ついにサービスインしたメルペイで、これから起こること〜今後始まる10の注目ポイント

使い勝手が著しく良いフリマアプリの提供から、まさに時流に乗って経済圏を広げてきたメルカリが、金融子会社を設立して決済サービスへの進出を宣言したのは2017年11月のこと。金融決済業界を震撼させたこの出来事から早1年と3カ月が経過する過程では、話題の「QRコード決済」で市場に乗り込むと目されながらも、なかなかサービスが始まらない状況が続いた。そして今年2月、蓋を開けてみれば、メルペイが最初に打ち出したのは非接触IC決済である「Apple Pay」への対応。ついに始まったメルペイの今後の戦略を、同社が2月20日に開いた「メルペイカンファレンス2019」からたどっていく。

Andorid、コード決済、後払い・・・話題盛りだくさんの発表会に

 今年2月13日、非接触IC決済である「Apple Pay」のiD対応を第1弾として提供が始まったメルカリのスマホ決済サービス「メルペイ」。カンファレンスでは第2弾以降の計画が明らかになった。発表の要点は以下の10項目。

1)Androidの「iD」に対応開始(2月末から3月初め)
2)「コード決済」をまずはCPMで開始(2月末から3月初め)
3)「コード決済」の展開ではJCBの「スマートコード」規格を採用する
4)「コード決済」の展開ではKDDIと協業し、2019年春開始予定の「au Pay」と加盟店営業で連携する
5)非接触ICの「iD」と「コード決済」対応店舗は開始時点で全国135万箇所に。2019年末までに200万箇所を目指す
6)チャージ(入金)に対応する銀行が60行まで増加(導入決定先)
7)翌月一括払いの与信サービスとして「メルペイあと払い」を提供(2019年春)
8)ネット決済(オンライン/EC)に対応(将来)
9)店舗用アプリ利用の場合、決済手数料は1.5%、初期導入費用・固定費用は無料
10)地方自治体とキャッシュレス普及に向けて連携する

 それでは以下、順番に内容を見ていこう。

1)Androidの「iD」に対応開始(2月末から3月初旬)

 2月13日時点で、まずはiOSのみでサービスを開始したメルペイ(写真1)だったが、「おサイフケータイ」と機能連携することで、Androidでも「iD」を利用できるようにする。キャリア契約の端末だけでなく、MVNO契約であっても端末がおサイフケータイに対応していれば利用できる(写真2)
 メルカリユーザーのAndroid端末利用者には待望のアップデートといえるが、これをもってメルペイの非接触IC決済対応は、iOS/Androidの両方をカバーできる体制が整うことになる。

写真1 いきなり全国約90万箇所のiD加盟店で使えるようになったメルペイ

写真2 Android端末では「おサイフケータイ」と連携して「iD」を登録するようだ

2)「コード決済」をまずはCPMから開始(2月末から3月初め)

 バーコードとQRコード決済を通じてメルペイの支払いを可能にする「コード決済」について、まずはCPM(Customer Presented Mode:お客がお店にコードを提示する方式)で開始する(写真3、4)。順次、他の方式にも対応していく予定だという。

写真3 メルペイの「店舗用アプリ」はCPMに対応している

写真4 メルカリアプリの「メルペイ」タブ中段左側に「コード決済」のボタンが登場している(画面は開発中のもの)

 メルペイ代表取締役の青柳 直樹 氏(写真5)は、「非接触、NFCだけでは不十分。かといって、コード決済だけでは、普及までの道のりが長いというジレンマがあった」と、非接触IC決済とコード決済の両方に対応する同社の動機を説明した。

写真5 メルペイ代表取締役の青柳 直樹 氏。「(メルペイの導入で売上金がメルカリの外に流れやすくなったのでは?との質問に答えて)初動を見ている限り、大きくお金の流れが変わったことはない。まずはメルペイの側がメルカリの恩恵を受けるが、相乗効果を出していきたい」

