【LINEカンファレンス(2)】まだあるLINEの金融・決済領域での新発表 〜 独自トークン経済圏構想、電子チケット、仮想通貨取引所、家計簿アプリまで

LINEは6月28日、千葉県浦安市の舞浜アンフィシアターにて事業戦略説明会「LINE CONFERENCE 2018」を開催した。各事業分野から新しい発表が相次ぎ、4時間を超える白熱したプレゼンテーションが終わってみれば、同日にLINEが発表したプレスリリースは実に9本。その各所に金融・決済領域での新発表が盛り込まれた。
 本稿では、LINE Payの発表ニュースに隠れがちな、LINEの金融・決済領域での新発表を紹介する。

■■「金融サービスを利用者中心に『リ・デザイン』する」
 LINE Payにとどまらず、金融・決済領域での事業展開を重視し、さまざまな商品開発に余念がないLINE。同社の出澤 剛 代表取締役社長 CEO(写真1)は、「日本の金融領域は、参入規制や、事業資本の大きさなどがバリアになって、インターネット企業やスタートアップが参入できず、テクノロジーによる影響を一番受けてこなかった産業。しかし、ここへ来て、2020年に向けたインバウンド対策などの社会的需要、より本質的にはAIやブロックチェーン、ビッグデータ活用など大きなイノベーションの動きを背景に、日本も変わらなければ、という意識が生まれ、官民挙げて動き出している状況」と評価する。

写真1 LINE・代表取締役社長CEOの出澤 剛 社長

 その上で、「金融サービス自体、LINEのエコシステム全体にとっても非常に重要なサービス。日常生活にとってとても重要な『お金』にまつわるサービスを提供することで、スマートポータル上の各サービスのそれぞれを結びつけ、ユーザーの皆さんにさらに大きな付加価値をご提供できるようになるのではないかと考えている。(金融サービスを)利用者を中心に『リ・デザイン』して、ヒトと金融サービスの関係をよりよいものにしていく」との決意を示した(写真2)

写真2 今年のカンファレンス全体を貫くテーマは「リ・デザイン」

 こうした背景から、LINEは今後、LINE Payの決済・送金事業以外の投資、保険、資産管理、そして仮想通貨事業と、金融領域のサービスをさらに拡充していく。

■資産運用・投資分野でFOLIOと提携
 LINEの金融事業を担うのが、今年1月、新たに設立した「LINE Financial株式会社」(写真3)。資産運用、株式投資、保険などのさまざまな金融サービスを提供していく予定だ。

写真3 LINEフィナンシャルの目指す事業領域

 資産運用、投資分野では同じく1月に資本業務提携を行ったFOLIO社との協業(写真4)により、「使いやすさにさらに磨きを掛けた投資サービス」(出澤社長)を今年(2018年)の下半期中に提供していく計画だ。
 また、フルパッケージのオンライン証券サービスについては、今年1月に業務提携の検討を開始した野村ホールディングスと共同で提供していく予定とのこと(写真5)

写真4 投資分野でFOLIO社と提携

写真5 オンライン証券では野村ホールディングスと提携

■インシュアテック ー justInCaseとの協業で新しい保険商品を開発
 保険とITの掛け合わせにより生まれる「インシュアテック」の領域。LINEは今年(2018年)4月に業務提携を行った損保ジャパン(損害保険ジャパン日本興亜)とともに、損害保険のサービスを開発し、2018年度末までに提供開始する計画だ(写真6)
 これに加えてLINEは発表会の当日、新パートナーとして、justInCase社との提携を発表した。justInCase社と共同で、AIを用いた新しい保険商品を開発、提供していくという。

写真6 損害保険では損保ジャパンと提携

■「LINE家計簿」でPFMサービスにも参入
 「LINEユーザー7,500万人(国内月間利用者数)に向けた新しい家計簿サービス」(出澤社長)として、今年(2018年)秋から「LINE家計簿」(写真7)をリリースする予定。
 LINE Payを通じた金銭取引だけでなく、一般のクレジットカードや銀行口座などを通じた取引についても一元管理できる。

写真7 LINE家計簿は今年秋に登場予定

■LINE Payは『LINEの金融サービスの入り口』に
 LINEの金融サービスによる投資、LINE Payによる決済、LINE家計簿による家計と資産管理、これらの金融サービスが出揃うと、「お金に関する一連の流れがLINEのプラットフォーム上で完結することになる」(出澤社長)
 この中でもLINE Payについては「日常生活に最も近く、最も多くの利用者の方に利便性をお届けできる可能性が高いサービスであって、『LINEの金融サービスの入り口』になる」(出澤社長)と位置付けており、特に重視する考えを示している。

