学食内の「食券機前の行列」をなくしたい! 高校生が自ら開発したPayPayのモバイル注文システムが9月本格稼働へ

高校生の皆さんにとっては限られたお昼休み時間。食堂の前の食券券売機には長い行列。これに加わって待っていたら、食券を買えたとしても食べる時間がない。いいや、今日は学校終わってから何か食べようか。。そんな日常風景になってしまっていた課題に、現役高校生の2人が立ち向かい、PayPay対応のモバイル注文システムをわずか数ヶ月で開発してしまった。2学期の始まるこの9月から本格稼働する予定だ。

PayPay採用の決め手は「学内シェア」の大きさとWeb/アプリ内決済の可否に

 PayPayは8月26日、この9月から学校法人 私立開成学園(開成高等学校、以下「開成高校」という)の食堂で導入されるモバイル注文Webアプリ「学食ネット」に決済方法として「PayPay」が採用されることが決定したと発表した。PayPayの加盟店契約は、PayPay社と食堂の運営会社であるトラスティフードとの間で締結する。
 モバイル注文Webアプリ「学食ネット」は、開成高校に在籍する現役の高校生が開発した。これまで同校の食堂では、お昼休み時間になると2台ある券売機を通じて注文を行い、発券された食券を持って配膳口に並ぶ運用だった。しかし、約1,200人が在籍する開成高校の全校生徒のうち、1日に約400〜500人が食堂を利用するため、30〜40人は常に並んでいるのが日常の光景だった(画面1)。結果、食事がお昼休み時間に間に合わなくなり、早食いをしたり、お昼ごはんを食べられない生徒もいたという。

画面1

 こうした課題に違和感を持ち、自分たちで解決策を考えようと声を上げたのがコンピューター部と卓球部を兼部する高校3年生の秋山 弘幸さん。これに、運動会のWebサイト制作などの経験があり、同じくコンピューター部に所属する高校2年生の周 詩喬さんが応じ、2人による企画提案とシステム開発が今年4月からスタートした(写真1)

写真1 モバイル注文Webアプリを開発した秋山 弘幸さん(左)と周 詩喬さん(右)。事前に実施したプレ導入の体験者からは「おこづかいをPayPayでもらっているので、そのまま学食の支払いに使えて便利」「券売機に並んで買うのと違って、後ろの人を気にせずゆっくりメニューを選べるのが良い」などのコメントがあったそう

 数ある決済サービスの中からPayPayを選んだ理由は、事前に全校生徒を対象に実施したアンケートの結果に基づいているという。その中ではPayPayの保有ユーザー数の多さが突出していて、全体の7割がPayPayアプリをインストール済みで、週に1回以上PayPayを決済に利用していることがわかった(画面2)
 さらに、この検討では食券機を省略し、スマホからの「モバイル注文」を実現しようとしていたこともあり、Webやアプリ内での決済に対応していない交通系IC(電子マネー)や、一般的には18歳以上が持つとされるクレジットカードとの対象年齢の差などが決め手となり、PayPayの採用に至ったという(画面3)
「(PayPayを選んだ理由は)アンケートの結果で生徒の60%くらいが日常的に利用しているなど、シェアが高いところ。交通系も検討したが、APIを公開していなかったり、より開発がしやすそうということでPayPayになりました」(秋山 弘幸さん)

