数のアミューズメント施設である富士急ハイランド(写真1、2)。その隣接する富士五湖周辺エリアで、「顔認証技術」を複数の利用場面で使える実証実験が11月1日から始まる。「実験」とは言いつつ、スマホアプリから専用のチケットを購入して申し込めば誰でも体験が可能と、限りなく商用化に近い完成度になっている。富士のすそ野で本誌記者が、最新式の顔認証の実力を体験してきた。
アプリから購入・登録すれば誰でも体験できる!
10月27日にプレス発表したのは、パナソニック システムソリューションズ ジャパン、パナソニック コネクティッドソリューションズ社と、富士急行、ナビタイムジャパンの4社。今年11月1日~12月31日まで利用が可能(チケット購入時に指定した日とその翌日の2日間有効)な『富士五湖 顔認証デジタルパス』の販売を、同日からスタートした。富士急ハイランドのスマホアプリから予約申込と購入手続きを済ませれば、誰でもサービスが利用できる。
■富士五湖顔認証デジタルパス
https://members.fujiq.jp/club/shuyu/
パスの販売価格は、大人(中学生以上)が6,300円~1万円、小人(小学生)が4,600円~7,300円と幅がある。過去の入場者数や天気予報などデータに基づいたAIによる来場者予測により、チケット価格を変動させるダイナミックプライシングを採用した。
実は、富士急ハイランドではさかのぼること2018年から顔認証システムを導入しているが、今回の実証実験では顔認証の利用場面を施設外の複数の観光施設や交通機関などへ拡大することで、「手ぶら観光サービス」への脱皮を図ろうとする狙いがある。
富士急ハイランドを運営する富士急行では、『富士五湖 顔認証デジタルパス』の想定利用者数について「約60日間の期間中で、2,000人を目標としている」(富士急行の雨宮 正雄・執行役員 事業部部長)そうだ。
1つの顔認証を3つの用途で共通利用、鉄道・バスの乗車にも対応
利用者の顔情報の登録は、富士急ハイランドのスマホアプリ「富士急ハイランド公式アプリ」から行う。メニューから購入済みの『富士五湖 顔認証デジタルパス』を選択すると、顔写真の登録が始まるので、その場でカメラを起動して顔写真を撮影するか、あらかじめ撮影済みの顔写真データを選んで登録する。
顔認証が利用できるのは大きく3つの用途で、①施設入場(富士急ハイランドのほか、ふじやま温泉、富士山パノラマロープウェイ、河口湖遊覧船などの観光施設)、②交通機関の利用(鉄道<富士急行線(鉄道5駅)河口湖駅~下吉田駅間>・周遊バス<4路線>)、③買い物時の顔認証決済(富士急ハイランド内の売店、河口湖駅売店など)、などがある(写真3〜10)。
顔認証の際に用いられる施設側の設備としては、大半の箇所でカメラ付きのタブレットが採用されているほか、②の交通機関の中でも鉄道が専用の顔認証機能付きポールゲートによる通り抜け型(開閉式のフラップなどがない)の仕組みを導入した。
<施設/アトラクション入場>
<交通機関(周遊バス)>
<交通機関(鉄道)>
動画 鉄道に乗車する際の顔認証の様子
顔認証+PIN入力で事前登録したクレジットカードに課金も
いずれもカメラの前に自身の顔を見せるだけでスムーズに顔認証が行われ、成功すれば画面にOKサインが表示されるので迷いがない。もちろん、スマートフォンを手に持つ必要もないので、まさに「手ぶら観光」の開放感が実感できる。
顔認証にかかる時間も「通信環境にもよるが、平均して1秒以下」(パナソニック システムソリューションズ ジャパン・パブリックシステム事業本部 スマートシティ推進部 MaaS推進課長の大山 一朗 氏)とのことで、もたつきは感じられなかった。また認証精度については、「環境によって異なるので一概に言えないが、同様の仕組みを空港などで多くの方に問題なくご利用いただいている実績があり、一定の精度は確保できていると考えている」(大山氏)とのことだ。
③の買い物時の顔認証決済だけは、利用の前に事前の準備が必要だ(写真10)。やはり前述のスマホアプリを起動して、顔認証決済の際に使用したいクレジットカードを登録する。カード番号など必要事項を入力するだけで簡単に登録は済ませられるが、最初のチケット購入時の支払手段とはまた別の登録(入力)が必要となっている。
実際に決済を行う場面ではタブレット画面での顔認証に続いて、こちらもあらかじめ設定しておいた暗証番号(PINコード)の入力が求められる。入力に成功すればクレジットカードに課金が行われ、決済が完了する「二要素認証」の仕組みとした。
<顔認証決済>
実証実験には富士吉田市をはじめ市町村も参画
先述の通り、「実証実験」と銘打たれてはいるものの、場面も利用客も「本物」であり、商用サービスレベルで提供されている。にも関わらず、「実証実験」として提供期間が年内で区切られている背景として、この事案が観光庁の「これまでにない観光コンテンツやエリアマネジメントを創出・実現するデジタル技術の開発事業」の一環で行われることがある。そうした経緯から、実証実験の後援として、富士吉田市、富士河口湖町、鳴沢村、忍野村、山中湖村、一般社団法人富士五湖観光連盟が参画している。
なお、実証実験における参加各社の役割は以下の通り(写真11)。
・パナソニック
複数の観光施設・交通機関の利用や決済を共通のIDで顔認証利用できる統合ID管理機能、鉄道駅での顔認証改札、周遊eチケットのダイナミックプライシング、利用者の位置情報などに応じたレコメンド配信機能、各観光施設の混雑可視化機能の技術開発
・富士急行
周遊eチケットの販売、富士五湖周辺エリアの対象観光施設や交通機関の運用、スマートフォン用アプリ「富士急ハイランド公式アプリ」に専用ページの作成および「富士五湖周遊モード」の実装
・ナビタイムジャパン
旅程プランニング機能や、交通機関(周遊バス・鉄道)の経路検索機能、周遊バスの混雑可視化機能の技術開発