ジェムアルトが顔認証やパスポートリーダー事業の国内展開へ本腰、5年以内に売上50億を目指す

ICカードメーカー世界最大手のジェムアルト(Gemalto)は、今年度から日本の公共分野向けビジネスを本格化させる。空港やホテル、免税店などに配備されるパスポートリーダー関連や、顔認証システムの売り込みを強化していく。9月に同社が開いた事業説明会で明らかにした。

■速度と精度が売りの顔認証システムは、ソフトウェアのみの供給も

 政府系の「セキュアドキュメント事業」で同社が最もアピールするのは、eパスポートの納入実績だ。実に世界で約40カ国以上(フランス、シンガポール、ノルウェー、イタリアなど)のeパスポート供給にジェムアルトが関与しており、今年になってからもイギリスのeパスポートを受注したところだという。
 この実績を生かして、eパスポートを含めたセキュアドキュメントの読み取りに対応する「ドキュメントリーダーソリューション」を展開している。昨年にはパスポートリーダーの世界シェアで50%を超える米・3Mコジェントを同社が買収し、体制が強化された(写真1)。パスポートリーダーの販売先は、空港に加えて、今後はホテル・免税店向け(来日外国人観光客)、地方自治体向け(日本国民向けパスポート交付システム)などへの販売に力を入れていく(写真2、3)

写真1 「gemalto」マークがプリントされたパスポートリーダーを空港で目にする機会は今後増えていきそう

写真2 読み取ったパスポート情報を表示

写真3 ICチップから読み込んだeパスポート情報と、MRZの光学識別で読み込んだ情報を並列に表示

 また、世界80カ国200拠点以上の政府系施設に採用実績があるという「生体認証ソリューション」では、民生向けとして、顔認証に特化したソリューションに注力する。
 同社の開発した「ライブ顔認証システム(LFIS)」の特長は、認識速度の速さと、認識率の高さ。ビデオ処理による顔認証システムで、監視者の介在なしで自動的に顔を認識する。1人の顔の複数の画像(m)を、大勢の顔(n)と照合する「m:n方式」を採用した(写真4、5)

写真4 画面右端のサムネイルから、筆者が複数の角度で「認識」されていることがわかる

写真5 あらかじめDBに登録されていたジェムアルトの酒匂氏が、「Sako」の赤文字表示で識別されている

 用途としては、入出国管理や警察、空港・鉄道などの交通機関といった政府系から、ビルの入退室管理、ホテルなど商業施設でのVIP/ブラックリスト管理、図書館や学校といった教育機関など、さまざまな利用場面を想定している。
 同社のLFIS販売におけるスタンスはソフトウェアのみを提供する方針のため、入退ゲートのメーカーや、SIerなどとも協業していきたい考えだ。

■ICAO基準のバージョンアップに追い付いていく

 こうした日本国内の公共分野向け事業で陣頭指揮を取るのは、日本セーフネット(2015年にジェムアルトが買収)の代表からジェムアルト・公共事業本部の本部長に就任した酒匂(さこう) 潔氏(写真6)

写真6 ジェムアルト 公共事業本部・本部長の酒匂 潔氏

 酒匂氏は現在のビジネスについて、「(現状の売上は)公共事業本部が発足した2017年8月以降なのでまだまだだが、ジェムアルトが米・3Mコジェントから引き継いだパスポートビジネスと、自動車業界向けの各種ラベル販売だけで、すでに数億円の商売になっている」と足元の状況を語る。
 これを「顔認証ソリューションに加えて、パスポートリーダもICAO基準のバージョンアップ(写真7)に追い付いていく準備が出来ており、3年以内にそれらの売上が十数億円規模になっていくことは間違いない。公共事業は足が長いと言われるが、向こう5年以内には50億円くらいの事業に育てていきたい」(酒匂氏)と自信を見せている。

写真7 eパスポートの技術仕様はICAO(国際民間航空機関)が規定している。ヨーロッパ、米国に続き、日本のeパスポートも近い将来には仕様が変更となり、現行の厚紙ページから、顔写真の掲載されたドキュメントページへとICチップの格納先が変更になる見通しだという

 

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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