ChatGPTはじめ今をときめくAI・スタートアップも支えるStripe、日本市場でも「ネットワークトークン」提供へ

ストライプジャパンは4月13日、Stripeの最高収益責任者(CRO)を務めるマイク・クレイヴィル(Mike Clayville)氏の来日に合わせて、東京都内でメディア向け事業説明会を開催した。新たにストライプジャパンの代表取締役に就任した平賀 充(ひらが・みつる)氏も登壇して、同社ビジネスの最新状況や提供する新サービスの情報について紹介した。

22年も前年比26%の成長、顧客は超・大手からスタートアップまで

「景気が後退局面と言われる中で、世界中の企業がトップライン(売上高)の向上と、同時に経費を抑えることに挑戦し続けている。チェックアウトの自動化など、金融サービスのアプリをサービスに埋め込むことでまったく新しいビジネスモデルを生み出す一方で、リピートできるような企業内の単純なタスクを自動化する。あるいは管理を一元化することでデータの価値を高め、時間を削減する。こうしたデジタル変革に取り組む企業を、今後もStripeは支援していきたい」
 同社CROのマイク・クレイヴィル氏(写真1)はこのように話し、Stripeが単に企業のEコマース販路の運営支援にとどまらず、企業のDX化に貢献するサービスを開発、提供していく姿勢を示した。

写真1 Stripe 最高収益責任者(CRO)のマイク・クレイヴィル氏。カウボーイハットは、同氏の生まれ育った牧場コミュニティにおける「助け合い精神の象徴」との気持ちから着用しているそう。「目指すべき『インターネットのGDP拡大』も、牧場経営と一緒でコミュニティが重要だ」と話した

 Stripeの世界売上は2022年も好調だ。同社が処理した年間決済額は8,170億ドル(約107兆円)で、対前年比の成長率は26%の増加だった。新規ユーザーの数も19%の増加、その導入地域も全体の55%がアメリカ国外が占めるに至った。これらの売上を支えるのがStripeの技術開発力で、2022年の1年間に同社では実に244の機能と、336のAPIをアップデートしたという。
「営業日ベースでいえば1日に1機能をリリースした計算になる。2019年以降、米国ではスタートアップ(への採用)が44%増加しているが、お客様を最優先に取り組んできた結果だ」(ストライプジャパン・代表取締役の平賀 充氏/写真2

写真2 ストライプジャパン 代表取締役の平賀 充氏

 同社の採用先企業のうち、100社が年間10億ドル(約1,310億円)以上の取り扱いがあることからもわかるように(画面1)、大手企業へのサービスにも定評のあるStripeだが、スタートアップ企業の支援にも注力。スタートアップの設立時からの支援を手厚くしている。「Stripe Atlas(アトラス)」と命名されたサービスがそれで、起業にあたって直近で必要となる会社名(商号)の検索から、「83(b)申請書」(アメリカの税務規定)の事前記入、シードキャピタルを伸ばすためのクレジットパッケージなどの機能が利用できる。

画面1

 他にも、スタートアップ企業向けの新機能として、リンクを共有するだけで世界20以上の決済方法から選択して利用できる「Payment Links」の提供を開始しているが、すでに生成されたリンクは1,000万を超えている。QRコードの表示やクーポンコードの追加も可能だ。
「岸田首相が次の5年で(スタートアップへの)投資を10倍にしていくことを表明するなど、日本政府が今後ますますスタートアップ支援に乗り出す方針を打ち出したことに興奮している」(クレイヴィル氏)
 このように、Stripeでは今後もスタートアップ支援を強化する一方で、ビジネスの実態としては、現在の同社の顧客企業5社のうち1社は超の付く大手企業が占めている。
 国内におけるStripeの採用事例としては、トヨタ自動車が展開する自動車部品のマーケットプレイスや、全日本空輸(ANA)のマイレージアプリ「ANA Pocket」、DeNAが提供するコンビニ決済対応のEコマースサイトなどがある(画面2)
 また、スタートアップ支援では昨年9月に東京・渋谷区と連携協定を締結。完全栄養食として話題の「BASE FOOD(ベースフード)」や、クラウドで人事・労務業務のサービスを提供する「SmartHR」などでもStripeが採用されている。