■仮想通貨同士の交換に対応する取引所を7月に開設、ただし日米を除く
 仮想通貨への取り組みでは、取引所を事業として展開していく。今年(2018年)7月に日本とアメリカを除く世界市場で、仮想通貨取引所「BITBOX(ビットボックス)」の運営を開始する(写真8)。「いわゆるクリプト to クリプト」(出澤社長)、つまり仮想通貨同士の交換に対応するのが特長で、ビットコイン、イーサリウムなど約30種類の仮想通貨から対応を開始し、順次追加していく予定だという。
 なお、蚊帳の外におかれた日本国内での事業展開だが、先述のLINE Financial株式会社が金融庁に対し仮想通貨交換業者登録のための手続きを進めており、現在審査中となっていることがその理由。アメリカを含め、これらの市場は「規制対応待ち」と言える状況になっている。

写真8 仮想通貨取引所「BITBOX」は日米を除き世界展開

■■コマース事業、メディア事業、AI事業周辺でも金融・決済関連の発表続々
 発表会の中では実際、ファイナンス事業にとどまらず、コマース事業(ショッピングサイト)、広告事業、メディア事業、AI事業(Clova)の発表中にも、金融・決済、およびその周辺の技術と深く関わり合いのある内容が多く含まれていた。ここからはテーマごとにピックアップして紹介する。

■独自トークン経済圏を構築し、ユーザーの貢献に十分な還元を
 発表会の中で、最もスケールの大きな発表となったのは、LINEがブロックチェーン技術を活用した独自トークン経済圏、「LINE TOKEN ECONOMY」(写真9)の開発に取り組んでいると発表したことだろう。同じくブロックチェーン技術を後ろ盾とする「DApps(ダップス)」と呼ばれる分散型のアプリケーションを提供していくという。

写真9 ブロックチェーンベースの「LINEトークンエコノミー」を構想

 「インターネットの登場により、『フリーミアム』の概念が生まれ、誰もが情報やコンテンツを無料で利用できるようになった。それと同時に、ユーザーはコンテンツを受け取るだけの受益者ではなく、ブログやソーシャルメディア、レビューサイトなどで自分自身がコンテンツを生み出す生産者になって、サービス自体に貢献する構造が生まれた。しかし、その行為に対して適切な報酬を還元する仕組みが出来ておらず、十分に還元できていない」(出澤社長)。
 こうした課題をLINEの発行する独自トークンなどにより解決していこうとするアプローチだ(写真10)。「ブロックチェーンの活用は、仮想通貨以外では、日常生活や大きなユーザーに影響を与えるような活用事例はまだないが、LINEらしいアプローチで取り組んでいきたい。これにより、ユーザーとサービスの関係を『リ・デザイン』していく(写真11)」(出澤社長)

写真10 ユーザーの「貢献」を還元する仕組みを提供

写真11 ブロックチェーン産業のリーダーを目指す

■電子チケットサービス「LINE TICKET」を今秋開始
 「LINE MUSIC」は月額制の音楽配信ストリーミングサービス。2015年に発表された当時、音楽配信の主流はダウンロード型だったが、その後各社からサービス参入が相次ぎ、同社の示した業界関連資料によると、この日本においても音楽事業ではストリーミング型がダウンロード型を上回っているという(写真12)
 LINE MUSICの2018年5月末時点の実績で言えば、月間アクティブユーザー数は970万(MAU)、配信楽曲数は4,600万曲、そして有料の月間ユーザー数(月間チケット購入者)は130万に上る。

写真12 日本の音楽配信市場は2018年第1四半期にストリーミングがダウンロードを逆転

 3年前のLINEカンファレンスでLINE MUSICのサービス開始をアナウンスしたLINE・取締役 CSMOの舛田 淳 氏(写真13)は、「3年前、月額制のストリーミングサービスは日本では流行らないと言われたが、今や、ストリーミングが日本の音楽業界を牽引している。そして、それを支えているのが『LINE MUSIC』」と胸を張った。

写真13 LINE・取締役 CSMOの舛田 淳 氏

 LINE MUSIC、音楽アーティストとの関連では、今年(2018年)の秋から電子チケットサービス「LINE TICKET(ラインチケット)」を提供すると発表した。紙のチケットを一切排し、100%電子チケットとすることで、不正転売などの興行チケットにまつわる現在の課題を解決していく(写真14)
 さらに、「LINE上で展開することによって、単にチケットの売買だけでなく、イベントの行われる前から終了した後を含め、イベントのすべてに絡む仕組み」(舛田氏)とする。

