【体験レポート】現金は厳禁!「日本初のキャッシュレスな同人誌即売イベント・pixivMARKET」でスマホ片手に売り買いしてみた。

6月10日の日曜日、東京・池袋のサンシャインシティ文化会館展示ホールにて同人誌即売イベント「pixivMARKET(ピクシブマーケット)」が開催された(写真1、写真2)。会場内では現金での売買が禁じられ(写真3)、「日本初のキャッシュレスな同人誌即売イベント」と銘打たれた同イベントに、「隠し球」を用意して乗り込んでみた。

写真1 会場には3,000名を超える来場者

写真2 人気クリエイターさんたちが同じテーマでイラストを描く、60分間のドローイング配信イベントなども開催。黒山の人だかりが

写真3 あなたには見えますか、参加条件に「決済アプリpixiv PAY使用限定」とあるのが!

■30万人の物販クリエイターを支援
 ピクシブ(pixiv)は2007年にサービスを開始した、ユーザーによるイラスト投稿を中心に据えたSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)。その登録アカウント数は今年5月末時点で約3,000万人。ピクシブは閲覧だけでも登録と利用が可能だが、このうち約100万人がイラストなどを投稿するクリエイターとなっている。サービスを運営するピクシブ社によれば、サービスサイトの「pixiv.net」および公式アプリの利用者数は1日あたり200〜250万人に上るそうだ。##2018-06-15-11:30に数字を訂正しました。記事末尾に注記あり】
 このクリエイターと呼ばれる人たちは創作意欲が旺盛で、デジタルイラストの投稿にとどまらず、冊子や関連するアクセサリーなど、モノを制作する機会も多い。先述の投稿クリエイターに対して、30万人ほどが物の販売、いわゆる「物販」に取り組んでいるという。そこでピクシブ社では、そうしたクリエイターを後押しするEC販売サイト、「BOOTH(ブース)」を2013年12月より提供開始。2015年にはオリジナルアイテムの制作サイト「pixivFACTORY(ピクシブファクトリー)」を立ち上げ、クリエイターの販売体制を支援する環境を充実させてきた。
 他方で、今回のような対面での同人誌即売イベントに関しては「pixivMARKET(ピクシブマーケット)」の名称で、2009年と2010年の過去2回にわたって開催。ただ、当時のイベント主催と会場運営を中心とした関わり方では、ピクシブ社の事業として見た場合の評価が厳しかった反省もあり、その後、長らく休止となっていた。
 今回、同社にその沈黙を破らせたのが、昨年8月にサービス開始したスマホ決済サービスの「pixiv PAY(ピクシブペイ)」である。

■決済手数料3.6%のスマホ決済、クレカかプリペイドで登録可能
 pixiv PAYは、pixivアカウント間での商品売買時の支払い(送金)に対応する、スマートフォン向けのウォレットサービス。pixivと共通の「pixiv ID」と呼ばれるアカウントにあらかじめ紐付けたクレジットカード(Visa、Mastercardのほか、JCB、AmexはPayPal経由で登録可能)、もしくはコンビニで購入できるプリペイド残高(pixivポイント)を使ってキャッシュレスでの電子決済が利用できる(写真4)

写真4 pixiv PAYのアクセプタンスマーク

 利用方法は単純で、売り手も買い手も同じ「pixiv PAYアプリ」をスマートフォンで起動し、売り手が表示するQRコードを買い手が読み取る(カメラでスキャン)だけ(写真5)。買い手のアプリがQRコードを認識すると同時に、両者のアプリ画面上に決済完了の表示がポップアップする。これだけで決済が完了する手軽さだ。

写真5 スマホとスマホを重ね合わせて決済する

 導入費用は無料で、買い手側の手数料は無料。売り手側は、売上金が自身の銀行口座へ振り込まれる際(申請日から5営業日以内の振込。受取金額が3万円未満だと200円、3万円以上では300円の振込手数料が別にかかる)、売上の3.6%相当額が決済手数料として差し引かれる仕組み。この手数料は今年8月1日までキャンペーンで無料としている。なお、売上金は銀行口座への引き出しのほか、pixivポイントの購入や、pixivFACTORYクーポンとの交換にも利用できる。

■入り口でピクシブスタッフがアプリ登録を目視確認
 そんなピクシブ社が、pixiv PAYをフィーチャリングした「日本初のキャッシュレスな同人誌即売イベント」を開催すると聞いて、筆者もその画期的な光景をひと目見ようと、颯爽と会場へ乗り込んだ(写真6)

