pringでプリンを買って食べたいツアー in 北九州市、タクシーでは意外な支払い方法も

銀行口座からチャージができ、その残高を他の誰かに送金することもラクラク。しかも使い残した残高は何と手数料無料で銀行口座に戻せる、というのがスマートフォン決済アプリ「pring」最大の特長だろう。そんなpringがお店での支払いにも対応したと聞けば、ぜひとも使ってみたくなるのが人情。キャッシュレスな話題に貪欲な筆者がどうしてもpringで支払ってみたかったものとは・・・。

■プリングではありません・・・いよいよ実店舗決済対応に
 「pring」の日本語読みは、「プリング」ではなく、「プリン」が正解。こんな時代にしたり顔でキャッシュレスを語りたい貴方は、このあたりのケアレスミスには十分注意されたい。
 さて、メタップスやみずほ銀行などの出資により設立された株式会社pringが提供する「pring」は、法律上の整理では資金決済法の「資金移動業」に当たるサービスである。出資元に銀行が名前を連ねていることもあって、思わず銀行口座引き落としを利用したデビット払いのサービスではないかと誤解しがちだが、あくまで銀行口座からいったん仮想口座である「ウォレット」内にpring残高としてチャージ(入金)を行うことで利用するサービス形態だ。銀行口座からの入出金が可能なプリペイドカード、と理解しておけばよいだろう。
 そんなpring、今年(2018年)3月のサービス開始当初は個人間の送金に用途が限られていたが、6月には実店舗での決済に対応すべく、加盟店の募集を始めた。しかも決済手数料としてクレジットカードが真っ青の「0.95%」を打ち出し、決済業界の話題を集めた経緯がある。
 お店の支払いではQRコードを使用する。最近、巷でサービス増殖中の「QRコード決済」では、お客がスマホアプリを起動して画面にバーコードやQRコードを表示し、それをお店がバーコードスキャナーやタブレット端末のカメラを使って読み取るものが多い。これに対してpringでは、お店がタブレット端末などの画面に決済用のQRコードを表示し、お客はスマホアプリを立ち上げてこれを読み取る、という反対の手順になっている。

■銀行チャージのありえない速度に目を見張る
 こうして全国で加盟店営業が進んでいるであろう中、みずほ銀行、福岡銀行、西日本シティ銀行、北九州銀行が共同で、9月1日から12月末までの予定でpringの実証実験を行うことになった。対象エリアは、北九州市内のJR小倉駅周辺施設・店舗、大型商業施設、そしてタクシーなどだ(画像1)。このニュースを聞きつけて、さっそくJR小倉駅へ足を運ぶ筆者であった。
 最初に訪れたのは小倉城に隣接するおシャレなショッピングモール、「リバーウォーク北九州」。施設の至るところにpringのポスターやフラッグ、ちらし、アクセプタンスマークが掲出されていた(写真1、2)。インフォメーションセンターで尋ねると、全店舗ではないものの、大半の店舗に当たる約80店舗がpringでの支払いを受け入れているとのこと。
 はやる気持ちを抑えて、まずは事前準備としてpringの残高をチャージせねば。とスマホのpringアプリから「チャージする」を選ぶと、すぐさま金額の入力画面へ。希望金額を1円単位で入力して「pringにチャージする」をタップするとほぼ瞬時にチャージが完了する。通信中画面の挿入やアイコンがクルクル回ることもなく、「瞬時」の表現がふさわしい体感だ。入金額は最低500円から、1日に100万円までとなっている。「1日に100万円」の下りから、資金決済法を連想する読者も多いだろう。
 ちなみに、好奇心からチャージ元銀行口座の新規登録メニューを覗いてみると、おやおやサービス開始時点からはずいぶんと増えている。先述した4行のほか、三井住友銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行、近畿大阪銀行、東邦銀行と計9行がpringのチャージに対応していた(2018年9月20日時点)。
 これで準備は万全、あとはお店で「プリンで払います!」と告げるだけだ。

画像1 北九州市でのpring実験参加店舗(出典:pringの報道発表資料より)

写真1 pringのアイコンがまぶしいフラッグ。リバーウォーク北九州の向こうには小倉城

写真2 ショッピングモールの至るところにpringのポスターが掲示されている

■お店の表示したQRコードをお客さんがスマホで読む
 結局リバーウォーク北九州では、カフェと書店でpringによる支払いを体験した。決済処理はいずれも通常お店で使用しているレジではなく、pringの加盟店用アプリが導入されたiPadを用いて行われた。こちらから見える画面の印象からも操作自体は難しくなさそうに見え、また店員さんも慣れたもので、iPadへ購入金額を打ち込むと同時に表示されるQRコードをこちら側へ向けてくれ、「お願いします。」と告げられた。
 ここで筆者はスマホのpringアプリを立ち上げ、「お店ではらう」をタップ。するとカメラモードに切り替わるので、店員さんのiPad画面にスマホを向ける。QRコードにピントがあったと思った瞬間、お互いのデバイスに決済が完了したことが表示され、お互いにホッとする(下の動画)。pring自体の取引については紙のレシートが用意されていないようだったが、店員さんは通常レジのほうでも売上代金を打ち込んでいるのでそちらのレシートを発行してもらえる。これがあまりにスムーズで、しばらくpringの紙レシートをもらっていないことに気が付かなかったほどだ。もちろん、利用履歴はpringアプリからいつでも参照できるので、紙のレシートがないことの不利益はないように思える。
 なお、リバーウォーク北九州では施設の共通ポイントカードを発行していたが、pringの支払いでも、どの店舗も嫌な顔ひとつせずにポイントを付けてくれた。こういう細かな対応の可否がお客の気持ちに与える影響は意外と大きい。

