【TRANSACT Connect】パンデミック環境下で決済のコンタクトレス化・デジタル化シフトが鮮明に〜ETAバーチャルイベントが閉幕

米・Electronic Transactions Association(電子取引協会、略称ETA)は5月11日から15日までの5日間、オンラインでのバーチャルイベント「TRANSACT Connect」を開催した。完全バーチャルでの開催は初めて。米国東部時間で正午から夕方にかけて開催されたTRANSACT Connect。目玉の講演セッションは、基調講演(Keynote)が6本(開幕・閉幕の各セッションを除く)、他に「RISK, FRAUD, SECURITY」「SELLING IN AN EVOLVING MARKETPLACE」「PAYMENT FACILITATOR」「PAYMENTS: PAST, PRESENT, FUTURE」のテーマにあわせて、講演トラックが全18本行われた。本稿では、国際決済ブランド会社の講演内容を中心に紹介する。

新型コロナウイルス環境での加盟店ニーズに向き合うAmex

 基調講演に登壇したアメリカン・エキスプレス(以下、Amex)・US&LAC ペイメントコンサルティンググループ担当バイスプレジデントのJJキーリー(JJ Kieley)氏は、「Helping Merchants Navigate Through and Beyond COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」と題した講演を通じて、Amexが危機に直面しているカード加盟店をどのように支援しているかを説明した。
 同社は定期的に消費者調査を実施しているが、4月に行った消費者調査(18歳以上の約1,000名が対象)からは、この数カ月内での消費者のカード利用の変化が浮き彫りになっている。対面店舗でのショッピング(In-store Shopping)では、現金の利用が16%減少、カードを挿入、またはスワイプしての利用が15%減少する一方で、非接触ICによるコンタクトレス決済を利用した消費者の58%が「パンデミック前と比べてコンタクトレス決済を利用するようになった」と回答した。カード決済の中でも、物理的に決済端末への接触が必要な接触ICやスワイプ(磁気カード)よりも、接触することが必要とされないコンタトレス決済を選んで利用するユーザーが増えているという。
 さらに非対面店舗でのショッピング(Online Shopping)の利用傾向にも変化が表れている。オンラインで支払う点は共通だが、商品やサービスの受け渡し方法の違いに着目すると、お客が自動車から降りずに受け取ることができる「Curbside(カーブサイド)ピックアップ」が16%増、デリバリー利用が12%増、お店でピックアップは6%増となり、できる限り接触を避けたい消費者の気持ちが透けて見える結果となった。
 Amexでは消費者のこうした気持ちの変化を受けて、加盟店のアクセプタンス(カード決済の受け入れ)ニーズの変化に対して適切な支援を果たしていく考えだ。具体的には、コンタクトレス決済の推進と、カード取引時の署名(サイン)の撤廃、さらに「レストランのような伝統的なカード加盟店であっても、オンラインで支払えるように、技術を提供していく」(キーリー氏)。
 またAmexではCOVID-19への対応として、5月の第1週にEMV不正によるライアビリティシフトの期限を2020年10月から2021年4月に延期すると発表した。

EMV Coは、SRC仕様でeコマースの安全性を向上

 EMVCo・エンゲージメント&オペレーション担当ディレクターのブライアン・バーン(Brian Byrne)氏は、「The EMV Specifications: Connecting the Dots for Connected Commerce」と題したセッションで登場した。
 EMV Coが策定・管理するEMV仕様は、「安全な決済取引に対して世界中で相互運用性をもたらすために、EMV仕様と、関連する試験プロセスを出版してきた」(バーン氏)。EMVと言えば、対面取引に利用されるEMV対応ICチップに代表されるが、非対面取引(リモート)向けにも3DS(3-Dセキュア)などの仕様を提供してきている。さらにオプションとして、CDCVM(消費者デバイスCVM)やトークナイゼーションなどにもEMV技術を適用し、eコマースのセキュリティ仕様の進化をサポートしてきた。「EMVのすべての仕様は、柔軟で安全なツールボックスとして世界中で利用できるようになっている」というのがバーン氏の説明によるEMV仕様の立ち位置だ。
 バーン氏は「この数カ月は外出自粛となっているが、だからこそeコマースを安全に、成長を継続させる必要がある」と切り出し、EMV Coがeコマース向けに提供する技術として、「3DS」、「EMV SRC」、「EMV Payment Tokenisation」、「EMV QR Codes」のラインアップを紹介した。
 このうち、説明で特に重点を置いたのが「EMV SRC(Secure Remote Commerce)」だ。SRCはeコマースを安全に提供するための環境だが、既存のカード決済環境とどこが異なるのか。この点について同氏は、対面のカード決済は加盟店の決済端末、従来型のオンラインカード決済(リモートコマース)も加盟店ウェブサイトを通じてカード番号情報が後方のカード処理に回る仕組みになっているのに対して、「SRCでは新たに構築した環境内で決済情報がセキュアに取り扱われるため、消費者に安心感と保証を与える」と解説した。
 ショッピングサイトや決済サービスがEMV SRCに対応していることを示すアイコン(画面1)を無償で提供しており、仕様書も策定しているものの、導入する国や地域によって事情やポリシーが異なることから、現状では適用義務がないことや、運用に柔軟性を持たせていることも特徴といえる。

画面1 EMV SRC(Secure Remote Commerce)に対応することを示すロゴマーク(出典:EMV CoのWebページより)