写真14 新たに開始するLINEチケットでは、チケット購入だけでなく、イベント後のフォローまで対応する

■公式アカウントとLINE@を統合、従量課金制に
 LINEの広告事業は、収益に占める構成比が2012年時点で6%だったものが、2017年には40%と大躍進を遂げている(写真15)。とりわけ法人向けアカウント(公式アカウント、LINE@)が大きな比重を占めているという。

写真15 LINEの広告事業は収益の40%を占めるまでに成長

 そして、従来は「公式アカウント」と「LINE@」の2つに分かれていた法人向けアカウントを1つに統合し、月額0円からスタートする完全従量制(pay-as you-go)に移行することを発表した(写真16)。従来の公式アカウントでは月額費用が250万円だったが、0円からとなる。代わりに、ユーザーへ配信するメッセージ数などに対して課金していくという(写真17)

写真16 公式アカウント」と「LINE@」の2つに分かれていた法人向けアカウントは月額0円スタートの完全従量制に移行

写真17 新・公式アカウントでは7月からスタートした「LINEポイントコネクト」も統合される

■LINEショッピングの新機能 − 撮影画像からAIが類似商品を検索して提示
 LINEの運営するショッピングサイト(モール)「LINEショッピング」(写真18)の会員登録数は2,000万人。今後はオフラインへ広げる戦略を掲げる。

写真18 LINEショッピングのユーザー動線

 「オンライン市場が8兆円であるのに対し、オフライン市場は150兆円とも言われる巨大マーケットだ。これまでは(オンラインとオフラインと)それぞれのアプリをダウンロードしてもらうのが大変という課題もあって、『O2O』はあまり普及してこなかった。そこでLINEがプラットフォームを提供することにした」(LINE 執行役員 O2O事業担当・藤井 英雄 氏)
 同氏によると、昨年12月にカタログ通販大手のディノス・セシールと組んで、LINEアプリを用いたDINOS実店舗での共通ポイント還元を試験導入(写真19)、決済手段も問わない方法とした。この実験成功を受けて、今年(2018年)秋にLINEショッピングとオフラインを統合した新サービスを開始する予定だという。

写真19 オフラインとオンラインのポイント統合をDINOS店舗で試験導入

 その際に組み込まれる機能の1つが「LINE Pay for ID決済」(写真20)。保有する「LINEポイント」をLINE Payでのオンライン決済時に利用可能なほか、一度登録した配送先や、支払いに使用したカード情報が保存され、以降はショッピングサイトごとに情報入力することなく買い物できるようになる。

写真20 「LINE Pay for ID決済」でLINEポイントの獲得と実店舗での利用をつなぐ

 そしてもう1つの機能が、「SHOPPINGレンズ」。AIのディープラーニングを応用し、利用者がカメラで撮影した写真画像から近似した商品をLINEショッピングから探し出して表示する機能だ(写真21)

写真21 「SHOPPINGレンズ」はAIによりカメラ撮影画像から近似した商品を探し出して表示する

 今後のコマース戦略では、LINEショッピングと「LINEデリマ(出前・宅配サービス)」、そして発表日当日からサービスを開始したオンライン旅行予約サービスの「LINEトラベル」(写真22)を加えた3本柱により「LINEコマースゲートウェイ」を提供していく。

写真22 例えば旅先で、急に雨が降ってきたら、LINEトラベルが予定を変更して代替プランを提示してくれるという

■6,300万人のID情報を活用し、ニュースを個人別に出し分け
 2018年6月時点でユーザー数6,300万人を突破し(写真23)、ニュースサイト利用者数で日本一となった「LINEニュース」。1日約4,900本のニュースを配信する国内最大規模のメディアに成長した。

写真23 LINEニュースは今年6月に月間6,300万ユーザーを達成

 メディア事業のプレゼンテーションの中では大変興味深い数字が初めて公開された。LINEユーザーの男女・年齢層別の実数内訳である(写真24)
 LINEでは他に、都道府県別(写真25)などユーザーの属性情報を広く把握していることから、今後は個人の趣味趣向に合わせてニュースや記事をパーソナライズ化した「My NEWS」を2018年中に提供していく。

写真24 LINEユーザーの男女別内訳(実数)

写真25 LINEユーザーの都道府県別内訳

 LINE 上級執行役員 メディア担当の島村 武志 氏は、「私には自信がある」と広い会場に呼びかけた上で、「LINEニュースにこれが出来るのは、6,300万人のLINEニュースユーザーについて、cookieベースでなく、100% IDベースで解析できるからだ」とその根拠を説明した。
 「読んだ記事によって選択肢が変わることがある。(LINEニュースで)明日の選択肢が変われば、人生が変わるかもしれない」(島村氏)

