【レポート】ペイパルが銀行口座決済に対応、カードなし・カード嫌いユーザーを取り込めるか?

PayPal Pte. Ltd.(シンガポール法人)の東京支店は6月25日、東京都内で「新機能記者説明会」を開催し、新たに3つの機能を提供すると発表した。ペイパルを使って支払いを行うユーザー側の機能では、ペイパル口座に対して、従来のクレジットカードに加えて新たに銀行口座を紐付けできるようにし、即時での支払いを可能とした。これまでペイパルを敬遠してきたコンビニ払いユーザーなどの「現金派」を取り込みたいペイパルと、やはり現金払いの事業者側デメリットを払拭したいEC事業者の思いが一致した恰好だ。【本稿では発表された3機能のうち、1つ目の機能のみを紹介する】

■個人口座に限定、ペイパル口座への入金は不可
 ペイパルの仕組みは、売り手と買い手、それぞれが開設した「ペイパル口座」を通じて決済を行うのが特徴。一般のユーザー(消費者)はここでいう「買い手」に当たるが、ペイパルを利用するためには必ずペイパル口座を開設する必要がある。口座開設に当たっては支払方法を設定する必要があるが、これまではこの選択肢がVisa、Mastercard、Amex、JCBなどのクレジットカードかデビットカードに限定されていた。そのため、そもそもクレジットカードを持てない未成年層や、「カード嫌い」の人たちは登録画面を見た瞬間に離脱、コンビニ決済や代引きといった他の「現金系決済手段」を求める傾向が強かった。
 対して7月から可能となるのが、ペイパル口座への銀行口座連携である(写真1、2)。銀行口座の振替機能を利用することで、ペイパルでの支払時にリアルタイムでの銀行決済(銀行口座引き落とし)が可能となる。支払時の手数料は無料。対応する銀行は6行(みずほ・三菱UFJ・三井住友・りそな・埼玉りそな・ゆうちょ)で、翌8月までに順次サービス提供が始まり、ペイパルの個人ユーザーにアナウンスされていくという。
 なお、この機能は個人アカウントに限られ、紐付け先となる銀行口座も個人口座に限定される。また、銀行口座からペイパル口座への入金(チャージ)といったことはできない。

写真1 ペイパル口座が、銀行口座振替に新たに対応

写真2 ペイパル口座への銀行口座登録時の画面遷移イメージ

■加盟店も期待するペイパルの銀行口座払い
 今回新たに提供されるペイパル口座を通じた銀行口座決済に関して、ペイパルの「売り手」に当たる加盟店事業者の側では、特にシステム変更や改修することもなく、すべての加盟店で利用できる。
 ペイパルでは銀行口座決済導入による加盟店側のメリットとして、クレジットカードを持てない若年層の取り込みや、銀行振込結果と注文情報の突合が不要になること、リアルタイムで入金されるため未回収リスクが低いことなどを挙げる。
「(従来は)ネットでクレジットカード番号を使用するのが不安、ということで、コンビニへプリペイドカードを買いに走り、それから決済するような方もおられたかもしれない。しかし、そういった方々でも、これからはペイパルの銀行口座支払いを使ってもらえれば、その場で支払いを完了できる」(PayPal東京支店 ラージ・マーチャント統括 兼 ビジネス・オペレーション ディレクターの瓶子昌泰氏/写真3

写真3 PayPal東京支店の瓶子(へいし)昌泰氏

 記者会見場には、特に銀行口座決済機能の普及に期待を寄せるペイパルの協力パートナー(写真4)として、アールビーズ社とPeatix Japan社の2社より、担当者が応援に駆け付けた。

写真4 銀行口座決済機能の導入で連携するペイパルの協力パートナー(サービス自体はペイパルの全加盟店が対応)

 ランニング雑誌「月刊ランナーズ」の出版社として1975年に創立したアールビーズ社は、大会情報の発信や、ウェブ・アプリ開発、大会の企画運営・タイム計測といったイベント支援事業なども手掛ける。同社では各種大会のエントリー窓口にもなっているポータルサイト「RUNNET」(会員数280万件)を運営しているが、このエントリー時に選ばれる支払い手段として、現状はクレジットカードが6割に対し、コンビニ払いが4割を占めているという(写真5)
「4割のコンビニ払いを減らしてきたい。実は当社でも、過去に銀行口座引き落としサービスを提供し、利用者もおられたが、未回収時の運用負荷に耐えられず2013年に終了した経緯がある。それからずっと、『リスクなしに口座引き落としができないか』と探していた」(アールビーズ・企画開発部ディレクターの生駒佑人氏/写真6
 アールビーズ社では2018年8月に、RUNNET上でのペイパル銀行口座決済機能提供をリリースし、会員に対して大々的にアピールしていく予定だ。

写真5 コンビニ支払いの人気が根強い(RUNNET)

写真6 アールビーズの生駒佑人氏

 また、イベント管理・チケット販売のサービスとして知られる「Peatix」も、ペイパルの銀行口座決済機能に期待する1社だ。2011年にサービスを立ち上げたPeatixでは、スマホアプリやWebサービスを通じて、イベント集客の支援ツールとして、事前に電子チケットを販売し、主催者が簡単に集金できる仕組みを提供している。
「電子チケット購入時の3分の1強が『現金系』を利用しており、銀行口座振替の導入に期待している。Eコマースにおいては、決済手段が増えれば必ずコンバージョン(購入率)は上がる(写真7)。またクレジットカード決済にはチャージバックリスクがあり、事業者負担になっている。(銀行口座振替では)このリスクも格段に減るはず」(Peatix Japan共同創業者/代表取締役の岩井直文氏/写真8

写真7 現状の2種類から3種類へと、Peatix ユーザーの支払い選択肢は広がる

写真8 Peatix Japanの岩井直文氏

 さらに岩井氏は、銀行口座決済機能により代金がリアルタイムに入金される点も大きなメリットだという。「コンビニ払いだと、入金してからアプリやメールを通じた電子チケットの発券までに、どうしてもタイムラグが出てしまいお客さまを不安にさせてしまうことがあった。銀行口座振替ではそれがなくなる。ぜひ、われわれからも積極的に告知して銀行口座振替を普及させていきたい」とペイパルの新機能導入に期待を寄せている。

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。