PayPalはこのほど世界11カ国のモバイルコマースに関する調査結果を取りまとめ、公表した。モバイル端末を使用したオンラインでの購入や決済のことを示す、いわゆる「モバイルコマース」の単語は世に出て久しいが、日本の利用状況はどこまで進んでいるのか?
また、越境ECやソーシャルコマースを取り巻く現在のトレンドについて、年間数十億件のモバイル取引を処理するというPayPalが解説した。
日本でも消費者の73%がモバイルコマースの利用経験あり
調査は日本を含む11カ国(日本、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オーストラリア、ブラジル、メキシコ、インド)の2万2,000人の消費者と、4,600の加盟店(事業者)を対象に実施した。特に今回の調査のキーワードとして、「モバイルコマース」「海外オンラインストア」「ソーシャルコマース」の3つに注目したという(写真1)。
調査を実施したPayPalでは、グローバルで年間約60兆円の取引を担っているが、「スマートフォン、タブレットといったモバイル端末からの決済比率が年々増えており、今や取引全体の4割を占めている」(PayPal Pte. Ltd.東京支店・加盟店営業部 部長の野田 陽介氏 /写真2)のが実態だという。
日本でもその傾向は同様で、オンラインでの購入や決済にモバイル端末を使用したことのある消費者の割合は全体の73%に上る(写真3)。平均単価は約8,000円で、これは国別で見れば世界第4位という極めて優秀な結果と言える。
しかし、その一方で事業者側のWebサイトやアプリがモバイル向けに最適化されているかどうかを尋ねた調査結果からは、「最適化している」と答えた事業者が全体の49%にとどまり、世界平均の63%を下回る状況が明らかになった(写真4)。PayPalではこのギャップを埋めることが重要ととらえており、あわせて特に日本の消費者向けには「セキュリティ」や「信用」への不安を解消することが必要と提言している。
一口にモバイルコマース(モバイル端末を使用したオンラインでの購入や決済)といっても、その決済方法は国によって異なる。モバイル端末での決済方法を聞いた調査の結果(写真5)は、あえて「PayPal」が高順位に付けた国を優先的に並べているため中立的な表とは言えないが、それでも欧米豪におけるPayPal人気の高さがうかがわれる。
決済方法としてPayPalが選ばれたとはいえ、その具体的な支払方法としては、PayPal残高や、PayPalアカウントに紐付け登録したクレジットカード/デビットカード、銀行振込など多岐に渡り、また、国によってそれらの内の利用度合いはまた異なっているそうだ。ちなみに日本の場合には、モバイル端末でよく使われる決済方法として、クレジットカードや代引き、コンビニ払いなどが上位を占め、PayPalは後塵を拝する状況にあるそうだ。日本のPayPal利用においても、その内訳としてはクレジットカードが大半を占めており、最近対応を始めた銀行口座払いなどがこれに続く状況になっているという。
越境EC最大の懸念材料は、「物流」から「ウェブサイトのセキュリティ」へシフト
「海外オンラインストア」の利用状況調査からは、国をまたいだeコマース形態である「越境EC」の現状が垣間見える。消費者側の越境ECの利用意向については、特にイタリア(76%)、スペイン(75%)、オーストラリア(74%)などで高く見られるが、日本の消費者の利用意向は20%と、調査した11カ国中では最も低い結果となった。その障壁となっているのは、ウェブサイトのセキュリティに関する懸念が最上位の40%で、以下、高額な配送料や郵便料金、納期の長さ、と続く(写真6)。「従来は購入商品を配送する物流が懸念材料だったが、近年の変化としてセキュリティに変わってきた」(前出の野田氏)
また、SNSや動画共有サイトなどの利用や行動をきっかけとしてオンライン購入に至るeコマースの形態を近年は「ソーシャルコマース」と呼ぶが、この利用傾向についても日本が世界平均を下回る状況が浮き彫りになっている(写真7)。「Z世代」として括られる18〜24歳の若者がソーシャルコマースを一番良く利用しているとの結果は、デジタル環境に慣れ親しんで成長した世代として当然とも言えるが、ここでもやはり、これらのニーズに比して事業者側の対応が十分でないことが日本の課題になっていることが推測されるという。
そこでPayPalでは、「デジタル世代、若い世代に使ってもらいたい」(野田氏)との狙いから、動画サイトなどと連携した導入例を積極的に増やしていき(写真8)、ユーザーニーズに応えていきたい考えだ。