7月3日、ユーシーカード(以下、UCカード)は、大日本印刷(以下、DNP)と協力し、MasterCardが提供するウォレットサービス、「MasterPass(マスターパス)」を日本で初めて導入すると発表した。導入にあたり、UCカードは全国2,000以上の美容院に美容サロン情報サイト「Salon de Net」を展開するハイパーソフト社と協業し、MasterPassのAPIに準拠する「UC Wallet(名称未定)」を開発、DNPがそれに対応した「Salon de Wallet(美容サロン情報スマートフォンアプリ)」を2014年末から2015年初頭に提供する。
●2~3回のクリック、タップで決済が可能に
MasterPassのウォレットサービスとは、リアルやネットでの支払時にクレジットカード情報や住所などの個人情報をその都度入力することなく、最低限の操作(2~3クリック)で決済が完了する決済サービスである。決済だけでなくポイントやクーポン、プッシュ通知による送客機能も持ち合わせている。
使用方法は、MasterPassにIDとパスワードを設定後、カード情報と住所を登録し、データをクラウド上に保存する。登録できるカードの種類は、現時点ではJCB以外の国際ブランドが付与されたカードであれば、クレジットカードやデビットカード、プリペイドカードでも登録できる。カード情報はクラウド上に保存されるためPCやスマートフォン、タブレットからでも利用可能だ。
ECサイトでのMasterPassを利用した購入では、決済方法選択画面で表示される代金引換、銀行支払い、カード支払いなどと並んで決済方法の1つとして「BUY WITHMasterPass」のアイコンボタンが表示される。アイコンをクリック後、MasterPassのIDとパスワードを入力し、カードと商品配送先住所を選択、4桁のPINコードを入力するとクラウド上のカード情報を引き出し決済が完了する。
●MasterPassと他社チェックアウトサービスの違い
MasterPassの決済方法はチェックアウトサービスと呼ばれる海外の「Pay with Amazon」、日本での「楽天ID決済」、「Yahoo!ウォレット」などのID紐付け型決済サービスに類似している。違うのは、上記の3つのサービスではクラウド上にあるカード情報をECサイトには送らないためセキュリティが高いが、MasterPassはクラウドにあるカード情報をECサイト側に送るためマーケティングに活かすことができる点だ。
このことをMasterCardマーケット・デベロップメント部門担当上席副社長の広瀬 薫氏(写真①)は「MasterPassは消費者とMasterPass加盟店を結ぶトンネルと考えていただきたい」と説明する。他社のサービスと比べて特筆すべきは、1年弱でMasterPass加盟店を全世界で4万店以上に拡大させた国際ブランドであるMasterCardならではの汎用性、国際性だ。
なお、MasterPassはECサイトに国際ブランドのアクセプタンスマークがあるカードでしか決済できず、MasterPassのクラウド上に保存してあるカードブランドとECサイトが契約していない場合、そのカードは利用できない。
MasterPassの導入検討に際して、企業は、①「MasterCardのブランディング・ホスティングで提供する形」、②「ブランディングは企業独自の、ホスティングはMasterCardが行う形」、③「ブランディング、ホスティング、共に企業が独自に行いMasterCardからAPI提供を受ける形」の3通りから選択しウォレットサービスを導入できる。
●実店舗でのワレット決済にはQRコードを利用
今回発表されたスマートフォンアプリ「UC Wallet(名称未定、写真②)」はMasterPass導入方式の、API提供を受ける方法で開発されている。クーポンや情報配信などの付加価値をUCカードのウォレットに追加するため、DNPと、DNPが提携しているシーサム・ジャパンがASP方式によりMasterPassに対応した「Salon de Wallet(アプリ)」をUCカードに提供する。
「Salon de Wallet(アプリ)」はすでに全国2,000店以上の美容院に展開されており、会員情報の一括管理やネットでの美容商品の購入に利用できる(リアルでのカット料金をMaterPassの機能で支払うほか(クーポン配信などにも今後対応予定) 。
なお、「Salon de Wallet(アプリ)」での支払いには、「UC Wallet(名称未定)」と「Salon de Wallet(アプリ)」の2つのアプリをダウンロードしておく必要がある。発表時にはSalon de Walletをリアルの場面で使用するデモが行われ、決済にはQRコードを用いていた。
場面は、美容院で髪を切っている客がレジに行かずに、施術中に決済するというもの。店側はタブレット内のSalon de Walletアプリを立ち上げ、お客のカット料金情報をQRコードとして生成し、タブレット画面に表示する。一方のお客は自身のスマートフォンからSalon de Walletアプリを起動する。メニューから「BUY WITH MasterPass」を選択すると、自動的にUC Walletに切り替わるので、あらかじめ登録しておいたクレジットカードを選択。「QRコードスキャンで決済」ボタンから、カメラで店頭のタブレットのQRコードを読み取り(写真③)、4桁のPINコードを入力すると決済が完了する。
●Walletサービスで乗り遅れるな! UCカードの危機感
「UC Wallet(名称未定)」と「Salon de Wallet」の提供について、UCカード・事業開発部長の中野征治氏(写真④)は「このサービスにより事業領域の拡大を目指す」と発言した。UCカードはWalletサービスを既存の決済事業者にとって脅威になり得る存在と認識している。
Walletサービスが普及すると、Walletサービス事業者が加盟店に決済機能や送客機能を提供し、カード会社はWalletサービス事業者に対して決済機能を提供するだけの存在となりかねないことをUCカードは危惧している。UCカードは、Walletサービスのプラットフォームを築き、加盟店への付加価値の提供とオムニチャネル化へ対応する構えだ。
ところで決済時のアプリ起動やPINコード入力、カード情報・住所の登録、スマートフォンの電池切れの心配などの利用ハードルを超えて、現在お財布に入っているクレジットカードや電子マネー、デビットカードを手放してまでMasterPassを使用するかどうかは消費者次第である。Walletサービスが広く普及する可能性について、広瀬氏は「MasterPassがどう消費者に受け取められるかはわからないが、その状況を見ながら受け入れられるようMasterPassを変えていく。どの決済方法を選ぶかは消費者に委ねたい」と話している。
【記事関連企業:MasterCard、ユーシーカード、大日本印刷、シーサムジャパン】
2014-07-30