モバイルオーダーアプリの「O:der」など、店舗の省人化関連サービスを開発・提供するShowcase Gigは8月20日、外食・小売業界の関係者らを対象に、オンラインとオフラインの融合を示すコンセプト「OMO」をキーワードとしたトークイベントを東京都内の自社オフィスで開催した。日本の外食・小売業は今後、OMOとどのように付き合っていくべきか。約3時間に渡って熱い議論が繰り広げられた同イベントより、事例を交えて「OMO」の基本が理解しやすかった冒頭のセッションから報告する。
中国、米国で先行事例が続々と登場
イベント名は「OMO meetup」。その1回目となる今回は「〜Online Merges Offline〜 OMO時代に<顧客と繋がる>実店舗とは」を副題に添え、外食、小売の現場に携わる担当者を交えてのパネルディスカッションが行われた。
オープニングセッションでは、Showcase Gig代表取締役の新田 剛史氏と、同社のスーパーバイザーも務める奥谷 孝司氏が「“OMO”で何が変わるか。世界から見えてくる店舗の未来像」のテーマで、OMOの基本的な考え方や世界の導入事例について解説した。奥谷氏は、顧客時間の共同CEO 代表取締役で、オイシックス・ラ・大地では執行役員/チーフオムニチャネルオフィサーを務める(写真1)。
OMOとは「Online Merges Offline」の略語で、「O2O(Online to Offline)」からさらにもう一步踏み込んだ世界観として、日本でも2019年に入ってから急速に注目を集めている。読んで字のごとく「オンラインとオフラインが融合した世界」のことを指すが、小売業への応用で言えば、例えばスマホを使ってネットで注文・決済すると自宅(リアル)に商品が配送されたり、あるいはネットで注文した商品を会社帰りに近所の引き取り店舗で受け取って帰宅するようなサービスイメージだ。
OMOを象徴する事例の1つとして、新田氏は中国の「ラッキン・コーヒー(luckin coffee)」を紹介した(写真2)。このコーヒーショップでは注文と決済は自分のスマホで行い、購入した商品の受け取り(ピックアップ)を店舗で、もしくは自宅やオフィスなどに配送(デリバリー)してもらえる形態でサービスが提供されている。
コーヒー1杯から利用できる気軽さから人気を集め、創業から1年半で国内店舗数は2,900店に拡大、今年5月には米ナスダックへの上場を果たした。「月間アクティブユーザー(MAU)が700万人と発表しているが、(元々MAUという数字は)ソーシャルメディアなどに使われる指標であり、飲食業が出すのは極めて珍しい」と感心する新田氏に、奥谷氏も「異業種から来ている指標が小売業のKPIを変えている、というのはとても面白い」と評価した。実際、市場で猛追するラッキンに対抗して、中国のスターバックスコーヒーがアリババグループと組んでデリバリーサービスの提供を始めるなどの影響も出ているそうだ。
アリババグループが展開する食品スーパーの「フーマーションシェン(盒馬鲜生)」も、生鮮食品の品揃えの豊富さと、店頭で生きた魚介類を注文するとその場で調理してくれるなど話題性に富んだ店づくり。さらに、店舗で購入した商品は30分以内に配送までしてくれることで人気を集めるOMOモデルの1つである。しかし、新田氏はこのモデルをそのまま日本に持ち込むことは推奨しない、と断じる。理由は配送コストの違い。「デリバリーコストがほとんどタダのような感覚がある中国と、米国や日本とでは環境が違う。(注文や決済の)起点がモバイルである点を大切にすべきだ」(新田氏)
そこで有効なのが、「Amazonフレッシュピックアップ」(写真3)など米国では一般的に利用されている「BOPIS」サービスだ(写真4)。また耳慣れない単語が出て来たが、BOPISとは「Buy Online,Pick up In-Store」の略語で、「ボピス」と発音する。ネットで注文しておいた商品を、ピックアップポイントで受け取るサービス形態のことを指す。「学識者の間でも注目されており、米国ではこの4〜5年のトレンドとして事例が増えている」(奥谷氏)という。
こうした環境変化を踏まえ、これからの小売業や飲食業では、スマホから注文と決済を行い、商品の受け渡しにはこのBOPISを活用せよ、というのが登壇した二人の見解である。お客が自ら商品を受け取りに来てくれることで、小売側には配送コストが抑えられる効果もあるためだ。
その上で奥谷氏は、「お店のレジは小売側が売上金を管理するために必要だったものであって、決済や購買といった体験は顧客にとって本当に必要なことなのか。いまスマホでそれが代用できるのであれば、そんなものはなくしてしまって、もっと顧客を『体験』に振ったほうがいい」と提言した。
注文や支払いをお客自身による操作に任せることで店舗スタッフの省人化などにも寄与するOMOに対して、店舗が最初に求める効果には、人手不足の補完と、コスト削減がある。しかし新田氏は日本ならではのOMOのあり方として、コスト削減に加えて、OMO化で得られたデータを活用した店舗業務の最適化と、店舗の「付加価値」向上に生かしてほしいと説く。付加価値とは例えば、人間の店員にしかできない「おもてなし」のことで、先の奥谷氏のコメントにも通じるところだろう。
このセッションでは他にも、OMOを扱える人材が不足していることや、日本でも数年前から取り組みが始まっている流通業のオムニチャネル戦略がなぜ上手くいかないのか、BOPISオタクを自称する奥谷氏のこだわり注文術(?)などなど多岐に及んだが、残念ながら紙幅の関係で割愛する。
オープニングセッションに続いては、JR東日本グループの駅中飲食店を展開するジェイアール東日本フードビジネスの森 大祐氏(営業戦略本部 販促・宣伝部兼NEXT10推進部 担当部長)、宅配寿司「銀のさら」などのデリバリー事業を運営するライドオンエクスプレスの渋谷 和弘氏(マーケティング本部 デジタルマーケティング部 エグゼクティブマネージャー)を招き、「国内フードテクノロジー最前線」のテーマでトークセッションが実施された。
また、イベント後半では、レクター、プリズマティクス、ストライプインターナショナルの担当者が登壇し、「OMOサービスのつくりかた」と題したトークセッションが行われた。