カードビジネスおよび電子決済関連では老舗のイベント、「TRUSTECH(トラステック)」が2018年は11月27日〜29日の日程で開催された。会場は2016年から3度目となるフランス・カンヌの「パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ」。毎年足を運んでいる筆者の目には、昨年までと比べて展示面積がやや減少したようにも見えたが、今年も世界中から関係者が集い、各社の出展ブースは賑わっていた。
来場者は8,000人超、4割が2019年も出展を継続意向
2018年のトラステック、公式発表によれば以下の通りの開催結果となった。
・8,000人を超える来場者。そのうち84パーセントがフランス以外の国からの来訪
・250の出展企業とスポンサー企業が、38の国から参加
・200人を超える国際的なスピーカーが登壇
・10のKeynote(基調講演)が開催
・2,000人以上が「TRUSTECH」の公式モバイルアプリを利用
・178のビジネスミーティングが開催
・出展企業とスポンサー企業の38パーセントが、2019年の出展に参加登録済み
トラステックの会場は今年も「パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ」。カンヌ映画祭でおなじみのレッドカーペットも健在だ。
パレの会場内は複数階構成になっており、会場入り口(下の写真)を抜けた地下フロアの「PALAIS」では各種のカンファレンス(講演)と、一部の展示ブースが設置された。このの「PALAIS」には、昨年まではもう少し多くの数の企業ブースが並んでいたが、今年はやや落ち込みが見られるようで、フロアの一部を区切ってすべてを使用しない運営となっていた。
また「PALAIS」と階段でつながった先には円形が特徴の建物があり、「RIVIERA(1階)」と「LERINS(2階)」に出展企業のブースがある。ここから会場を一步出ると、「これぞ南仏!」とうなってしまいそうな青い海がどこまでも広がっている。
トラステックは2019年も11月26日〜28日の日程で、このパレ会場で開催されることが発表されている。
●マキシム(️maxim integrated)〜mPOSからPINパッドを省略
半導体メーカーのマキシムは、決済端末に必要なPINパッド(PIN入力装置)を、特別なハードウェアを要することなく、汎用的なタブレットやスマートフォンのタッチパネル画面で提供可能にする「PIN-on-Glass(ピン・オン・グラス)」に対応したmPOSデバイスを出展した。
mPOSで接触ICカードを処理する場合、従来はセキュリティ上のルールによりICカードリーダとPINパッドが必須であったため、mPOS端末自体の価格が磁気カード専用のものと比べて高価になりがちだったが、ルール緩和を受けてPINパッドをソフトウェアでエミュレートすることにより、接触ICカードの差し込み口(接触ICリーダ)と非接触ICカードをかざす部分(非接触ICリーダ)のみで端末を構成できるようになった(写真)。「(PINパッドを内蔵するmPOSと比べて)とってもコストエフェクティブ」(同社のブース説明員)
ハードウェアのPINパッドを持たないPIN-on-Glassは、「専用端末」で採用したタイプは比較的多くのブースで見かけたが、「mPOS」のジャンルではこちらのブース以外で見つけられなかった。mPOS端末のトレンドとして、今後、世界へ伝播していくだろうか。
●nearex〜新興市場にじわり広がる電子決済デバイス
開発途上国などの新興市場に向けて電子決済ソリューションを提供するnearex。シンガポールに本社を置く同社だが、端末はインドのバンガロールを拠点として開発している。
例えばケニアの「M-PESA」は、携帯電話のSMSを活用するモバイル決済サービスとして有名だが、最近ではNFC対応の非接触ICカードと電卓のような簡易端末を用いた「M-PESA 1Tap」が提供されており、nearexがこれらのデバイスを供給する。他に、タンザニアの「AIRTEL MONEY TAP TAP」など、主として東南アジアのディベロップカントリーで採用されている。出展されていた端末はイエローカラーに統一されていたが、各国のサービスにあわせてカラーリングはカスタマイズして提供している。
M-PESA 1Tap(ケニア)
AIRTEL MONEY TAP TAP(タンザニア)
●サンミ(Shanghai SUNMI Technology)〜日本でもよく見かけるあの端末
