ファーストキッチンと日本コンピュータビジョン(JCV)は12月1日、都内で共同記者会見を開催し、今月15日から都内3店舗で一般利用者を含めた実証実験を行う「顔認証決済」のサービスを披露した。顔認証決済の事例では、これまではクレジットカードを紐付け登録する仕組みが多く、サーバー管理型プリペイドにも対応する例はまだ多くない中で、同社のハウス電子マネー「マイファーストカード」にも対応した。実際の操作感や、将来のサービス拡張イメージをお伝えする。
15日から都内3店舗で実験、登録すれば誰でも体験できる
顔認証決済実験は、有人レジではなく、顔認証用のカメラを追加搭載した専用のセルフレジKIOSKで対応する。利用者はあらかじめファーストキッチンの登録用Webサイト(画面1)にアクセスし、スマホなどを使って顔情報の登録を行っておく必要がある。最初に顔写真を撮影(画面2)して送信した後に、氏名を入力して利用規約に同意する。次に、顔認証決済の際に利用したい支払方法を登録する。
支払方法は、同社のハウス電子マネー「マイファーストカード」か、決済カード(Visa・Mastercard・JCB)のいずれかから選択が可能(画面3)で、それぞれカード番号などの情報を入力して登録する。支払方法は後からの変更も可能だ。
ここまでの準備が済んだら、都内の実験店舗へ向かおう。ウェンディーズ・ファーストキッチンのお店は、赤坂見附店、渋谷センター街店の2店舗。ファーストキッチンは自由が丘店の1店舗が対応している。実は12月1日から関係者限りでサービスが始まっているが、いずれも一般利用客が使えるようになるのは12月15日以降なので、くれぐれも勇み足に注意したい。
実際のセルフレジKIOSKの利用手順を動画に収めているので、まずはご覧いただこう。
動画 店頭セルフレジKIOSKでの顔認証決済の操作手順
来店してKIOSK端末の前に立つと、まず最初に問われるのは「店内飲食」か「持ち帰り」か。どちらのボタンを選んでも、この瞬間にKIOSK端末上の目線の高さにある顔認証端末の画面が変わって来店客の顔をスキャン、顔情報が登録済みかどうかをデータベースに照会する(写真1)。この「1回目のスキャン」の際にはマスクをしていても大丈夫だが、ほんの一瞬のうちに終わってしまうので、見逃さないようにしたい。
顔情報が登録済みのユーザーであれば、「顔登録ありがとうございます。」の文字表示が現れ、ここから先の表示画面が顔認証決済専用のものに切り替わる。今回の実験では、顔認証登録者限定で「VIPクーポン」が利用できるため、あわせて告知される(写真2)。それ以外のお客は通常画面のまま遷移していく。
ここから先はタッチパネルを使って注文商品を決めていく(写真3)。すべて選択し終わったら、お支払いボタンをタッチして進む。画面は支払方法の選択画面に変わるが、「現金」「クレジット」「電子マネー」「バーコード決済」「My First Card(マイファーストカード)」と並んで「顔認証決済」のボタンが用意されているので、タッチして選択する(写真4)。
ここで「2回目のスキャン」がスタートする。顔認証端末のほうの画面にマスクを外す指示が文字とグラフィカルに表示されるので(写真5)、この案内に沿って、マスクを装着している場合にはマスクを取り外す(写真6)。すると次の瞬間に顔認証が行われ、成功すれば決済が完了。別に暗証番号を入力するなど追加認証の手順は不要だ。注文番号の表示とともにレシートが発行されるので(写真7)、これを持ってカウンターへ赴けば、用意でき次第、商品を受け取ることができる。
来店前にあらかじめ顔情報や支払い情報を登録しておく必要がある点は確かに手間だが、これは最初の一度だけのこと。2度目以降の来店利用では一切意識する必要がなく、注文の際、手元にスマホやカードやお財布を出しておく必要すらなくなるので、ハンズフリー注文を堪能できるだろう。まさにファーストキッチンのお店を使えば使うほど、便利さを強く実感していけるサービスといえる。
顔認証技術の提供にソフトバンク系のJCV、ハウス電子マネーも顔認証に対応
共同記者会見には、顔認証決済のサービス開発と提供に携わった各社も参加した(写真8)。顔認証の技術や、最大2,000万人の顔認証情報が登録可能なクラウドサービスを提供するのが、ソフトバンク子会社の日本コンピュータビジョン(JCV)。同社では日本における顔認証決済への展望として、ポイントカードや決済カードなどと連携した「顔認証ウォレット」の提供を志向する。セキュリティの向上や、決済連動による業務効率化だけでなく、マーケティング活用も視野に入れる。
プラネットは2017年からファーストキッチンの全店でPOSシステムを導入。現金志向が根強いというファストフード業界向けとして、現金をはじめマルチ決済に対応するセルフオーダー式のKIOSK(ファストフード)も同社が開発した。ファーストキッチンではKIOSKの使用率が80%を超えている店舗もあるという。
そして、サーバー管理型のハウス電子マネー(プリペイドカード)である「マイファーストカード」を2019年5月から提供しているのがバリューデザイン。プラスチックカードタイプに加えて、2020年10月からは事前注文・決済に対応するモバイルオーダー機能付きのハウス電子マネーアプリも提供している。この「マイファーストカード」も、顔認証決済に対応した。
その先に見据えるのは、顔認証と連携した「1on1」
今回の実店舗での実証実験は12月15日から来年2月28日までが予定されている。実は第1フェーズとの位置付けから顔認証決済の検証を中心とした項目となっており、利用客の属性や利用傾向に即したメニュー、特典のカスタマイズといったマーケティング活用は組み込んでいない。しかし、顔認証と、同社のハウス電子マネーである「マイファーストカード」では、過去に蓄積済みの利用実績データを含めて連動できるため、第2フェーズ以降は顔認証情報と連動した「パーソナライズ」についても検証していく予定としている。
こうしたマーケティングへの期待は、ファーストキッチン側に大きい。ファーストキッチン・代表取締役会長のアーネスト・M・比嘉氏は「さまざまな業種でDXの重要性が注目されているが、当社のようなチェーン店の場合には、店長も変わることがあるし、スタッフもアルバイトに頼っていることもあり、充分なおもてなしができない。これを改善するためにDXが生かせるのではないか。顔で決済できる利便性、言うなれば『顔パス』の導入によって、外食の本来のおもてなしが提供出来るかチャレンジしていく」と話し、外食チェーンでは日本初となる顔認証決済の導入をアピールした。
また、ファーストキッチン・代表取締役社長の紫関 修(しせき・おさむ)氏も、同社がセルフレジKIOSKやモバイルオーダーの導入において業界に先立って先行投資(導入)してきた実績に触れ、近い将来のサービス拡張に期待を込めた。「ファストフードの使命は、もちろん早く商品を提供することだが、これに加えてDXにより1on1のマーケティングサービスが提供できるのではないか。『ベーコンを1枚足して欲しい』のようなリクエストを受けたり、アレルギーや好みに応じて素材を抜いたりすること自体は現在も可能だが、口頭でお伝えいただくなど手間がかかり過ぎている。これを顔認証でぜひ実現したい」
ほんのちょっと前まで、「お店の外にまで溢れ出てレジに並ぶお客さんの行列」はファストフード店の象徴だったが、デジタル化の工夫によりそんな時代は終焉を迎えつつある。その一方で、失われてしまったお店の「おもてなし」を取り戻せるか。外食産業がデジタル化で解決すべき次の課題がはっきりと見えてきたようだ。
<関連URL>
「顔認証決済」実証実験開始のお知らせ – First Kitchen 2021年11月1日