画面2

話題の「ChatGPT」も、Amazonの決済も、Stripeを採用

 人工知能(AI)を用いたチャットボット、「ChatGPT」でいま世間の耳目を集める「OpenAI」も、Stripeを採用する企業の1社である。「公開から5日で100万ユーザーを獲得したChatGPTでも、最初からStripeを利用していた」(平賀氏)
 深層学習モデルの「DALL・E」と、有料版の「ChatGPT Plus」において、その決済にStripeを利用している。また、Stripeの側でもOpenAI社が提供する「GPT-4」を使って新たなツールの構築に取り組むなど、協業関係にあるという。
 OpenAI以外にも、AI関連企業(「.ai」がドメインにつく企業)のStripe採用率はうなぎのぼりだ(画面3)
 また今年1月にはAmazonとグローバルでの提携を発表。Stripeがクラウドにアマゾン ウェブ サービス(AWS)の利用を拡大するとともに、アメリカ、ヨーロッパ、カナダにおいて「Prime(Amazonプライム)」、「Audible」、「Kindle」、「Amazon Pay」、「Buy with Prime」などAmazonの決済処理をStripeが担う役割分担となっている(画面4)

画面3

画面4

 日本市場にフォーカスしてみると、昨年、2022年にStripeを導入し始めた社数全体の約2割が大手や老舗の企業が占めた。また、国内採用企業の全体の取扱量のうち、約12%が越境ビジネス、つまり国際決済に利用されているという。
「大手との提携にはDXへの対応が必要だ。変化の著しいマーケットだが、お客様のニーズに寄り添って成長を果たしていきたい」と平賀氏は語る(画面5)

画面5

「EMV 3-Dセキュア」、「ネットワークトークン」に標準対応

 平賀氏と並んでストライプジャパンの代表取締役を務めるダニエル・へフェルナン氏(写真3)からは、Stripeの提供するサービスに関する最新情報が紹介された。

写真3 ストライプジャパン 代表取締役のダニエル・へフェルナン氏

 Stripeといえば、オンライン決済処理のためのサービスの印象が強いが、あわせて財務経理や会計処理などのバックオフィス業務を自動化するための支援ツールの提供にも注力している。説明会では、AmazonやSnowflakeのクラウドとデータを同期・統合する「データ移行(Data Pipeline)」、見積もりから契約書の基盤作成、帳簿の締め処理までサポートする「収益認識対応(Revenue Recognition)」、Stripeのダッシュボード上にパートナーとして自社で開発したアプリを提供できる「アプリマーケットプレイス(Stripe App Marketplace)」、の3つが紹介された。
 また、決済機能の面でも、ECサイトの「カゴ落ち課題」を解決するECページの最適化や、オーソリ(信用承認・与信確保)成功率を向上するための機能を提供する。オーソリの改善では、機械学習モデルを使ってカードイシュアー(カード発行会社)に拒否された支払いをリアルタイムに再試行したり、さまざまなカードイシュアーに対して同時に試行する。これらの方策によって、実際に改善が見られるという(画面6)

画面6

 他方、ECマーケットの足下では、非対面カード決済における不正利用拡大に歯止めがかからず、その対策が待ったなしの状況にあるが、Stripeの決済プラットフォームはすでに「EMV 3-Dセキュア(3-Dセキュア2.0)」に対応済み。同社が提供する上位のパッケージプランにはEMV 3-Dセキュアがすでに組み込まれているが、加盟店の要望によって高額の取引だけにEMV 3-Dセキュアを適用するなど、柔軟な運用が可能だという。
 さらに、取引の際にインターネット上を流れるカード番号を、別の番号に置き換えて管理することで情報漏洩時のリスクを極小化する「ネットワークトークン」についても、国際決済ブランドが日本で対応を開始する今年10月をにらんでサービスを提供する予定だ。
 「従来の仕組みの裏側でStripeがネットワークトークンを導入しておき、必要に応じて自動的に(トークン変換への)ルーティングを入れることができる。これによってコンバージョン率(購入達成率)も向上させられる」(ヘフェルナン氏)
 ネットワークトークンを導入する効用として、セキュリティの向上以外に、ECサイトに登録しておいた決済カードが有効期限切れを迎えた場合でも自動的に最新のカード情報を保持できるような付加価値も提供できるという。
 カード決済に加えて、日本市場に特化した「コンビニ決済」「銀行振込」の機能を昨年、2022年に提供開始したStripeだが、今後も国内ニーズに寄り添ったソリューション拡充に取り組んでいく方針だ。

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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