バーコードやQRコードを利用するスマートフォン決済は日本でも導入店が広がりつつあるが、そこで目にする機会の多いオレンジ色の専用端末を提供するのが2013年に中国で設立された端末メーカーのSUNMI。最新機種の「SUNMI V2PRO」はeSIMを内蔵、NFCリーダも搭載しながらこのスタイリッシュさ(写真)。簡易型、テーブル据え置き型など製品ラインアップのバリエーションを増やしている。
こちら(下の写真)はまるで電卓のような外観を持ったモデル。操作がわかりやすそうで、かつ、カワイイ。意外なことに、レイテストモデルなのだそうだ。
●Centerm Information〜中国でよく見かけるあの端末
同じく中国の端末メーカーであるCenterm Information。ボックスタイプになっており真上からスマホ画面をかざすようになったデバイスなど、ここに並ぶカラフルな端末の多くが上海などの街で本当によく見かけるもの。
●スペクトラ・テクノロジーズ(SPECTRA Technologies)〜香港発のグローバル決済端末メーカー
1993年創業のスペクトラ・テクノロジーズは香港の決済端末メーカー。世界65カ国へ500万台以上の端末を供給している。TRUSTECHへの出展は常連組。
最新機種の「APOLLO(アポロ)」は、5.5インチのワイドスクリーンを採用しつつ、筐体はスッキリとコンパクトな仕上げとした。1次元/2次元コード、NFC(非接触IC)、EMV(接触IC)、磁気に対応するオールインワンモデルをうたう。搭載するOSはAndroid。他に、組み込み向けの端末ではLinuxベースの端末も提供している。「うちはオクトパスカードの普及している香港ベースだから、FeliCaのこともよくわかってるんだ。日本のマーケットも魅力的だね」とブース担当者。
●凸版印刷(TOPPAN)〜非接触型ICカードの製造コストを圧縮するソリューション
展示会名称が2016年にCARTESからTRUSTECHへと変わってからは初出展となった、凸版印刷。日本企業としてはほぼ唯一の出展だった。デモをところ狭しと大々的に紹介するというよりは、商談を意識したシンプルな展示構成としたという。
非接触型ICカードの製造においてはICチップと非接触IC通信用のアンテナとを物理的に接合する工程が存在するが、同社は電磁結合により両者間を無線で通信可能にする技術を開発。製造装置を接触型ICカードと同じにできるため、製造効率が上がり、安価に非接触型ICカードを作れるという。ヨーロッパへの展開ではライセンスを供与する形でのビジネスを提案している。(なお、写真の例では6端子のICカードになっているが、8端子のICカードでも対応可能とのこと)
eパスポートは世界的に、顔写真ページにICチップを内蔵する新仕様に基づくタイプへ移行中だが、凸版印刷でもこの新タイプに対応。公共分野への供給実績を広げていきたい構え。
●インフィニオン・テクノロジーズ〜ブロックチェーンをICカードに応用
ドイツのインフィニオン・テクノロジーズは、ブロックチェーン技術をICカードサービスに応用するデモを開発、披露した。
わかりやすい事例として、ビットコインの「容れ物」としてICカードで利用するデモでは、ICカード内に保存されたビットコインを非接触IC通信機能を使ってリング(指輪)に移動してみせた。移行後もビットコインアドレスが一致していることを確認でき、デモとはいえ完成度の高さを伺わせた。
ビットコインのような仮想通貨への応用はあくまで一例で、ブロックチェーン技術を使って電子投票の際の資格権利を管理するデモなどを用意し、ユースケースの広がりを感じさせた。今年(2019年)3月にソフトウェア開発キット(SDK)をリリースする予定だという。
●STマイクロエレクトロニクス〜生体認証センサーをコンタクトレス決済へ
STマイクロエレクトロニクスのブースでは、ICカードにバイオメトリクスセンサーを搭載する提案を行っていた。
そもそもICチップメーカーの同社が、ICカードへの生体認証機能の追加に積極的な理由を担当者に尋ねてみると、「コンタクトレス(非接触IC)の場合、(上限設定があって)そのままでは20〜30ユーロまでしか使えない。しかし、それ以上の金額でもコンタクトレスを使えるようにしたいから」とのこと。当初は少額決済向けに限定して登場したはずのコンタクトレス決済だったが、ヨーロッパでもカードへの標準搭載が進み、便利さが浸透してくると、フルで利用したくなるのが人情ということだろうか。Touch IDやFace IDといった生体情報をコンタクトレス決済に組み合わせた「Apple Pay」の影響はこんなところにも表れている。担当者は「指紋センサー付きだと(通常のカードに比べて)コストは5ドルくらい上がる。電源レスにしてより低価格化を目指したい」と話していた。