日本でHCEを初採用した銀行ATMから、手数料1.8%のQRコード決済まで〜金融国際情報技術展 FIT 2018レポート

10月25日と26日の2日間、「金融国際情報技術展 FIT 2018」(主催:日本金融通信社、共催:金融ジャーナル社、CMC)が東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催された。今回で18回目となる会場には国内外のベンダーやメーカー198社が出展。金融業界関係者に向けた提案が中心の展示会だが、NFCやQRコードといった、利用者のスマホインターフェースを有効活用しようとするソリューションも目立った。

 

銀行ATMの国内初・商用NFCは「HCE」で実現

 大日本印刷のブースで目を引いたのが、イオン銀行ATMに対応するスマートフォンアプリ「スマッとATM」のサービス紹介。あらかじめ自身のイオン銀行口座を登録しておいたスマホアプリを起動して引き出したい金額を入力、ATM画面から「スマホお取引き」ボタンを選択してATMに内蔵されている「WAONリーダー」にスマホをかざす。その後、画面の誘導に沿ってATM側に暗証番号を入力すると現金が引き出せる。出金だけでなく、預金の預け入れや、カードローンの入出金がキャッシュカード不要で利用できる便利なサービスだ。

▲イオン銀行ATMのWAONリーダーにかざす。FeliCa専用と思われていたこのリーダーがNFC TypeAにも対応していたことを実感する瞬間

 このサービス開発を大日本印刷が支援している。活用したのはスマホのNFC(Near Field Communication)機能。しかも、「セキュリティ情報はスマホ本体内の専用ICチップに保存する」というNFCでは一般的な運用方式の採用を見送り、Googleが定めた「HCE(Host Card Emulation)」仕様に基づいて、セキュリティ情報をスマホ本体ではなくクラウドサーバで管理する方式により開発した。
 このため「スマッとATM」の利用可能環境はAndroid 5.0以降の「NFC TypeA搭載機種」に指定されている(いわゆる格安スマホでも要件を満たしていれば利用が可能)。そもそもHCEはAndroid 4.4から対応が始まった仕様だが、「国内メーカーから出ているスマートフォンの一部で動作しないケースがある」(大日本印刷のブース担当者)ことに配慮し、5.0以降を対象機種とした。
 ブース担当者の説明によると「仮に、非対応機種でアプリをダウンロードしても、アプリがその機種のHCE対応可否を自動判別し、『この機種では利用できない』とメッセージを出すようになっている」そうなので、自分の機種が利用できるか不安な人は一度アプリをインストールしてみるとよいだろう。
 この事例、そもそも銀行ATMが商用でNFCに対応すること自体が本邦初の画期的な出来事なのだが、その第1号がよりにもよって「HCE」を採用したことは、もっと報じられるべきニュースだと感じた。なお「スマッとATM」に対応しているイオン銀行ATMの台数は、今年8月末現在で2,400台。順次、対応台数は増えていく予定だ。

▲国際ブランド付きプリペイドカード(口座)で決済する際に、残高不足分だけ銀行口座から即時に口座振替で自動入金するサービス。金融機関が個別開発するのに比べて導入負担を軽減する(大日本印刷)

銀行アプリにQRコード送金機能を追加

 NTTデータでは、同社が金融機関向けに提供しているモバイルバンキング用スマホアプリの雛形アプリである「My Pallete」に、更新系APIを活用したQRコード送金サービスを追加する提案を行っていた。
 従来の振込に必要だった振込先相手の口座番号情報の伝達や、画面への手入力をQRコードなどを介することで省略できる。送金相手と対面でやり取りができる場合にはQRコードを互いのスマホアプリでやり取りし、送金相手に非対面で連絡する場合にはメッセージアプリと連携することで送金手順を簡略化できる。
 「My Pallete」は現在、約20の金融機関のスマホアプリに採用されている。QRコード送金は順次サービス提供を開始し、まずは同一行の利用者間での送金利用から可能になる見込みだ。

▲通常利用している銀行アプリから簡単にQRコード送金が利用できるようになる

▲従来の金融取引で多用されてきた印鑑の押印を、タブレットへの電子サイン認証に代える「SignID」。筆跡だけでなく、ペン先の移動速度や筆圧の変化、記入のリズムなどを参照しながら動的に照合を行う(NTTデータ)