画面2

画面3

開発で苦労した点は「決済後リダイレクト時の例外処理」

 実際の開発がスタートしてからは、PayPayが開発者向けに公開している「Open Payment API(Application Programming Inrterface)」が活用された。ウェブペイメントのSDKを使用するドキュメントやREST APIのドキュメントを参照し、決済・返金処理が実装された。
 PayPay側では単にAPIを公開するだけでなく、開発者向けの問い合わせフォームを用意するなどして、エラー解決の支援にも対応した。
 特に、周 詩喬さんがWebアプリ開発で苦労したのは「例外処理」だったという。「PayPayの決済が終わった後のリダイレクトの処理。もしかしたらそこでユーザーがPayPay(アプリ)を閉じちゃって、次に遷移しなかった場合の処理などに対応するところが大変でした」。周さんも、実際に開発者向けの問い合わせフォームを使ってPayPayの技術者による支援を仰ぐ機会があったそうだ。
 完成したモバイル注文Webアプリの使い方はわかりやすい。スマホでWebアプリを開くと、その日に販売中のメニューが表示される(画面4)。注文したい料理を選ぶとカートに保存されるので、すべて選び終わったら決済画面へ。「PayPay」を選択すると、PayPayアプリが決済金額を引き継いだ形で自動で立ち上がる。ここで「支払う」を押すと、購入済み食券一覧の画面で、購入した料理を確認できるようになる(画面5)。この状態では実際の配膳準備はスタートしないので、食券を購入するのはお昼休み時間に限られることがなく、10分休憩などの際に購入しておくこともできる。

画面4

画面5

 その後、食事をしたいタイミングで食堂の配膳場所へ向かい、先ほどの購入済み食券一覧の画面から「注文する」を選択する。すると5分間有効の電子食券画面が表示されるので、これを食堂スタッフに見せて、料理を受け取る流れとなる(画面6)

画面6

 注文以外の機能も充実しており、厨房に設置されたタブレットで各料理について「販売中」と「売り切れ」を選択することで、生徒の注文画面にリアルタイムで「売り切れ」情報を反映できるという。
 「学食ネット」でのオンライン注文とPayPay決済は、9月の2学期開始と同時に本格稼働を予定している。利用できるのは当面は高校生だけで、開成学園の中学生や教職員は利用できない。これは、対象利用者数の増加により混雑が見込まれるため、当初は高校生向けのみで導入してみて、課題が生じなければ対象を広げていく考えから。既存の2台ある券売機もこれまで通り、並行して運用していく(画面7)
 開発した2人は、システムの本格稼働後も利用者の声を聞きながら機能追加や改善を行っていきたいと話している。

画面7

学園祭へのPayPay導入希望先はすでに昨年を超える

 登録ユーザー数は6,500万人を超え(2024年8月現在)、2023年度の決済取扱高は12.5兆円(PayPayカードを含む)と、日本のキャッシュレス市場を牽引するポジションにあるPayPay。伸びしろのある若年層(画面8)へのアプローチとして、「学校」へのキャッシュレス価値の提供を次なるターゲットに据えている。

画面8

 集金にかかる校務負担や、現金を用意する手間、盗難・紛失リスクなど、学校行事のさまざまな場面に共通する課題となっている現金の取扱に対して、全国の私立・公立学校を対象にPayPayの導入を働きかけている。加えてPayPay証券を通じた出張授業などの取り組みも合わせ、高校生への金融教育のサポートにも注力している。
「象徴的なのは学園祭へのPayPay導入だ。昨年は20校に実施いただいたが、今年はそれを超えるお問い合わせ件数をすでに頂いている」(PayPay 執行役員・エンタープライズ営業第1本部長の高木 寛人氏/写真2

写真2 PayPay 執行役員・エンタープライズ営業第1本部長の高木 寛人氏

 そんな高木氏が、現役高校生によるモバイル注文Webアプリ開発に感じている手応えは2つあるという。「1つは、学校内部からのニーズを起点として動き出していること。学校という場に対して外部からの営業はしづらく、見えづらさを感じていた。しかし、学生自らが課題を設定し、その解決のために学校側や食堂事業者を巻き込んでいることがある。そしてもう1つは、PayPayのオープンAPIを採用いただいていること。われわれは当初から外部にオープンに公開していこうと取り組んできた。そこに学生さんが自らこの情報にアクセスし、実装しているところが素晴らしい」
 学校のキャッシュレスに限らず、若年層の取り込みに向けては、オンライン加盟店の拡大(画面9)などの施策にも積極的なPayPay。「オンラインでの支払いが当たり前になっている世代」(高木氏)は、これから確実に次の主役を担っていく世代でもある。それだけに、決済サービスにおける若年層へのアプローチは今後ますます盛んになっていきそうだ。

画面9

 

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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