写真6 写真では伝わらなくても、若干緊張しています

 イベントは東京・池袋のサンシャインシティ文化会館ビル4F展示ホールBを会場として、6月10日日曜日の正午から16時までの4時間にわたって開催された。参加サークル(出品者ブース)数は310軒。同日はあいにくの雨模様だったが、主催者発表によれば、想定していた3,000名を超える来場があったようだ。参加費は出品者も来場者も無料とした。
 ただし課せられた絶対条件が1つ。pixiv MARKETでは、当日の支払いについて現金の利用を禁止し、代わりにスマホの「pixiv PAY」アプリ限定とする画期的な運営方針を打ち出した。そのため、入場口で確かに同アプリが来場者のスマホにインストールされていることをスタッフが画面で確認するという一風変わった光景が広がった(写真7)。このことは事前告知もされていたが、忘れてきた来場者も多く、入り口付近で慌ててアプリをダウンロードする姿も見られた。

写真7 会場入場口でスタッフが目視によりアプリを確認

 イベント当日は「pixiv PAY」アプリを導入すると、もれなくpixiv PAYでの支払いに使用できる500ポイント(500円相当)が付与され、購入を促す仕掛けも提供されていた。

■現金レスで釣り銭要らず、「値付け」の自由度にも貢献
 さっそく筆者もpixiv PAYを入れたスマホを片手に会場を回って体験してみた。
 並べられているきらびやかな冊子やグッズの数々をドキドキしながら手に取り、出品者さんと歓談し、いざ支払いへ。
 現金禁止なので、「pixiv PAYで支払いたいんですけど・・・」と申告する必要すらない。出品者さんがまず、こちらが購入したいと告げた商品をpixiv PAYの「販売する」メニュー画面から選択すると、QRコードが表示される。この画面を見せてくれるので、こちらもpixiv PAYの「支払う」メニュー画面から「支払う」ボタンをタップ(写真8)。するとカメラが起動するので、これで出品者さんのQRコード画面を読み取る(写真9)。ほぼ瞬時に決済完了を告げる表示(写真10、11)が現れ、決済が完了した。レシートの発行もされないので、実にあっけない。「お買い上げありがとうございました〜」という優しい出品者さんの声に送られてブースを後にする。
 なお、イベントから数日後、登録していたクレジットカードに上がってきた売上(速報)にはいずれも「ピクシブペイ」と記載されていた(写真12)

写真8 「支払う」ボタンをタップするとカメラが起動

写真9 QRコードをスマホでスキャンする

写真10 QRコードを認識すると自動で画面が切り替わり、決済完了画面に(この例ではポイントが500円分が一部商品代金に充当されている)

写真11 購入した商品は、ユーザーの購入履歴に記録される

写真12 pixiv PAYで支払った代金が記載されたクレジットカード明細(速報)

 この手のイベント取材では「現金とスマホ決済と、どのくらいの比率で利用されてますか?」などと質問するのが常道なため、そもそも「100%スマホ決済」という会場に面食らってしまった。pixiv PAYの評判は上々で、「お釣り銭の用意が要らないのがすごく助かるし、現金を数え間違えたり盗られたりする心配をしなくていい」とか「簡単に支払いが終わるのでありがたい」などの声をほとんどの販売ブースで聞くことができた。会場内でのネットワーク混線でスマホアプリがうまく動作しないケースを心配する向きもあったようだが、「スムーズに処理できていますか?」とブースで聞いても「まったく問題ない」との答えが返ってきた。実際に筆者も4回支払いを体験していずれもトラブルなしだったし、決済処理自体はさほど長い時間スマホで通信するわけでもないので問題ではなかったようだ。
 他にもユニークな意見として、「これまで現金販売が当たり前だったので、商品の価格は500円とか1,000円とかキリの良い金額しかあり得なかった。でも、電子決済だと今後は700円とか自由に設定できそうで、嬉しい」と可愛らしい女子2人組の出品者さんから聞くことができた。確かに、お釣り銭の準備を考えなければいけない屋外イベントにpixiv PAYはもってこいの仕掛けといえる。
 通常、同様の同人誌即売会では相応の出展料がかかるそうで、「(今回pixiv MARKETは)案内を見たらブースの出展料が無料だったので、ダメ元で申し込んでみたら当選した(嬉しい)。」という正直な声も複数のブースで聞くことができた。ここはピクシブ社の企業努力によるところが大きい。
 ところでpixiv PAYにはクレジットカードが登録できるが、カードを持参し忘れたり、そもそも未成年でカードを持っていない人もいたようで、会場内では現金と引き換えに同額相当のpixivポイントを購入できる「チャージコーナー」が設けられていた(写真13)
 会場内ではノートパソコンでチャージ処理が行われていた。手順は、pixiv PAYアプリを画面からpixiv IDを確認し、確認が取れればその場で購入したいポイント分の現金を受領。その場でパソコンを使ってpixiv IDへのポイント追加処理を行っていた(写真14)。そこそこチャージ待ちの列が途切れなかったことを見ても、現金を入金してpixiv PAYを使いたいユーザーのニーズも相当数あるということだろう。

