どっち向きにも挿せる「両挿し」決済端末がPAXから登場、ディスコン発表のA920後継機種は日本だけの全面フルディスプレイに

設立から6年目を迎えたPAX Japanは12月5日、日本オフィスの移転と事業開始6年目を記念して、メディアなど業界関係者向けのイベント「i3」を開催した。来年の販売開始を予定する人気モバイル決済端末の後継機種「A920MAX」の日本モデルをはじめ、最新の端末ラインアップを報道陣に公開したのだが、これがまた決済端末好きには実にたまらない内容で・・・。

両向き読み取りに対応するのはICカードだけでなく・・・

 ICカード、それもカード券面に金属の端子面が付いた接触型ICカードは、端末に挿し込んで使うようになっている。その挿し込むときに一瞬、カードを入れる向きに迷ったことはないだろうか。そんな心配はもうご無用。どちらの向きでも接触型ICカードを挿せる決済端末が登場した。
 PAX Japanが新たに投入する「Elys(エリス)タブレット『A3700』」がそれ(写真1)。考えてみれば、どちらの側面にもリーダライタ(読み書き)の機能を設ければ実現可能なわけだが、USBケーブルであれば表裏どちら向きでも挿せる「両挿し」タイプを見かけるものの、どちら向きでも挿せる「両挿し」対応の決済端末は少なくとも筆者は初めて見た(写真2、3)。PAX Japanの担当者も「当社調べではあるが、おそらく世界初だと思う」と口を揃えるが、果たして「決済端末の接触型ICカード部分がどちら向きでも挿せるか」を専門に調査するミッションは世界中見回してもあまり多くなさそうなので、真偽のほどは定かではない(他に目撃情報があれば編集部まで情報お寄せください)。

写真1 決済端末の「Elysタブレット(A3700)」。思わず持って帰りたくなる可愛らしさ

写真2 表からの挿し込みはもちろん・・・

写真3 裏からの挿し込みでも問題なく接触型ICカードを読み取る

 ただ、タブレットの外観をよく見ると、ICカードだけでなく、磁気カードのスロットも、表と裏のどちらの向きでもスワイプできることを示すアイコンが付いているではないか(前出の写真1)。つまり、接触型ICカードだけでなく、磁気カードを含めて「どちらからでも読める」仕様になっている。実際の利用場面を思い浮かべ、店員側とお客側のそれぞれの方向から決済カードの処理を自然に扱えるような配慮がされた結果なのだろう。
 実はこの「両挿し」部分。元々開発者の発想にはなく、Pax Japanからの提案によって実現したものなのだという。日本ならではの手厚い「おもてなし」感覚が、具体的な機能となって、世界中の決済端末の使い勝手を向上させていくとすれば痛快だ。
 なお、ElysタブレットはPAXが店舗運営ソリューションとして提供する一連の「Elysシリーズ」を構成する1つの要素になっている。店舗のPOSレジとして利用できる「Elysステーション」(写真4)をはじめ、専用のプリンターや、店員間のビデオ通話にも使えるコードスキャナーなど、必要な周辺機器(写真5)をハブ(Elys Hub)を通じることで連結して使用できるのが特長だ。

写真4 「Elysステーション」をPOSレジ、「Elysタブレット」を決済端末として、連携して使用する

写真5 「Elysシリーズ」を構成する周辺機器群

日本版A920「MAX」は、海外モデルとこんなに違う

 香港に本社を置くPAX Technologyの日本法人、PAX Technologyは2000年の創業以来、7,900万台(2022年末時点)を超える決済端末をグローバルに供給する世界屈指の決済端末メーカー。その日本支社として2017年に設立されたPax Japanでは、PAX社製の決済端末の販売をはじめ、自社でのソフトウェア開発人材の育成、決済アプリケーションの開発、ソリューション導入後の障害対応、修理・交換などのアフターサービスまでを展開している。
 2017年6月に設立されたPAX Japanは、日本ではファミリーマート全店に導入された特徴的なピンパッド端末「Q28(写真6)」を皮切りに展開をスタートした。その後、投入されたAndroidベースのモバイル決済端末「A920」は、折しも日本政府が進めるキャッシュレス推進の波にも乗って、決済はもちろん、ポイントカードの処理などの用途にも採用された。販売代理や、自社の独自サービスを提供するパートナー企業の充実も手伝って、日本国内のお店で本当によく見かけるようになった端末といえる。