動画 pringではQRコードを読み取った際に「ポンッ!」と鼓を叩いたような決済音がスマホ側で鳴って小気味よい

■pringで買いたいものといえば、やっぱりあのスイーツ!
 同様に、pringの実験エリアとなった魚町銀天街と旦過市場(北九州市小倉北区魚町)にも足を伸ばし(写真3)、pringで買い物しつつ、いくつかの店舗でpringの利用度合いを聞いてみた。みな一様に「まだ、そんなにpringで支払う人はいないです」とか「今日はお客さん(筆者)が初めて」などの声が挙がったが、気になったのは、今回のpring導入店舗のほとんどで「Alipay(アリペイ)」にも対応するアクセプタンスマークを掲出していたことだ(写真4、5)
 この市場にアリペイが導入され始めたのは最近のことで、「中国からの観光の方は、まだまだ銀聯カードを使う方が多いですね」と教えてくれる店主もおられた。北九州市におけるpringの導入とアリペイの導入の相関関係はわからなかったが、この地においてもQRコード決済といえば、国産のサービス対応だけでなく、やはりインバウンドの文脈で注目されることが多いのだろうと想像した。

写真3 魚町銀天街のアーケード

写真4、5 対応店舗ではpringとAlipayのアクセプタンスの組み合わせが目立った

 pringの旅の道中、筆者には隠れミッションがあった。それは、せっかくのpringの名前にちなんで、どうしても生洋菓子のほうの「プリン」を買って食べてみたいというものだ。そして旅も終わりに近付いた頃、ついに念願の「プリン」を販売しているpring対応店舗を発見することに成功した!
 ご覧の辻利茶舗さんである(写真6、7)。店内でゆっくりドリンクと一緒にスイーツを楽しむこともできるが、今回の目的はプリン一択だったので、ここは男らしくテイクアウトでお願いした。
 目当ての「とろけるプリン」は、ベーシックなカスタード以外に、ほうじ茶、抹茶とバリエーションが豊富。ここでは迷いに迷ったが、お茶屋さんの抹茶押し姿勢を尊重し、抹茶プリンを注文した。
 もうさすがに慣れてしまったpringでの支払い手順。ご覧ください、ショーケースの上での「pringとプリンの奇跡的な邂逅」を(写真8、9)。ミッションを終えて満足気分に浸りつつ、店員さんに聞いてみる。「pringはどうですか? 使う方いらっしゃいますか?」
 「あ、けっこう使われてますよ〜」。この日、初めて聞いたポジティブコメントに、「やはりみんなpringでプリンを買いに来るのかな」と、自身の選択が間違いでなかったことに安堵する筆者だった。

写真6、7 辻利茶舗さんの店頭風景。ショーケースには念願のプリンが!

写真8、9 pringでプリンをお買い上げしているところ。連続写真でご覧ください

■タクシーでは金額を自分で手入力し、運転手さんに見せる!
 北九州市で使えるようになったpring、その業態はお店が大半なのだが、北九州第一交通 小倉営業所のタクシー約80台(第一交通産業グループタクシー575台の内数)でも対応しているという。そこでタクシーにも乗り込んでみた(写真10)
 何とタクシーでは、お店のようなiPadによるQRコード表示でなく、車内にステッカーで貼り出してある紙印刷のQRコードを使用する方式になっていた(写真11)。乗車目的地まで着いて運転手さんにpringで支払いたい旨を告げた後は、お客が自分のスマホからpringアプリを立ち上げて、貼り出されたQRコードを読み込む。
 すると、画面が金額入力画面に変わるので、そこで運転手さんから口頭で告げられた乗車料金を自分で入力する(画面1)。入力を終えたら、「この金額をはらう」をタップすると決済完了を示す画面が現れた(画面2)。この画面に赤い文字で記載されているように、決済完了画面を運転手さんに見せ、目視での確認が済むと支払完了となる。あとは御礼を言ってタクシーを降りるだけだ。

写真10 タクシーの窓にpringのアイコンが登場

写真11 タクシー車内に貼り出された紙型のQRコード。助手席にも設置されている(出典:pringの報道発表資料より)

画面1 運転手さんから告げられた乗車料金を手動で入力する

画面2 この決済完了画面を運転手さんにしっかりと見せる

 こうして筆者のpringをお店で支払ってみる体験ツアーは、無事ミッションもクリアして終了した。途中で何度かpringの残高が足りなくなったが、その都度、細かく銀行口座からチャージして乗り切ることができた(画面3)。繰り返しになるが、特筆すべきは銀行チャージ時の手順の簡単さと処理のスピード。スマホに載る非接触IC電子マネーのそれとは次元の違う印象だった。あの手軽さが伴っていなければここまで細かく都度入金はしなかっただろう。
 世間にQRコード決済サービスがますます増え、どれも一緒くたに見えてきてしまいそうな今日だからこそ、実際に使ってみると「違い」を体感できることもしばしば。論より証拠。読者の皆さんもぜひ、使ってみてほしい。


画面3 利用履歴を振り返れば、そこには立派な旅の記録が生成されていた

写真12 購入したプリンはこの後スタッフで美味しくいただきました

 

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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