鉄道改札で「Visaのタッチ決済」による区間運賃収受に国内で初めて対応する南海電鉄、その処理スピードはどのくらい? 【動画あり】

年度の変わった4月3日から、日本初となる鉄道改札機での「Visaのタッチ決済」による入出場、運賃収受のサービスが大阪都市圏でスタートする。ビザ・ワールドワイド・ジャパン(以下、「Visa」)が3月30日に開催した記者説明会で、ゲスト参加した南海電気鉄道(以下、「南海電鉄」)の担当者がサービス・機器の詳細や期待を明らかにした。

カード発行レス、チャージレスによる窓口販売コストの低減にも期待

 既報の通り、南海電鉄は4月3日の土曜日から、対象の16駅に設置した専用改札機にて、EMVコンタクトレス仕様に対応するIC決済サービス「Visaのタッチ決済」を用いて入出場と運賃収受を行う実証実験を開始する(画面1、2)

画面1 南海電鉄が掲載している特設Webページ

画面2 実証実験中の改札機周辺展開イメージ

 これに先立って、南海電鉄が改札機を連続して通過する動画を公開した。論より証拠。習うより慣れよ。まずはこちらをご覧いただこう。

(動画提供:南海電気鉄道株式会社。2021年3月30日開催、ビザ・ワールドワイド・ジャパン パートナー事例から見るVisaのタッチ決済導入の背景・反響・効果に関するオンラインブリーフィング「Visa パートナー事例から見るVisaのタッチ決済導入に関する説明会」より)

 「鉄道の改札機がEMVコンタクトレス仕様に対応した」と聞いて、業界の誰もが最初に気に掛かるのが、タッチした際の改札ゲートの反応スピードのことだろう。動画はラッシュアワー時を想定したような、高速の部類に入るであろうシミュレーションだが、それでも十分な処理速度を備えているように見える。他方で、日本の既存の交通系ICサービスに慣れた人が見ると少し引っかかるような印象も受けるかもしれない。
 この点について、南海電気鉄道・鉄道営業本部 統括部長の桑菜 良幸(くわな・よしゆき)氏(写真)は、「実利用では問題なく処理できていると考えている。(EMVコンタクトレスでの交通乗車利用は)海外では実用化されているものなので、さらに特別な対応が必要かどうかをこの実証実験で確認していきたい」と説明した。

写真 南海電気鉄道 鉄道営業本部 統括部長の桑菜 良幸氏

 もっとも、南海電鉄が運営する駅数は全部でぴったり100駅。今回の実証実験ではそのうちの16駅(画面3)に専用改札機32台が設置される(係員端末も16台設置)。その16駅でも改札機の全台を置き換えるわけでなく、ICOCAやPiTaPaなど交通系ICに対応する既存の改札機と併用されることなどを考えれば、そこまでの処理スピードが要求されることはないかもしれない。

画面3 「Visaのタッチ決済」が利用可能となる駅

 それ以上に、既存の交通系ICと比較して、「Visaのタッチ決済」に南海電鉄が期待する点が、桑菜氏は「すぐに思い付くものだけで3点はある」という。「1つ目は、お客様がすでにお持ちのクレジットカードをそのまま利用できるという利便性。2つ目は、クレジットなので残高をチャージ(入金)する煩わしさがない。そして3つ目に、ICOCAの場合には外国人旅行客が帰国する際にバリューをどうするか、という問題があるが、クレジットカードであればそのような心配もない」(桑菜氏)
 これらの期待に加えて、「交通系ICカードを提供するためには窓口や券売機を通じて発売する必要があるが、タッチ決済であればお客様がお持ちのクレジットカードをそのまま利用できる」ことにも注目しており、「タッチ決済が十分に普及してくれば、(販売に振り向ける必要がなくなるので)窓口や機器に対するコストは下がる」(桑菜氏)として、将来的にはコスト削減につながるメリットにも言及した。
 そもそも南海電鉄が「Visaのタッチ決済」への対応に至った背景には、インバウンド(訪日外国人旅行客)の急増がある。同社が管轄する関西空港駅の1日の平均乗降人員の数は2012年に1万8,000人ほどだったところが、2018年〜2019年のピーク時には3万5,000人を突破。ほぼ倍増のペースで推移していた。そこで課題となったのが、駅窓口でのインバウンドとのやり取りにかかる対応時間や業務負荷の増大だ。
 インバウンドの内訳を見ると、とりわけ中国からの旅行客が大きな比重を占めていたこともあり、南海電鉄も2015年に駅窓口での銀聯カード決済に対応、2017年には駅窓口では日本で初めてAlipay/WeChat Pay決済を導入して対応に当たってきた(画面4)

