コロナ禍受けICカードの国内生産数量が減少に、一体型カードが初めて非接触ICカード越え

 ID認証技術推進協会(JICSAP)がこの7月に公表した「ICカード生産調査」の結果、2020年度に国内で生産されたICカードの枚数が前年割れとなったことがわかった。コロナが流行るとなぜ、ICカードの新規発行ニーズが減るのか。またICカードの種類別に見た場合、増減にはどのような出来事が影響しているのか。公表されていないICカードの利用分野別内訳に想像を膨らませつつ、仮説を立てて検証する。

対前年比166%と、唯一大躍進を遂げた一体型カード

 一般社団法人 ID認証技術推進協会(JICSAP)が7月に公表した「ICカード生産調査」の結果から、2020年度(2020年4月〜2021年3月)に国内で生産されたICカードの枚数が前年割れとなり、種類別では大きく数量を減らした「接触ICカード」と「非接触ICカード」に対して、「接触IC・非接触IC一体型カード」(以下、「一体型カード」という。カードに搭載されるICの個数が1チップの場合、2チップの場合の両方を含む)が大きな伸びを見せたことがわかった。一体型カードは「ICカード生産調査」が始まって以来、初めて非接触ICカードの生産数量を上回った。
 同調査結果によると、2020年度のICカード全体の生産数は約2億4,945万枚で、前年比86%だった。内訳を見ると、接触ICカードが約1億1,163万枚で、前年比79%。それ以上の落ち込みを見せたのが非接触ICカードで、約6,786万枚の前年比64%となった(グラフ1/表1)

グラフ1/表1 2020年度まで過去5カ年の国内ICカード生産状況推移(出典:「ICカード生産調査」ID認証技術推進協会(JICSAP)、注:2017年度下期に調査対象社数が変更(減少)となったため、2016年度と2017年度の統計数字には連続性がない)

 ICカード全体のトレンドが減少傾向に見える中、対照的に増加したのが一体型カードで、約6,996万枚の前年比166%にまで生産数を増やした。数量拡大の理由の1つには、マイナンバーカードの発行枚数増があると思われる。日本政府は、キャッシュレスの普及推進施策との掛け合わせで、2020年9月からマイナポイント事業を展開した。マイナンバーカードと紐付け登録したキャッシュレス決済サービスを使用すると、チャージ(入金)や支払利用に対して25%分の還元が受けられるとあって、これを目的にマイナンバーカードの発行を希望する人が急増。その成果もあってか、今年の5月5日には、マイナンバーカードの交付済枚数が3,814万6,771枚となり、2016年に発行を開始してから初めて交付率30%に達している。
 総務省の集計数字によれば、2020年3月1日時点の交付枚数が1,973万752枚だったので、以降の1年強で倍増した計算になる。これが一体型カードの生産増を促した背景の1つであることは間違いないだろう。
 それ以上に、ここ最近、身近でよく見かけるようになった一体型カードが、クレジットカードやキャッシュカード(デビットカード)といった金融・決済系のカードだろう(画面1)。この背景には、Visa、Mastercardなどの国際決済ブランドを搭載したカードに、非接触ICで支払える機能が追加搭載されるようになってきたことがある。Visaが「タッチ決済」と呼ぶサービスが代表的だが、他の国際ブランドを含めて、カードやスマートフォンを決済端末にタッチしたりかざすだけで支払いを完了できる「コンタクトレス(Contactless)」は、世界中を見回してみても、今や当たり前に利用されるサービスとなった。

画面1 非接触ICでの決済機能を搭載したキャッシュカード(デビットカード)の例。))))のマークがコンタクトレス対応を表している(出所:PayPay銀行のWebページより)