写真13 イベント会場内に設置されたポイントチャージ(入金)コーナー

写真14 イベント開催中、入金待ちの列は途切れなかったようだ

 ピクシブ社によると、pixiv PAYに登録される決済手段として、クレジットカードとプリペイド残高(ポイント)の比率はちょうど半々くらいになっているという。そもそもピクシブのアクティブユーザーの実に70〜80%を10代と20代が占めていることから、クレジットカードだけでは不十分で、コンビニでポイントを購入できる環境作りは必要不可欠だった。なお、「クレジットカード(Visa、Mastercardのほか、JCB、AmexはPayPal経由)」の登録時に、当該の国際ブランドに対応するプリペイドカードやデビットカードが登録できるかどうかはカード発行会社によって異なるそうだ。

■「pixiv PAYでコミケの利用を狙っていきたい」
 先に紹介したが、対面の同人誌即売イベントとしては8年ぶりに復活したpixivMARKET。その背景について、「今回のpixivMARKET開催は、pixiv PAYの普及が目的です」と、ピクシブ クリエイター事業部 部長でピクシブマーケティング執行役員の重松裕三氏(写真15)は公言する。
「(簡易決済端末サービスとしてのmPOSの領域には)すでにスクエアさんや楽天ペイさん、paymo bizさんなどがおられるが、pixivのマーケットとの親和性を生かしたサービス開発により、特徴を出すことで、pixiv PAYが今後コミックマーケット(コミケ)に入っていくといいなと考えている」(重松氏)
 確かに、販売者の決済や集金を支援するmPOSのサービスとして見ると、ピクシブの参入は後発に見える。しかし、重松氏がこの分野に参入すると決めたタイミングは「端末や外部デバイスが不要で、QRコードだけで決済が可能なサービスが登場してきた」ことだった(写真16、17)。「その瞬間に(ピクシブとしてのサービス展開が)見えてきた」(重松氏)。

写真15 ピクシブ クリエイター事業部 部長 兼 ピクシブマーケティング執行役員の重松裕三氏。pixiv PAYの担当責任者

写真16、写真17 pixiv PAYが採用したQRコード決済。そのセキュリティ面の評価については「すべてトークン決済で処理しており、クレジットカード番号等は保持していない」(重松氏)ことを拠り所とする立場だ

 pixiv PAYが画期的な点は、売り手も買い手もスマホアプリが1種類であること。一般的に、他のmPOS系サービスでは販売者側とお客側のアプリは別々に用意され、提供されている。しかしpixiv PAYは、1つの同じアプリを通じて、「買い手」がいつでも「売り手」になれるという特徴を持っている。両者の関係はどのように整理されているのだろうか。
 pixiv PAYサービス提供に当たってのピクシブ社の説明はこうだ。
『出品者は、当社に対し、対象取引に係る代金(以下「本決済代金」といいます。)を収納する事務を委託し、当社はこれを受託するものとし、出品者は、当社に対し、本決済代金を代理して受領する権限を付与するものとします。』(pixiv PAY利用規約第22条「代金決済」より)
 つまり、「出品者は集金事務を当社に委託する。位置付けとしては『収納代行』で、当社は出品者と購入者の間の商品受け渡しの管理を行っている」(重松氏)という。これに付随して、出品者が出品する際には商品画像の登録が必須になっている。
 また、同・第15条「登録禁止商品」には『出品者が創作に関与していないなど(但し、創作者から著作権等の権利を譲り受けた場合などを含みません。)、商品の販売等についての権利を有しない商品』『具体的な創作物を伴わないサービス提供、及びそのおそれのある商品』との記載があるため、単純な商品販売に転用することは難しいようだ。
 売り手が出品する商品の価格は100円〜3万円の範囲内で自由に決定でき、買い手が1カ月間に利用できる金額は30万円以内となっている。
 重松氏は、pixiv PAY事業について「単体での収益化はビジネスモデルは考えていない」と話す。「現在はキャンペーンで無料としているが、決済手数料を今後3.6%頂いたとしても決済の原価にしかならないので、収益はほとんどない。pixiv PAYの売上は『ブース』や『ピクシブファクトリー』といった当社の他のサービス充実に充てていきたい」という。