決済のデジタル化を全面支援するVisa、APIベースの分割払い機能も

 Visaで北米担当プロダクト責任者を務めるブライアン・コール(Brian Cole)氏は、サンフランシスコから参加した。コール氏は講演の冒頭、「この10週間で物事の重要性が変わった」と切り出し、某SNSの調査結果によれば「インターネット」と「スウェットパンツ」の重要性が上昇し、「自動車(Car)」と「ひげ剃り(Shaving)」の重要性が下がったことを紹介した。
 他方で、カード取引件数についてこの間の変化を見ると、全体では下落傾向にあるものの、カードを提示しないCNP(Card Not Present:非対面)取引は持ちこたえており、特に旅行業を除くCNP取引はパンデミック以前と比べても急伸している状況にある、と説明した。
 「消費者は『デジタル・ファースト』に移行し、ビジネスは終夜デジタルへと移行した」
 そう表現するコール氏は、「資金へのアクセスがデジタルでできることが重要」として、消費者のデジタル・ファーストでのコマース志向に対し、Visaは3つの技術を提供するとした。
 1つ目は「Visaトークンサービス」。近年、CNPの不正が増え続ける中で、カード番号をトークンに代えて使う同サービスの利用が増えている。2014年にApple Payが対応したのを皮切りに、対応する決済サービスやパートナーが増え続けているという。今後も「クラウドトークンフレームワーク」によりトークンの利点はさらに高まるだろうと話した。
 2つ目はVisaが2年前にローンチした「Visaクリックトゥペイ(Click to Pay)」。「消費者は対面店舗におけるコンタクトレス決済のようにシンプルに利用できる一方で、トークナイゼーションの利用に加えて、OTPなどの追加認証に対応するため安全。加えてモバイル端末でも使える柔軟性を持つ」(コール氏)
 今年1月からは決済業界の標準仕様であるEMV SRCへの対応を開始し、現在米国で3,700万ある「Visaチェックアウト(Visa Checkout)」のアカウントが自動的にVisaクリックトゥペイに移行したという。また、米国の70万店以上の加盟店が、今年6月にVisaチェックアウトからVisaクリックトゥペイに移行する予定であることも紹介した。
 3つ目は「Visaインストールメントサービス」で、日本語で言う「分割払い」や「割賦販売」を指す。コール氏は、米国のミレニアル世代の60%が店舗POSレジでのファイナンス利用に興味を持っている、との調査データを示した。こうした金融ニーズに対して、VisaがAPIベースの分割払いソリューションを提供する。
「ネットワークに依存せず、クロスボーダーで利用できるので、加盟店とイシュア(カード発行会社)は既存のクレジットカード、デビットカード利用者に対して、購買中に分割払いを提供できる」(コール氏)
 オンラインサイトなどでのチェックアウトの際、一括払いに加えて分割払いのオプションが金額と併せて表示され、利用者は選択して利用できるようになる。2020年夏から米国内でパイロットプログラムを開始する予定だ。

 Visaからはほかに、「Payments Innovation in the Time of COVID-19」と題したパネル討論(画面2)にVisa・北米地域デビット&プリペイド責任者 兼 コンタクトレスペイメントのグローバル責任者であるダン・サンフォード(Dan Sanford)氏が参加。すでに1億7,500万枚のVisaカードがコンタクトレス決済に対応していると説明した上で、「この3月には3,100万人の米国人がカード、あるいはモバイルデバイスをタップした。過去6カ月間でコンタクトレス決済の利用は150%増加している」と近況を報告した。
 同氏は、特に移行の目覚ましい米国以外の地域でも、物理的なPOSレジでのカード決済において60%の取引がコンタトレス決済で行われていることを明かし、COVID-19への対応がコンタクトレス決済の利用促進を後押ししている実態を強調した。

画面2 5月12日に行われたパネル討論の出演者(出典:ETAのWebページより)

125兆ドルの巨大B2B市場を狙うMastercard

 Mastercardからはコマーシャルプロダクツ担当副社長(EVP)のジェームズ・アンダーソン(James Anderson)氏が登壇し、B2B市場を取り巻く決済手段の現状分析と、そこにおけるMastercardの展開を話した。同氏によると、世界で50兆ドル(5,000兆円)と目されるB2C市場に対して、B2B市場は最大で125兆ドル(1京2,500兆円)に上る。しかし、カード決済は全体の2%ほどしか使われておらず、小切手(31%)、現金(31%)、ACH(銀行払い・68%)の後塵を拝しているという。
 カード劣勢の理由についてアンダーソン氏は、「企業の予算管理や、複数にまたがる請求といった複雑さにある」と分析。「B2B決済の行程は部分的に自動化されているが、快適ではない」と断じた。これらの課題解決につながる仕組みとして、Mastercardは米国で「Track Business Payment Service」を商用化しており、今年は他の国でも商用化を予定していることを明らかにした。

ETAはワールドセントラルキッチンと提携し、地元レストランを支援

 ETAでCEOを務めるジョディ・ケリー(Jodie Kelley)氏はTRANSACT Connectの会期中、「困難に直面している小売業界との連携は大切だが、中でもレストラン業界への対応は重要」と話し、ETAがこのほどホセアンドレスのワールドセントラルキッチン組織とのパートナーシップを結んだことを発表した。地元のレストランがCOVID-19に関連する救助対応者や医療従事者、および必要な人々に対して食事を提供する作業を援助することで、レストランを閉業せずに従業員が勤務できる体制をサポートできるという。
 ETAでは同協会のホームページ上に、TRANSACT Connectの参加者や決済関連のエキスパートによる寄付ページを開設(画面3)。最大5,000ドルの寄付を行うと発表している。

画面3 TRANSACT Connect「World Central Kitchen」への寄付サイト(画面クリックでジャンプ)(出典:ETAのWebページより)

画面4 「TRANSACT Connect」のスポンサー企業(出展企業を除く)(出典:ETAのWebページより)

画面5 「TRANSACT Connect」のバーチャル出展企業(クリックで拡大)(出典:ETAのWebページより)

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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