2020年以降を見据えた新戦略は、IoTならぬPoT(”Payment” of Things)にーー。今年設立60周年を迎えたビザ・ワールドワイド(以下、Visa)が、4月18日に都内で開催した記者会見(「Visa“NEW NORMAL” 戦略発表会」)で明らかにした。新ブランディング「Visa “NEW NORMAL”」、東京2020オリンピックに向けたアスリートチーム「Team Visa」メンバーの発表と、2020年まで、そして2020年以降を見据えたVisaの構想が見えてきた。
■24億個を超える「モノのペイメント」を生かす
今後、「”Payment” of Things(PoT)」が重要になるとVisaが考える根拠はこうだ。2020年までに消費者の身の周りにあるIoTデバイスは24億個を超えるとも予測されている。その前提で、2020年までに取引全体の5%が、これらのIoTデバイスを通じて自動的にソフトウェアにより決済が完了するようになる。また2020年までに普及したウェアラブルは、非接触IC決済取扱高全体の20%を占めるまでに成長していく。このように自ら支払機能を内蔵するIoTデバイスの世界観を「”Payment” of Things」と命名した(写真①)。この影響で「今後、ペイメントのあり方は大きく変化していく」(ビザ・ワールドワイド・ジャパン 代表取締役社長 安渕 聖司 氏/写真②)というのがVisaの見方だ。
PoTの中でも、引き続き最も大きな存在感を放ち続けるのがスマートフォン(スマホ)。ある調査結果によれば最近の消費者が常時利用しているアプリは、LINE、Facebook、Instagramなど、平均して5つのSNS系アプリに集約されるという。
「例えば中国のWeChatは良い例だが、1つのスマホアプリにさまざまな機能が集約されて入っている。こういうアプリが今後日本でも必ず増えてくるはずだ」(ビザ・ワールドワイド・ジャパン デジタル・ソリューション&ディプロイメント部長 鈴木 章五 氏/写真③)
結果、必然的にそのアプリ内で決済を行うシーンが増えてくると予想されるが、「その際のセキュリティや本人確認をどうするのかが必ず課題になる。これに対してVisaがトークンサービス(写真④)や不正検知、データ分析などの機能をそれぞれAPIを通じて提供することで、スピード感を持ったままにアプリ制作が可能になる(写真⑤)」(鈴木氏)として、アプリサービスを提供する事業者との間に協業関係を構築していきたいスタンスだ。
■「プッシュペイメント」を近い将来、日本へ
さらに、続けて発表されたのが「プッシュペイメント(Push Payment)」。従来のカード取引がお店側の端末を通じて決済処理がなされるのに対して、消費者のほうからカード発行会社へ「あるお店に対して○○○円のお金を支払いたい」と依頼を出して決済処理を行う方式だ。鈴木氏はそのわかりやすい適用イメージとして以下の3つの事例を挙げた。
1)個人間の割り勘用途などに向けた「送金」
2)加盟店提示型のQRコード決済
3)ディスバースメント(disbursement)
説明用に提示されたスライド画面(写真⑥)を目の当たりにしても、世界的なトレンドになりつつあるスマホアプリを用いた「個人間送金」を彷彿とさせられるだけだが、プッシュペイメントの神髄はそれだけではないという。
最近は話題に事欠かないQRコード決済だが、プッシュペイメントはそのうち、お店側が提示したQRコードを消費者がスマホで読み込み、スマホで決済を完了する形態の取引にも合致するという。反対に、「消費者提示型のQRコード決済はまさしく(カードの実番号でない)トークンの出番となる」(鈴木氏)との補足説明があった。
そして耳慣れない「ディスバースメント」という言葉。鈴木氏によると海外のUberなどでは、「お客から運賃を頂戴するために事前登録したカードによる支払いを導入しているが、それと同時に『運用者側がドライバーに対価を支払いたい』ニーズがある。そうした場合にドライバーに対して運用者がプッシュで支払う。この導入が始まっている」。このような決済シーンをVisaではディスバースメントと呼んでいる。
こうしたデジタル戦略の進化で今後ますます重要になるのがセキュリティ。その観点では、多様化する本人認証の各場面や特性をスコアリングの要素(「IDインテリジェンス」)として活用し、リスク判断に生かしていきたいという(写真⑦)。
「『ディスバースメント』を含め、プッシュペイメントを日本に持ってきたい。おそらく段階的な導入になるが、この先、1年くらいのうちには明確にしていきたい。また、セキュリティ周りのプロファイリング(IDインテリジェンス)については、個社ではなく、業界として動くことに意義があるので、業界団体などと連携して同意を得ていきたい」(鈴木氏)
■タッチ決済対応のガーミンウォッチが日本発売へ
Visaの安渕社長は、2020年を睨みつつ、足元の状況を含めて日本のキャッシュレス市場の動向を紹介した。
日本政府の掲げるキャッシュレス決済比率目標、2027年(経済産業省は2025年)までに40%まで上昇させる計画に賛同しているVisaだが、安渕社長は、そのためには約100兆円とも試算される単価5,000円以下の取引をキャッシュレス化していくことが肝要と強調。その先兵となるのが「Visaデビット」と「タッチ決済」と位置付けた。
本年4月18日時点で金融機関21行(写真⑧)が発行しているVisaデビットは、年平均成長率70%増と急成長を続けている(写真⑨)。そして、タッチ決済に対応するVisaカードは12の発行会社を通じて発行されている(写真⑩)。
「世界に目を向けると世界基準の非接触決済が一般的になっている。2020年には世界で発行されている全カードの50%が非接触対応になると予想されている」(安渕氏)
非接触IC決済の特長でもあるが、Visaではカード形状にこだわらない(フォームファクターフリー)タッチ決済デバイスの提供も強化している。本年2月に開催された平昌オリンピックでもグローブやピンバッジといったウェアラブルを導入した。また今年はタッチ決済に対応する「ガーミンウォッチ」が日本市場へ投入される予定だ。これらのウェアラブルには、先述したVisaトークンがフル活用されるという。
タッチ決済に対応する加盟店も、日本マクドナルド、TSUTAYA、表参道ヒルズ、JTB、イオングループと増加中であり(写真⑪)、訪日外国人でも非接触IC決済を利用可能な環境は今後も増えていきそうだ。
■新ブランディングは「明日の当たり前」
同日の発表会では、この4月から放映の始まったテレビCMでもおなじみの新ブランディング「Visa “NEW NORMAL”」が大きくフィーチャーされた。
”NEW NORMAL”とは、簡単に言えば「いまは存在しないが、明日の当たり前になっていくもの」というコンセプト。制作されたテレビCMシリーズには「デビット決済」や「タッチ決済」に加えて、音声認識により声で決済が完了するシーンも登場している(動画)。
また “NEW NORMAL”の象徴として、東京2020オリンピックに向けたアスリートチーム「Team Visa」メンバー3名を発表した(写真⑫⑬)。
動画 Visaのプロモーション動画。「Visaで」と話した音声で決済が完了する場面も(19秒付近)