 この流れが、ついに日本にも上陸したのがまさに2020年だったといえる。これまでもiDやQUICPay、交通系IC、楽天Edy、WAON、nanacoといった非接触IC決済機能を1枚にあわせて搭載するクレジットカードやデビットカードはあったが、今回との違いは、Visa、Mastercardなどの国際決済ブランドが付帯するすべてのクレジットカードやデビットカードに標準搭載されるようになってきたこと。海外で発行されたカードであっても、日本の対応加盟店でそのままタッチして支払えることも特徴だ。もっともコロナ禍による外国人観光客(インバウンド)の激減や五輪の開催規模縮小など、関係者が描いていた「2020」のシナリオは大きく変わってしまったが、決済インフラが大きく変わろうとする流れを止めるまでには至らなかったということだろう。
 また、日本におけるコンタクトレス対応はデビットカードから先行して始まったことが特徴的だったが、2020年にはクレジットカードでも1枚のカードで接触ICと非接触ICの両方に対応することが一般的となったことから(画面2)、一体型カードの生産枚数が大きく伸びたものと推察される。
 このように、公共系のマイナンバーカードと、金融・決済系のクレジットカード、キャッシュカードの発行ニーズが大きく増加したことが、2020年度に一体型カードの大躍進をもたらした要因といえそうだ。

画面2 非接触ICでの決済機能を搭載したクレジットカードの例。))))のマークがコンタクトレス対応を表している(出所:三井住友カードのWebページより)

外出自粛、在宅授業/勤務による定期券の新規購入減が影響か

 その一方で、2020年度に大きく生産枚数を減らしてしまったのが非接触ICカードである。そしてその主たる要因は、コロナ禍の影響と決め付けてしまってよさそうだ。
 コロナが流行るとなぜ非接触ICカードの新規発行ニーズが減るのか。最初に連想されるのが、Suicaに代表される「交通系ICカード」だろう。交通系ICカードにも、クレジットカードなどとの一体型カードは存在するが、数量で見れば圧倒的に単体の非接触ICカードが多い。
 2020年度に交通系ICカードの新規発行枚数が減少したことを証明するために、一例としてJR東日本(東日本旅客鉄道)の公表している鉄道運輸収入のデータを確認してみよう。在来線で大きな比重を占める関東圏について、売上金額の対前年比推移を追ってみると、近年は前年比微増で推移してきた売上が、2020年度は対前年比の62.6%と、大きく落ち込んでしまったことがわかる(表1)
 その内訳は、「定期(券)」が73.7%で、「定期(券)外」は実に55.2%。まさにコロナ感染拡大対策としての「不要不急の外出自粛」が直撃した数字といえる。数字の落ち込み度合いでいえば、切符を購入したりSuicaに事前入金して利用する「定期(券)外」が劇的だが、今回のテーマである「非接触ICカード生産数の減少」の観点からすると、より大きな影響を与えていると思われるのが「定期(券)」の利用減少だ。
 なぜならば、通学や通勤といった生活スタイルの変化に伴って新規にカードを発行するニーズが高いのは、繰り返し入金しながら利用する純粋なSuicaカードよりも、定期券を利用するのが一般的と考えられるからである。毎年繰り返される新入学、あるいは就職に伴って、一定量がコンスタントに新規発行される定期券が、外出自粛やオンライン授業、あるいはテレワークの影響で買い控えられた。このことが非接触ICカード生産数の大幅減につながった、という仮説には納得感がないだろうか。

表1 JR東日本における鉄道運輸収入の対前年比推移(出典:東日本旅客鉄道「鉄道運輸収入データ」/注:「関東圏」は全12支社のうち、東京支社・横浜支社・八王子支社・大宮支社・高崎支社・水戸支社・千葉支社管内をいう)

非接触IC電子マネーの発行枚数はなぜ減った?

 単体の非接触ICカードが採用されたサービスといえば、次に思い浮かぶのは「電子マネー」だろう。ここでは日本銀行が毎月公表している統計レポート『決済動向』から、「プリペイド方式のIC型電子マネー」の最近の状況について見てみよう。
 グラフ2から電子マネーの容れ物となる非接触ICカードの発行枚数自体は2020年も純増が続いていることがわかるが、前年からの1年間に上乗せされた新規発行枚数としては、それまで3,000万枚台付近で推移していたものが2020年に入ると2,000万枚台の前半にまで落ち込んでいる。外出自粛のため、出先で新たに電子マネーのカードを作るニーズが減ってしまったのではないか。ここにもコロナの影響が色濃く表れているようだ。

グラフ2 IC型電子マネーの発行枚数推移(出典:日本銀行『決済動向』、注:プリペイド方式のうちIC型の電子マネーが対象。調査対象先は8社(楽天Edy、SUGOCA、ICOCA、PASMO、Suica、Kitaca、WAON、nanaco)で、交通系は乗車や乗車券購入に利用されたものを含まない)