3)「コード決済」の展開ではJCBの「スマートコード」規格を採用する

 「メルペイカンファレンス」の同日に発表となった、ジェーシービー(JCB)の統一コード決済基盤「Smart Code(スマートコード)の対応加盟店で、メルペイのコード決済を利用できるようにする。JCBによれば、スマートコードの開始時期は今年の4月以降、夏までの間と予定されており、メルペイもサービス開始にあわせて対応を始める予定。

4)「コード決済」の展開ではKDDIと協業し、2019年春開始予定の「au Pay」と加盟店営業で連携する

 KDDIが2019年春から開始を予定しているコード決済「au Pay」と、加盟店営業で提携し、双方で加盟店を相互開放しながら広げていくという。ただ、KDDIは自社の戦略の中で「楽天Pay」と「au Pay」の両者で加盟店を共同利用・開拓していく方針を明らかにしており、メルペイとKDDIの協業が楽天との提携にまで踏み込んだものかどうかについては説明がなかった。

5)非接触ICの「iD」と「コード決済」対応店舗は開始時点で全国135万箇所に。2019年末までに200万箇所を目指す

 「iD」と「コード決済」に対応するメルペイの対応店舗として、2月20日時点で利用可能な場所(写真6)と、コード決済対応を予定している場所を合算すると、全国135万箇所に上る(写真7)という。内訳は「iD」で90万箇所、「コード決済」で45万箇所。これに向こう1年で65万箇所を上乗せし、2019年末までに200万箇所で対応する計画をぶち上げた。

写真6 2月20日時点でのメルペイ対応加盟店(iD)

写真7 「コード決済」導入によるメルペイ対応加盟店

 加盟店拡大戦略を担当するメルペイ執行役員の山本 真人 氏(写真8)は、メルペイの導入を店舗に働きかける際の強みとして、メルカリユーザーが保有する年間5,000億円超の「売上金」の存在を挙げる。これについて山本氏は「給与のようなふだんの定期収入ではなく、ある種の臨時収入」であることに着目してほしいと訴える。「より大胆に、ワクワクする用途に使ってもらいやすい『色の付いたお金』だ」
 また、メルペイの利用を始めるにあたり、メルカリユーザーが新たにアプリを入れたり、(売上金があれば)チャージする必要がない点も、他のスマホ決済サービスにない強みだという。

写真8 メルペイ執行役員の山本 真人 氏

6)チャージ(入金)に対応する銀行が60行まで増加(導入予定先)

 メルペイでは、メルカリの販売で得た売上金の残高をそのまま支払いに利用できるが、あらかじめ銀行口座を登録しておくと、銀行口座から「メルペイ残高」をチャージ(入金)して利用することができる。
 この銀行口座として登録できる金融機関の数は、2月20日時点で30行だが、すでに今後登録可能になる提携予定先をあわせると、メガバンクを含む全国の60行が順次、対応するという(写真9)

写真9 全国60行以上の金融機関がメルペイ残高のチャージに対応

7)翌月一括払いの与信サービスとして「メルペイあと払い」を提供(2019年春)

 メルペイのミッションとして青柳社長が掲げたのは「信用を創造して、なめらかな社会を創る」。これと密接に関連する新機能として、メルペイ残高が足りなくても翌月一括払いで支払える後払いサービス、「メルペイあと払い」を今年春から提供する。メルカリの取引実績を活用して、審査、スコアリングを行い、ユーザーに「あと払い残枠」を設定する(写真10)
 メルカリのネット取引ではすでに「メルカリ月イチ払い」と呼ぶ後払いサービスが提供されているが、これをオフラインでの決済にも拡大していく位置付けだ。

写真10 メルペイ残高がなくても、一定金額の与信枠まで支払いできるようになる

8)ネット決済(オンライン/EC)に対応(将来)