写真6 ファミマの店頭でおなじみの「Q28」。磁気カードも上から挿すオペレーションは今も斬新

 しかし、決済端末にも「寿命」はある。「寿命」にもいろいろあるが、最も注意が必要なのは決済端末のセキュリティに関する国際標準規格「PCI PTS」への準拠具合である。現行のA920の場合、PCI PTSは「バージョン5」に準拠しているが、その認定期間が2026年4月30日をもって期限切れとなるため、2025年6月末の発注をもって端末の製造を終了(ディスコン)することが今年11月に発表されている。修理などの保守サポートはそこから向こう3年間、2029年3月末まで提供されるが、A920を導入している加盟店はいずれ端末の交換を検討する必要が生じる(画面1)

画面1 A920現行機の今後の取り扱いに関するフロー

 このタイミングでPAX Japanが来年(2024年)から新たに販売開始するのが、A920の後継機種に当たる「A920MAX」(写真7)。もちろん、PCI PTSの「バージョン6」に準拠している。ちなみにPAX(PAX Technology)は、PCI PTSなどクレジットカード情報の安全性に関する国際標準規格を定める団体、PCI Security Standards Council(PCI SSC)から、今年5月末にアジア太平洋地域の決済端末ベンダーとしては初めて同協会のボード・オブ・アドバイザー(BoA)に任命され、就任している(任期は2年)。
「730団体の中から投票によって54団体がBoAに任命される。規格のドラフト版をいち早く見てもらって投票いただくなど、協会の意思決定にも参加いただく重要な役割」(PCIセキュリティ・スダンダード・カウンシルのアソシエイト・ダィレクター 日本の井原 亮二氏)

写真7 大画面が特長的なA920MAX

 さて、「A920MAX」(以下「MAX」)との命名は、あたかも「あの話題のスマホ」の最上位機種のようなネーミングだが、その名が示す通りさまざまな面で使い勝手がA920から改良されている。しかも、ここでも「日本モデル」として海外モデルとはだいぶ異なる特徴や機能が盛り込まれている。
 Android10ベースとなったMAXの最も目立つところは大画面ディスプレイ。そもそも従来のA920が5インチだったところ、MAXでは6.5インチまで大型化した(写真8)。しかも海外モデルでは画面上部に従来と同様のベゼルが残されているため6.1インチどまりだが、日本モデルではこれを振り払っての全面ディスプレイとなっている(写真9)

写真8 左が現行のA920、右が新モデルのA920MAX

写真9 A920MAX。左が日本モデルで、右が海外モデル。画面サイズの違いは歴然

 バッテリーも改良され、長寿命で低消費電力の「リン酸鉄リチウムイオンバッテリー」を採用したことで従来モデルに比べて充電回数を減らせる見込みだ。また、リサイクル資源を使用した梱包資材の活用によりプラスチック使用量を10%低減、環境への負荷も軽減させた。
 さらに聞いて唸ってしまったのが、端末側面にさりげなく用意された「ストラップホール」。これも海外モデルには実装されていないが(写真10)、日本では店員が持ち歩いたりする際に落下防止用にストラップを通して使用するニーズが大きく、日本だけの特注仕様として設けられた。どうやら、「日本固有の事情に対応すること」はもはやPAXの得意技となっているらしい。

写真10 端末を側面から見たところ。左の日本モデルが備えるストラップホール(端末左下の切り欠き)が、右の海外モデルには用意されていないことがわかる

 PAX Japanではこのほか、想定する商品ラインアップ(画面2)のうち、唯一提供できていなかったという「カウンタートップ」、つまり「据置端末」のカテゴリーに対して、新たにAndroid11ベースの決済端末「A8700」を投入する(写真11)。こちらももちろんPCI PTS「バージョン6」に準拠しており、店員側とお客側の双方にディスプレイが設けられている。また、防塵・防水機能として「IP67」を取得した強靭なボディを持つ「A6650」や、廉価版のモバイル決済端末「A960」(写真12)なども投入し、念願のフルラインアップ体制を日本でも確立する。

画面2 Pax Japanの想定する端末カテゴリー

写真11 PAX Japan、初めての据置型決済端末「A8700」はAndroid11ベースの決済端末

写真12 こちらもPCI PTSバージョン6対応のモバイル決済端末「A960」

 PAX Japanでは、来年も東京ビッグサイトで開催されるリテールテックJAPAN(2024年3月12日〜15日)にブース出展を予定しているという。最新の実機に触れてみたい読者は、こちらも要チェックだ。

写真13 Pax Japan・代表取締役社長の常山 宏彰社長は「2017年に立ち上がった当社も今年で6年目。次回のリテールテックJAPANでは、過去最大規模でのブース出展に向けて準備している」と意気込みを見せる

写真14 PAX端末の製造は中国・広州にある自社工場と委託先工場で行われているが、「日本市場向けには検品をもう一度(国内で)やらねば出荷しづらい事情もあり、2020年1月には川崎に国内倉庫を設置するなど、品質の維持に努めてきた」とPax Japan・営業マーケティング本部 本部長の弘中 督久氏は説明する

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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