 ところで、コロナ禍が非接触ICカードベースの電子マネーに与えた影響については、外出自粛による利用機会減少の一方で、決済端末にタッチするだけで支払いが完了する衛生的なキャッシュレス手段である側面をとらえて、むしろお店での利用が促進された側面もある。そのあたりの効果はどうだったのだろうか。
 利用場面の代表例としてコンビニエンスストアにおける電子マネーの利用傾向を確認すると、もう1つの傾向が見えてきた。件数ベースの数字ではキャッシュレス推進協議会が、セブン‐イレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンの大手コンビニチェーン3社からの情報提供を受け、キャッシュレス支払件数に各手段が占める割合(グラフ3)を公表している。これを見ると、2019年1月時点でキャッシュレス全体の8割を超えていた電子マネー(ただし、「iD」「QUICPay」を含む)の比率が、2021年3月には5割を切って49.1%まで下がってきている。代わって比率を伸ばしているのが、2019年の中頃から本格的に広がり始めたコード決済。同じ直近の2021年3月時点で38.2%と、電子マネーを猛追している。
 新たに電子マネーを使い始めようとしていた消費者のいくらかが、コード決済に流れたであろうことも、非接触ICカードの減少につながる要因として指摘しておきたい。

グラフ3 コンビニにおける月間キャッシュレス支払件数に各手段が占める割合(出典:一般社団法人キャッシュレス推進協議会 https://www.paymentsjapan.or.jp/news/publications/20210604-cvs-payment-trends/

世界のICカード出荷状況にコロナ禍はどう影響したか

 非接触ICカード(前年比64%)ほどではないものの、接触ICカード(前年比79%)の生産数も2020年度は落ち込んでいる。接触ICカードの減少理由として1つハッキリしているのは、先に見たように、これまで接触ICカードで発行されてきたクレジットカードやキャッシュカード(デビットカード)といった金融・決済系のカードにコンタクトレスで支払える機能が標準的に搭載され始めたことだろう。接触ICカードのうち、そう少なくない枚数が一体型カードに移行したことの影響の表れと考えられる。
 一体型カードが金融・決済系カードの正統進化形であるという理屈に立てば、プリペイドカードを含めて今後もこの傾向が続いていくことが予想されるため、接触ICカードの生産枚数はコロナの有無に限らず減少していくものと思われる。事実、本記事冒頭のグラフ1で接触ICカードの近年の推移状況を見ても、生産枚数は前年割れの状況が続いており、その傾向を裏付けている。
 ところで、このようなコロナ禍を受けたICカード生産数量の減少や変化のトレンドは、日本市場に特有のものなのだろうか。いま世界のICカード出荷状況にはどのような変化が起きているのだろうか。
 ヨーロッパのICカード産業にまつわる業界団体であるEurosmart(ユーロスマート)は今年6月22日に「(ICカードやICデバイス向けにセキュリティチップを供給する)デジタルセキュリティ産業も国際的な半導体不足の影響を受けている(Digital Security Industry affected by global chip shortage)」との声明を発表した。
 この中で、「安全な支払い(決済カードなど)」、「安全なモバイル通信(SIM/eSIMなど)」、「セキュアIoT」、「個人のセキュアID(国民IDカードやパスポートなど)」に向けて、2020年には90億個を超えるセキュリティチップが採用されたことを明らかにしている。その上で「Covid-19危機にも関わらず、セキュリティチップの需要は引き続き増加しており、パンデミックが克服されればさらに増加する可能性がある」と強気な見方を示す。
 同団体では昨年12月にも「2020 and 2021 outlook」を公表し、セキュリティチップの出荷状況と予測を明らかにしている(表2)。この時点でも「Covid-19があっても、セキュアエレメントの強靱な世界的な出荷需要を確信している」とコメントしている通り、コロナ禍を受けた形での出荷減は想定していないようだ。
 もちろん日本と世界とでは、規模はまったく異なるとはいえ、今回のようにICカードの生産数量や出荷数量の面で差が付いたことは、世界と日本におけるICカードの使われ方に違いが出て来ているようでもあり、これはこれで興味深いテーマとなりそうだ。

表2 欧州Eurosmart予測によるセキュアエレメントの分野別世界出荷予測(単位:100万ユニット、出典:Eurosmart https://www.eurosmart.com/2020-and-2021-outlook/

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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