 2019年春提供開始予定の新サービスとして、メルペイがネット決済にも対応する。具体的な導入先は未公表だが、「メルペイのネット決済で買った商品を、その購入履歴を元に、ワンタップで簡単にメルカリに出品することもできるようになる」(山本氏)という(写真11)

写真11 メルカリの売買から手数料収入を得るビジネスモデルとあって、ネット決済の導入により、売上金のさらなる環流を狙う

9)店舗用アプリ利用の場合、決済手数料は1.5%、初期導入費用・固定費用は無料

 加盟店手数料に当たる決済手数料については、「ずっと1.5%」を大々的に打ち出した。初期導入費用・固定費用も無料とした。ただし、これらはメルペイが提供する「店舗用アプリ」(CPMに対応)を使用した場合であり、POS接続や専用端末を通じた対応の場合に適用されるわけではないので注意したい。
 「クレジットカード等既存の決済手段と比べて低廉に設定した。重要なことは、一時的なキャンペーンの料率ではなく、お店に安心して継続的に使ってもらえることだ」(山本氏)

10)地方自治体とキャッシュレス普及に向けて連携

 リサイクル、起業家支援、国家戦略特区、特定エリアなどのキーワードとキャッシュレス推進を掛け合わせて、地方自治体との連携を推進していく。
 2月20日時点で、今後提携を予定する自治体は、神奈川県、鎌倉市(神奈川県)、岐阜市(岐阜県)、神戸市(兵庫県)、仙台市(宮城県)、千葉市(千葉県)、福岡市(福岡県)、箕面市(大阪府)の8地域。

カンファレンスにゲスト登壇した提携各社のコメント

写真12 「iD」の対応でメルペイと提携している三井住友カードの大西 幸彦 代表取締役社長は、「メルカリには1,200万のアクティブユーザーがいて、売上金を持っておられる。それをコンビニなど身近なお店で使ってもらえる。ユニークで、即戦力だ」と評価した

写真13 コード決済でメルペイとの提携を発表したジェーシービー代表取締役 兼 専務執行役員 営業本部長の前田 泰裕 氏は「JCBではこの春から、安全・安心な統一されたコード決済を『スマートコード』として提供していく。メルペイも当社のスマートコード加盟店で利用できるようになるが、今後も決済に限らず、多面的なパートナーシップを検討していきたい」とコメント

写真14 メルペイ対応加盟店135万店舗を代表して挨拶に立った、セブン-イレブン・ジャパン取締役 執行役員の石橋 誠一郎氏「セブン-イレブンのお店では、メルカリの『決済』『梱包資材の販売』『発送』すべてに対応したことになる。いまの時代に合っているからこそ、お客様が反応するのだと思う」と話した

写真15 カンファレンス会場にビデオレターで登場した経済産業省大臣の世耕 弘成 氏。「QRコード決済の乱立を防ぐため、産学官連携によるキャッシュレス推進協議会が今年度末までに統一ガイドラインの策定を目指している。メルペイがこれに連携を図ると聞いて、嬉しく思っている」と述べたほか、キャッシュレスのもたらすメリットをアピールした

写真16 同じくビデオレターから、IT・科学技術担当大臣の平井 卓也 氏。「メルカリは日本初のユニコーン企業であり、アメリカでも事業をがんばっている。このようなところが、日本のキャッシュレス化の先頭に立っていくということは素晴らしいことだ」とエールを贈った

メルカリ代表取締役会長兼CEO 山田 進太郎 氏のコメント

写真17 カンファレンスの冒頭に登壇して挨拶した、メルカリ代表取締役会長兼CEOの山田 進太郎 氏は「従来、中古商品を(データベース上の)カタログに接続するのは難しかったが、(メルペイのスタートで)これからは店舗からデータが出てくる。店頭で販売されたものがどのくらいの期間で売りに出されるか、どのくらいの金額になるのか、といったデータは有用だ。このような新たな価値を創ることを目指している」と話し、メルペイ投入によるデータ活用の広がりへの期待感をあらわにした

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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