ジャパンネット銀行と、Zホールディングス傘下の金融中間持株会社であるZフィナンシャルは9月15日、報道関係者向けに「PayPayブランド統一による金融戦略説明会」をオンライン開催した。「PayPay銀行」への名称変更を控えたジャパンネット銀行の田鎖 智人社長と、Zフィナンシャル・執行役員経営企画部長の小笠原 真吾氏が登壇して狙いを話した。
PayPay経由の口座開設者が急増、法人口座は新規の半数以上に
ヤフーを子会社に持つZホールディングスと、傘下の金融中間持株会社であるZフィナンシャル、およびソフトバンクは今年7月31日に、2020年秋以降、順次、Zホールディングス傘下またはZホールディングスが出資する金融事業会社6社の社名とサービス名を「PayPay」ブランドに統一することを発表した。その中で、PayPayブランドの現在の勢いを最も象徴していたのが、ジャパンネット銀行のPayPay銀行への社名変更だろう。
登壇したジャパンネット銀行・代表取締役社長の田鎖 智人氏(写真1)は、来年で創業20周年を迎えるジャパンネット銀行がPayPay銀行へ引き継いでいく事業の方針として、「継続」と「進化」の両面を見据えていくことを強調した。
「継続」で重視する1つは、これまでジャパンネット銀行が注力してきた公営競技やくじ、QR決済、PFM(個人向け金融資産管理)などの事業。これらには「BaaSや銀行APIといったバズワードが注目される昨今だが、当社は提携先と一緒になって銀行サービスを提供することに20年前から取り組んできた」(田鎖氏)。
もう1つの「継続」は、中小企業のサポートだ。総合振込をはじめ、入金消込サービス、ビジネスローンなど、特に創業間もないベンチャー企業や個人事業主が使いやすいサービスを提供してきた経緯がある。これら2つの事業からは「当行の業務粗利益の4割を得ている」(田鎖氏)こともあり、PayPay銀行に名称変更後も事業姿勢は変更しないという。
他方、PayPay名との相乗効果で「進化」を狙うのは、PayPayが目指す「スーパーアプリ」戦略の中で、銀行領域を同行が担い、積極的にミニアプリなどを通じてサービス提供していくことだ。具体的なイメージとしては、例えばPayPayアプリのTOP画面などを通じて展開する貸し付け(ローン)事業がある。個人向けローンのみならず、PayPay加盟店の資金ニーズに合ったビジネスローンの提供を想定する(写真2)。
しかし、それだけのことであれば、実は現在のジャパンネット銀行社名でも提供可能だし、実際に連携サービスを提供してきた。ところが同社が独自に調査した結果、サービスを使ってもらうためには「同一グループのサービスを受けている」という感覚が利用者の行動パターンに大きく影響していることがわかったという。この調査においては、ジャパンネット銀行が「グループ」に属する認知の低さが浮き彫りになった格好だ(写真3)。
PayPay銀行への社名変更には、同行がPayPayと同じ企業グループに属しており、同様にヤフーを子会社に持つZホールディングスともグループであることを、名実ともに内外へ知らしめる狙いがある(写真4)。
社名変更後には、3,000万人を超えるまでに成長したPayPayのユーザーに対して、口座の開設を促していくことが最初のターゲットとなる。最近、同行で開設された口座について獲得チャネル別に見ると、2019年には個人口座で全体の3分の1が、法人口座に至っては実に半数以上がPayPayから誘導されている(写真5)ことからも、社名変更を後押しする要因となったことが伺われる。
良いことばかりに見える社名変更だが、その一方で田鎖氏は、ジャパンネット銀行を長く愛用してきたユーザーの一部から「SNS上などで社名への変更を反対する声や、その場合には解約したいとの意向が出ていることは承知している」そうで、「(変更時期を示した)本日の発表を含めてこれから具体的になっていく中で、お客さまの解約につながらないサービス提供を目指していきたい」と話す。「金融サービスを空気のように身近に」と訴えるキャッチフレーズにも、そうした思いが込められているようだ(写真6)。
グループを挙げて挑む「シナリオ金融」構想とは
説明会の前半では、Zフィナンシャル・執行役員 経営企画部長の小笠原 真吾氏(写真7)が登壇し、PayPayへの金融ブランド統一と、同社が「シナリオ金融」と呼ぶ事業構想を説明した。
「グループの金融事業会社」であるZフィナンシャルの位置付けは、Zホールディングス、ヤフー、PayPay、そしてソフトバンクとの関係から見るとやや複雑だ(写真8)。ヤフーとは兄弟の関係で横に並び、2社の下には銀行、投資、クレジットカード、FX、保険代理業などがぶら下がる構造。これらを一斉にPayPayブランドへ統一する計画だが、ブランド発祥元のPayPay自身は、ヤフーとソフトバンク、ソフトバンクグループの合弁会社であるという位置付けにある。
そうした中でZホールディングスが、「金融をメディア・コマースに次ぐ第三の収益の柱へ」を掲げて、金融ブランドのPayPayへの統一と並んで打ち出したのが「シナリオ金融構想」である。読んで字のごとく、個人の生活シナリオを想定した形で、必要となる金融サービスを用意し、提供しようとするものだ(写真9)。
この構想に沿ったサービスは今年1月から順次、始まっており、小笠原氏は具体例として3つの事例を紹介した(写真10)。1つ目は、ヤフオク利用者が商品の落札時にその場で契約できる「ヤフオク!修理保険」。2つ目は、PayPayで残高不足の場合に後払いが利用できる「PayPayあと払い」。3つ目は、思いがけない事由により予約した施設に宿泊できなくなった場合のキャンセル料を備えられる「宿泊キャンセル保険」だ。(修理保険とキャンセル保険はいずれも保険代理業)
小笠原氏は直近の状況について、「『修理保険』は今期末に10万件の契約目標に対し、上期時点では想定以上のお申し込みがあった。『宿泊キャンセル保険』もコロナ禍の不安もあってか大変好評で、手応えを感じている」と紹介した上で、「わがグループには100を超えるサービスがあるので、その中からシナリオを構築して金融を提供していきたい」と意気込みを見せた(写真11)。