■自作の「NFCタグ搭載デンケツケンステッカー」をpixiv PAYで買ってもらう
 pixiv PAYでの商品購入も無事に体験できたし、責任者から貴重なお話も伺ったし、もう会場に思い残すことはないだろう。いや、電子決済研究所としてはここでは終われない。「売り手にもなれる」のがpixiv PAYの特徴なのだから、自分でも何かを販売してみなければ。出品できる商品は「創作物に限られる」とあらかじめ聞いていたので、筆者も作ってみました(汗)。
 はい、電子決済研究所オリジナルの「デンケツケンステッカー」。販売価格は100円(税込み)。泣く子も黙るNFCタグ搭載モデルである(写真18〜20)

写真18 ハンドメイド感の漂う風格。商品らしくビニールパックに梱包

写真19 Macな背中にもお似合いな一品

写真20 NFCタグを搭載しているのでAndroidやiPhoneに反応してアクション

 当然、ブースも出展していないわれわれ電子決済研究所チーム()。いきなり通りすがりに買ってくれる人もいないので、ここはピクシブ社の広報さんに全力で頼み込んで、見事にお買い上げを頂きました。
 会場内での商品購入とは反対に、今度は出品者たるこちらが「販売する」のメニューを選択(写真21)、続けて「販売を開始」ボタンをタップすると、あらかじめ登録しておいた商品画像と価格が画面に表示される(写真22)。そこで、購入したい点数をお客さん(ピクシブ社の広報さん)に聞いて、商品数を確定したら「QRコード(お会計)」をタップする。すると見事にQRコードが生成され画面に表示された(写真23)。これを相手のpixiv PAYアプリを使って読み込んでもらう(写真24、25)
 読み込まれたと同時に、こちら(出品者)の画面に「お支払いの確認ができました」の文字がポップアップ(写真26)。これで支払いは完了だ。ちなみに、今回のpixivMARKETでは利用できなかったが、pixiv PAYアプリ自体には「現金(お会計)」を選ぶと売上がマニュアルで記録される機能が搭載されているし、売上結果をCSVに出力する機能も用意されていた。

会場内ブースなしでの商品販売は、ピクシブ社より特別に許可を頂いています。

写真21 タブを切り替えて「販売する」を選択

写真22 あらかじめ登録しておいた商品(画像と販売価格)から販売個数を選んで決済方法を選択

写真23 自動でQRコードが生成、表示される

写真24 スマホがあれば、どこでも販売できるが、このシチュエーションだとちょっと照れくさい

写真25 お互いのスマホを近付けてQRコードを読み取ってもらう

写真26 「お支払いの確認ができました」!

■会場内100%縛りだと、キャッシュレスの恩恵を感じやすい
 こうして筆者は、ピクシブ社の広報さんの多大なるご協力を得て、pixiv PAYでの「購入」と「販売」、その両方を無事に体験することができた。売り手も買い手も同じ、1つのスマホアプリを利用するため、いつでもどちらにもなり得るという体験はとても斬新だったし、これはもう肌感覚として「決済」というよりは「送金」に近いな、との感想を持った。そして、そこにクレジットカード取引が介在していることへの驚きと、対面取引の場にありながらまさしくその場でインターネット決済を実行している画期性。それを実現するために、スマホ画面上に生成、表示される「QRコード」が必要不可欠な存在だったことにあらためて気が付かされた。
 また、イベント会場という閉じた空間だからこそ主催者の意志によって有言実行できた「100%の完全キャッシュレス環境」。今回の同人誌即売イベントに限らず、フリーマーケットや移動販売など、pixiv PAYのような電子決済サービスがフィットする場面は多いと思われるが、このような形で完全キャッシュレスを体験する人たちが増えてくれれば、キャッシュレスの恩恵を実感する人が増えるはず。
 今回、日本のキャッシュレス化にとって非常にポジティブなイベントを開催してくれたピクシブ社さんに御礼を申し上げると同時に、同人誌即売イベントのキャッシュレス化がこれをきっかけにより広がるといいなと思った。
 顔出しNGな方が多かったので残念ながら写真でご紹介できませんが、取材に快く応じていただいたチャーミングな出品者の皆々さんも、どうもありがとうございました!

 

##本記事の初出時には「月間のアクティブユーザー数としては2万人程度がサービスを利用しているそうだ。」と記載しておりましたが、情報が誤りでしたので、訂正いたしました。関係者の皆様にお詫び申し上げます。

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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