画面4 南海電鉄のキャッシュレス決済への取り組み経緯

 コロナ禍でインバウンド増加のシナリオは変更を余儀なくされているが、外国人客が普段から使用しているクレジットカードを使って直接乗車することにより、混雑緩和と利便性向上を同時に実現しようとする狙いは変わらないという。
 加えて、タッチ決済やQRコードといった新しい手段に対応することで駅務サービスのイノベーションを図っていく。企業イメージやマインドのチェンジも視野に入れ、「今回の実証実験を通じて、お客様にも社員にも、ワクワク、ドキドキする体験をしてもらいたい」(桑菜氏)と話している。

「Visaのタッチ決済」対応のカード・スマホ・ウェアラブルに対応

 ところで、担当者はあえてわかりやすさを重視して「クレジットカード」と呼んでいたが、この実証実験で利用できるのは「Visaのタッチ決済」に対応したデバイスであり、実はデビットカードやプリペイドカードもかざすことができる。また同様に、デバイスの形状もカードだけでなく、スマートフォン、ウェアラブルが利用できる。
 対応スマートフォンとしては、日本で提供されているものではGoogle Payに登録したデビットカードなどが利用できるが、Apple Pay(iPhoneなど)では現状対応していない。また、日本で提供されているウェアラブルでは、Garmin Pay、Fitbit Payが対応している。
 海外で提供されている「Visaのタッチ決済(Visa contactless payments)」対応のデバイスについては、いずれも利用が可能だ。

【Visaのタッチ決済】コンタクトレスクレジットカードによる非接触決済 | Visa

 なお、デビットカードやプリペイドカードを用いれば、子どもでも「Visaのタッチ決済」が利用できる。ただし、運賃の設定が大人運賃のみのため、子どもの利用であっても大人運賃が収受される点には注意が必要だ。

区間運賃収受にはQUADRAC社の「Q-move」で対応

 実証実験の役割分担として、「Visaのタッチ決済」に関するソリューション提供をVisaが行い、アクワイアリングを三井住友カードが担当する。
 高速バスや鉄道などの交通機関にてVisaのタッチ決済に対応する事例は日本国内でもこのところ急増しているが、駅改札での利用区間の運賃支払いは南海電鉄が国内初となる。利用区間に応じて乗車運賃が変動するため、入場と出場の2回、改札機にVisaのタッチ決済に対応したICカードやスマートフォンなどをかざす運用となるほか、出場時にはその場で運賃が確定して決済処理まで行われるため、「お店での一般的なカード決済」とは裏側の仕組みが大きく異なる。
 これを可能にしているのがQUADRAC社。改札機での交通事業者向け決済と認証に関するシステムとして「Q-move」を開発し、南海電鉄の実証実験にも提供している。実際、利用者はQUADRACが運営するQ-moveのWebサイトに会員登録(日本語と英語に対応)しておくことで、「マイページ」から過去365日の乗車履歴が確認できる(画面5)

画面5 「Q-move」の乗車履歴確認画面イメージ

 実験に参加する改札機メーカーは3社で、オムロン、日本信号、高見沢サイバネティックスが担当する。使用するゲートには2種類があり(画面6)、画面右側のタイプは既存の改札機にポール型の読取機を外付けして連動させている。一方、画面左側のタイプは、オフィスのエントランスなどで見かける電動ゲートを新設した。

画面6 実証実験中で導入される改札ゲート(2種類)

 なお、「Visaのタッチ決済」への対応は「都度利用型乗車」のみだが、企画乗車券などの「事前購入型乗車」にはスマホに表示したQRコードを認証に利用する「南海デジタルチケット」にも対応する(画面7)。QRコードを利用した改札の入出場は南海電鉄として初の取り組みとなる。

画面7 「南海デジタルチケット」の利用イメージ。チケットはVisaカードで購入できる

 

 位置付けは実証実験ながら、対象となる南海電鉄の16駅に行けば誰でも実際に「Visaのタッチ決済」をかざして改札を通過、実際の運賃収受が体験できる。実施期間も2021年4月3日から同年12月12日まで(終了時期は変更する場合がある)と十分にある。「国内初」にも関心のある方は、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

画面8 「Visaのタッチ決済」の交通機関への導入は、全国12道府県の10プロジェクトで進められている。「お客様自身がシーンや利便性の中で、(Visaカードか交通系ICの)どちらを使うのか選んでいくと思う。その際にVisaとして重要なのはお客様に選択肢があること。引き続きそうした選択肢をご提供できるように、いろいろな事業者と協力して、コマーシャルランチを進めていきたい」(ビザ・ワールドワイド・ジャパン デジタル・ソリューション ディレクターの今田 和成(いまだ・かずなり)氏)

 

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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