側面までカラフルな「カラーコアカード」、日本で初登場

 凸版印刷のブースでは珍しい券面のカードサンプルに出会った。通常、クレジットカードの基材は白色で、券面がカラフルにデザインされたものであっても白色カードベースの上に印刷されている。
 これに対して現物が披露された「カラーコアカード」では、基材となるプラスチックに直接着色した。そのため、カードの側面まで同じ色に着色されていることが特長になっている。同社では「カードの表面と側面で一体感をもたせた表現ができ、デザインの可能性が広がる」という。
 「カラーコアカード」の本格提供は2018年11月からスタートするが、それに先立ってワイジェイカードの発行する「Yahoo! JAPANカード」が採用、2018年11月より提供開始される予定だ。

▲基本カラーとして赤、青、ピンク、緑、金、銀の6色をラインアップ。さらにブランドカラーなど要望に応じた指定色への対応も可能とのこと。価格は、従来の白いプラスチック基材のカードと比較して約10%増し(10万枚発注の場合)

▲「TOPPOS(トッポス)」は、エンパシ(Empathy)社が提供する多機能モバイルPOS端末「EM10(イーエムテン)」を活用したモバイルPOSおよび決済サービス。NFC・接触IC・磁気ストライプのリーダライタを標準装備しており、クレジットカード、電子マネーをはじめ、凸版印刷が提供する自社プリペイドや国際ブランドプリペイド、さらにはQRコード決済、非接触クレジット決済などにも対応できる(凸版印刷)

▲凸版印刷と富士通エフ・アイ・ピーの協業による、複数QRコード決済のスイッチングゲートウェイ。両社が共同で運営する「サーバ管理型プリペイドASPサービス」を拡張し、店舗のPOSレジシステムとQRコード・バーコード決済事業者の間を安全に中継する(凸版印刷)

金融業界でも盛り上がり見せる「QRコード」活用

 スマホアプリとQRコードの組み合わせにより提供される決済サービス、いわゆる「QRコード決済」への対応ソリューションも展示会場のあちこちで見られた。
 TISでは、Alipay・WeChat Pay・UnionPayの対応で実績のある中国CIL(CardInfoLink)社と提携し、「QRドライブ」の名称でサービスを提案していた。TISが国内外のQRコード決済事業者とQR決済加盟店との間にグローバルゲートウェイを構築することで、QRコード決済ブランドの自動識別や、1つのアプリへの機能統合などを実現する。POS向け、専用端末、タブレットなど、端末環境を選ばずにAPIやアプリを提供するという。

▲TISの「QRドライブ」は、端末のプラットフォームを問わず、各種のQRコード決済サービスを接続するのがコンセプト

 国内のカード決済ネットワークである「CAFIS」と「CARDNET」に対して、それぞれに接続するパッケージソフトウェア「CAPS」を提供しているセイコーソリューションズ。「CAPS」は加盟店本部向けと金融機関向けに提供されているが、このパッケージに追加可能なソリューションとして「デビットカード決済」、「QRコード決済」を紹介していた。同社の場合、トレンドとなっている「QRコード決済」に関しては、カード決済ネットワーク側の対応や施策に寄り添った形でパッケージ対応していくというスタンスだ。
 モバイルコンテンツの開発・運営で有名なエムティーアイも、QRコード決済に新たな事業機会を狙う1社。更新系APIを通じて金融機関の預金口座と直結することで、利用代金を引き落としする「&Pay(アンドペイ)」を展示会会期直前の10月23日に開始したところだ。同日から常陽銀行(茨城県水戸市)が取り扱いを開始。2社は昨年8月から実証実験を進めてきており、このほど本格導入に至ったという。続く来年1月からは、北洋銀行(北海道札幌市)との連携により、セイコーマートおよびアインズ&トルペの店舗で実証実験を開始することが発表されている。

▲「&Pay」は、加盟店の端末(写真ではスマホ)側に表示されたQRコードを、利用者側のスマホアプリで読み取る「MPM」型の取引に対応する

 加盟店審査はエムティーアイが担当する。初期導入費用と月額費用は共に無料、決済手数料を「1.8%」に設定した。加盟店への支払いは、「月末締め翌月初支払い」と「当日締め翌日払い」から選択できる。エムティーアイでは茨城県内の個人商店や飲食店、スーパーマーケットを中心に今年度内に1,000社の加盟店開拓を目標に掲げる。また、2020年までに国内300の金融機関と連携することを目指している。

 

 

*QRコードはデンソーウェーブの登録商標です。

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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