■「コマースは、音声だけではなかなか出来ない」
 LINEが昨年、販売を開始したAIアシスタントの「Clova(クローバ)」。今年の発表会では、音声認識機能の改善・向上、性格の多様化、「スキル(クローバでサードパーティ企業が提供できる拡張機能)」の開放、についてなどが解説された。特にLINEでは同様のサービスを提供する他社と比べて、AIアシスタントの「性格(キャラクター)」を重視している点が特徴で(写真26)、「私たちしか大事だと言っていないが、AIアシスタントには愛着が必要」(舛田・取締役 CSMO)という。

写真26 Clovaの「ミニオンズ」モデル。これが画面に表示された瞬間が、同日の発表会では最も会場が沸いた(筆者の体感による)

 これを追求した結果、AIアシスタントの音声にバリエーションを用意する必要性にたどり着き、通常では専門の声優による数百時間の録音作業が必要なところ、「DNN TTS(Deep Neural Network Text To Speech)」技術を併用することで、わずか4時間の音声収録で「Clovaの声色(こわいろ)を変更する」(舛田氏)ことが可能になったという。
 舛田氏は実機を使ってデモを披露し、自身の音声をベースとした「舛田Clova」を起動してみせた(写真27)。このように、簡単にClovaの音声を変えることができれば、「声優、アニメキャラクター、アイドル、恋人など、自分の好きな声を設定できるようになる」(舛田氏)

写真27 LINEの舛田 取締役 CSMOが、壇上で自身と同じ声色で喋る「舛田Clova」を起動

 ClovaはIoTのハブとなるべく、今年4月には家電操作と連携する「Clova Home」を発表済み。日本ではまだまだIoT対応していない家電製品が多いことから、クラウドを通じた連携だけなく、IR(赤外線通信)リモコンにも対応するのが特長だ。
 Clovaのスキルについては、7月中に作成機能(Clova Extensions Kit)(写真28、29)と開発センターを公開する。利用者が必要な機能を選んで呼び出せる「スキルマーケット」を今夏に公開する予定としている。

写真28 Clova Extension Kitを一般公開

写真29 Clova Extension Kitを使って開発する初期協業先

 Clovaと自動車との連携にも力を入れる。発表会当日には「Clova Auto」を発表、2018年冬から発売される「Smart Device Link(SDL)」に対応したトヨタ自動車の新型車から順次、Clovaが利用できるようになる(写真30)。運転しながら家の電気を消す、目的地の天気を調べる、LINEメッセージの受送信、LINEの無料音声通話、LINE MUSICで音楽を聴く、などの操作が音声で可能になる。

写真30 Clovaとトヨタ自動車が連携して「Clova Auto」を発表

 発表会にはトヨタ自動車・常務役員 国内販売事業本部 副本部長の長田 准 氏がサプライズ登壇し(写真31)、「トヨタは専用通信機の『DCM』を通じてコネクティッドサービスを提供していくが、そこでは『LINEマイカーアカウント』(写真32)を通じて、家の中にいても自動車と会話できるようにしていく。しかし、まだDCMを搭載していない自動車もあり、そこを『Clova Auto』(写真33、34)でやっていきたい」と話した。

 

写真31 トヨタ自動車・常務役員 国内販売事業本部 副本部長の長田 准 氏

写真32 『LINEマイカーアカウント』を通じて、家の中から自動車と会話できる

写真33 「Clova Auto」は2018年冬から提供開始

写真34 Clovaと自動車の連携フロー

 Clovaのプレゼンの最後に登場したのは、ディスプレイ付きのハードウェア「Clova Dock」だ(写真35)。表示画面だけでなく、画像認識機能や顔認識機能、IRリモコンなども搭載し、内蔵バッテリーにより持ち運びにも対応する。
 従来のスマートスピーカー型のClovaでも、音声によるネットショッピングは可能だったが、「コマースは音声だけではなかなか出来ない。例えばトイレットペーパーのような、いつも買っていて切れた時に補充するような場面では音声でもいける。しかし、初めて見るものを注文するには画面が必要」(舛田氏)
 「LINE Clovaはインターフェースを『リ・デザイン』する」とプレゼンテーションを締めくくった舛田氏。新しいインターフェースをまとったClova Dockは2018年の冬から発売される。

写真35 ディスプレイを搭載した新型AIアシスタント「Clova Desk」

 

 

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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