<冬休み特別企画>【出版社評 / 捕物出版】キャッシュレスが進むと捕物帳の中のヒーローは悲鳴?

「どうにもこうにも、銭を投げつけようにも日頃からみんな寛永通宝使わなくなっちゃったもんだから、商売上がったりなんで・・・」(銭形平次さん・31歳)

「皆さん現金を持ち歩く習慣がないので、最近じゃあ貰っても困るなんて言われましてね・・・今度LINE Payでも導入しようかって」(鼠小僧さん・27歳)

なんて、昔のヒーローたちが言ったか言わないかわからないが、もしも江戸時代にキャッシュレスが進んでいたら、数々の傑作はおそらく生まれなかったに違いない。

 読者の皆さんは、時代小説の中に「捕物帳(とりものちょう)」とか「捕物小説(とりものしょうせつ)」といったジャンルがあることをご存じだろうか? 現代で言うところの探偵モノ、推理小説のような読み物なのだが、最近はめっきり読む人が減ってしまって、絶版でもう読めないなんて作品も多数あるらしい。出版不況の続く現在にあって、わざわざ「人気がない」と言われる1ジャンルの単行本をふつうの出版社がおいそれと復刊なんて、とてもできるもんじゃない。
 この窮状を何とかせねば! と昨年、2018年末に立ち上がったのが捕物出版(とりものしゅっぱん)さん。そのオールドスタイルな屋号と刊行物のルックスとは裏腹に(失礼!)、何と「オンデマンド出版」専門の出版社だというから開いた口がふさがらない。
 オンデマンド出版とは、書籍や雑誌の注文を受けてから1冊1冊、印刷と製本を行い、完成した本を注文者に納める形態で出版すること。注文者からすれば、書店の店頭やアマゾンで購入、受け取りする点に変わりはないが、本のデジタルデータが存在する限り「絶版や在庫切れがない」というメリットがある。
 出版社側のメリットはさらに大きい。何しろ在庫を持つ必要がないので、あらかじめまとまった部数を印刷・製本しておくコストや、倉庫代も不要だ。もちろん、一般の書店にずらりと並んでいるような、ある程度販売部数の見込める書籍の場合、大量に印刷して流通させるほうがコストパフォーマンスは良いし、読者も手に入れやすい。「そんなに売れない本」(またまた失礼!)だからこそ、効果が最大限に発揮される。これがオンデマンド出版の特長だ(*)。
 間もなく世の中から忘れ去られてしまいそうな「捕物小説」の数々を、現代の最新技術である「オンデマンド出版」と組み合わせることで、欲しい人に必要な部数だけ供給しようとするこの試みと、心意気。電子決済マガジンは両手を挙げて応援します!

このあたりの事情は、捕物出版のウェブサイトに詳細な解説が載っているので、興味のある読者はこちらを参照いただきたい。

『七之助捕物帖 第一巻』

捕物小説と過ごす新年をあなたに

 捕物出版は昨年10月に納言恭平・作『七之助捕物帖 第一巻』を発刊以来、年内10冊に迫るハイペースでタイトルを刊行している。筆者も記念すべき出版第1号の「七之助(しちのすけ)捕物帖」を手に取ってみたが、捕物小説の初心者がいきなり全3巻の幕を切って落とすのはなかなか勇気のいるところ。
 なんて頁を繰る手を躊躇っていたら、新たにラインアップされたのが雑誌スタイルの『捕物小説 第1集』。岡本綺堂『半七捕物帳』、野村胡堂『銭形平次捕物控』、山手樹一郎『遠山の金さん』、平岩弓枝『はやぶさ新八御用帳』なんて、作家・作品共に超有名どころの短編が1冊にギュッとオムニバス形式で収録された、捕物小説ビギナーにはまさにうってつけのシリーズ。まずはここから読み始めてみるのがよいだろう。

『捕物小説 第1集』

 ところで捕物出版の書籍は、ネット書店(通販)のアマゾン、楽天ブックス、リアル書店は全国の三省堂書店店頭から注文できる。ここで注目すべきは、それぞれが導入しているオンデマンド印刷製本機の種類によって、本の仕上がりに際して紙質や色味などに若干の相違があること。このあたりの捕物出版さんオーナーの探究心はすさまじく、取り扱い3社の製本比較表から、各社で注文した場合のメリット・デメリットについて、まとめて一挙公開している。さすが、出版業を志す者の怨念(?)を感じてしまうほどだ。
 注文場所によっての納期の違いなどもまとまって情報提供されているので、注文の際にはぜひ参考にしてほしい。

■捕物出版
http://www.torimono.jp/

 

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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